ギャルゲ・ロワイアル2nd 本スレッド24
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このスレは「ギャルゲ・ロワイアル 2nd (以下GR2)」というリレーSS企画の為のスレッドです。
GR2とは、ギャルゲーのキャラを用いてバトルロワイアルをするという趣旨の企画である為、
その中に流血や残虐の描写があったり、キャラの死亡が書かれたりします。なので、閲覧の際には留意をお願いします。
参加しているキャラクターや、企画のルール等々、詳しくは以下のまとめサイト(@wiki)にてご確認ください。
※
現在、「GR2 第二幕」へと移行して、既存の書き手6人による合同創作企画となっています。
有志によるリレーは受け付けていませんので、あしからずご了承ください。
●前スレ
ギャルゲ・ロワイアル2nd 本スレッド23
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/gal/1252157407/
●まとめサイト
ギャルゲ・ロワイアル2ndまとめwiki
http://www7.atwiki.jp/galgerowa2
GR2第二幕
http://www7.atwiki.jp/galgerowa2/pages/541.html
●避難所
ギャルゲ・ロワイアルしたらばBBS(1st・2nd兼用)
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/8775/
●感想スレ
ギャルゲ・ロワイアル2nd毒吐きスレ(パロロワ毒吐き別館BBS)
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1203695602
※毒吐きと名前がついていますが現在は感想スレとして使われています。(毒吐きはしたらばに移行) 睨みつける。
多分、まだ大丈夫。
詳しいわけじゃないけど多分お腹以外は動脈とかに傷は無い。
だから、血の流れすぎで死ぬとかは無い、そうに決まってる。
「だから、さ」
痛む右手を、強引に動かす。
前に伸ばすそうとすると肩も痛い。
それを無視して、青天霹靂の柄を思いっきり握りしめる。
指の動きに不自然な所は無い。
折れてない、ヒビくらいで済んでる。
もう痛いのかもわからない右足はどうしても動かない。 だから左足一本に重心を乗せる。
五秒くらいの間に二回程転びそうになりながらも、構える。
前に進もうとしてるのに、重心は前で、しかも刃は右手側で横向き。
自分でやっておいて何だけど凄く動きにくい。
すごく不自然な姿勢だけど、構えなおす余力なんてない。
「邪……」
多分、動けて、一度。
それ以上動くと、痛みか疲労か怪我かとにかく何かで倒れる。
根性があればもう一回くらい何とかなるかもだけど、その後どうなるのか予想も付かない。
あたしの背後で、愕天王が立ち上がる。
そっちを向く力は無いけど、長い相棒、気配でわかる。
愕天王も、あたしと大差無い。
「……魔、」 一回、
たった一回で、何が出来る。
敵は三人、全部健在だってのに。
「……す、んな――――――――っ!!!」
けど、それが何さ!
三体のオーファンがぶつかる直前。
愕天王に、あたしの身体を首の力で投げさせる。
それだけで、気絶しそうな痛みが全身を襲うけど、痛くて気なんか失いたくても失えない。
そして、そもそも失って良いはずが無い。
そして、愕天王がオーファンの突撃を受ける少し前に、消す。
「死、なば、」
空中で青天霹靂も一旦消す。
そして、直後に再び現す。
ただし、今度は左手の先が穂先になるように、だ。
そして、私の足元には愕天王が、やはりいつものように現れる。
「諸」
落ちる先には、戸惑っているのかその場所に居続ける三体のオーファン。
丁度ぶつかる直前だったから、三体とも手で触れるくらいのところにいる。
ありがたい。
「と」
空中から床に突撃する顎天王の重さを勢い全てを、青天霹靂に込めて突撃する。
全ての威力と重さを込めた一撃。
これが当たれば、ただじゃ済まない。 それにあたしの身体が耐えられるのかとか、着地はどうするのかとかどうでもいい。
「も――――――――っ!!!」
