>>298
スレ6→154の続編です

使用お題→『不良』『作画』『キリン』『イチゴ大福』『松岡修造』

【ラジオも聴かず】

『ちょっと……それ、どこにあったの?』
 それが彼女の第一声だった。
「いや、ラジオも飽きたなと思ってさ。倉庫をあさってたんだ。そしたら出てきた」
『へー』
「DVDプレイヤー、って言うんだろ、こういうの。充電もしてきたぜ」
 黒い薄型で、二つ折りの、プラスチック製の箱。本のように開けば、古びた液晶画面と光ディスクの読み出し装置が現れる。
『まだあったんだ。って言うかバッテリー生きてたんだ……』
 俺は無人兵器の搭乗員。彼女は、俺の同乗者、無人兵器の生体ユニット。
『だけど……動くの? それ。壊れてるんじゃない? あっ、あとDVDはあるの? 何もないと見れないわよ』
 暇潰しに丁度いいだろう。俺は内心得意になっていたのだが、同乗者の方は、俺と違って、どうも気乗りしない様子だ。
「動作はこれから確認する。DVDは持ってきた。これだろ。プレイヤーと一緒に置かれてたぜ」
 DVDが入った透明なプラスチックケース。それを何枚か取り出す。
『うわ、それって……』
 見るなり嫌そうな声を上げる同乗者。冷ややかに響く合成音声が、顔の見えない彼女の、しかめっ面を想像させた。
『昔ねー、それが好きなやつがいてねー』
 ま、まあ、そんなことだろうとは思っていたが。

 *

 本日も快晴。敵影なし。
『大丈夫? 変なものを持ち込むからよー』
 相変わらず揺れる車内。
「だっ……大丈夫だ……」
 気持ち悪い。正直吐きそうだ。
『あー、これ覚えてる。作画がいいとか言ってたわ』
 俺の不調をよそに、同乗者は、案外楽しそうにDVDを見ている。
「面白いか」
『別に。だけど懐かしい』
 DVDの中身は古いアニメだった。ロボットアニメだ。
 話の内容は、終始不機嫌と言うか、少々ヒステリックな女主人公が敵艦隊を沈めるのだが、自身も撃墜される。
 それで無人島に漂着するが、そこには敵兵も一人流れ着いており、そいつをこき使う……。
 当時のテレビ放送を録画したものらしく、途中でCMになった。
『あー、松岡修造ね。これも覚えてる』
 同乗者は一人で納得している。説明してくれる気はなさそうだ。俺には昔の有名人のことは分からないが、印象に残る何かがあるのだろう。
 CMが終わって、続きが始まった。
『キリンギガス……リリー、それに……』
 味方の救援に、嫌悪の表情を浮かべる主人公。
「なんだ? 仲が悪いのか? それに、キリン要素はどこにあるんだよ」
『それはね……あっ』
 突然映像が止まって、場面が飛んだ。別の女パイロットが、イチゴ大福をぱくつく。
『これがリリー・ホアンよ』
「知るかよ。何が起こったんだ?」
『読み込み不良ね。プレイヤーもディスクも古いからねー』
 そのまま番組は終わってしまい、聞き覚えのあるエンディングテーマが流れてきた……。
『わたしのー、懐かしー、びーだまー』
 そして今回も歌い出す同乗者。
『あなたのー、懐かし過ぎるー、いえーい』
 車酔いで吐きそうな俺。いつになく興奮した様子の同乗者。
 まずは腹を伸ばそう。俺は天井を見上げる。
 結果オーライか。