小谷野敦
5つ星のうち5.0
文学研究かくあるべし
2016年11月26日

論文集であり、対象は日本近代文学で多岐にわたる。大方は、前近代文藝からの影響、つまり材源研究であり、
佐々木邦の「いたずら小僧日記」の原拠が米国の小説であったことをつきとめ、のちそれがメッタ・ヴィクトリア・ヴィクターであったことも触れられている。
あるいは内田百閧フ「件」について、それが百閧ェ「件」という字から思いついた妖怪ではなく、それ以前から「クダン」はいたという論文もある。
その他、太宰治、井伏鱒二、織田作之助、大原富枝、神林暁、芥川龍之介、?外「杯」、谷崎「二人の稚児」、稲垣足穂、伊藤整、中原中也と実に多岐にわたる。
筆者の考証は徹底的で、先行研究から関連文献を渉猟し尽し、単行本化に際してもさらに増補を加えている。谷沢永一や浦西和彦に学んだと思しいが、
とにかく文学研究はかくあるべきものであって、そうではない、ただ作品を読んで「分析」と称して感想を述べるばかりの「にせ論文」が多すぎる。