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お題:『ココア』『たんこぶ』『ネズミ』『那由他』

【ムリョウ】(1/2)
 ボーンボーンと時計の音が鳴る。
 うっすらとした意識を何とか保ちながら、神代 晴信は鈍痛のする頭を押さえた。

「ここは?」

 古い大時計が規則正しく時を刻んでいる室内は、よく磨き上げられたアンティークのテーブルのセットが一つあり、レースのカーテンの掛けられた大きな窓から淡い光を取り込んでいる。

 壁紙は多彩だが、どこかセピア色の花柄で彩られ、そこには小さなチェストと、その上に淡いアネモネが飾られていた。

「どうぞ」
「え?」

 何時から居たのだろうか? ギャルソン風の出で立ちの“ネズミ”が、晴信の目の前にそっとココアを差し出す。
 見回すが、“彼”以外の人影はない様だ。

「温まりますよ? ずいぶんとお冷えに成っておられるようですから」
「え? あ……」

 その言葉で、晴信は自分がずぶ濡れだと言う事に気が付くと慌てて立ち上がろうとするが、しかしその“ウシ”は、見た目通りの力で、彼の肩を押さえ付けた。

「お座りください、それに、ほら」

 そう言った“トラ”の視線の先には、たたまれたタオルがあった。

(いつの間に?)

「どうぞ? お使いください」

 何と無く腑に落ちない物を感じながらも、いつまでもずぶ濡れのままでいる訳にも行かないだろう。晴信は“ウサギ”の言葉に従って、タオルを手に取り顔を拭う。

 ココアを一口飲み、息を吐く。

(なぜ自分はここに居るのだろう?)

 そう思いながら晴信が頭を掻く。