★こうなったら読書マラソンしません? ★第九戦目
【 公式レース規則 】
書き込みは名前の欄にハンドルと総読破ページ数を記入して下さい。
例) 名前:マラソン次朗(5963)[sage] 投稿日:92/13/32 24:28
本文に読んだ本と読んだページ総数を書きましょう。
★漫画はカウントしないでください。
★一冊読み終えた後の書き込みが基本ですが、
読破に時間がかかる本であれば、途中で書き込んで構いません。
★読んだページ数は、大体で構いません。
とりあえずゴールは10000nということでスタート。
10000nのゴールテープを切ったら、総読破ページ数欄に☆を一つ加えて、
ぜひ、もう一度、1nからゴールの10000nをめざして参加して下さい。
☆の使用例) 名前:パンダパン(☆864)[sage] 投稿日:02/10/20 00:27
<推奨>
200前後に下がったら、レース参戦を歓迎する意味を込めて、
マラソンの書き込み時に(『空あげ』はしないで)アゲ書き込みでお願いします。
>>2 読んだ本の『寸評用・評価基準 ABCDEF 』の例。
>>3 過去スレなど。
前スレ
https://mevius.5ch.net/test/read.cgi/books/1292756977/l50 ページ数を加算するだけでは味気ないので、
ちょっとした感想と、その本に対しての評価を書き添えてみて下さい。
☆読んだ本の『寸評用・評価基準 ABCDEF 』の例。
第一回戦『★こうなったら読書マラソンしません? スレッド』より。
A > A「明けの明星の如き作品」(特別な感情を覚える様な傑作)
B > B「抜群。当該分類類書では必読」
C > C「幸せな気分。まあ、読んで良かった」
D > D「どうして、面白そうだと考えて読んだのか?」
E > E「えらいモノをつかまされた。時間を返せ!」
F > F「古本屋でも持て余す産業廃棄物」
↑という様な感じで、実質的な五段階評価と思ってください。
AとかEに該当する作品はそれほど多くないと思うので、特別な作品用にキープ。
実質的にCが中央で、そこからBとDに振り分ける。
Fは、心底頭に来たとか、許し難い構成の小説など、何年に一度のすごい奴、
傾いた家具の下に入れて、高さ合わせに使用するのが相当であるモノ用。
他人に対する読書の目安としての寸評ですので、
多少厳しめぐらいが良いのではないでしょうか。
・・・という事で、楽しんで読書をしましょう。
☆の使用例は、最初の10000p完走者の『パンダパン さん』に敬意を表して、
使用いたしました。 『ムハンマド』神戸ムスリムモスク 42p
イスラーム入門シリーズ No.6【C】 『傾城の恋/封鎖』張愛玲 光文社古典新訳文庫 232p
短篇集。【C】 『冒険歌手』峠恵子 山と渓谷社 366p
変人。【C】 『アメリカの鱒釣り』リチャード・ブローティガン 新潮文庫 268p
【D】 『書生の処世』荻原魚雷 本の雑誌社 221p
エッセイ。【C】 『無分別』オラシオ・カステジャーノス・モヤ 白水社エクス・リブリス 163p
【C】 『恐怖の花』阿刀田高 選 福武文庫 323p
アンソロジー。【D】 『傍迷惑な人々 サーバー短篇集』サーバー 光文社古典新訳文庫 334p
【C】 『コンビニ人間』 村田沙耶香 文藝春秋 151p 【B】
大学在学中から18年間ずっとコンビニのアルバイトをしている女性が主人公。コンビニの店員になる前の事はもうおぼろげにしか憶えていない。
感情というものがよく理解できないまま、周囲の人の振る舞いをコピーしながら日々を過ごしている。昔読んだ曽野綾子の『テニスコート』という小説を思い出した。
ちゃんと賞が取れるように計算して書かれた感じ。なので適度に読みやすく面白い。ちょっとコントロールしている手が見える気もする。
芥川賞で、書いた作者の他の小説も読んでみたいと思ったのは数少ないけれど、その一人になった。ほかは綿矢りさと絲山秋子。 『素数の未解決問題がもうすぐ解けるかもしれない』ヴィッキー・ニール 岩波書店 223p
【C】 『これだけは知っておきたい 土田京子の説き語り和声法講座』 土田京子 ヤマハミュージックメディア 150p 【C】
音楽学校の生徒であっても和声学の授業が好きという人は少ない。そこで、なるべく平易な言葉で和声学の入門を語った本。
平易な言葉であっても、対象は音楽学校の生徒で、教科書の副読本に位置するので素人には難しい。なんとなくわかったような気がする、ではダメなのだ。
結局、課題を数多くこなし、専門の指導を仰ぐという形でしか身に付かないのかもしれないが、なんとなくわかったような気がする状態で類書を複数読むことで身につけるしかない。
実際の譜面の階名をを移動ドで読んでいるとき、転調なのか借用和音なのか和声外音なのかよくわからない。 『現代整数論の風景』落合理 日本評論社 201p
【C】 『天国でまた会おう』ピエール・ルメートル 早川書房 582p
【C】 『草薙の剣』 橋本治 新潮社 347p 【C】
2017年時点で62歳、52歳、42歳、32歳、22歳、12歳になる六人の平凡な男性の人生の生い立ちを、当時の事件時事問題を背景に、平行して語りあげてゆく小説。
作中で六人が出会ったり間接的に影響を及ぼしたりすることはないが、同じ事件が与えた影響が年代によって違うところとか、年表を読むような楽しさがある。日本人は歴史を年表のようなものだと錯覚している、と言ったのは岡田英弘だったか。
本人だけでなく、その両親、時には両親の両親の人生から語り始められるので、ページが足りないんじゃないかと思いながら読みすすめるけれど、それなりにまとまっている。でもこの3倍の分量があればもっとよかった。
時代が下るにつれて、取り上げられる時事に瑣末なものが混じるようになり、(ページ数が足りないこともあって)もったいないなあと感じる。 『トリノトリビア 鳥類学者がこっそり教える野鳥のひみつ』川上和人 マツダユカ 三上かつら 川嶋隆義 西東社 191p
【C】 『軋む心』ドナル・ライアン 白水社 217p
アイルランドの小説。【C】 『切腹考』 伊藤比呂美 文藝春秋 283p 【B】
性的な興味からの切腹に関する話を皮切りに、森鴎外への偏愛、阿部茶事談、外国での子育て、熊本地震などについてのエッセイの連作集。
本人は詩だと強弁しているだけあって、少し歌うような節回しが美しい。作中で引用される鴎外の文章はとても冴えているが、そこで釣られて原典に飛ぶと跳ね返されるというのは中原中也のときと同じ構図。
以前読んだ本の時点から時は流れていて、まだ小さかった末の娘も独立している。そして、傲慢で威圧的でインテリで20歳年上の巨漢の外国人の夫の介護の話に続く。
この夫の最期の話をするために、鴎外やら前夫やらの話題について行きつ戻りつしていたんだろうなあと思う。人生をさらけ出すようにして書かれていてとても面白い。 『チェーホフ・ユモレスカ 傑作短編集』チェーホフ 新潮文庫 384p
【C】 『1足す1から現代数論へ』アブナー・アッシュ ロバート・グロス 共立出版 266p
【B】 『歩道橋の魔術師』呉明益 白水社エクス・リブリス 212p
連作短篇集。【C】 『黄色い雨』フリオ・リャマサーレス ソニー・マガジンズ 206p
ホラー。【C】 『「やりがいのある仕事」という幻想』 森博嗣 朝日新書 223p 【C】
タイトルでだいたい価値の全体の8割。「やりがいとはなにか?」とかの定義をあやふやにしたまま、抽象的でふわっとした話がずっと続く。そして所々で「やりがいのある仕事という幻想」に筆者自身が捕らわれているよう。
他人の眼を気にしている人は、それが他人の眼ではなく、実際には自分の心の内にある仮想他者の眼でしかない。という指摘は良かったが、
筆者自身もそういう仮想他者的な評価の文法を通してしか、他人の人生を評価できていない。というか安易に他人の人生を採点しすぎ。
筆者はもともと仮想他者の目のような要素を持ち合わせていないタイプなので、心の中に自分で自分を押しとどめようとするフリクションがない感じの人。そのあり方自体はひとつの参考になる。 『アキレス将軍暗殺事件』ボリス・アクーニン 岩波書店 434p
ロシアの歴史推理小説。【C】 『アーベル(後編)』高瀬正仁 現代数学社 242p
【C】 『ガウスの遺産と継承者たち』高瀬正仁 海鳴社 142p
【C】 『韓国 行き過ぎた資本主義』 金敬哲 講談社現代新書 214p 【C】
現代の韓国社会の経済的な社会問題をひととおりまとめた本。きれいにまとまっているし、読みやすい。
ただ、極端な部分を選んで取材しているという感じで、韓国社会の全体像みたいなものは見えてこない。どこの社会にもそれぞれに特有の暮らしにくさはあるだろう。
文化、精神、歴史に深く切り込み、現在の社会のゆがみの根本を探る、といった本ではなく、ちょっとしたドキュメンタリーリポートって感じ。
ソウル大学で博士号を取っても就職に困るんだったら、教育に掛ける費用を減らしてそのまま外国株にでも投資して子供に残した方が効率いいんじゃないんだろうか。 『天に向かって続く数』加藤文元 中井保行 日本評論社 216p
【B】 『西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話』 西原理恵子・月乃光司 小学館 102p 【B】
前夫がアルコール依存症になった西原理恵子の場合、前夫はガンで死ぬ前の半年間だけ依存症から快復してもとの性格に戻った。そのため、あれは病気のせいだったんだと客観視できるようになって、ある意味結果オーライとすらいえるのは西原本人の星回りの良さか。
快復しないまま依存症の家族が死んだ人からの手紙には「もう親は亡くなりましたが、墓をほじくりかえしてでも殺したいほど憎い」とか書かれているんだそう。
アルコール依存症の治療の経験、理解のある精神科医に早めにかかることが重要らしい。そのリストも載っている。本人ではなく周りの家族が医者に相談するのも意味があると書いている。
どれほど夫にひどいめにあわされても、子供に夫の悪口を吹き込まなかったという点はとても大切だと思う。子供こそが本当の被害者なのだ。 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮社 252p
【B】 『猫背は治る! 知るだけで体が改善する4つの意識』 小池義孝 自由国民社 219p 【C】
著者は気功治療院の院長。知識として知っておくだけで猫背が改善し、免疫力その他もupするという本。
具体的には、肺の大きさに関する知識、体の重心を足の裏のどこに置くか?、肩甲骨の移動範囲、大腰筋の存在。猫背矯正サポーターをやんわりと否定しているのが印象的だった。
クリニックでは、知るだけですぐさま背筋が10キロ上がったというような例もあるようだが、まあ、時々思い起こして気長に体のバランスを整えていくって感じ。かなり効果があるんじゃないかと思う。
4つの知識は有用だが、その間を埋めるのがけっこう精神的な幸福論で、悪い人じゃないんだけれど、全部真に受けてる暇はない、エッセンスだけ使わせてもらいますって感じ。 『失われた近代を求めて I 言文一致体の誕生』 橋本治 朝日新聞出版 245p再読 【A】
明治時代の文学を語るために古典から語り始め、慈円『愚管抄』の和漢混淆文を経て、二葉亭四迷『あひびき』『浮雲』、田山花袋『蒲団』、もう一度二葉亭四迷『平凡』と続く。
著者の残した作品の中で、文体についてはこのシリーズが白眉だと思う。『権力の日本人』の、コブシがぶんぶん回っていて縦横無尽、天衣無縫の文体も最高だが、少し抑制を利かせて、自由さは担保したままより細かな襞に分け入っていくことのできるような文体。
この平成の時代(執筆当時)に、いったい誰が田山花袋の『蒲団』をここまで読み込むだろうか? 受験勉強で作者名と題名を関連付けて覚えられるだけの作品でも、この著者の手にかかれば至高のエンターテイメントのネタになってしまう。
作品から作者を赤裸々に解きほぐしてみせるが、けして後出しジャンケンの上から目線ではなく、作者に対する理解と共感がまず最初にある。 『悪について誰もが知るべき10の事実』ジュリア・ショウ 講談社 310p
【D】 『ホモ・デウス 上』 ユヴァル・ノア・ハラリ 訳・柴田裕之 河出書房新社 264p 【C】
ホモ・サピエンスは21世紀に入って、最悪の敵であった飢餓、疫病、戦争をほぼ克服した。そこで人類の進化圧は消え、このままずっと今の状態が維持されるのだろうか?
