(2)
まるで自分のもののように勝手に煙草を抜き取り「ああ食うた食うた、ごっつおさんでした」と食後の一服の紫煙をうまそうにくゆらせ
ている。
(この貧相な小男の胃はどんな胃しとんねん)
呆れ返りながら、残り少なくなったビールを滓男と自分のコップに注ぎ、あらたまった顔つきで滓男に
「さあ、腹ふくれたところでネタを聞かせてもらおやないか」
と煙草を灰皿に押し付けて言った。
「そうでしたな。スマホで録音はやめとくなはれや。あくまでメモしてくださいや」
滓男の声が潜めがちになった。
「わかっとる」谷尾は胸ポケットから小さなノートを取り出した。
「昔関テレがあった近所にメゾン・ド・マルムシちゅうマンションがおます」
「キャバンクラブちゅうライブハウスがあるところらへんやな」
「そうそう。あの店の前の通りを読売新聞の方へ行くんですわ。その途中にな。ここからは声に出していえまへん。ちょっとその帳面
とペンこっちに貸しとくなはれ」
「よっしゃ」
「その前にお訊きしまっけど、わしの今日のネタなんぼで買うてくれまんねん」
「そんなもん内容によるがな。わしが判断して高う売れるもんやと踏んだらそれなりの原価払うがな。その代わりガセやとなったら、お
まえの一人や二人、桜の代紋にもの言わせてなんぼでも引いたるで。逮捕状(きっぷ)なんかどないでも名目作って切らせるど」
「そない怖い顔しなはんな。わしが今まで谷尾はんにガセネタ渡したことおまっか。今日のはちょっと高つきまっせ」
「もったいぶらんと早よ書かんかい」
滓男は谷尾のノートにその「イベント」を仕切る組織と人物の名前を書いた。筆跡を隠すためにわざわざ左手にペンを握り。
「ほんまかい? これ」
「ああ、たしかですわ。東通りのホールで時々いっしょに打つ奴が教えてくれよったんです。こいつもギャンブルで人生いわした奴や。
こいつのバックにヤバイのがついてましてな。あんまり付き合いたないねんけど、この件、無理やりわしの耳に入れましたんや。ある
意味わしも的にされかねんのですわ。せやから出来るだけ高うに買うて欲しいな。谷尾はんからしても値打ちがおまっせ」
滓男はいささか得意気に鼻を鳴らした。