私小説を三人称にするとかなりぶち壊し。
07.06.2010 · Posted in 思ひ出と言ふネタ, 読書, 雑
 ふと、「私小説ととして書かれたものを、無理矢理三人称に『翻訳』して
みたらどうだろう」と脈絡なく思いついた。

ちょっとやってみる。
今回は判りやすいところで太宰治「人間失格」第一の手記のでだしを「翻訳」してみる。

第一の手記

 彼は恥の多い生涯を送って来たようです。
 彼には、人間の生活というものに、見当がつけられないようです。彼は東
北の田舎に生まれたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってか
らだったようです。彼は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそ
れが線路をまたぎ越える為に造られたものだという事には全然気づかず、た
だそれは停車場の構内を外国の遊技場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラに
するためにのみ、設備せられてあるものばかりだと思っているようでした。し
かも、彼はかなり永い間そう思っていたようです。ブリッジに上ったり降りたりは、彼にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、それ
は鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っ

ていたようですが、のちにそれはただ旅客が線路をまたぎ越えるための頗る
実利的な階段に過ぎないのを発見して、にわかに興が覚めたようです