残ってるあたしの全てを込めて。
これで三体とも倒せるとか虫が良すぎるとかそんなことどうでもいい。
全ての力を注ぎ込んだ、一撃。
今だけは身体の痛みも感じない。
周りの光景が、凄くゆっくりに感じる。
これは、当たる。
三体ともこっちを見てるけどもう間に合わない。
当たれば、オーファンでも確実に倒せる。
それも一度に三体、大盤振る舞いだね。
出来る。
これは、勝てる。
あたしは、ここでこいつらを……
・◆・◆・◆・
1000 名前:名無しくん、、、好きです。。。[sage] 投稿日:2009/12/12(土) 23:51:27 ID:PWdon5m/
1000なら今年中にGR2完結
ホントできたらいいな支援 遠くでか、近くでかで重い音がする。
―痛い―
耳が煩くて、その区別も付かない。
―赤い―
またどこか切ったのか、右目も見えなくなってる。
―全てが痛い―
―全てが赤い―
全身が重くて、どこもかしこも痛くて、勝手に震えてる。
―何も見えない―
―何も感じられない―
感じられるのは、背中に微かに感じるあったかい感触――額天王の存在だけ。
額天王はまだ生きてる。 ……でも、もう動けない。
「……っ……ぁ」
まだまだ、とかそんな事を言った、きっと、そう思う、多分。
でも、もう身体の何処も動かない。
あたしの全ては、無駄に終わった。
動けない筈のオーファンはあっさりと動いて。
当たる筈の一撃はいとも簡単に避けられた。 そんなもの、あたしの思い込みだって、そういうこと。
あたしの全ての一撃は床に突き刺さり、僅かにヒビを入れただけ。
そしてあたしの全てはあたしに返ってきた。
骨が軋んで、息が出来ないくらいの衝撃。
もう、動くこともできずにその場に倒れるあたしに、
そんなことは許さないと、一体のオーファンの尾が叩きつけられた。
吹き飛ばされる。
剛腕投手の速球見たいに壁というミットに向かって。
あたしの後ろにいた、愕天王諸共に。
愕天王ってクッションが無ければ、あたしの意識は戻らなかったと思う。
ありがとう、愛してるよ。
…………でも、もう、何が出来るのかな。
青天霹靂もどこかにいっちゃったし……。もう、腕も動かないよ。
近くか遠くで轟音が響く。
あたしに止めを刺しにか、それとももう死んでると思ってるのか。
轟音が煩い。
あ、これ多分近い。
律儀に確認しにきたあたりはあんまりあたしに似てないかな。
全身の力を振り絞って、何とか前を見る。
そこにあるのは、あたしに最後を告げるもの。
赤い視界の中で、あたしの最後を目にする。
「は」
大きくて、強靭な足。
鋼の足は丁寧にも、落ちていた晴天霹靂を踏んづけている。 意外と近くにあったそれは、少し傾いている。
柄を踏みつけられているからじゃなくて、別の理由。
地に一筋の線が走ってる。
それが、ちょうど晴天霹靂の真下に来てる。
それは、強靭な床には蟻の一噛みくらいのもの。
「はは」
そう、蟻の一噛み。
先ほどからの轟音が響く。
遠くから、近くから、
あちこちから。
「ははは……見たか、この……」
強固なダムすらも決壊させる、蟻の一噛み。
部屋の全てから、破滅の轟音が鳴り響く。
この場所における全てを破壊する音。
蜘蛛の巣のように床を覆い尽くすひび割れ。
オーファン達が今更退避しようとしてるけど、もう遅い。
「私の、勝ちだね」
一際激しい衝撃。
そして、その後少ししてから感じる、浮遊感。
もう殆ど感じられない、感覚を、それでも感じながら。
「正義は、必ず、勝つんだよ」
誇るように、自嘲するように、悲しむように、呟きながら、
私は、何もかもは、地の底へと消えた。 ・◆・◆・◆・
――土台無理な話だったのだ。
子供が敵の本拠地に突入するだなんて、そんなアクション映画みたいな真似は。
できっこなかった。できるわけがなかったんだ。
後悔は今さらのように押し寄せてきた。
どれだけ悔やんだって、訪れた結果はもう覆らないというのに。
「……やよいっ!」
くたりと垂れる右手から、プッチャンの悲痛な叫びが木霊する。
それに応える、いつもの元気な声はない。
「……てけり・り」
代わりに返ってくるのは、ダンセイニの奏でる沈痛な音。
半透明の黄色い体に浮かぶ一つ目は、子供の泣き顔を想起させるほどに歪んでいた。
