少女の黒い瞳だけがその場にいる全ての生命のありかを示していた。体をくの字に曲げ、地に両の手を投げ出して、力なく地面に倒れていた少女は首を捻ってこちらを見上げた。
 私は椅子に座り、画面に映る、その生への執念に満ちた瞳を見つめた。少女の腹からは腸がはみ出ている。もう長くはないだろう。
 しかし少女の瞳は画面に映るブーツの主を真っ直ぐに見上げて訴えていた。生きたい。理由など無い。
 ただ生きていたい。傷を負い、いずれ自分が死ぬ事を知らない野生動物のように。私には孫娘がいる。
 今日で5歳を向かえたが、画面に映る少女も、年のころで言えば同じぐらいのようだ。孫娘は今頃誕生会を終えて寝ている頃だろう。私の愛を証明するメッセージは届いただろうか。孫娘は信じている。
 私が正義の味方だと。もちろんその通りだが正義の味方には悩みも多い。たとえばすぐ横に立ち、私を監視するように立っているこの男がそうだ。
 聞けば民衆を苦しめる悪者の居場所を突き止めたのだとか。緊張した面持ちで私をみつめ、汗を拭う事もせずに私の一挙手1頭速を見守っている。正義の味方の活躍を見たがっているのだ。
 正義とは人を守り、幸福にする事だ。弱きを助け、導く事だ。今その時が来たと彼は言っている。私はもう一度画面の少女を見ると、大きく溜息をついて正義を行使した。
「一帯の草刈りを許可する」
「イエッサー将軍閣下」
 兵士は回れ右をすると部屋を飛び出していった。
 間もなく少女の居た地帯は0.1秒間に半径100mに広がる業火に包まれ、建物はおろか草1本とて存在しなくなるだろう。
 私はこんな救い方しかできない正義の味方なのだ。