もちろんそんなことはない。これまで、飢餓疫病戦争を克服しようとした力は、今後、不死、至福、神性の獲得を目指すことになるだろう。そしてそれが達成されたとき、人はすでにホモ・サピエンスではなく、ホモ・デウスとでも呼べるものに進化しているのだ。
この場合における神性とは、唯一神のそれではなく、ギリシア・ローマの神々などの持つ力を指す。すでにわれわれは、部分においては古代の神々を超越した力を持っている。
気の利いた言い回しの詰まった、知的読み物って感じの本。上巻ではこれまでの人類の歴史を、そういう視点で再確認していく。 『二笑亭綺譚』式場隆三郎 赤瀬川原平 藤森照信 式場隆成 岸武臣 ちくま文庫 385p
建物「二笑亭」の記録。【C】 『銀河の片隅で科学夜話』全卓樹 朝日出版社 190p
エッセイ。【B】 『ピアニストならだれでも知っておきたい「からだ」のこと』 トーマス・マーク 訳・古屋晋一 春秋社 177p 【B】
手や肘に痛みを抱えるピアニスト(ピアノ愛好者)は多い。そして、生涯そのような痛みとは無縁のままピアノを弾き続けられる人もまた多い。
人体の全身の骨のしくみから始まり、筋肉や腱の付き方の説明が、本書の8割を占めている。それらの知識によって自分自身のボディ・マップを正確にすることが一番の解決法なのだそうだ。以前読んだ『猫背は治る』って本と通低する部分がとても多くて、説得力があった。
とはいえ、図と文章だけではなかなか理解しづらい部分もある。訳者も原著を読み込んだ上で著者に会いに行ったが、実際にレッスンを受けて初めて理解できた部分が多かったと、あとがきに書いてある。
ゆっくりと、体全体、そして周囲の空間まで意識を行き渡らせながらピアノを弾くこと。とにかく、この方向の先にしか光は見えない。あと、鍵盤を押し下げたあと保持するときはなるべく力を抜いておくように。 『イシ』シオドーラ・クローバー 岩波同時代ライブラリー 380p
【C】 『包丁一本がんばったンねん!』橋本憲一 新潮文庫 196p
京都梁山泊。【B】 『電磁場の発明と量子の発見』筒井泉 丸善出版 155p
【B】 『失われた近代を求めてII 「自然主義」と呼ばれたもの達』 橋本治 朝日新聞出版 245p再読 【B】
国木田独歩と島崎藤村の『破戒』は文壇から「後期自然主義」と呼ばれ、現在でもそのカテゴリーに振り分けられているが、彼ら自身にその自覚はなく、また、その作品もいわゆる自然主義とはなんら関係のないものだった。
彼らは彼らなりの作品を言文一致体で書き上げただけなのである。そしてそのような作品が生まれることこそ、二葉亭四迷から続いてきた言文一致体の模索が完成したことの証である。
話はほかに鴎外と田山花袋の作品をめぐり、島崎藤村の私小説的作品から『夜明け前』へと続く。
『夜明け前』の青山半蔵が最後に狂死してしまうことを、著者は必要なかったと言っていたので、あの長編を読むにあたってちょっと不安だったけれど、実際読んでみると、いうほどひどい終わり方ではない気がした。 『内にむかう旅 島尾敏雄対談集』島尾敏雄 泰流社 341p
【C】 『これがニーチェだ』永井均 講談社現代新書 221p
【B】 『逆説の日本史23 明治揺籃編』 井沢元彦 小学館 381p 【D】
近現代編に入るにあたって、日本の近現代史の通説はいまだに朝日新聞や、進歩的知識人などによって捻じ曲げられている。彼らのあり方はちょうど大日本帝国陸軍の参謀本部と相似形をなしている、と説く。
確かに最初に一言必要だと思うが、これまでも折に触れて繰り返してきたことに、改めて180ページも費やすというのはいかがなものか。
まるで真実で教化すれば彼らは目覚める、とでも言いたげな書きぶりだが、朝日新聞やらなんやらは、宗教的確信を持って自発的に捏造を繰り返しているので、それを個々に取り上げて捏造だと糾弾してみても、蛙の面に小便である。
ほかに琉球処分と廃仏毀釈について。いつもは面白くならない沖縄系の段落が、今回は比較的面白く読めた。 『仕事道楽 新版』 鈴木敏夫 岩波新書 270p 【C】
ジブリのプロデューサーを複数回に分けてインタビューし、編集者がリライトしたもの。読みやすい。
プロデューサーはまず監督の味方でなければならない。ということを高畑勲から学んだ著者のスタンスに異論はないが、それゆえ、どうしても一定の配慮をした上での語り下ろしになってしまっている。
昔のエピソードには面白いものが多いが、後半になってくると手を変えた宣伝っていうか。いしいひさいちの漫画に包丁を振りかざした変質者として描かれる著者の異常性はこの本からは窺えない。
見ても嫌な思いするだけだからと敬遠していた高畑勲の『かぐや姫の物語』を最近見たのだけれど、予想に反して非常にいい映画だった。 『赤い髪の女』オルハン・パムク 早川書房 289p
【B】 『一般相対性理論を一歩一歩数式で理解する』石井俊全 ベレ出版 671p
【B】 『絲的サバイバル』 絲山秋子 講談社 227p 【C】
月に一回、近場のキャンプ場や山の中に一人キャンプをしに行くという企画のエッセイ。
人付き合いが悪そうでいて不思議に顔が広く、知人と連れ立ってキャンプする回も多い。ヘビーなアウトドアな部分は、そういうのが好きなおっさんに任せて付いて行くのがラク。
こだわりとこだわらなさのバランスがなかなか絶妙で、そういうところが才能なのかも。
さすがデビュー前の時点で自分のHPに、世間の求めている文学がどういうものかだいたいわかるという「天才宣言」を載せ、その言葉のままに芥川賞を取った作者のセンスである。 『僕が殺した人と僕を殺した人』東山彰良 文春文庫 362p
【B】 『ラジ&ピース』 絲山秋子 講談社 164p 【C】
容姿にコンプレックスがあってそれが露骨に表に出る主人公。という設定なのに、なぜか地方のラジオ局で女性パーソナリティー兼アナウンサーとして働いている。
ラジオのアナウンサーとしては有能でも、その有能さを披露する場を与えられないんじゃ、と思えるいびつな設定だが、これは当時地元の群馬でFM放送の番組のパーソナリティーをしていた作者の経験が元になっている小説なのであった。
作者は芥川賞作家なので、意欲さえあればそういうチャンスにめぐり合えることもあるだろうけれど。
ちょうどこないだ読んだ『絲的サバイバル』の出来事をそのまま扱った内容。ラジオのリスナーだった普通のおじさんと知り合って、地元のおいしい店に連れて行ってもらったりする。 『驚愕の曠野』筒井康隆 河出書房新社 158p
【C】 『ビッグデータ探偵団』安宅和人 池宮伸次 講談社現代新書 220p
【D】 『新種の発見』岡西政典 中公新書 256p
【C】 『アメリカ感情旅行』安岡章太郎 岩波新書 219p
1960年テネシー州ナッシュヴィル。【D】 『ジブリの教科書10 もののけ姫』 文春ジブリ文庫 286p 【C】
まず、シリーズタイトルがこれより下はないのではないかというレベルでダサい。『ジブリの教科書』だってよ。これでジブリアニメをお勉強するんでしゅかね?
内容は宮崎駿、鈴木敏夫、スタッフへのインタビューと、評論家等の寄稿でできていてそれなりに面白いけれども。
そのなかに宇野常寛やら大塚英志やらがユリイカごっこしているのが混ざっていて読む気をなくす。
読んだけど。 『「山奥ニート」やってます。』 石井あらた 光文社 317p 【C】
和歌山の山奥の限界集落で廃校に住みだしたニートの人。現在では15人くらいになって、ときどきテレビの取材も来る。
教育実習で担当教官に受けたパワハラからひきこもりになっていたところ、ネットで知り合ったニートとふたりで、山奥にニートの暮らす村を創ろうとしているNPOの代表に会いに行き、最初に住み始めるメンバーになる。
しかし、住み始めて三日目でその代表の人が死去。NPOのメンバーが空中分解する中で自分が代表になり、山奥の限界集落でニートとして暮らす。家財道具やらは全部亡くなった代表の人が用意しておいてくれたもの。
今、わりと似たような境遇だけれど、ここまで裸一貫で山奥に暮らしていける自信はないなあ。 『多角形と多面体』日比孝之 講談社ブルーバックス 251p
【B】 『日本幻想文学集成 石川淳』池内紀 編 244p
【C】 ふと思い立ったので0から参戦してみるテスツ。
『本は10冊同時に読め!本を読まない人はサルである!』成毛眞 三笠書房知的生きかた文庫 171p 【D】
著者が最後まで読む本は1/5しかない。人生は短く、40代までにいかに読めるか。同時並行で全く違うジャンルを読め。目的は不要。よくあるやつ。
『時間はどこで生まれるのか』橋元淳一郎 集英社新著 188p 【B】
哲学と科学の乖離を乗り越え、新たな時間論を展開する。宇宙は相対論的C系列様ただ存在するのみ。我々はエントロピー増大に対向し、主観的時間により宇宙の創造を行うのだ。感動?
『子供の名前が危ない』牧野恭二雄 ベスト新書 205p 【C】
難読ネーム著者(くにお)がキラキラネームを分析。近代化システムにより無力感に囚われた若者が、代償行為=無意識の肩代わりで子供に負わせたもの。名前で世相を分析できるのは面白い。 『差がつく読書』樋口裕一 角川oneテーマ21 222p 【C】
読書論ではかなり実践的な部類。100冊リストも良い感じ。ヴァレリー・ラルボーは自らの読書論を「罰せられざる悪徳・読書」と名付けた。この悪徳は決して身を危険に晒さないのだ。
『日本人のための世界史入門』小谷野敦 新潮新書 271p 【B】
薀蓄(文句も)たっぷりに古代ギリシアから現代までを論じる。君主論、ダ・ヴィンチ、南部ひろみ(漫画家)、シャア・アズナブルがチェーザレで繋がる感じ。だいたいでええんや。
『韓国が漢字を復活できない理由』豊田有恒 祥伝社新書 211p 【C】
世界に先駆け金属活字を使った漢字大国、韓国。960回(!)の異民族侵攻、日本統治、政治闘争…「言語学上の文化変容」とエスノセントリズムに揺らぐ韓国の喜劇、いや悲劇を語る。韓国語入門にも○。 訂正 >>67の集英社新著は正しくは集英社新書
『性の源をさぐるーゾウリムシの世界ー』樋渡宏一 岩波新書 207p 【D】
ゾウリムシと研究人生と哲学的問い。性とは、細胞が特定の相手を識別し接着(性的隔離)、遺伝的組み換えを行う為の仕組み。老化が起こる前なら性は救い主になる。劣化しない小核が気になる。
『トンデモ本の世界Q』と学会 楽工社 464p 【D】
古いがこれは未読だった。往事茫々、しかし未だに焼きましされてる話もチラホラ。聖書の暗号、超常現象名鑑、完全なる男性、檀君神話辺りが気に入った。胃に穴が空いた担当は気の毒だ。
『脳と瞑想』プラユキ・ナラテボー、篠浦伸禎 サンガ新書 309p 【C】
対談本。アルツハイマーを無明に緑りて行が生ずる等と解説する、脳科学とブッダ思想の融合は見事。ヴィパッサナー系観察(≠集中)瞑想でしなやかな自我に。心の作用の三重構造図は興味深いが消化不足。 『中世に生きる女たち』脇田晴子 岩波新書 248p
【B】 『格闘技の科学』吉福康郎 サイエンス・アイ新書 224p 【D】
格闘技毎の身体の使い方や、「壁を作る」等の動作を科学的に解説。というかノウハウやハウツー本的。「気」は相手の意思に影響する(かも)。最後で心の強さが真の強さというのはどうなんだ。
『死刑 その哲学的考察』茅野稔人 ちくま新書 318p 【D】
道徳と政治から死刑論争を斬る。道徳(応報論)では普遍的判断は不可能であり、政治的には冤罪の可能性故、死刑を正当化できない。そこで著者はベッカリーアの終身(隷役)刑に可能性を見る。終わり?
