ロシア専門家が警鐘「北方領土問題進展は日本側の幻想」
公開日:2018/12/10 06:00

 ――今回も、歯舞、色丹の返還は既定路線で、平和条約締結後の交渉次第では国後、
択捉もあり得るのではないか、との見方がありますね。

「2島返還先行」や「2島返還+α」を主張する人たちは、まずは2島が返還されれば、
2島周辺の200カイリの排他的経済水域が日本のものになるので、日本の漁業にとっていいこと、
などと説明しています。しかし、それはロシアが日本に主権を引き渡すことが前提ですが、
プーチン大統領はそのような発言を全くしていません。「2島返還先行」「2島返還+α」を主張している人たちは、
ロシア側の思惑やプーチン大統領の考えをリアルに把握していない。単なる日本側の期待や思い込み、
幻想をベースにした一方的な解釈と言っていい。
大体、平和条約締結というのは戦後処理が最終的に終わったことを意味します。条約締結後に領土交渉はあり得ません。

  ――幻想に世論が引っ張られている。

 ロシア側は「『56年宣言』には、引き渡した後の主権については書かれておらず、
引き渡しは返還ではない」と明確に主張しています。2島返還後もロシアが主権を保有し続ける可能性があるのです。
しかし、日本メディアは、「56年宣言」のロシア側理解がプーチン大統領によって根本的に変えられていること
を報じないまま世論調査しているわけで、調査結果は正確さを欠いていると言わざるを得ません。


  ――プーチン大統領の本音をどう捉えていますか。

 彼は、どういう条件で引き渡すかは「56年宣言」に書いていないと言っていますが、
実際には明確に書いてあります。「平和条約締結後に歯舞、色丹を日本に引き渡す」と。
つまり、条件は平和条約締結で、それ以外の条件は何もありません。当時の日ソ両国は当然、
主権を日本側に引き渡すと考えていたわけですが、彼は独自の解釈を打ち出し、
日本に主権を渡さないばかりか、引き渡しそのものについても難色を示している。
そして「『56年宣言』は解釈が複雑で、話し合いも長期間かかる」と言い始めました。
まるで今、私は解決するつもりはありません、といわんばかりの態度です。

■領土交渉は焦るほど立場が弱くなるだけ

  ――プーチン大統領は交渉加速どころか、2島返還の意思すらない。

 言葉の上で合意したといっても、プーチン大統領に加速の姿勢は一切、
感じられません。相変わらず厳しい態度で、発言内容も考え抜かれています
。彼が「領土交渉を一切やるつもりはない」と断言したら、
日本はすぐにロシアとの経済協力の交渉を打ち切るでしょう。
しかし、中国と経済問題を抱えるロシアは、対中交渉のためには日本カードが必要と考えている。
だから、「交渉は簡単ではない」という言葉でごまかし、日本側に期待を持たせている。
問題解決に関心を持っているとのポーズを取りつつ、本質的な部分は何も譲歩していないのです。

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