一番地本拠地、中層エリア。
スペースが広く取られたその空間には、各所に渡るための通路が多数並んでいる。
通路の数はざっと数えて八つ。プッチャンとダンセイニはその内の一つを通ってここに辿り着いた。
重傷を負ってしまった、高槻やよいの救護の果てに。
「ちくしょう……なんでこんなことに……っ」
自らの体を簡易ベッド、いや担架のようにして、彼女を上に載せて運ぶダンセイニ。
やよいの右手に嵌ったまま、ただひたすらに彼女の名前を呼び続けるプッチャン。
三人中、意識を保てていたのは二人だけ。
注意力を進む前方に向けられていたのは、一人だけ。
この状態で敵に襲われたとして対応策を持っている者は、いない。 「……違う。俺の落ち度だ。一瞬でも気を緩めなけりゃ、やよいはこんな風にはならなかった……!」
プッチャンから漏れる、慨嘆。
慨嘆の根源である、高槻やよいの容態。
未だ敵地の真っ只中、仲間との合流は果たせていない。
状況は、なにからなにまで最悪だった。嘆くしかない。嘆きしか出てこない。
――けれど、そんな弱音は許されない。
もちろんわかってはいる。わかってはいるのに、嘆いている。
自分が自分でいられない。気が動転して混乱して切羽詰って行き詰っている。
プッチャンにとって、状況は最悪を通り越して最凶と言えた。
「てけり・り」
「わかってる……わかっちゃいるんだ。けどよ」
ダンセイニの冷静になれという声にも、まともな返しができない。
高槻やよいの容態――惨状は、直視に耐えがたいほどだった。
敵兵からの銃撃、バーニングによる体力の消耗、直後に乱入してきた敵アンドロイドの攻撃、それらは問題ではない。
やよいの命に最も強い圧力をかけたのは、敵兵の一人がいたちの最後っ屁として投げ放った手榴弾の爆撃である。
アンドロイドのブレードを防ぐので精一杯だったやよいとプッチャンは、これを避けることができなかった。
結果、手榴弾はやよいとプッチャン、それに近くにいたダンセイニやアンドロイドをも巻き込み――爆ぜた。
敵兵はその爆撃を最後に力尽き、気絶。アンドロイドは爆発の直撃を受け大破。
ダンセイニは多少、体から粘液が飛び散ったが、すぐに再生することができた。
プッチャンもまた、正面にいたアンドロイドの体が上手く防壁となり、事なきを得た。
が、パペット人形でもショゴスでもない、ただの人間であるやよいには、爆風の余波とて深刻なダメージとなる。
人体というものが爆風にどれだけ耐えられるか、プッチャンは熟知しているわけではない。
なのでただ見たままを捉えると、やよいの復帰はもはや絶望的のようにも思えた。 まず目を背けたくなるのが、やよいの双眸と耳。どちらも赤く滲んでいる。これは眼底出血と鼓膜損傷を意味していた。
先ほどからプッチャンやダンセイニが喋りかけても、やよいには声が届いていないのか反応が返ってこない。
皮膚にはいくつかの裂傷が。これは爆風の余波だけでなく、傍にあった食堂の窓、割れたガラス片が齎したものでもある。
目と耳、そして顔……やよいの身に降りかかった災いは、どれもアイドルにとっての死活問題と言える。
見ていて痛々しい生傷が、人形の身であるからこそ無傷で済んだ自分が、なにもかもが呪わしかった。
そんなプッチャンに追い討ちをかけるように、
『――これより、二十二回目となる放送を行う』
基地全域に、その声は響き渡った。
「なっ……!? ちょっと、待てよ。冗談やめろよ、こんなときに……」
「てけり・り……」
「……嘘だ。俺は、俺はぜってぇ信じねーぞぉぉ!」
神崎黎人による、第二十二回定時放送。
死亡者として告げられたのは、玖我なつき、山辺美希、ファルシータ・フォーセット。
最悪を通り越した最凶の状況は、この訃報によりさらに悪化し、プッチャンにとっての生き地獄と化す。
「あいつらが死んじまっただなんて……やよいにどう伝えりゃいいんだよ……っ」
やよいの耳には、もちろん放送など届いていないのだろう。
周囲の音に対する反応はまったくといいほど見られず、そして、
「……ぉっ」
不意に小さく呻き――プッチャンが見守る中で、咳するように血を吐いた。 「やよい! しっかりしろぉ!」
口元が赤く染まった。口内ではなく、喉の奥、呼吸器から出血しているようだった。