『自閉っ子、こういう風にできてます!』ニキ・リンコ、藤家寛子 花風社 311p 【B】
自閉(高機能)の世界観は面白い!という対談本。ふと体を喪失してしまう一種の身体障害でもある自閉っ子。「体取り戻しマニュアル」は筒井康隆のナンセンスのようで面白く、恐ろしい。勉強になる。 『死んだらどうなるの?』玄侑宗久 ちくまプリマー新書 158p 【B】
仏教に哲学や科学も交え、死生観を解く。我々は「あの世」という「暗在系の全体運動(ボーム)」を「識」から見出す。それは光や素粒子と同じ「できごと」で「空」である。タイトルの答えは?瞑想しよう。
『つかぬことをうかがいますが…』ニュー・サイエンティスト編集部編 ハヤカワ文庫 339p 【C】
科学雑誌の投稿型Q&Aコーナーの文庫版。中には誤答やジョーク、質問そっちのけの熱い議論も。玉石混交だが、正解だけを知るより深みが出るような気がする。原題「The Last Word」は「とどめの一言」。
『自転車の教科書』堂城賢 小学館 191p 【C】
スポーツ自転車の乗り方は流行より理屈。正しいおじぎ乗りとは、イチローの守備姿勢。それと、柔らかい身体と強い体幹(重要)。正直好みだろうが、猫背後ろ足荷重より予防医学的には良いのでは。 『妹がグレブナー基底に興味を持ち始めたのだが。』グレブナー基底大好きbot シルフ・インスティテュート 114p
【C】 『世界史概観 上』H.G.ウェルズ 岩波新書 223p 【C】
高名なSF作家であるウェルズは、科学精神でもって大著「世界史体系」を完成させた。更に広い展望をもつ本書は、一気に通読する事で歴史の概観を得る事ができるそうだ。教科書には良いと思う。
『裁判所が道徳を破壊する』井上薫 文春新書 185p 【C】
元裁判官が裁判所の病理を挙げる。例えば、尊属殺重罰規定訴訟、国旗国家訴訟は一般論で法を否定。また、主文は請求棄却、理由欄で違憲と述べる、越権な蛇足判決。国民主権原理から問題提起を。
『知っておきたい放射能の基礎知識』斎藤勝裕 サイエンス・アイ新書 221p 【C】
フクイチから話題の放射能、原子炉、原子力事故を図付きで解説。原子の仕組みからプルサーマル計画まで体系的に書いていて良い。核融合炉より高速増殖炉やトリウム原子炉の方が現実的なのでは? 『悪魔の話』池内紀 講談社現代新書 206p 【C】
悪魔とは何か?誕生から性格、分類、材質まで、その観念が生み出す精神絵巻を読む。ファウスト、柳田国男、ゴヤ、等々参照しながら、様々な悪魔と、ファシズムといった人間に潜む悪魔を発見する。
『セクシィ仏教』愛川純子 メディアファクトリー新書 203p 【C】
隠すは上人、せぬは仏。ー愛慾にまみれながら、時に苦悩し時に赦す、仏教説話を通じてセクシィに性を探る。お釈迦様、親鸞、一休和尚も真正面から等身大の性を語りまくる。波羅夷の基準が面白い。
『脳と音読』川島隆太、安達忠夫 講談社現代新書 206p 【C】
寺子屋文学者と脳学者が手紙形式でやり取りしながら音読の効果を確かめる。臨界期(3歳)までいかに多くの生の言葉に会うかが重要。素読は感性と無意識をつちかい、朗読は知性と意識をつちかう。 『極限メシ!』西牟田靖 ポプラ新書 181p
web上のインタビューを本にしたもの。【D】 『金の社員・銀の社員・銅の社員 自分をマネジメントする方法』秋元征紘、田所邦雄&ジャイロ経営塾 文春新書 216p 【E】
大規模ジャイロ調査から社員を4つのメダルに分類。適合性、コミュニケーション、前向き姿勢の3つのドライバー要員がある。15コンピテンシーよりスキルを選定し目標にする。社長ならまあ。
『ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法』福田和也 PHP研究所 229p 【D】
軽いハウツー。どっちかと言うと書くほうがメイン。読書の目的を拡張しないこと。抜き書きの愉しみ。まず一人の作家の文章を分析してみる。プロとは絶対に真似できないものがあること。
『まんが人体の不思議』茨木保 ちくま新書 315p 【C】
あ、漫画はノーカン。良い。看護学生とか向き。 『ぜんぶ本の話』池澤夏樹 池澤春菜 毎日新聞出版 223p
父娘対談。【C】 『逃亡派』オルガ・トカルチュク 白水社エクス・リブリス 416p
【C】 『本 起源と役割をさぐる』犬養道子 岩波ジュニア新書 206p 【C】
本と文字の源流を遡り、本の現代と付き合い方を考える。著者は犬養毅の孫で、その辺の話もあり。生きた時代を考えると先見の明がすごい。日本人は大豆汁。
『スマホの5分で人生は変わる』小山竜央 KADOKAWA 239p 【D】
スマホユーザーの半数が毎日3時間以上を費やしている。依存の仕掛けと心理を読み解き、自己成長の為に使いこなせ。アプリでビジョンボードを作るのが良い。
『カー機能障害は治る』松本英雄 ニ玄社 141p 【C】
webCGのエンスー道場の単行本。自動車の教養とでもいうべきクルマと対峙する能力を身に着ける本。エンスーより初心者向け。旧車の残念な経験談が面白い。 『プロ直伝 伝わるデータ・ビジュアル術』E2D3.org 技術評論社 191p
カタログのような感じ。【D】 『重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』大栗博司 幻冬舎新書 289p 【B】
重力の謎を追い、ニュートン、相対論、量子論、超弦理論と進んでいく。最後にホログラフィー原理に辿り着くと逆に重力が消えてしまう。統一理論の解明が待たれる。量子論の解説では一番納得できた。
『環境問題のウソ』池田清彦 ちくまプリマー新書 167p 【C】
3テーマから自然保護を考える。環境問題は正義を唱える政府とマスコミと利権団体による陰謀論だ…というのは本筋でない。何事にも光と影がある。思考停止をやめ、実行性のある枠組みを作るべき。
『大変化 経済学が教える2020年の日本と世界』竹中平蔵 PHP新書 220p 【D】
コロナ以前の予測本。著者の新自由主義的な考え方が良くわかる。大前提のグローバリゼーションが怪しいから予測全体怪しいが、中国の中進国の罠とかコンパスになる話もあった。改革2020は大失敗。 『陰謀の日本中世史』 呉座勇一 角川新書 343p 【C】
「私たちは陰謀が大好きである。」の文章から始められるもんだから、すごくワクワクして読み進めていったのだが、結局、正統な気鋭の歴史学者が、学会の研究結果をもとに巷に流布する陰謀論のアラを指摘してゆく、という本だった。
明晰な文体で読みやすく、それなりに面白かったが、ツカミの一文で感じたロマンが満たされることはなく、こういうのも羊頭狗肉というのだろうか。
専門の中世史を扱っているぶんは良かったが、最後にまとめとして陰謀論全体について語り始めると、とたんに雲行きが怪しくなる。専門家が著書で専門の知識をもとに他者の学説の正否を判定する時は、そのスタンスに注意を払わなければならない。
読者は専門家ではないのだから、書き手の振る舞いからその妥当性を判断するほかないのだ。いったん自身の政治的立場は棚上げして、なるべく公平な立場からジャッジを下すべきである。当然のように南京大虐殺があったことを前提に論を進めていて、NHKの御用学者が馬脚を現したってところか。 『ヴィーガン・レシピ』米澤文雄 柴田書店 157p
味が想像できないものも多い。【C】 『やんごとなき読者』アラン・ベネット 白水社 169p
【C】 『不勉強が身にしみる 学力・思考力・社会力とは何か』長山靖生 光文社新書 240p 【C】
親として子を教えるにあたって、己の不勉強が身にしみるー。そんな大人が勉強について考え直すドキュメント。現代社会から見える、古典的な「旦那」という理想。まずは自分自身の旦那になる。
『フロムに学ぶ「愛する」ための心理学』鈴木晶 NHK出版新書 209p 【D】
フロム「愛するということ」訳者が、フロム心理学から現代社会と愛を問う。愛とは、与えること。自身の存在の「中心における経験」にしか愛=生はない。つまり愛は自分との戦い。著者個人は好かん。
『手術室の中へー麻酔科医からのレポート』弓削孟文 集英社新書 222p 【B】
豊富な事例から、麻酔科医が明かす手術の実態。手術や麻酔には侵襲性があり、医師との意思疎通が欠かせない。手術前に患者が聞くことリストは便利。アレルギー・淋病・痔持ちは特に言おう。 『地下世界をめぐる冒険』ウィル・ハント 亜紀書房 293p
地下空間についての考察。【C】 『クロード・シャノン 情報時代を発明した男』ジミー・ソニ ロブ・グッドマン 筑摩書房 430p
著者が理論を理解していないので説得力に欠ける。【C】 『原発プロパガンダ』本間龍 岩波新書 216P 【C】
なぜ日本は原発大国なのか。そこには電気料金で抱き込んだ広告代理店・通信社・メディアによる国家的プロパガンダがあった。事故後のお題目は風評被害、安心神話、温暖化、安定供給。陰謀論感〇。
『投資バカ』中野晴啓 朝日新書 205P 【D】
元証券マン著者の「預金バカ」に次ぐ書。不景気には投資が流行る。投資バカにならない為の投資術を解説。証券会社はいかに手数料を取るかが全て。日本人の気質と経済神話が投資バカを生んだ。
『気にしすぎ症候群』伊藤明 小学館新書 205P 【D】
人にどう見られるか不安…増加する「気にしすぎ」のメカニズムと対処法を考える。気にしすぎは本能的なリスク回避策であり人間の想像力の産物。気にしすぎを気にしない。悩んでる時に明快で〇。 『ひとの気持ちが聴こえたら』 ジョン・エルダー・ロビソン 訳・高橋知子 早川書房 404p 【C】
著者は40代で自閉症と診断された50代後半の男性。人の感情というものをまったく理解できなかったが、その対価として機械に親和性のあるテレパスと思えるほどの能力を有している。
その特殊な能力によって、最初は音楽業界、ついでゲーム関係、現在は中古車修理工場の社長として社会的な成功を収めていて、結婚もしている。しかし本人としては常に社会から阻害されていると感じ続けた人生だった。
ある日、自閉症者としての自伝を書いたツテで大学の研究室から、「経頭蓋磁気刺激(TMS)」という研究の被験者にならないかと誘われ参加する。オウムのヘッドギア的な機器でもって脳に微弱な電気刺激を与える実験である。
そして著者は、あたかも『アルジャーノンに花束を』の主人公であるかのような経験をするのだが、なかなか、自閉症の著者が自分語りで書き綴っていくのでなかなか、小説のようなわかりやすく鮮烈な読後感というわけにはいかないものだなあ。 『シラノ・ド・ベルジュラック』エドモン・ロスタン 光文社古典新訳文庫 532p
【B】 『生物と無生物のあいだ』福岡伸一 講談社現代新書 285P 【B】
