なあ、お前と撮り鉄するときはいつも駅撮りだな。 一番最初、お前と撮影に出かけたときからそうだったよな。
俺が暇なし浪人生で、お前が自由が効くフリーターだったとき、 連れてってもらったのが駅撮りだったな。
「俺は、初乗りであちこちの駅で撮り歩いてるぜ。 ネタ情報が入ってしょーがねーから」
お前はそういって笑ってたっけな。

俺が大学出て入社して社会人だったとき、お前は工臨撮り放題だって胸を張っていたよな。
「毎晩バイトで昼間はフリーだから、業務ネタがすごいんだ」
「撮り鉄の後輩どもにこうして情報を回してやって、言うこと聞かせるんだ」
「現業の息子も、ネタ情報まとめている俺に頭上がらないんだぜ」
そういうことを目を輝かせて語っていたのも、駅撮り待機中の時だったな。

あれから十年たって今、こうして、たまにお前と撮り鉄するときもやっぱり駅撮りだ。
ここ何年か、こういうお手軽な撮影地に行くのはお前と一緒のときだけだ。
別に駅撮りが悪いというわけじゃないが、 大回り乗車なんてキセルみたいなもんだ。
長時間入場券の期限を超えてラチ内にいるなんて不正をしている気がしてならない。
なあ、別に絶景の撮影地でなくたっていい。 もう少し金を出せば、こんな駅撮りでなくって、
本物の鉄道写真を撮れる撮影地をいくらでも知っているはずの年齢じゃないのか、俺たちは?

でも、今のお前を見ると、 お前がポケットから取り出す型遅れのコンデジで撮影しているのを見ると、
俺はどうしても「もっといい撮影地行こうぜ」って言えなくなるんだ。
お前のスマホ解約になったの聞いたよ。お前が体壊したのも知ってたよ。
新しく開設された駅の先端で、一回りも歳の違う、20代の若い鉄ヲタの中に混じって、
使えない情報クレクレ扱いされて、 それでも必死に卑屈になって撮り鉄続けているのもわかってる。

だけど、もういいだろ。 十年前と同じ駅撮りで、十年前と同じ、努力もしない夢を語らないでくれ。
そんなのは、隣のホームで浮かれているガキどもだけに許されるなぐさめなんだよ。