「成績が振るわず絶望し、名門高校の生徒が事件を起こす例は過去にもありました。ただ、多くは矛先が自分自身や家族に向かう。無差別で見知らぬ人々を殺害しようとしたというのは、聞いたことがありません。

今回の事件には、ネット社会と新型コロナウイルスが影響していると思います。厳しい受験競争にさらされる名門校の生徒がネット上で目にするのは、極端な学歴論です。人生で成功するには、東大、しかも医学部に入って医者になるしかないという考えに侵されている。『東大がすべてじゃない』『医者にならなくても幸せな生き方はある』という事実を、理解できないんです。

本来なら学校の先生や友人に悩みを打ち明け、こうした偏見を解消すべきでしょう。しかしコロナ禍でオンライン授業が多くなり、対面で相談する機会がなくなってしまった。加害少年は偏った考えを、自分の中で増幅させてしまったのだと思います。成績が下がっていても、まだ高校2年生なら、いくらでも挽回できたハズなのに……」

最近の社会現象も、少年に影響を与えたと石渡氏は考える。

「このところ電車内で乗客を切りつけたり、雑居ビル内でクリニックを放火する事件が相次いでいます。無差別の殺害事件です。少年も模倣し、『どうせ死ぬなら世の中を巻き込もう』という考えになったのかもしれません」

事件が与えたインパクトは大きい。受験生は不安な気持ちを抱えつつ、試験を受けることになる。