父は考えた末にためしに一コマだけ世界史の担当を引き受けた。父は授業の最初にこう言った。
 「いいか、社会科ってのは頭の良し悪しではない。勉強したかしないかの違いだ。そこが国語や英語との違いだ。この中にも高校生がいると思う。社会は暗記がすべてだ。やったらやっただけ点数が伸びる。最初に徹底的に人物と年号を黒塗りした教科書のコピーを渡す。その黒塗り下部分を徹底的に書け。書いて覚えろ。参考書見るのはそのあとだ!」
 この画期的な勉強法は受験生の学力を大いに伸ばしていった。評判が評判を呼び戸塚教会はさらに人が集まった。父は川本牧師の提案通り週八コマの担当となった。こうして母の年収と父の年収を合わせて年収四〇〇万となり多少の余裕が生まれた。父は五年ぶりの職業生活を手にしたのだ。しかも扶養内パートなので三号被保険者のままであった。父は専業主夫からパート主夫になった。
 一方親の理解がようやく得られた洋子の洗礼式が行われた。洋子は無事北部バプテストの信徒になったのだ。洋子もスターレット資格があるので心構えだけで洗礼を受ける資格が生じた。