文体とか書き出しとかを話題にするなら、石川淳は避けて通れないと思う。
以下「狂風記」の書き出し。

 なんといふ木か、途方もなく大きい木が一本、もろに横だふしに、地ひびき打つて……その木はだいぶまへから
日でりにも風雨にもそこに野ざらしになつてゐるやうだから、たつたいま落ちかかつたわけではないが、それでも
くろぐろとした幹はうなりを発するまでにすさまじく、あふむけにのけぞつて、大枝も小枝もなく、葉の一つすらなく、
手足をぶつたぎられた巨人の胴体が泥まみれに、ほとんど血まみれに、投げ出されたといふけはひであつた。