外傷ばかりに気を取られていた。爆風を間近で受けたとあらば、ダメージはその内部、肺や内臓器官にまで及んでいてもおかしくはない。
現状をより深刻に捉え、プッチャンはだからといって、なにをすることもできなかった。
無力だからこその、慨嘆。
ダンセイニは懸命に、仲間を求めてやよいの身を運搬する。
やよいには俺がついている、そう豪語していた相棒は、所詮人形なのだ。
「――やよいちゃん!?」
通路を這い進む内、ついに第三者の声に行き当たる。
それは敵兵の獰猛な号令ではなく、聞き慣れた少女の声。
前方から駆け寄ってくる、羽藤桂と羽藤柚明の声だった。
「やよいちゃん! ねぇ、やよいちゃんどうしたの!?」
「酷い怪我……っ。待って桂ちゃん、不用意に揺さ振っちゃ駄目」
一目見ただけで、二人にもやよいの怪我の深刻さがわかるのだろう。
桂はダンセイニの傍に寄るなり顔を青ざめ、柚明は即座に治癒の力を行使し始める。
ダンセイニもそこで立ち止まる。上で横たわるやよいは依然、絶対安静の状態だった。
「プッチャンさん、この怪我は……」
「爆弾がっ……! 近くで爆弾が爆発して、俺とやよいは吹っ飛ばされて……ダンセイニがここまで!」
「落ち着いてプッチャン。とりあえず、どこかゆっくり治療できる場所に移ろう。誰か来ると困るし……」
治癒の力が使える柚明と再会できても、まるで安寧を得られない。
説明も満足にこなせないまま、プッチャンはやよいの苦しげな表情ばかりに目がいってしまう。
桂が先導し、柚明が後衛を務めながら、ダンセイニがやよいを運ぶ。
プッチャンはやはり、この場では嘆くことしかできない。 一度は死に、しかし蘭堂りのの守護者としてこの世に魂が残留することを許された、人形の自分。
この矮小な体をここまで呪わしく恨めしく憎たらしく苛立たしく思ったのは、生まれ変わってから初めてのことだった。
・◆・◆・◆・
「……青い……空」
私はついに、クリス君を待つ為の舞台まで辿り着いた。
だが、辿り着いた先の舞台はなぜか天井に大きな穴が開いていて、そこからぽっかりと空が見える。
床に流れ落ちてきている土砂やなにやらを見るに、どうやら、最初の爆発の時にできたらしい。
そこから見える空はとても、とても青かった。
私は暫く惚けたようにただ、青い空を見続ける。
眩しく輝く太陽を何処か懐かしく感じていた。
実際、缶詰に近い状況だったのだから本当に久々だともいえる。
そして、これが、私が最後に見る空と太陽だろうとも。
そう思うと、いつもは当たり前に見上げるその空もどこか惜しく、私はずっと見続けていた。
ずっとずっと。
この空がずっと残るように。
心に焼き付けていた。
「しかし、粋なはからい……と言えばいいのか」
空から視線を下ろし、まわりをを見渡して私は苦笑いをする。 私とクリスが出逢うべき舞台。
そこはまるで、”彼と最初に出逢った場所”にそっくりな形で。
これも神崎黎人のお膳立てによるものだというのだろうか。
二人が出逢った大聖堂の様で。
だだっ広い空間は礼拝堂のような作りになっていた。
長椅子や、段を上った先にあるオルガンの位置もあそことそっくりだった。
惜しむならば、それがパイプオルガンではないことぐらいか。
まぁ、そんなのものは一朝一夕準備できるものではない。なので偶然なのだろう。
私はそう思いながら、オルガンのある所まで歩いていく。
天井が爆破されてきた時に流れ込んできたのだろう。どこも水浸しだ。
しかしそれが、これも偶然なのだろうが流れる水が演出となりこの場所を荘厳なものへと変えている。
一段だけ高い礼拝堂の周りは空色を映す水が満ちており、
まるで、あの時の出会いを劇の1シーンと切り取ったかのように見える。
本当に、彼と私のための舞台のようであった。
そういえば、クリス君と出逢った時もオルガンを弾いていたな。
階段を一段ずつ上り、私はあの時のようにオルガンの前へと座る。
そこからは舞台全体を一望できて、そして空を見上げることもできた。
綺麗だなと思って私は椅子に寄りかかる。
一息して、目を閉じた。
もう少しだ。
もう少しで終わる。
全部、全部だ。
だから、今はゆっくりと思い出そう。 大切な人達のことを。
大切な想い出を。
かけがえのないものを。
みんな、みんな。
死ぬ前に。