自己複製を行う機械は生命なのか?著者が研究者達とアメリカを回想しながら生命を探る。律動=不可逆的な時間の中で動的平衡(柔らかな相補性)状態にある「流れ」こそが生命。エピローグがトラウマ。
『続ける技術、続けさせる技術』木場克己 ベスト新書 183P 【D】
ビジネス書。トレーナーの仕事とか、メダリストの挫折と再起とか。継続力を発揮させるヒントといっても、結局は当たり前を真面目にやるだけ。長友やメダリスト達はそこが優秀だったんだなあ。
『ストレスのはなし メカニズムと対処法』福間詳 中公新書 224P 【C】
元自衛隊精神医官の著者が、ストレス研究の歴史から対処法まで紹介。ストレス障害はストレッサーで怪我を受けた脳の反応。うつ病とは似て非なるもの。刺激を避けるより、遊びのプラス刺激で薄める。 『トポロジカル物質とは何か』長谷川修司 ブルーバックス 302p
【B】 『スマホ脳』 アンデシュ・ハンセン 訳・久山葉子 新潮新書 255p 【B】
現代社会においては、集中力こそがもっとも貴重な資産である。しかしサバンナでは違った。周囲のちょっとした音に気を散らされ、取り越し苦労ばかりしている個体こそが生き延びられた。
マルチタスクを行うこと自体に満足感があるのはその頃の名残である。感じる満足感に反して個々の作業効率は著しく低い。サバンナでは集中力を持ってなにかを成し遂げることなど、身の回りに偏在する生死に関わる危険に比べればどうでもよいことであった。
スマホは人類がサバンナ時代に培った報酬系をハックして集中力を無限に奪い続ける。しかし、すでに私達にはその魔力に抗うすべはない。せめて寝室には持ち込まないようにし、運動を心がけよう。
特に子供の脳に与える影響は計り知れない。今、何の規制もなくスマホを与えられている子供たちは将来、スマホ世代と呼ばれることになるのかもしれない。 『世界がわかる理系の名著』鎌田浩毅 文藝春秋 245P 【C】
名前は知っているが読んだことはない、そんな名著の知恵を活かす為の解読本。概略の他、歴史的な位置付け、前後の流れ、教訓等で総括的に説明。周囲のサポートあってこそ天才なんだなあ。
『心臓が危ない』長山雅功 祥伝社 236P 【C】
国民病である心臓病。狭心症、心筋梗塞から高血圧サージ、腹上死まで具体的に解説し、傾向と対策を考える。これからは急性期の治療と心臓リハビリの両立が求められる。運動と、かかりつけ医。
『集中力』山下富美代 講談社現代新書 205P 【D】
集中力のメカニズムからその養い方、使い方までを解説。心理学の集中力、記憶力に関しての文献や実験がまとまっている。集中力養成には、@習慣A生体リズムB体調C環境をセルフコントロール。 『縛られた巨人』神坂次郎 新潮文庫 502p
南方熊楠伝。【B】 このスレ、「テタとるみんと、時々誰か。」に改名したら?
とおもいましたまる 『対称性』イアン・スチュアート 丸善サイエンスパレット 174p
【C】 やっとゴールした。
『発達障害のいま』杉山登志郎 講談社現代新書 259P 【B】
発達障害の最前線を臨床の現場から解説。多因子、トラウマ(虐待)による自閉症スペクトラムに精神分析やカテゴリ分類医学は無力。正しい早期診断と医療介入(認知行動療法、EMDR眼球運動法)。
『「世界征服」は可能か?』岡田斗司夫 ちくまプリマー新書 190P 【D】
アニメの悪役って変だよなぁ、から生まれた本。がそこは踏み込まず、後半は階級社会と世界秩序の説教。悪とは、現在の秩序や価値観の破壊=アメリカ主義・新自由主義・情報主義的な社会の破壊と再建。
『ヒトはどうして死ぬのか 死の遺伝子の謎』田沼靖一 幻冬舎新書 173P 【C】
細胞の自殺アポトーシスから探る、「死の科学」。一例が、アポトーシスを利用し難病をも根治可能なゲノム創薬。「死」はランダムな有性生殖による生の連続性を担保する。実は利他的な遺伝子。 『現代の英雄』レールモントフ 光文社古典新訳文庫 371p
【C】 『まっぷたつの子爵』イタロ・カルヴィーノ 白水uブックス 185p
【C】 『役に立たない読書』林望 インターナショナル新書 205P 【D】
「読書に貴賎なし」を唱える書誌学専門家の、役に立たない読書のススメ。中国の恋愛モノ「遊仙窟」から源氏物語まで、普遍的な現代文学であり続けた故の古典は面白い。朗読もいいものだ。
『禅のすすめ』佐藤幸治 講談社現代新書 197P 【C】
座禅、茶の湯の侘び寂びから十牛の図の入鄽垂手まで、身近で深淵な禅の世界。禅は科学より真実に徹し、宗教より無我の慈悲に徹する。分母を0にも無限大にもして物を見、しかも分母を1として行う。
『面白いほど詰め込める勉強法 究極の文系脳をつくる』小谷野敦 幻冬舎新書 227P 【C】
コヤノ式勉強法を語る本?各作家の著作年譜、文学者一覧表、文献リストなどデータベース・記号化して、世の中にこうものがあるのだと知ったうえで読む。本は全文最後まで読まない。知の年表が良い。 『交通事故学』石田敏郎 新潮新書 195P 【D】
一生で一度は事故で負傷か死亡するかも?なのに運転という能動的リスクは受動的リスクより受容レベルが千倍高く、見過ごされがち。リスクホメオスタシス論。携帯ながらはビール瓶1.5本飲酒相当(!)
『上達の法則』岡本浩一 PHP新書 235P 【C】
心理学者で茶道、将棋、英語、音楽に広く通じる著者が上達の力学を解説。上級者はスキーマとコードシステムで思考できる人。反復、評論、感情移入、丸暗記、マラソン的練習、独自訓練で特訓。
『2分間ミステリ』ドナルド・J・ソボル 武藤崇恵=訳 早川書房 234P 【C】
少年探偵ブラウンの作者が送る、ミニ・ミステリの中でも特にショートな71編を収録。言葉尻を捉えるのから雑学・文化の知識が必要なの、ずっこけるしょうもないのまで盛り沢山。2分では難しい。 『小説「聖書」旧約篇』ウォルター・ワンゲリン 仲村明子訳 徳間書店 454P 【D】
前に断念した旧約を今度こそ、と思ったが…。言うほど小説か?最後の最後に創世記があったりするけどわりと忠実。主なエピソードや詩とかも全部入ってるだろう。汝殺すなかれ、とは?
『読書の腕前』岡崎武志 光文社新書 294P 【C】
読書が嫌になったら読むと良い本。本とのファーストコンタクト、指に記憶させる。そして積読、これをやらんと読書の腕前は上がらない。積読派なので良かった。対談本と解説は外せないよね。
『東大理系教授が考える道徳のメカニズム』鄭雄一 ベスト新書 219P 【D】
子供と一緒に道徳を考る本。「人間には理想の道徳がある」、「道徳は個人個人が決めるもの」という思想の対立を発展させ、道徳の本音は「仲間らしくしなさい」にあるとする。その起源にはバーチャルなことばの特殊性がある。 『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』キルメン・ウリベ 白水uブックス 259p
バスク語からの翻訳。【B】 『探求する精神』大栗博司 幻冬舎新書 320p
【B】 『探検!数の密林・数論の迷宮』橋本喜一朗 日本評論社 295p
【C】 『鬼会』赤江瀑 講談社文庫 225p
短編集。【C】 『アインシュタイン方程式を読んだら「宇宙」が見えた』深川峻太郎 講談社ブルーバックス 270p
学習体験記。【C】 『トランス=アトランティック』ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ 国書刊行会 293p
【D】 『宇宙の隠された形を解き明かした数学者』シン=トゥン・ヤウ スティーブ・ネイディス 日本評論社 445p
自伝。【C】 『「第二の不可能」を追え!』ポール・J・スタインハート みすず書房 373p
準結晶について、知らないことをいろいろ知れた。【B】 『文化系のための科学・技術入門』志村忠夫 ちくま新書 214P 【D】
自然哲学の誕生〜最新技術まで、原子の仕組みから文化系にやさしく解説。後半は行き過ぎた科学・技術への警鐘。デカルトを引用しつつ、「科学を少しばかりかじると、人間の心は無神論に傾くが、科学を深く極めると宗教に傾く」。
『東北ーつくられた異境』河西英通 中公新書 212P 【C】
明治前期、西南に遅れ「大陸的日本」だった東北は交通革命と帝国主義に希望を見た。そこに世紀最悪の三陸津波と大不作が襲う。未開で野蛮な「異境(朝鮮やアイヌ)」はつくられてしまった。東北論を通じ日本、世界を超克すべし。
『42.195kmの科学ーマラソン「つま先着地」vs「かかと着地」』NHKスペシャル取材班 角川oneテーマ21 194P 【D】
マラソンでの東アフリカ選手の台頭には、走力向上に最適な生育環境と、ビジネスモデルとしてのキャンプ練習が背景にあった。世界の潮流はスピード重視とセルフコーチング。本の予想よりもマラソン界の進化は速まっている。 『<意識>とは何だろうか 脳の来歴、知覚の錯覚』下條信輔 講談社現代新書 262P 【C】
脳は、心は孤立しているのか?錯誤(イリュージョン)から、認知、神経、解剖学、哲学までを通して考える。脳は身体や環境世界と連動し、反響し、取り込み合い、還流する。この相互作用の「来歴」が心の扉を開く。
『ホルモン力が人生を変える』堀江重郎 小学館101新書 219P 【D】
「メンズヘルス」第一人者の泌尿器科医が語る男性ホルモンの秘密と週刊誌チックな小話。EDは生活習慣病のバロメーター。週一のバイアグラ+パートナーとの時間でアンチエイジング。大厄になったら泌尿器科に相談を。
『右翼と左翼』浅羽通明 幻冬舎新書 253P 【C】
「フランス革命でジャコバン党が‥」に終わらず、生きる知恵として右翼と左翼を解説。左翼は自由と平等のジレンマに苦しみ、右翼はそのリアクションに終始する。依存し合い停滞する左右の一方、宗教と民族が台頭する。 『僕が死んだあの森』ピエール・ルメートル 文藝春秋 287p
サスペンス。【C】 『数学の力』小山信也 日経サイエンス社 270p
【C】 『ジャワの音風景』風間純子 めこん選書 289p
インドネシア留学記。【C】 『室町は今日もハードボイルド』清水克行 新潮社 253p
【B】 『対称性』レオン・レーダーマン クリストファー・ヒル 白揚社 465p
【C】 『絶望図書館』頭木弘樹 編 ちくま文庫 366p
アンソロジー。【C】 『ゴードン・スミスのニッポン仰天日記』リチャード・ゴードン・スミス 小学館 357p
明治末期に日本を訪れたイギリス人の埋もれていた日記。【B】 『量子とはなんだろう』松浦壮 講談社ブルーバックス 298p
来たるべき量子ネイティブのために。【B】 『進化の技法』ニール・シュービン みすず書房 310p
