「よせよ、美代子。おれは美代子の太陽であるよりも、どちらかと言えば影みたいなものだった。おれの持っているものでは、美代子を満たすことができなかった」と高木が言った。

「それはね、高木君、確かにあなたは私の影だったかもしれないけど、あなたがいてくれて私助かったわ」

(略)


「俺も何となくだけど美代子の内面に広がる宇宙の果てに誰かがいるような気がしていたんだ。それで……『ル・リアン』が最後の最後に美代子のもう一つのそれだと気づいた」
高木が美代子の心の中にいた。私はそれによって何かに繋がれていた。私が美代子に恋をした先に高木の存在があったのかもしれない、
と私はこの時漠然と思った。高木は私にとって異次元にいた自分なのかもしれない、と。