私はずっと生きていた。
それを実感して心に焼け付けよう。
そう思ったら。
自然とオルガンを奏でていた。
それはクリス君と出逢った時に弾いていたもの。
全てのハジマリの曲だった――。
・◆・◆・◆・
僕はただ進んでいた。
進んで進んで。
歩き続けていた。 全ては唯湖に会う為に。
一歩ずつしっかりと。
どれくらい、歩いたのだろうか。
通路の先から、ふと懐かしい旋律が聞こえてくる。
それはハジマリの時に聞いた旋律で。
僕はただ、その音が流れてくるところへと全力で駆け出していた。
ある確信を持ちながら。
それは唯湖がそこに居るという確信で。
僕はただ前だけを見て走って。音を辿って。
少しでも早く着くようにと思って、残り少ない力で進む。
そして――――――
そこにいたのはなんと表現すればいいのだろうか。
高い位置に置かれているオルガンの前に座っていて。
とても長い黒髪をもっていて。
その髪は吹き抜けの空から漏れる光で照らされてとても綺麗に輝いてるよう。
後姿だけでも美人といえるようだった。
そう、それはまるで別世界にいるような何処かにある国のお姫さまのようで。
本当に彼女とのハジマリの出逢いと全く一緒で。 静かに振り続ける霧雨の先に見えたお姫さまは。
「――――唯湖」
名前を呼ぶ声に振り返って、優しく微笑んだ。
そのお姫さまは来ヶ谷唯湖。
僕はずっと待ち続けていて。
そして、
「……クリス君、君の雨はもうやんだかい?」
僕を労わるように彼女はそう言った。
僕は微笑みながら進んで。
「まだ……まだだよ……君を……君を止めてから」
そんな僕の呟きに唯湖は哀しく笑って。 「そうか……そして、御免な」
辛そうな謝罪と共に僕の目の前に何かを投げた。
それは、
「……………………え?」
鍵と錠が着いたペンダント。
僕となつきでおそろいのもので。
そしてそのペンダントには……真っ赤な血がべっとりとついていた。
……え?
………………………………え?
「クリス君……玖我なつきは私が殺したよ」
………………………………………………え?
「嘘………………だ」 『――死者の発表をする』
僕の否定に、それを断じる放送が重なって。
そこに………………なつきの名前が呼ばれていた。
……………………あ……あぁ。
あぁ………………僕は………………、
また………………護れなかった…………のか。
また………………失った…………の……か。
『私はお前が――クリスが好きなんだ』
なつき。
……大好きななつき。
『なつき――と、そう呼んでくれ』
優しくて。
そう言った君は本当に綺麗で。
あらためて君に惹かれたと思ったんだ 『わかるか? 私はなぁ……クリスの傍がたった一つの居場所なんだ!』
僕にとっても、君の傍がたった一つの居場所だったんだよ。
君が居たお陰で僕はここまでこれた。
僕は強くあれた。
『クリス……死なないよな? ……ここにいるよな』
なつき……。
君が死んでどうするんだよ。
君が死んだら……意味がないじゃないか。
『う、うるさい!』
顔を真っ赤にして照れる君が可愛かった。
出来るならずっとずっと君の顔を見ていたかった。
『そうだ、その笑顔が好きなんだ。笑っていてくれ……クリス』
僕も君のその笑顔が好きだったんだよ。
笑っているその笑顔が。
何よりも僕にとっての幸せだった。
『クリスといっしょに』 君と一緒に居たい。
ずっとずっといたかったのに。
ずっとずっと笑っていたかったのに。
『クリス…………頑張ろうな……明日を希望に変える為に』
明日を希望に変えなきゃ。
でも君も、その明日に生きてなきゃ駄目なんだよ。
君が死んじゃったら意味なんてないじゃないか。
『―――互いの心が結ばれたまま、解けないようにって』
もう君の事を忘れるなんて無理だ。
哀しいぐらいに僕の心を奪って、結んでいる。
なのに、君が逝ってしまった。
『クリス、進めっー! 振り返らず進めっー!』
君の言葉があったから。
僕は進めたんだ。
振り返らずに進めたのに。
なのに、
君はもう……いない。 『クリス……愛している』
僕も……。
君のことをたまらないくらいに。
本当に心の底から……
――愛していたんだよ。
なのに……君はいない。
なつきと笑いあうことも。
なつきと触れ合うことも。
