では、と言って、雇用主側のドアに回り、閉めようとすると、鍵の束を押し付けられた。
「俺の家を使っていい。
金庫ももう意味がねえからな。
番号は忘れたが、ポメラニアンのドッグタグに刻んである。
ヌルの野郎どもも、白人は襲わねえだろ。
 しばらくはな。だから、隠れてりゃいい」
 雇用主の言葉に、こみ上げるものがあった。
 私は、無言でその束を受け取って、運転席に回り、アクセルを踏み込み、発車する。
 何故、礼を言わなかったのか。
言うと、何かが全部、崩れそうだったからだ。
 だから、また会えたら、その時に言おうと思う。
 ワロロワとの食事の場所も、確保しておかなければならない。どこが良いだろうか。