ちなみに現在確認できる最古のらんたの小説

2008年01月29日

『冥王竜の嘆き』 ドラゴン小説

 そこは光の差し込まぬ深き地の底。そこに亡者達はいた。
生ける光の神は腐臭、絶望、狂気に満ちた冥界を嫌い、逃げ惑い、彼から遠ざかった。
それでも使命を全うすべきと帰すべき命を守護した。
だが、彼の心は深く傷つき毎晩絶望に呻き、憤怒し、嘆く。

 そこへ慈悲深き闇の王が暗黒の霧とともに現れた。
「闇こそ福音、闇こそ安らぎ」
闇の王は冥界の王に甘美な声で囁く

「我はそなたを疎いはせぬ。」
 悲しみが満ちた声で言う闇の王。我もかつては同じような苦しみを味わった。
涙を流しながら叫ぶ。
・ ・・冥界の王はその時言葉の本当の意味を理解した。

「貴方は?」
「貴方は我の兄弟にして竜王の1人。
そして、ここにいる小さき闇の者どもも皆そう。
そして、たとえ他の神々が冥界にいるがために貴方を見捨てようとも、我は知っている。
死と滅亡と闇こそが人々の救いであり絶望という病から救うものであることを。
虚無こそが安らぎであり福音であることを。
だからこそ我は暗黒の者として人に安らぎを与えるべくそう生きると。
そなたをぜひとも救いたい。
心の平安を与えようではないか。」

 そう言うと、突然冥王に冥界よりも濃き霧が闇の王から吐き出され冥王の体に入り込む・・
「ぐはっ!」
 冥王は呻き喘ぐ。冥王の体全体が闇の煙に包まれ、不意に吸い込みやがて冥王は気を失っていった・・・

 闇の王の存在の一部である闇の霧を通して見たもの・・・それは全てを奪われ 闇に追われし巨竜の姿。
未来を捨て 希望を拒む追い詰められた巨竜の姿。
虚無のごとしなれど 生への慈愛を持つ巨竜の姿
にもかかわらず、命が罪を重ねるたび深い悲しみを持つ巨竜の姿
それが彼の姿であった。

 冥王はやがて気を取り戻した。
闇の王は答える。
「貴方のために貴方の心へ潜り込んで分かったこと。
それは我兄弟と貴方が同一の心を持ち苦しみを持つ者であること、
そして私を含む闇の種族すべての存在を導く真の『暗黒の種(ダーク・ワン)』を捜し求めなければならないという事を。
そして我もその『暗黒の種』から生まれ出ぬ。
いずれそなたが『暗黒の種』になり我々闇の種族すべて結集させる力があることが分かる時が来る。
そして我々と同一の存在たる闇と共に闇の種族でたる我々に栄光の世を創る。
それがそなたの今の使命なのだ。