じゃあその前に一つ

お誕生日大作戦

 健二が仏頂面でテレビのチャンネルを次々と変えている。画面の中では大御所芸人が手を叩いて引き笑いしている所で止まった。先ほどから物を置くにしてもトイレに行くにしても音が大きい。
 子供っぽい抗議だな。そりゃあ健二の用意した誕生日プレゼントが期待した物と違って一瞬がっかりしたのは悪かったけどさ。
 でも一ヶ月も前から言葉の端々に欲しいプレゼントのヒントを織り交ぜてたんだよ? 鈍すぎんだろ。でもまずい、このままではプレゼントのお礼に私をプレゼント作戦がぽしゃってしまう。
 なんとかしなければ。こんな子供っぽい所も好きだけど、今は扱いに注意しないと。さてどうしてくれよう。
「ねえけんちゃん」
 返事が無い、ただの屍のようだ。じゃねえよ、私の誕生日に私を無視? 括弧笑い。でも負けるもんか、届けあたしの愛。
「けーんちゃん、丸山健二〜」
「なんだようるせえな」
 わかりやすく怒っとる。プンスコ顔文字括弧笑い
「そんな言い方ないじゃん、今日あたしの誕生日なんだよ」
 うむ、かくなる上は泣いてみるか。
「クスン、クスン」
 泣きまねをして前髪の隙間からこっそり伺う。目を見開いてこちらに振り返っている。ふふ、効いてる効いてる。
「お、おい、悪かったよ、ちょっとテレビが気になってさ」
 この威力。今も昔も変わらぬ伝家の宝刀、女の涙。さてここからが重要だ。私は首を振って答える。
「多分私がいけないの、悪い所あったら直すから嫌いにならないで」
「あ、いや、お前が悪いんじゃないよ、ごめんな荒っぽく言って」
 健二が体を寄せて肩を抱いてきた。よしここだ。私は縋るように健二に抱きつき泣きじゃくる。ていうかマジ涙が溢れてきて止まらない、うは、あたし超女優。
「よーしいいこいいこ」
 健二が頭を撫でながら体を揺らす。頭を撫でる。体を揺らす。あれ?どうした丸山健二18歳、それだけか?おかしい、この状況で何も化学反応が起こらないはずがない。ほら、ちょいおっきめのおっぱいだって押し付けてるんだぞ。おかしい、私が機嫌を直せば問題解決で次に行けるのか?
「ありがとう、もう大丈夫」
 顔を上げて涙を拭き、笑顔を見せる。すると健二は「よし」と言いながら頭をポンと叩いて笑った。
「けんちゃん大好き」
「今日はディナー食べていっぱい遊んで楽しかったな」
「うん」
「夜もふけてきたことだし」
 そう、それだよ!
「ちょっとお小腹すいてきたな、なんか食う?」
 うぉい! そうじゃねえだろう。別の事で飢えろよ。まさか私に魅力が無い? やりたい盛りなんじゃないの? やっちゃいなよ。食欲よりもっと重要な欲あんだろ。
 おいおいおいなんかお湯を沸かし始めたぞ。
「はい、お前の大好きなシーフード」
 笑ってカップ麺(小)を差し出す健二に脱力した。可愛いなあ。まあいい、あたしの誕生日は一年で最も夜が長い。恋人達の時間は始まったばかりだ。ゆっくりと料理してくれる。
 私は笑ってカップ麺を受け取った。