なつきの優しい笑顔を見ることも。
なつきの楽しい表情を見ることも。
なつきの哀しい涙も見ることも。
なつきとずっと一緒にいることも。
ずっとずっと一緒に生きることも。
できないんだね。
君は……死んじゃったんだ。
唯湖の手によって。
あぁ。 あぁぁ……。
「うわぁあああああああああああああぁああああああああああああああ!!!!!!!!!」
雨が。
雨が降っている。
土砂降りの雨が空を覆っている。
前も見えないぐらいに振って、何もかもを覆っている。
哀しみの雨が降っている。
この雨は僕の涙なのだろうか。
わからない。
わからないけど。
ただ、ただ哀しかった。
雨が……止まない。
けたたましい音と共に。
これから永久に振り続ける。 ''';;';'';';''';;'';;;,.,
\ただいまあ〜!/;;''';;';'';';';;;'';;'';;;
;;'';';';;'';;';'';';';;;'';;'';;; \帰ったよお〜/
;;'';';';;'';;';'';';';;;'';;'';;; ;;'';;'';;; ザッザッザ・・・
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ザッザッザ・・・ /⌒ヽ/⌒ヽ /⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ /⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ/⌒ヽ
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\:::::::/ . \:::::::/ \:::::::/ \:::::::/ . \:::::::/ \::::::: 「……クリス君、君の雨はいつやむのかな?」
そんな呟きが聞こえてきて。
雨の先から唯湖が現れた。
僕は、ただ静かに、悲しみを断ち切るべき剣を彼女の方へと向けた。
唯湖は哀しく笑ってぼくの方にも同じように剣を向ける。
剣と剣が交差して。
二人は見つめあっていた。
雨を未だに降り続いている。
ただその音はすこし強まってきている気がした。
でもいつまでも、いつまでも。
あの雨のふる大聖堂と似ているこの場所で。
二人の再会を証明するように。
ずっと降り続いていた。
・◆・◆・◆・ ・◆・◆・◆・
[とある研究員のメモ]
NYPとは“なんだかよくわからないパワー”の略称であり、とある世界の科学部員が発見したものだ。
NYP適合者はビームライフルやらサイバーバリアなどのサイバー兵器を利用可能になる。
ただし、この力のエネルギーの発生プロセスは不明、作用プロセスも不明、適合者の条件も不明。
シアーズの研究者たちはNYPの正体を計りかねていた。
参加者の来ヶ谷唯湖いわく、どこかの世界の超越者が、不思議っ子にインスパイアされて、
その者のためにノリと勢いで細かい設定を考えずにでっち上げた力などというものらしい。
だが、それではあまりにもなんだか良く分からない。
だが、S氏はこれを突き詰め、NYPの力の源はなんだかよくわからないこと自体ではないか、との仮説を立てた。
日本のことわざに『幽霊の正体見たり枯れ尾花』というものがある。
夜中に揺れる枯れススキは、遠目では得たいが知れないので、時に見る者に恐怖を与える。
NYPはそれ似たようなもので、更に精神だけではなく、生命力や物理にも作用するのではないか。
もちろん、ススキならば、正体が明らかになった時点でその力を失ってしまう。
だが、NYPはいくら観測しても正体を知ることはできない。それは不可解そのものを構成要素とするからだ。
なんだか良く分からない結論。しかし、実験データはそれを裏付けているように見えた。
そうなると、NYPパワーがアンドロイドに高い効果を上げる理由も見えてくる。
ジョセフ・グリーアは機械人形を人間の心を持つことを期待して設計した。
そのひとつは通常のプログラムで記述できない思考プロセスをすることである。
言ってしまえば、彼は人工知能に“なんだかよくわからない”ブラックボックスを組み込んだのだ。
当然、この技術は不可解そのものであるNYPよりは意味不明度が低い。
