時間がorz

>>834
お題:『サラリーマン』

【サラリーマンはつらいよ】
 騒がしい酒場の一角で、その男は項垂れていた。
 紺のスーツに白いシャツとそれに合わせたダークレッドのネクタイ。彼の足元にある薄い革の鞄と合わせて、誰がどう見てもサラリーマンであろう。それもうだつの上がらないと言う枕詞が着く類の。

 夜の酒場と言うシュチュエーションに於いては、ありふれた光景であろう。しかし、この場に至っては、この酒場に居る誰よりもその姿は浮いていた。
 なぜなら……

「おーーい!! こっちにエール追加ね! あ、それとオークの塩焼きも!!」
「おい!! この、クラーケンの煮込み定食一つな!!」
「給仕さぁん! 今日のお勧め何ぃ?」
「は〜い! ミノタウロスのローストですよ〜!!」

 ここは、冒険者の憩いの場であり、つまりは異世界の酒場だからだ。

「は〜…… 何で誰も買ってくれないんだろう?」

 スーツの男、箭内 続木が溜息と共に、そう零した。
 彼は見ての通り、元の世界でもサラリーマンをしていた。電気関係の営業であり、だが、あまり営業成績の良い方ではなかった。
 それでも、彼に出来るのは売り込みをかける事だけであり、逆にいえば、それ以外の才能……剣や魔法と言った浪漫技能は皆無だったのだ。

「開発部も無茶苦茶ですよ、“コレ”を冒険者に打ってこいだなんて……」

 そう言いながらチビチビとエールを飲む続木。そんな彼の隣にドカっとすわると、後ろから肩を組む男があった。

「よぉ!! ツヅキ!! 相変わらず湿気た顔してるなぁ!!」
「……ガーランドさん……いや、まぁ……」

 彼の名はガーランド、この世界で、続木が一番最初に出会った冒険者であった。その時、たまたま、続木が彼を助ける様に成った事が切っ掛けで、ガーランドは、何かと続木の事を気に掛けている。

「まったく、そんな染みっ垂れた飲み方じゃ、酒が不味く成っちまう!! おーい、姉ちゃん!! 蒸留酒をくれ!!」
「ちょ、ガーランドさん!! 私は明日も営業で!!」
「良いんだよ!! 細けぇ事は!!」

 そう言うとガーランドは、給仕の持って来た蒸留酒を瓶ごと続木の口に突っ込んだのだった。