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「この男に捜索願が出とりましての…」大上が上司の捜査二課課長、斎宮正成に初老の禿げ頭の写真を見せた。
「捜索願?ワシらは暴対で。そがなもん地域課の仕事じゃろうが、ワシらも忙しいんじゃけ…」
「それがですよ、この男の行方次第じゃあ、加古村を追い込めるかもしれんのです」
「なんじゃと?」
「この男は粕尾いうて、大阪のモンでしての、捜索願も大阪で出されとります。別れた嫁さんとの間に娘さんが
おってですよ、その娘さんが、この男、_粕尾が二か月前に行方不明になった、言うて届けたそうですわ」
「なんで二か月も放っといたんない?それに、そがな大阪の行方知れずと加古村組と、どう関係があるんな?」
「ま、ワシに任せてつかあさいや、おい日岡、行くど」
「ちょ、ちょっとガミさん、どこへ行くんな?」
日岡は捜査車両を署の正面に回して大上を待つ。4月に配属になったばかりの日岡には大上の考えも、粕尾という男
のこともわからない。大上が煙草を横咥えにしてクルマに乗り込む。
「大阪じゃ」反芻しようとした日岡だが、「早うせえや!」という大上の苛立った一言でクルマを出す。
大阪までは休憩を入れても5時間あれば着く。日岡は呉インターから高速に乗ると広島東インターへ北上、
そこから山陽道を西へ走らせる。
「こんなぁ、赴任してまだ日が浅いけ、教えちゃる_ 」助手席で大上が紫煙を燻らせながら話を始めた。
「二か月前に広島の日の丸いうパチンコ屋で騒ぎがあったん、知っとろうが…」
五十子会のシマ内でヤクザ同士のいざこざがあったことは日岡も知っている。だがこの喧嘩の原因は、肩が触れた
触れないの些細なもので、怪我人もなかったことから処分としては厳重注意で終わっているはずである。
「ありゃあの、加古村のモンが五十子の店でゴトしおったんで…」
日岡が息をのむ。大上はどこからその情報を入手したのか。
「ちょうどその頃、防犯カメラに見慣れんオカマが映っとっての、店員の話じゃ、関西弁で土地勘もない様子
じゃったけ、どうせ旅のパチンコ狂いじゃろ、いうて、急におらんようになっても気にもせんかったそうじゃ」
「その男、いやオカマが、粕尾…、でもどうしてその男が広島に…」
「大阪におれんようになったんじゃ」