「健児君、体調はどうだい?」
そう尋ねるのは僕の担当医の真壁さんだ。中年で、小太りの男性だ、とても明るく、誰からも好かれているような人だ。
「うん、悪くないよ・・・。」
毎回聞かれることだ、彼なりの気遣いなのだろうが、僕は少々この受け答えにはうんざり気味だ
「そうかい、それはよかったよ。実はね、今日はお父さんが来てくれるんだってさ。久しぶりだね。」彼は笑顔でそう言う。
「本当ですか、でもお父さんはまだ仕事が忙しいんじゃ・・・。」
「それがね、どうやら時間がとれたらしくて、急遽ここにこれるようになったらしいんだ。健児君の好きな海の写真や星空の写真また撮ってきてくれているといいね。」
「うん・・・。そういえばもう夏になったんだっけ・・・。夏と言えば大三角が見れるのかあ、海も賑わっててすごいんだろうなあ。」
「そうだね、僕も夏の大三角くらいは知ってるんだけど、如何せん僕は星座の知識は疎くってね、よかったら教えてくれないかな?」
「うん、夏の星座というと夏の大三角が有名なんだけど、他にもさそり座とかいて座があるんだ。
いて座の中には南斗六星っていう''生を司る神''がいるんだ。」
「へぇ、南斗七星は聞いたことがあるけど、六星っていうのもあるんだね。」
「うん、中国ではその南斗七星は''死を司る神'で'六星が''生を司る神''で、人が生まれるときにこの二人が話し合って寿命を決めるって信じられていたんだ。」
「さすが健児君は詳しいなあ、星空はロマンがあっていいよね、僕も健児君に色々話を聞いてるたら星空を見上げるのが習慣になってきたよ。」

真壁は健児の話に耳を傾けて、真摯に向き合う。時には口論になってしまうこともある。しかし、だからこそ健児のとっての「肉親以外で唯一信頼できる人」だったのかもしれない。