階段を猛スピードで降りながら
周りに心優がいないか確認していた
しかしどこにも彼女はいない
帰られることが一番まずい
そう思った私は、一直線に心優のアパートまで向かうことにした
はっきり言って、無謀だ
でも自分のことを考える余裕なんてなかった
学校から出ると、いつもの帰り道が、少し焦りを感じているように見えた
息をきらしながら、やっとのことで、アパートについた
その時、長身の、黒いパーカーの男と、目があってしまった
ここで初めて、自分のした愚かさに気づいたが、顔をよく見ると
「悠太…?」

その黒いパーカーを着た長身の、ナイフを持った男は
悠太だった
彼は私の顔を見ると、すぐ逃げ出した
あの時、私がすぐに警察を呼ばなかったのは、偶然なのか
それとも…
私は迷わず彼を追いかけた

彼は、どこかの知らない、世間を脅かす殺人犯なんかじゃない

社会から取り除かれるべき危険因子なんかじゃない

彼は、私の、一人の大切な友人なのだ

もう少しで追いつく…!

その時、彼は車が通ってることなんて、考えもせず道路に飛び出した

彼の真横から、猛スピードで、トラックが近づいている

「…悠太!危ない」

私は彼を庇った

悠太はトラックが突っ込む方向から大きく逸れて、歩道に倒れた

しかし、私は、トラックの真ん前に立ち尽くした

その時、心優のような、女の人の声が聞こえた気がした

「まだここに来ちゃ…だめ」

私は、自分の身体の意思と関係なく、トラックの正面から、少し遠ざかっていった

もし、この不思議な現象がなければ、私はもう、この世にいなかったろう

それでも、完全にトラックから身を守ることはできなかった

その瞬間、頭に強い衝撃が走った

頭蓋骨が粉々になるような、とてつもない痛みが私を襲う

私はその場で、倒れてしまった

「尚樹…!」

悠太の声が聞こえたかと思うと
私は、そのまま意識を失った