原田氏が去って4カ月後、アップル日本法人の役員人事にIT業界の好奇の眼が
注がれた。営業担当副社長に就いた山元賢治氏。同社の弱点である企業システム
営業の責任者だ。が、山元氏、どうも巡り合わせが悪い。
 データベース最大手、日本オラクルで頭角を現し、一時、記憶装置メーカーへ
転職したが、業績不振に陥った日本オラクルに“社長含み”で呼び戻された経歴
をもつ。ところが、次第に新宅正明社長が復権、社内の軋轢も重なってアップル
日本法人へ新天地を求めたのだ。企業システムには精通しており、今度こそ“社
長含み”とみられていた。しかし…。
 「山元さんには気の毒だが、アップルはもはやパソコンメーカーではない」
 あるIT商社の幹部がつぶやく。その発言を裏付けるように、7月24日朝、
東京・銀座のアップル直営店には徹夜組を含め1500人を超える行列ができた。
 携帯音楽プレーヤー『iPod mini』−。名刺サイズの筐体にハードディ
スクを内蔵し、約1000曲録音できる同製品は若者の人気を呼び、発売当日、
直営店は初入荷1500個を6時間で売り切った。ほとんどの電器量販店で品薄
が続き、ネット予約でも1カ月待ちの状態という。
 既に数%まで米国パソコンシェアが低落しているアップルは、iPodで復活
したといえ、米国の若者は同社の音楽サイトから楽曲をダウンロードして使って
いる。今やアップルは、iPodと音楽配信サービスの会社なのだ。その戦略商
品の日本法人の責任者が、山元氏とほぼ同時期に入社した前刀(さきとう)禎明
マーケティング担当副社長。
 実は前刀氏、近鉄バファローズ買収表明で有名になった、あの堀江貴文社長率
いるライブドアの創業者だった。接続料0円のネットプロバイダー事業を始めた
が挫折、堀江氏に買収され、自らはアップル日本法人へ転じた。
 そこで巡り合ったのがiPod。販売好調に乗じ、日本でも音楽配信サービス
を成功させれば、ポスト原田の可能性は高い。比べて山元氏はどうか…。前出の
IT商社幹部が同情する。
 「本来、マニアのパソコンであるMacを企業に売るのは難しい。山元さんは
巡り合わせが悪い」