大きな進化についての遺伝子レベルの考察。【B】 『解くための微分方程式と力学系理論』千葉逸人 現代数学社 253p
【C】 『最初の刑事』ケイト・サマースケイル ハヤカワ文庫 537p
1860年イギリスで起きた殺人事件。【C】 『<現実>とは何か』西郷甲矢人 田口茂 筑摩選書 266p
【C】 『南鳥島特別航路』池澤夏樹 日本交通公社 253p
【C】 『グラフ理論3段階』根上生也 遊星社 206p
【D】 『ウィトゲンシュタイン入門』永井均 ちくま新書 222p
分からぬ。【D】 『年月日』閻連科 白水uブックス 149p
【D】 『溶ける街 透ける路』多和田葉子 講談社文芸文庫 253p
エッセイ。【C】 『ジーゲル1 人と数学』上野健爾 現代数学社 302p
【B】 『たけくらべ』樋口一葉 河出文庫 243p
現代語訳。【C】 『ジーゲル2 人と数学』上野健爾 現代数学社 187p
【B】 『四角六面 キューブとわたし』エルノー・ルービック 光文社 259p
ルービックキューブの生みの親の自伝。あまり言語化されていない。【D】 『怪奇小説集 恐怖の窓』遠藤周作 角川文庫 312p
アンソロジー。【C】 『十角館の殺人』綾辻行人 講談社文庫 497p
【B】 『絵巻で読む中世』五味文彦 ちくま新書 219p
【B】 『数学者の視点』深谷賢治 岩波科学ライブラリー 117p
【C】 『ソリトンがひらく新しい数学』上野喜三雄 岩波科学ライブラリー 120p
【C】
『美食倶楽部』谷崎潤一郎 ちくま文庫 447p
小谷崎のアンソロジー。【C】 『早すぎた男 南部陽一郎物語』中嶋彰 講談社ブルーバックス 318p
【B】 『理数探究の考え方』石浦章一 ちくま新書 238p
【D】 『地獄の門』モーリス・ルヴェル 白水uブックス 357p
短篇集。【C】 『ポール・ヴァレリーの遺言』保苅瑞穂 集英社 376p
老いを感じさせる文章である。【C】 『「スピン」とは何か』村上洋一 講談社ブルーバックス 286p
【C】 「一外交官の見た明治維新」(下)アーネスト・サトウ 岩波文庫 294p
【D】
下巻から始まるというのは変ですが、2023年からスタートさせてもらいます。 「ヨーロッパ文化と日本文化」ルイス・フロイス 岩波文庫 199p
【C】
すらすら読めて面白い。前者は著者のおかげ、後者は注釈のおかげ 「ベルツの日記」(上)トク・ベルツ編 岩波文庫 374p
【C】
明治期に日本に滞在したお雇い外国人(医師)の日記。
大学で医学を教えるだけでなく、政府要人や皇族のお抱え医師のような仕事もしていたらしい。
役人であるアーネスト・サトウの記録よりはるかに面白い。上巻には明治9年から明治37年までが納められている。 「ベルツの日記」(下)トク・ベルツ編 岩波文庫 429p
【C】
12ページで日露戦争が開戦し391ページで日本海海戦となる。日露戦争下での日本の様子が描かれている。
上巻と変わらず面白いのだが、いつまでも戦争をしているのでちょっと飽きる。
日本海海戦が終わって12日後にベルツはドイツに帰国する。 「明治文学全集 74 明治反自然派文学集(一)」野田宇太郎編 筑摩書房 466p
【C】
木下杢太郎の「南蛮寺門前」を目当てに読んだのだが、長田幹彦の「澪」と「零落」が素晴らしい。
「澪」は以前、筑摩書房の「現代日本文学全集84 明治小説集」で読んでいる。
世間では「零落」の方が有名らしいが、私はラストに未来を感じさせる「澪」の方が好きだ。 「椋鳥通信(上)」 森鴎外 岩波文庫 481p
【B】
森鴎外によるヨーロッパの文壇事情や劇壇事情の紹介。おそらくはドイツの雑誌の丸写し。
一部に三面記事的話題もあり、支那人のパトロンを持つ女芸人が日本人の愛人を作ったためにパトロンに殺されるという話題も載っている。
ドイツ留学時代に芸人の恋人がいた鴎外を何を思ってこの話題を選んだのか?
総じて務まらない。読者は喜んだであろう。 『帰ってきた!日本全国化石採集の旅』大八木和久 築地書館 175p
マニア。【D】 「牛肉と馬鈴薯 他八篇」 国木田独歩 角川文庫 204p
【C】
人間の心の闇を描いた「第三者」「正直者」「夫婦」もいいが、散文詩的な「湯河原より」「春の鳥」も捨てがたい。 「編集者国木田独歩の時代」黒岩比佐子 角川選書 346p
【D】
「雑誌」と「写真」をキーワードにして独歩の生涯をたどっている。
「第六章「破産」と謎の女写真師」の章が面白い。「謎の女写真師」こと日野水ユキエは短髪の美女である。 「鏡花全集 巻十」泉鏡花 岩波書店 749p
【C】
収録作品は「無憂樹」「お弁当三人前」「春昼」「春昼後刻」「婦系図(前篇)」「婦系図(後篇)」。
鏡花の代表作である「「春昼」「春昼後刻」と「婦系図」が収められている鏡花全集の中でお買い得の1冊。
しかし私のお目当ては初めて読む「無憂樹」である。
つまらなくはないのだが、さすがに「春昼」「春昼後刻」「婦系図」と比較すると数段落ちる。 「漱石研究 創刊号 特集「漱石と世紀末」」 小森陽一・石原千秋編 翰林書房 231p
【D】
1993年に創刊され2005年に18号で終刊した雑誌(ムック)。
様々な人が論文を寄せているが、編集人の2人を除くと1番若い執筆者は1950年生まれ。
つまり40前の研究者の論文は一切採られていない。
私の好きな『夢十夜』第4話について書かれた佐々木充「手拭はいつ蛇になるか」には新たな発見あり。 「明治事物起原 1」 石井研堂 ちくま学芸文庫 393p
【D】
馬鹿の番付が面白い。
ときどき漢文が出てくるのだが、返り点がつけられているのみで読み下し文が書かれていないのでちょっと読みずらい。 「日本文壇史(十四)反自然主義の人たち」伊藤整 講談社文芸文庫 282p
【D】
2020年の4月から伊藤整『日本文壇史』を数か月おきに読んでいるが、今のところこの14巻が一番つまらない。
幸田露伴が京都大学の講師になるエピソードは興味深いし、岩野泡鳴が北海道で女を食い散らかす様子は面白い。
しかしこういった文豪のエピソードが作品とリンクしていないのだ。 「二葉亭四迷 Century books 人と作品」小倉脩三 清水書院 186p
【D】
二葉亭四迷の人生は彼の作品同様に面白いのだが、この本はつまらない。
おそらく書き方が悪いのだろう。 「明治文学全集 93 明治家庭小説集」瀬沼茂樹編 筑摩書房 466p
【D】
草村北星「濱子」、菊池幽芳「家庭小説 乳姉妹」、田口掬汀「家庭小説 女夫波」、大倉桃郎「琵琶歌」の4篇が収められている。
読んでいる最中は面白いが、再び読みたいという気にはならない。
岩波文庫に収められている尾崎紅葉「金色夜叉」、徳冨蘆花「不如帰」、小杉天外「魔風恋風」らと較べると、はるか格下の作品ばかりである。 「相思怨」草村北星 隆文館 312p
【D】
これはなんとも中途半端な終わり方の小説。続編である『露子夫人』で決着がつくらしい。
『露子夫人』は日本の古本屋で7,700円の値がつけられている。国会図書館にもない。おそらく読む機会はないだろう。
作者の草村北星は出版元の隆文館の社主でもある。 「島村抱月文芸評論集」島村抱月 岩波文庫 230p
【D】
溝口健二監督、田中絹代主演の『女優須磨子の恋』を見た後、古本屋に寄ったらこの本があった。
21の論文が収められており、どれも論理が明快でこんな人の講義なら聞いてみたくなる。
最も読みごたえがあるのは「文藝上の自然主義」。
なお溝口の映画は島村抱月が死んで26年後、松井須磨子が死んで25年後に作られている。 「座談会明治・大正文学史 1」柳田泉・勝本清一郎・猪野謙二 岩波現代文庫 350p
【C】
5つの座談会が収められている。
加藤周一をゲスト招いた「森?外」が面白い。柳田・勝本・猪野ら碩学を前にして加藤周一がオロオロしているのだ。 「座談会明治・大正文学史 2」柳田泉・勝本清一郎・猪野謙二 岩波現代文庫 382p
【C】
私の好きな樋口一葉が語られる「『文学界』から『明星』へ」がハイライト。
一葉非処女説とか一葉らい病説とか。 「座談会明治・大正文学史 3」柳田泉・勝本清一郎・猪野謙二 岩波現代文庫 370p
【C】
冒頭の座談「夏目漱石」を読むと、漱石が明治文学の中で特別な地位を得ていることが分かる。この対談のゲストは荒正人。
続く「明治の大衆小説」では「今読んでも面白い小説」として「佳人之奇遇」や「経国美談」が挙げられているのだが、これら文語文の小説を読みこなせる人はすくなく 「座談会明治・大正文学史 3」柳田泉・勝本清一郎・猪野謙二 岩波現代文庫 370p
【C】
冒頭の座談「夏目漱石」を読むと、漱石が明治文学の中で特別な地位を得ていることが分かる。この対談のゲストは荒正人。
続く「明治の大衆小説」では「今読んでも面白い小説」として「佳人之奇遇」や「経国美談」が挙げられているのだが、これら文語文の小説を読みこなせる人はこの座談会が行われた昭和30年代ならいざ知らず、現在では非常に少ないであろう。 「片靨(かたゑくぼ)」尾崎紅葉・小栗風葉 春陽堂 154p
【D】
かたえくぼの美女が登場するのだが、この正体が最後までよくわからない。
彼女が訪ねる先の「垂水」という人の事もよくわからない。
冒頭に登場する画家との関係もわからない。
謎の美女は謎のままで終わる。 「恋慕ながし」小栗風葉 春陽堂 312p
【D】
ラスト3ページ、怒涛のクライマックスに至って初めて面白くなる作品。
それにしてもこの作品、以前どこかで似たような物語を読んだ記憶があるのだが思い出せない。 「ヰタ・セクスアリス」森鴎外 新潮文庫 146p
【C】
ただ自分に起こったことを書いているだけなのだが、題材が「性」なので島崎藤村の『春』よりは面白い。
解説を書いているのは高橋義孝。なんと昭和24年に書かれた解説である。つまり登場人物のモデルとなった人々がまだ生きていたり、鮮明に記憶に残っているときなのだ。
こういったものを残してくれるのはありがたい。 「天才 前篇」小栗風葉 隆文館 425p
【D】
前篇は登場人物が出そろったところで終わり。物語が動き出すしだす気配すら見せずに終わってしまう。
後篇は書かれていない。中断である。「青春」並みに面白くなる要素はあるのに中断は残念。
なおこの本は最初の279ページが「天才」本篇、後半の146ページが付録で生田長江と真山青果の「風葉論」になっている。 「二葉亭四迷伝 ある先駆者の生涯」中村光夫 講談社文芸文庫 442p
【C】
この本が面白いのはおそらく、二葉亭四迷の生涯が面白いからである。 「長谷川泉著作選 3 ?外「ヰタ・セクスアリス」考」長谷川泉 明治書院 449p
【D】
よくもまぁ、些細なことまで調べたものである。鴎外に興味のある人は必読の書。学者の仕事。
