皆で文章を評価するスレ
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ベランダで、由美がコスモスに水をあげている。まだ花は蕾で、種から蒔いた
やつだ。僕はリビングのソファーに座っていた。窓越しに、由美がコスモスに
水をやるのを見ている。由美は園芸用に手袋をして、コスモスに水をやりなが
ら笑顔を浮かべていた。由美は蕾の様子に、しばらく見入っているみたいだっ
た。
僕は部屋のソファーの正面のテーブルに視線を移す。そこには一週間分の日経
新聞と数種類の経済誌が置かれている。それらを手にすることはせずに、僕は
物思いに耽った。もう何年も前になるがユーロが好調だったころ、最初はユー
ロの外貨預金から始めて、その後はFX取引に手を出して僕はユーロでかなり
の利益を上げた。それで投資に僕は嵌まった。その後に株に手を出したのは間
違いだったと今では思う。リーマンショックで多額の損失を出したし、その後
も株はトータルでは負けが取り返せないのだ。株では信用取引をしていないの
が、唯一の救いだろうか。だが、投資はもう習慣になってしまっており、ギャ
ンブルと同じで中毒性があるのだろう、なかなか止める決心がつかない。
右手の壁に架かっている絵を眺める。夜の海辺を一羽の巨大な白いハトが飛
んでいる絵だ。そのハトはぼかしのようになっていて、背景は夜の海なのだが、
ハトのところが、昼間の青い空と雲のようにも見える。つまり、シュールレア
リズム、日本語に訳すと超現実というやつである。ルネ・マルグリットという
ベルギーの画家の作品だが、これは去年の誕生日に由美が模写をくれたのだ。
由美はフランス文学科を卒業していて、絵や小説に詳しい。僕は小説ならまだ
しも、絵はまったくわからない。ただ、この画家の絵は、シュールレアリズム
にしてはとんがりすぎていず、インテリアに向いているのではないかと思い、
僕も密かに気に入っている。
由美がベランダから戻ってきた。
「あと、どれくらいかしらね?」
「コスモスの花のこと?」
「そう……コスモスの花のこと……」
「さあ、どうだろう?……まあ、近いうちに咲くんじゃないかな?」
「それは、わかっているわよ……」
もう、日中の気温もだいぶ下がっていた。コスモスが何時咲いても、おかし
くはない。由美と向い合せにソファーに座って、二人でコーヒーを淹れて飲ん
だ。部屋中にコーヒーの匂いが漂う。由美の手首には、さっきの園芸の手袋の
痕がついている。土曜日の午前中のコーヒーの時間……由美が、不意に今何時
かと僕に尋ねた。
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