水は高いところから低いところに落ちると決まっているように、NYPの力はアンドロイドに一方的に流れ込む。
そのため、アンドロイドはサイバー兵器を無防備に食らってしまう。
また、彼らにはサイバー兵器にNYPの力を注ぎ込めない。 しかし、人工知能のブラックボックスとNYPは親和性が高いのも事実。そこで発想の転換。
我々はブラックボックスの意味不明度を極限まで高めることで、擬似的なNYPエレメント兵器を作り出せた。
使い手のNYP適合性は不要。今回のプロトタイプの成果を足がかりに、NYPリーサルウェポンの開発に着手する。
この兵器は複数の人間の媒介に起動するとき、通常の何倍もの効果を上げるだろう。
補足:
擬似NYPエレメントは長時間使用すると、精神力を磨耗するという欠陥が明らかになった。
一番地に研究用のエネルギーや人材を指し止められたため、いまだに改善が行われないでいる。
・◆・◆・◆・
銃声の鳴り止んだ戦場に軽い切断音が響く。セラミック製のドアの斜め上半分はスライドして内側に倒れた。
深優は剣を左手に再変形し、情報処理室に踏み込む。コンピュータールーム特有の焦げたワイヤーの匂いが漂っていた。
人や量産型アンドロイドの気配は無い。敗残兵たちは戦力を集中するために下層へと移動したのだろう。
深優はそこに少ない戦力の有効利用だけでなく、生存の意志のようなものを感じた。
恐らく、シアーズの人間達は言霊に操られていない。自分の意思で戦っている。
もし、深優ひとりでなければ、彼らを武装解除し、投降させることもできたかもしれない。
その反面、彼女単機でなくては、ここまで派手に戦えなかったのも確かだ。
深優はセキュリティシステムを破壊して、周囲に危険がないことを確認。
そして、自分自身を端末代わりにして、スーパーコンピューターに接続、強引に起動させる。
九条むつみの特製ハッキングツールを強制インストール。
深優本人の持つ高速演算能力と組み合わせて、コンピューターから改鋳前のデータから削除済みデータまで丸ごとサーチする。
収穫は既知の情報とダミーデータだけだった。重要なデータは下層に移動させた後だったのだろう。
一度、九条むつみにデータをハッキングされたため、かなり警戒されているらしい。
当然ながら、外部ネットワークとは物理的に遮断されており、これ以上の進展は望めない。 そもそも戦場での情報管理の鉄則を考えれば、コンピューターごと破壊されていてもおかしくないのだ。
徹底的に調べれば何か見つかるかもしれないが、援軍の危険を考えると余り時間は掛けられない。
残るは戦場で拾ったこのメモリースティックだ。これはあの命乞いをした研究者が慌てて落としていったもの。
これも罠かもしれないが駄目元でアクセスする価値はある。深優は警戒しつつメモリースティックを挿入した。
深優はデータをロックするパスコード24桁を入力。そして閲覧。先ほどに比べると、拍子抜けするほど緩いセキュリティだ。
内部のフォルダはたったひとつ、『プロメテウス計画』と名付けられていた。
・◆・◆・◆・
脚だけしかないテーブル。融解したフラスコ。新鮮な死体の横に並ぶ骨格標本。
銃声と爆音、加えて絶望と恐怖の絶叫が右からも左からも流れている。
下層ラボの張り詰めた静寂な空気は、たった10分で激変していた。
恐怖に駆られた研究員は対戦車無反動エレメント砲を闇雲に撃ち続ける。
無尽蔵のエレメント弾が天井に命中。槍を構えるアンドロイドは剥き出しの鉄骨に押し潰された。
戦闘員は弓型エレメントでこの男を射殺。進路の邪魔になる研究者も射殺。彼らも周りの人間を守る余裕がなくなっている。
横一列に並ぶ3人の戦闘員は隠し芸の演目のように、ほぼ同時に後方に吹き飛ばされる。
足元に転がる投擲直前の手榴弾、爆発。衝撃はドア付近の窓ガラスに押し寄せ、透き通った刃となって拡散。
ヒゲを蓄えた男の頬を貫通。音無き声を上げ、床でもがく。恰幅の良い中年女は彼に躓いて転倒。
すぐに起き上がり、再び走り始める。だが、彼女の必死のサバイバルは徒労に終わるだろう。
下層セクション2の連中はセクション1との連絡通路を閉鎖してしまった。
「HiMEの力には限りがない、それはあながち誇張でもないようだな」