全ページアート紙で写真が豊富。 「妻」 田山花袋 岩波文庫 306p
【C】
途中100ページほどグランドホテル形式というかポリフォニックな物語になり、登場する女性が次々と妻になり次々と母になるパートが面白い。 「田舎教師」田山花袋 岩波文庫 332p
【D】
高校生のとき読んで、「なんてつまらない作品なんだ」との感想を持った作品。
ん十年後の今読んでもやはりつまらないのだが、年齢を重ねたせいか主人公に少しは同情できるようになった。
ネタ元になった日記には書かれていない悪所通いを、創造で書き加えた田山花袋は罪深い。 「明治の文学 16 田山花袋」坪内祐三編 筑摩書房 p450
【D】
収録作品は以下の通り
1 少女病:オチはおそらくとってつけたもので、中年男性から見た女子高生の魅力を描いている。
2 蒲団:弟子になった女学生が気になる中年の作家。匂いフェチでもある。
3 縁:「蒲団」の後日談。この本の中で唯一の長編。
4 私のアンナ・マアル:「蒲団」の誕生秘話というべきエッセイ。「東京の三十年」に収録。
ようするにこの本は田山花袋が弟子の女学生によからぬ思いを寄せたという、その事実に関連した作品ばかり収められている。
編集意図は明快であるが、なにぶん作品がつまらないので【D】評価。 「明治事物起原 2」 石井研堂 ちくま学芸文庫 p375
【D】
「陪審員になり損ねの記」が面白い。明治の初めから検討されていた陪審員制度が昭和になって実現し、著者にお声がかかるという話。
第2巻は「法制部」で裁判の初まりや地方議会の初まり(帝国議会より早い!)が語られている。 「明治事物起原 2」 石井研堂 ちくま学芸文庫 p375
【D】
「陪審員になり損ねの記」が面白い。明治の初めから検討されていた陪審員制度が昭和になって実現し、著者にお声がかかるという話。
第2巻は「法制部」で裁判の初まりや地方議会の初まり(帝国議会より早い!)が語られている。 「明治大正文学回想集成 4 思ひ出す人々」 内田魯庵 日本図書センター p450
【C】
尾崎紅葉とか斎藤緑雨とか大杉栄とか、魯庵が実際に会って喋ったり食事をしたりした人の事を書いている。
資料のみを頼りに後世の人が再現したエピソードよりはるかに面白く信用できる。
圧巻は後半四割を占める二葉亭四迷の回想である。 「鏡花全集 第十一巻」 泉鏡花 岩波書店 702p
【C】
100頁ほどの中編『沼夫人』が圧倒的に面白い。あの手この手で主人公の前に姿を現す幽霊が可愛らしいのだ。
有名作品『草迷宮』も収録されている。私は大学生の時この作品の読んで以来今の今まで「そうめいきゅう」と読むのだと思っていた。正しくは「くさめいきゅう」。 「漱石研究 No.3 特集『漱石とセクシャリティ』」 小森陽一・石原千秋編 翰林書房 227p
【D】
『漱石とセクシャリティ』とはいかにもつまらなそうなテーマ。実際につまらない。
漱石の作品に現れる女性像とか夫婦像を論じているのだが、漱石全作品の中で最もキャラが立った女性である『虞美人草』の藤尾について論じた論文がないのだから話にならない。 「コブシ」前編・中編・後篇 小杉天外 章光閣 333p+348p+404p
【D】
男女のどろどろだの、上流社会のどろどろだの、昭和後期の大映テレビのようなドラマ。
人間関係がどろどろのドラマでは可愛げのある人物が脇役として登場すると読みやすくなるのだが、この小説は失敗している。
演劇や映画でいうコメディリリーフがいないのだ。登場人物が全員愛嬌がないのである。
同じ作者の『魔風恋風』では主人公を慕う絶対的妹キャラというべき夏本芳江が可愛げのある脇役であった。 「長者星」前編・後篇 小杉天外 春陽堂 296p+326p
【D】
題名の通り大金持ちがたくさん登場する。ここでいう大金持ちとは資本家の事である。繊維会社(明治日本の主力産業!)の社長や銀行の頭取など。
経済小説・企業小説であって、惚れた晴れたの人間関係ではなくお金がどう動くかが興味の焦点になっている。
特定の主人公や一貫した筋書きはなく、ポリフォニックな物語が書き綴られる。しいて言えば主人公は金である。
ごうつく爺2人が痴呆になるラストは少しカタルシスがある。 「天皇制―歴史・王権・大嘗祭」色川大吉×網野善彦×安丸良夫×赤坂憲雄 河出書房新社 293p
【D】
平成2年に出版されたムック。著者として挙げられている4人の学者のほか30名ほどの執筆者がいる。
異彩を放つのは佐治芳彦で「謎の竹内文書―日本は世界の支配者だった!」「日本超古代史の謎」の著者がそうそうたる歴史学者と同格に扱われている。 >>187は名前欄の数字が間違っているのでもう一度
「天皇制―歴史・王権・大嘗祭」色川大吉×網野善彦×安丸良夫×赤坂憲雄 河出書房新社 293p
【D】
平成2年に出版されたムック。著者として挙げられている4人の学者のほか30名ほどの執筆者がいる。
異彩を放つのは佐治芳彦で「謎の竹内文書―日本は世界の支配者だった!」「日本超古代史の謎」の著者がそうそうたる歴史学者と同格に扱われている。 「江戸から東京へ(一)麹町・神田・日本橋・京橋・本郷・下谷」 矢田挿雲 中公文庫 367p
【C】
江戸、そして東京にまつわる巷談集。振袖火事や八百屋お七、河内山宗俊や高橋のお伝など。
江戸よりはるか昔の八幡太郎義家や日本武尊の話も少し出てくる。
巷談集や民話集が好きな人は楽しめるだろう。 「江戸から東京へ(二)浅草(上)」 矢田挿雲 中公新書 276p
【C】
田沼意次が如何に嫌われていたかを示す「田沼騒動」、この本で初めて知った「夜嵐おきぬ」、芝居小屋について書かれた「猿若町の芝居」が面白い。
「夜嵐おきぬ」を読みながら「これは新東宝の映画のようだ」との感想を持ったが、実際に新東宝で映画化されていた。(『妖婦 夜嵐お絹と天人お玉』、昭和32年) 「江戸から東京へ(三)浅草(下)」矢田挿雲 中公文庫 283p
【C】
この巻では、葛飾北斎、安藤広重、喜多川歌麿の話が書かれている。
歴史に疎い私は初めて北斎が大政奉還の18年年前に、広重が9年前に死んでいることを知った。江戸後期の人なのである。
両者とも出版文化が花開いた元禄時代の人だとばかり思っていたのだ。 「江戸から東京へ(四)本所(上)」矢田挿雲 中公文庫 317p
【C】
圧倒的に面白いのが30頁にわたる「蘭学ロマンス」である。川崎東浦という長崎出身の絵師とお才という女性のくっついたり離れたり投獄されたりの物語で、最後二人はオランダに密航してその地で人生を終える。
この川崎東浦という人を検索してみたがヒットしない。ChatGPTに聞いてみても情報は得られなかった。 「江戸から東京へ(五)本所(下)」矢田挿雲 中公文庫 333p
【D】
阿部伊勢守こと阿部正弘に関係する話が延々120頁に渡ってつづられる。異色である。これまで短い話題は1頁、長くても30頁であった。少し戸惑ってしまう。
小幡小平次の話は面白い。 「江戸から東京へ(六) 向島・深川(上)」矢田挿雲 中公文庫 342p
【D】
6冊目になり飽きてきた。「安宅丸と血を噴く柱」は幽霊話であるが、人間の幽霊ではなく船の幽霊なので怖いというより可愛らしい。
最後の方には永代橋に絡んで赤穂浪士のありきたりな逸話が語られる 「江戸から東京へ(七)深川(下)」矢田挿雲 中公文庫 325p
【D】
江戸後期のベストセラーである『梅暦』を書いた為永春水と『偐紫田舎源氏』を書いた柳亭種彦の話が興味深い。二人ともお上に睨まれて命を縮めている。
江戸の話が妙に多くなってきた。 「江戸から東京へ(八)小石川」矢田挿雲 中公文庫 336p
【D】
水戸屋敷があったので水戸光圀のエピソードで90頁、切支丹屋敷があったのでキリシタン迫害について、そして大田南畝(蜀山人)のエピソードとみんな江戸の話になっている。
作者は明らかに飽きている。読んでるこっちも飽きている。
明治40年頃の東京の写真が随所に載っているのはありがたい。 「江戸から東京へ(九)江戸の成るまで」矢田挿雲 中公文庫 269p
【D】
「江戸から東京へ」の最終巻はもはや「江戸から東京へ」ではない。
「江戸の成るまで」という「江戸から東京へ」の連載終了後に出版された単行本が収められている。
江戸/東京を何度か襲ったコレラ禍にまつわるエピソードが面白い。 「明治探偵冒険小説集 4 傑作短篇集 露伴から谷崎まで」 伊藤秀雄編 ちくま文庫 454p
【C】
本書に収められている9つの短編のうち異色なのは国木田独歩「少年の悲哀」。探偵趣味もなければ冒険小説でもない。
単に編者が自分の好きな小説を取り上げたように思える。 「日本文壇史(十五)近代劇運動の発足」 伊藤整 講談社文芸文庫 254p
【D】
>>161で読んだ(十四)同様、不調である。文壇の裏話に終始している。 「鏡花全集 第十二巻」 泉鏡花 岩波書店 715p
【B】
鏡花の最高傑作と評する人もいる『歌行燈』が収められている。この小説を読むのは3回目だが、つくづくよくできていると感嘆せざるを得ない。
掘り出し物は『神鑿』でこの主人公の設定は出色。 「その日その日:小剣随筆」 上司小剣 読売新聞社 153p
【D】
詩をつくるために書き記していた短文をまとめたものらしい。
結果、エッセイでもなく箴言でもなく、雑誌や新聞の隙間を埋めるコラムに近いものになっている。
急に空き時間ができたときに読むのがいいのかもしれないが、それだったら詩集や句集を読む方がいい。 「灰燼」 上司小剣 春陽堂 244p
【C】
この小説はお吉という19歳の娘が朝目を覚ますシーンから始まる。このシーン、ゾラの『ジェルミナール』でカトリーヌが登場するときのような、処女の匂いがプンプンの目覚めなのだ。明治時代はゾラが流行っていたので、もしかしたら影響を受けたのかもしれない。
このお吉は物語の途中姿を消して最後にまた登場する。近所の金持ち宅の書生にやり逃げされる。これから面白くなるはずのところで終わってしまう。 「麺麭の略取」 クロポトキン 岩波文庫 317p
【D】
岩波書店はこの本をクロポトキンの著作というより幸徳秋水の訳業とみているようだ。
内容はつまらん。明治時代の革命家たちはこれをを読んで興奮したのか? 「夢見草」 小山内薫 本郷書院 110p
【D】
散文詩である。特筆すべきものはない。 「窓」 小山内薫 春陽堂 316p
【C】
小山内薫は文章で読ませるのではなく、シチュエーションや登場人物の行動で読ませる作家である。
このことが成功しているのは本短編集に収められている「姉妹」で、仇をなしているのが「追悼文」である。
小山内薫が後年、文学ではなく演劇の分野で名を成したのも当然であろう。 「奇美人」 小栗風葉 青木嵩山堂 216p
【D】
冒険小説である。財産を横取りされた美女が復讐する。ありきたりでサスペンスもサプライズも二流。 「己が罪」前篇中篇後篇 菊池幽芳 春陽堂 245p+271p+245p
【C】
この小説のクライマックスはおそらく、中編の最後で主人公がかつて自分を孕ませた男と再会するシーンである。
全体として読み応えのある小説ではないがこのシーンだけは別だ。 「早稲田文学 明治四十一年十月之巻」 早稲田文学社 172p
【C】
藤村の『壁』が掲載されているので読む。象徴という方法を採っていないのに、読者に様々な想像をさせる作品である。
>>202で読んだ『灰燼』や>>205で読んだ『窓』の評が掲載されている。『灰燼』を評しているのは島村抱月である。
一番読み見ごたえがあるのは生方敏郎という人が書いた「緑雨研究」。 長編『家』と短編集『食後』が納められている。
『家』は>>177の『田舎教師』同様、高校の時に読んで「なんてつまらない作品なんだ」と思った作品。
どこを切っても人間関係の話ばかりで今読んでもやはりつまらないのだが、お雪のラストの台詞はいい。
藤村は実の姪を孕ませており、この作品にも近親相姦を思わせる描写がある。
『食後』は「秋の一夜」という一篇が印象的。「少年」のバッドエンドは不愉快。 ↑は次の書物です
「藤村全集 第四巻」島崎藤村 筑摩書房 418p
【D】 「藤村集」島崎藤村 博文館 488p
【D】
>>210に収められている短編集『食後』は藤村が『家』を書いた直後の作品だが、こちらは『家』執筆直前の短編集。
『伯爵夫人』はアンソロジーで読んだ記憶がある。
『苦しき人々』は最初と最後に廣岡老人が登場し、真ん中は重い精神病にかかっている友人大竹の話。謎めいた構成になっている。
『芽生』は私が生まれ育った土地の近くを舞台にしており、「土地勘」付小説である。 「定本高浜虚子全集 第5巻 小説集 1」高浜虚子 毎日新聞社 524p
【C】
写生文で鍛えられた虚子の文章は安定している。
ただし、普段は俳句を作っている人なので省略の使い方が絶妙で、気を抜くと意味が分からなくなる場合がある。 「俳諧師・続俳諧師」高浜虚子 岩波文庫 218p
【D】
高浜虚子の文章は短編向けであると思う。長編(と言っても120ページくらいだが)である『俳諧師』は失敗に終わっている。
漱石の『虞美人草』とは違った「読みにくさ」が生じている。
また彼の文章は『続俳諧師』のように、結婚・出産・死といった人生の一大事を描写するには適していない。 「多数者」徳田秋声 今古堂 240p
【C】
面白くなったところで終わってしまう。何か事情があったのかと勘ぐってしまう。
この作品は八木書店から出ている全集にも入っていない。 「徳田秋声全集 第7巻」徳田秋声 八木書店 380p
【D】
>>214と同じ時期に書かれた短編が納められているが、総じてつまらない。
比較的長い「新所帯」と「同胞三人」が読ませる。この二作品はフィルムのポジとネガのような関係になっている。 「奥様気質」福田琴月 博文館 200p
【D】
明治後期の「奥様」と呼ばれる人たちの生態を描いている。ここでいう「奥様」とは女中を雇っているような家の主婦である。
前半は細かなエピソードで面白く読めるが、後半はネタ切れでつまらない。 【D】
「ふらんす物語」永井荷風 岩波文庫 446p
高校生のとき読んだ印象とだいぶ印象が違う。こんなにも音楽に関するパートが多かったであろうか?
荷風先生が必死にワグナーやリヒャルト・シュトラウスの音楽を文字で説明しているさまは、今となって微笑ましくすら感じる。 「歓楽」 永井荷風 易風社
【C】
荷風がフランスから帰国し、「ふらんす物語」が発禁になったのちに書かれた短編が集められている。
ドストエフスキーの「地下手記の手記」を思わせる「監獄署の裏」、少年が主人公の「狐」、人間の闇を描いた「祝盃」がいい。 『九マイルは遠すぎる』ハリイ・ケメルマン ハヤカワ・ミステリ文庫 298p
ミステリー短篇集。【C】 『統合失調症の一族』ロバート・コルカー 早川書房 502p
統合失調症は遺伝なのか環境なのか。12人の子供のうち6人が発症した家族の記録。【B】
『川端康成異相短篇集』川端康成 中公文庫 356p
【C】 「冷笑」永井荷風 籾山書店 270p
【D】
銀行家、小説家、劇作家の三人がそれぞれ自分の人生観やいろいろ思うところを吐露するという小説。この三人は緩い関係の友人同士なのだが論争する場面はない。筋らしい筋はなく奇妙な作品である。
最期の方に私の好きなユイスマンスの名前が登場する。 「牡丹の客」永井荷風 籾山書店 266p
【D】
全ページ数の半分を占める「新帰朝者日記」がこの短編集のハイライトであろう。
フランス留学から帰ってきたピアニストを主人公にしているが、これは荷風本人に他ならない。
面白いかというと、そうではない。 「新所帯・足袋の底」 徳田秋声 岩波文庫
【C】
>>215で「読ませる」と評した「新所帯」であるが、積読の山の中からこんな岩波文庫が出てきたのでもう一度読んでみる。
「読ませる」どころか「傑作」の域に近い。ほかに収められている三つの短編も面白い。 『因果推論の科学』ジューディア・パール 文藝春秋 605p
データ解析だけでは因果関係は示せない、因果ダイアグラム(想定される関係性)が必要である、
という主張。【B】 「如是閑文芸選集 2 小説」長谷川如是閑 岩波書店 345p
【D】
長谷川如是閑は評論家だとばかり思っていたが、小説も書いているようである。
「額の男」は「吾輩は猫である」の最終章に似ている。「秋刀魚先生」は「こころ」を思わせる。 「何処へ」 正宗白鳥 易風社 384p
【C】
冒頭の表題作と巻末の「世間並」が圧倒的にいい。どうもこの作家、出来の良しあしの差が激しいようである。 『暇と退屈の倫理学』國分功一郎 新潮文庫 508p
【B】 「明治事物起原 3」 石井研堂 ちくま学芸文庫 419p
【D】
美術部、音楽部はどれもどこかで聞いたことのあるような話でつまらない。
国際部の「外人迫害物語」のパートが面白い。 「漱石研究 第五号 特集『漱石と明治』」 小森陽一、石原千秋編 翰林書房 235p
【D】
「漱石と明治」ということで留学中の漱石に関する事柄と「満漢ところどころ」が話題の中心になっている。『三四郎』に関する論文が三つもあるのは注目すべき。 「日本文壇史(十六)大逆事件前後」 伊藤整 講談社文芸文庫 257p
【D】
大逆事件(幸徳事件)にページ数が割かれており、文学作品の紹介が他の巻に比べて少なくなっている。 「すみだ川・新橋夜話」 永井荷風 岩波文庫 337p
【C】
題名になっている二つの作品のほかに「深川の唄」という短編が納められており、これが好きだ。「新橋夜話」は「しんきょうやわ」と読む。「しんばしやわ」ではない。 『宇宙背景放射』羽澄昌史 集英社新書 206p
実験家。【B】 「うづまき」 上田敏 大倉書店 210p
【D】
全編これ主人公の独白のような小説。50ページあたりから友人やら親戚が登場して、中には若い女性や有閑マダム風の人もいるのだが、物語は進展せず彼らとの会話に終始する。最後にスタンダールの『恋愛論』が紹介されて終わる。
ユイスマンスの『さかしま』を思わせる作品であるが『さかしま』には遥かに及ばず。
著者唯一の小説らしい。 『高校数学でわかるボルツマンの原理』竹内淳 講談社ブルーバックス 222p
【C】 「鏡花全集 巻十三」泉鏡花 岩波書店 698p
【C】
スケッチ風の「露肆」、古典的な怪談「吉原新夜」、奇妙な味の小説といえる「酸漿」が私のお気に入り。 「漱石新聞小説復刻全集 4 それから」夏目金之助 ゆまに書房 227p
【C】
この作品を読むのはおそらく五回目か六回目である。
クライマックスは十四章の終わりで代助が三千代に告白するシーンではなく、その直前の代助と嫂の会話であろう。『カラマーゾフの兄弟』でアリューシャがイワンに「兄さんは犯人じゃない」を7回言う場面を思わせる。
何回読んでもハラハラする。語られることのないもう一つの物語が見え隠れするのだ。 『「道徳教育と社会」ノート』山内乾史 学文社 164p
【D】 アンドレーエフ 七死刑囚物語 河出書房新社 221p
【D】
七人の死刑囚が登場する。テロリストが五人と強盗殺人と主人殺しである。この中で最も筆を割いているのは主人殺しのヤンソン。
これは『それから』で代助が読んでいた小説である。代助が(そして漱石が)読んだのは独訳らしい。私は和訳で読む。『それから』との関連は色々と論じられている。 「漱石研究 No.10 特集『それから』」 小森陽一・石原千秋編 翰林書房 217p
【C】
代助は女性に人気があること。三千代は死のイメージであること。森田芳光監督の『それから』のシナリオを描いた筒井ともみ氏は、書生門野にビートたけしを考えていたことなど。 「森鴎外現代小品集」 森鴎外 晃洋書房 273p
【C】
森鴎外の小説らしからぬ小説を集めた短編集。おそらく一番有名なのは「西洋人は鼻をほじくるか」について考察した「大発見」であろう。私は「里芋の芽と不動の目」と「鼠坂」が好きだ。 『世界カフェ紀行』中央公論新社編 中公文庫 233p
ドゥマゴパリ。【C】 「青年」 森鴎外 岩波文庫 220p
【D】
夏目漱石の『三四郎』に触発されて書かれた小説。
『三四郎』とくらべて総じて暗い。愛嬌のある登場人物もいない。
これが鴎外と漱石の違いなのか。 『フーコー入門』中山元 ちくま新書 238p
【C】 『フーコー入門』中山元 ちくま新書 238p
【C】 「明治文学全集 84 明治社会主義文学集(二)」小田切進編 筑摩書房 464p
【D】
松原岩五郎の「最暗黒の東京」や、横山源之助の「日本の下層社会」を思わせる、幸徳秋水の「東京の木賃宿」が面白い。十首の短歌からなる「平民短歌」もいい。
ちなみに私がこの本を読んでいるのを知ったとある美女が「〇〇さんは社会主義なんですか?」と心配そうに質問してきた。 「大逆事件 幸徳秋水と明治天皇 1 黒い謀略の渦」 神崎清 あゆみ出版 264p
【D】
これは青春の書である。天皇暗殺という夢に取憑かれた若者が夢破れて死刑執行という壮絶な最期を遂げる、その記録である。
驚くのは著者自身がその夢の中にいることである。
それにしても左翼はなぜ下半身が緩いのだろうか? 「大逆事件 幸徳秋水と明治天皇 2 密造された爆裂弾」 神崎清 あゆみ出版 266p
【D】
大逆事件の関係者で最も興味深いのは女性死刑囚・管野スガである。
>>247で書いたように下半身が緩く、6歳年下の夫・荒畑寒村が監獄に入っている隙に男から男へと渡り歩き、妻を持つ幸徳秋水の恋人になる。(幸徳秋水夫妻は離婚)鼻が低いと言われ巡査にからかわれて隆鼻術を受け、失敗。後遺症に悩まされる。
おそらくは瀬戸内晴美あたりが彼女の生涯を小説にしているであろう。
さて、大逆事件の方は、この巻で爆弾が完成する。 「大逆事件 幸徳秋水と明治天皇 2 密造された爆裂弾」 神崎清 あゆみ出版 266p
【D】
大逆事件の関係者で最も興味深いのは女性死刑囚・管野スガである。
>>247で書いたように下半身が緩く、6歳年下の夫・荒畑寒村が監獄に入っている隙に男から男へと渡り歩き、妻を持つ幸徳秋水の恋人になる。(幸徳秋水夫妻は離婚)鼻が低いと言われ巡査にからかわれて隆鼻術を受け、失敗。後遺症に悩まされる。
おそらくは瀬戸内晴美あたりが彼女の生涯を小説にしているであろう。
さて、大逆事件の方は、この巻で爆弾が完成する。 「大逆事件 幸徳秋水と明治天皇 3 この暗黒裁判」 神崎清 あゆみ出版 313p
【D】
大逆事件の主犯である宮下太吉も下半身は緩く、娼妓上がりの9歳年上のカミさんに逃げられた後、同士の奥さんと関係を持つ。
宮下太吉が、もしもカミさんと復縁出来たら運動を止めてもいい、と漏らすところは興味深い。
つまり、このカミさんが復縁を了承していたら大逆事件は起らなかったのかもしれないのだ。 『なぜ豊岡は世界に注目されるのか』中貝宗治 集英社新書 270p
豊岡前市長。【C】 『なぜ豊岡は世界に注目されるのか』中貝宗治 集英社新書 270p
豊岡前市長。【C】 「大逆事件 幸徳秋水と明治天皇 4 十二箇の棺桶」 神崎清 あゆみ出版 408p
【D】
結局十二人が死刑にされる。戦後になりこの事件は冤罪でありでっち上げとなった。
この本によると、文学者でもある弁護人の平出修は「自分が裁判官なら宮下太吉、管野スガ、新村忠雄、古河力作の四人は死刑、幸徳秋水と大石誠之助は無期懲役にする」と言っている。これは百年後の私の感覚とだいたい一致している。
処刑された一人(森近運平)の発言はあまりにも空しい。
「みな殺されるのだ。そして、それでつよくなってやるのだ。これでなくっちゃ、ほんとうの革命はこない」 「早稲田文学 明治四十三年六月之巻」 早稲田文学社 170p
【D】
二葉亭四迷が死んだ直後のようで、坪内逍遥や内田魯庵が追悼文を寄せている。
ハウプトマンの「寂しき人々」がいい。 「石川啄木と幸徳秋水事件」 岩城之徳 吉川弘文館 281p
【D】
啄木といえば金田一京助だが、この金田一京助は啄木研究者にとってあるときは味方になり、あるときは敵になり、いずれにしても啄木研究において最大のキーパーソンである。
この本は啄木研究者である岩城之徳が金田一京助といかに戦ったかの記録である。 「逆徒「大逆事件」の文学」 池田浩士編 インパクト出版会 299p
【D】
大逆事件の死刑判決から執行まで約六日間。その間に獄中で書かれた三人(内山愚童、幸徳秋水、菅野須賀子)の文章が納められているのだが、菅野須賀子の「死出の道艸」が最も詩情にとみ魅力がある。
永井荷風や森鴎外の作品は、どこか他人事である。 「蘇らぬ朝「大逆事件」以後の文学」 池田浩士編 インパクト出版会 323p
【D】
舞台をロシアに移して大逆事件を描いた沖野岩三郎の「いたづら書」が圧倒的に面白い。 「荒野」 武者小路実篤 警醒社 257p
【D】
武者小路実篤の処女出版らしい。五つの小説と七つの論文といくつかの新体詩から成っている。
最も出来がいいのが学生を主人公にした小説である。 『ヒトはどこからきたのか』伊谷原一 三砂ちづる 亜紀書房 261p
対談。日本のサル学の第3世代以降が語られる。【B】 『ヒトはどこからきたのか』伊谷原一 三砂ちづる 亜紀書房 261p
対談。日本のサル学の第3世代以降が語られる。【B】 「谷崎潤一郎 第1巻」谷崎潤一郎 中央公論社 p.609
【C】
全集の第一巻なので初期作品が納められている。有名な「刺青」や「少年」より、白樺派風の「彷徨」やファースといっていい「The Affair of Two Watches」が面白い。また古典に材を取った「麒麟」や「信西」は芥川龍之介風で、谷崎が様々なタイプの作品に手を染めていたことがわかる。 「明治事物起原 4」石井研堂 ちくま学芸文庫 600p
【D】
第四巻になるといささか退屈してくる。目ぼしいものを挙げてみる。
・Chemistry(化学)の訳語として当初「舎密学」が当てられていた。
阪大の理学部の前身は大阪舎密局であったこと
・「ペンネームに雅号をつかわないぞ」と最初に宣言したのは堺枯川で、後に堺利彦になること
・明治二十五年当時の東京四大新聞とは報知・日々・時事・朝野、明治四十三年当時の五大新聞とは報知・朝野・毎日・曙・日々であったこと 「凛たる人生 映画女優香川京子」 香川京子述, 立花珠樹著 ワイズ出版 317p
【A】
私はこの本を香川京子さんご本人から手渡しでプレゼントされた。
【A】評価を付けずにいられようか? 「日本文壇史(十七)転換点に立つ」 伊藤整 講談社文芸文庫 247p
【C】
この巻では漱石が『門』を書き、徳冨蘆花が『寄生木』を書き、近松秋江が『別れたる妻への手紙』を書く。
一方、大逆事件の死刑囚には死刑が執行され、山田美妙と大塚楠緒子が死ぬ。
漱石と大塚楠緒子の関係に多くのページが割かれている。 「椋鳥通信(中)」 森鴎外 岩波文庫 502p
【C】
この巻ではトルストイが死ぬ。彼が家出をしてから死ぬまで、欧州の雑誌は彼の動向を取材している。同様にリアルタイムに取材されるのは、ルーブルから盗まれた「モナリザ」の行方である。 「寄生木」全三冊 徳冨健次郎 岩波文庫 315p+299p+299p
【D】
著者はおそらく、この二十六歳で死んだ軍人の手記を読んで感動したのだろう。
その手記をもとにこの小説を書き、印税の一部は遺族に与え、姉妹を自分の家に引き取ったりしている。
しかし、私には感動はおろか、興味をそそる部分の全くない作品であった。 「漱石研究 第十七号 特集『門』」小森陽一、石原千秋編 翰林書房 175p
【D】
特集である『門』に関する論文より、坊ちゃん論である朴裕河の「恐怖と排除の構造」が面白かった。 「漱石新聞小説復刻全集 5 門」 夏目金之助 ゆまに書房 215p
【C】
漱石の『門』を読むのはこれで5回目が6回目。今回は朝日新聞の復刻で読むのだが、主人公宗助の奥さんの名前が「お米」になっていることに驚く。
調べてみると、春陽堂の初版や大正七年発行の漱石全集(漱石全集刊行会発行)では「お米」。昭和11年に発行された漱石全集(漱石全集刊行会発行)では「御米」になっている。それ以降はおそらく、ずっと「御米」のはずである。 「虚無党奇談」 ウイリアム・ル・クユー 警醒社 119p
【D】
大逆事件にかかわった人たちはこの小説をよく読んでいたらしい。
題名にある「虚無党」とはロシア皇帝の暗殺をたくらむグループ。
冒険譚でありそこそこ読ませる。
ロシア革命はおろか日露戦争も始まっていないときに書かれた小説だから、皇帝は暗殺されず「オレ達は頑張るぞー」と気勢を上げて小説は終わる。 「夫・幸徳秋水の思ひ出」師岡千代子 東洋堂 87p
【D】
幸徳秋水はいいとこのお坊ちゃんなので、千代子夫人もいいとこのお嬢さんである。
しかし、>>248で書いたように秋水が管野スガに走り、離婚させられる。
同士による証言では得られない、革命に熱中する前の秋水の姿が描かれている。 「平沼騏一郎回顧録」 平沼騏一郎 平沼騏一郎回顧録編集委員会 335p
【C】
大逆事件で悪役になる平沼騏一郎であるが、この回顧録を読む限り優秀な法律家である。
彼の言葉をいくつか引用する。
「個人の道徳が仏教によって養われたことは争えない。国体観念のことは儒教の影響が多い。(中略)明治維新が出来たのは儒教の力だと思う。」
「何時も世の変わり目には悪いものが出て伝統を壊す。明治維新の時もやった。その時は仏教である。廃仏毀釈が是である。」
「幸徳(秋水)は親孝行であった。親孝行は自分の主義実行に困るので親不孝になりたいと思ったが、出来ぬと言っていた。陛下の御聖徳は知っているが倒さねばならぬとひどいことを言っていたが、後には倒さなくとも主義さえ通ればいゝと言ってゐた。」
「東條君は断行力のあるのはいゝ。陸軍辺りで一番困ると思っていたのは、武藤(章)軍務局長等であるが、これを中央から出した。出すに就いては大分骨が折れたようである。兎に角、あゝ云う者ではいかぬと気がついた。」 「幸徳秋水集」 幸徳秋水 改造社 184p
【D】
「老人の手」がやや面白い。革命などにうつつを抜かさず中江兆民の研究だけしていればよかったのに、と思う。
もっとも結核で短い命だったので、死刑になった方が歴史に名を遺せてよかったという考えもできるが。 『ワンルームから宇宙をのぞく』久保勇貴 太田出版 221p
宇宙工学者のエッセイ。【C】
『俊徳丸・小栗判官』兵藤裕己編注 岩波文庫 397p
【C】
『道徳授業を変えたい!と思ったときに、まず読む本』加藤宣行 東洋館出版社 173p
【C】 「大逆事件に於ける国民的反省」 田中智学 師子王文庫 80p
【D】
日蓮宗からみた大逆事件。師子王文庫は田中智学が創った出版社。 「フィリッピン独立戦話 あぎなるど」 山田美妙 中公文庫 294p
【D】
山田美妙がなぜフィリピン独立運動に興味を持ったのか全く不明だし、小説を書くほど入れあげているようにも思えない。 「美妙選集 (下卷)」山田美妙 立命館出版部 583p
【D】
「日本韻文論」と目当てに読んだのだが、あまり面白くなかった。
「女装の探偵」と「戸隠山紀行」はやや読む価値あり。 「近代「書生気質」の変遷史」 八本木浄 丸善プラネット 226p
【C】
森鴎外『舞姫』から阿川弘之『雲の墓標』まで「書生気質」というキーワードを中心に論じた本。
ここでいう「書生」とはようするに「学生」と同義語。
私が想像した金持ちの屋敷に居住する雑用係ではないのが残念。 「東京遊学案内」 黒川文淵 山縣順 190p
【C】
極めて実用的な本。
東京の学校の授業料や受験料や入学料、都内の交通案内、下宿の選び方、果ては一高や高等商業学校の受験問題など、至れり尽くせりの本である。 「大君の都(上)」 オールコック 岩波文庫 420p
【C】
1年たったのでこれで終わりにします。 『モロッコの迷宮都市フェス』米山俊直 平凡社 295p
【D】 『<責任>の生成』國分功一郎 熊谷晋一郎 新曜社 429p
対談。【B】 『能力はどのように遺伝するのか』安藤寿康 講談社ブルーバックス 237p
結果を並べているだけ。【D】 『発達障害当事者研究』綾屋紗月 熊谷晋一郎 医学書院 219p
【C】 『フラクタルと数の世界』西沢清子 関口晃司 吉野邦生 海文堂 180p
【D】 『おわりの雪』ユベール・マンガレリ 白水uブックス 157p
【C】