紅眼のアリッサはこの阿鼻叫喚の破壊劇、否、深優=グリーアの戦闘データを鑑賞し終え、静かに双瞳を開く。
動画の狂騒と対照的に、少女の居城はいつものように、空は真っ赤で星は黒ずんでいた。
隔離された最下層に、彼女以外に誰もいない。アンドロイドは下層の警備のために出払ってしまった。 にわかに左手首のケーブルが振動する。アリッサは床の銅板から生えたコードで、外部と情報をやり取りするのだ。
「さ、先ほどの動画データは見てくれましたか」
声は若い男性。早口で微妙に上ずっている。これは過度のストレスのためか。
「深優=グリーアは計算以上の数値を叩き出しているな。
この調子で暴れてくれれば、プロメテウス計画の完成も早まるだろう」
アリッサは満足そうに答えた。プロメテウス計画、すなわち人工の星詠の儀の完全なトレース。
これさえ完成すれば、元の世界でもこれと同じ殺し合いを再現できる。
紅眼の少女にとって、地下基地全体は巨大な粒子加速器のようなもの。
加速器内部では、高エネルギーの粒子を衝突させると、より興味深い粒子を観測できる。
それと同じように、結界内で人工HiMEが火花を散らせば、人工媛星製作の有益なデータを収集できるのだ。
「いや、そうじゃなくて。いくら計画を完成させても、帰還できなければ意味がないんですよ」
「いくら犠牲がでようと、星詠の儀を執り行えば、我らは帰還できる。
怪物Xは一番地側の参加者を全滅させ、我は深優=グリーアを破壊する。何の支障があろうか」
彼女は少女特有のソプラノボイスで研究員を突き放す。
確かに、深優=グリーアは成長している。だが、この程度でアリッサが敗北する可能性はゼロに近い。
ただ、勢い余って彼女を拘束も、半殺しもできずに、オーバーキルしてしまうかもしれない。
その後、一番地基地へ向かう前に、神埼に星詠の儀を完了されたら問題だ。
プロメテウス計画を完遂できず、星詠の儀式も乗っ取れず、そのまま元の世界に強制帰還させられてしまう。
「防衛総括は暴走気味で、最終兵器の威力上げるためにもっと人柱増やせとか、このままだと……」
「つまり、上官の方針に変更はないわけだな。我の独断で動くわけにもいくまい。せめて、神崎の死亡が確認されてから報告せよ」
紅眼の少女は通信を一方的に遮断した。無意味な平穏を求めるのは人間の悪い癖だ。
ゲームは勝利条件さえ満たせば事足りる。チェスで敵のキングを追い詰める際に、味方の犠牲に臆すれば勝利はない。
もともとここの人間は、シアーズ財団にとって不要な存在なのだから。 カ ミ ノ コ ト ノ ハ
その時、アリッサは擬似エレメント『real the world』の波長変化を感知する。
この古青江の原型は“コア-O-A 誠一筋”、その使い手は思い人に病的なまでに一途たりえた。
ゆえに、そのイデアのコピーである刀も想いの力の流れを敏感に感じ取るのだ。
「ほぉ、本当の戦いはこれからという訳か。貴重なデータが取れそうだな」
アリッサは視線を前方に移す。擬似チャイルド、サンダルフォンは無数のコードに覆われていた。まるでサナギのようだった。
・◆・◆・◆・
アリッサ=シアーズのメモリーには、シアーズ幹部すら閲覧を禁じられた領域があった。
そのデータの冒頭は、ガラス越しに見える黒い空、万華鏡のように散らばった黄金色の星々。
彼女の足元は、大きな天窓を持つ小さな礼拝堂にあった。黄金の瞳を持つ燭台が石造りの内部を照らし出していた。
この灯火は瞳に闇を持たぬアリッサには不要のもの。光を求める人間のためのもの。
講壇からシアーズの総帥が降りてきた。"黄金の夜明け"の仮面は男の顔貌も表情も覆い隠していた。
彼女は彼の脈拍や呼吸、発汗を計測しても、彼の内面を覗くことはできなかった。
そして、アンドロイドのアリッサ=シアーズ本人も"月の蛾"の仮面を被っていた。
紅眼の少女はシアーズの儀礼に従って、彼に特別の握手をした。
男は仮面をつけたまま、委員会について語り始める。
「委員会の中には、幸運の女神の提案を信用してない輩も多くてね。
彼らは黄金世界は二の次で、邪魔な連中を体良く始末する場と割り切っている。
だが、その制約の中で、勝利の方程式を組み立てさせてもらった。
私個人は、新世界の野望に燃えているからね。まあ、男のロマンみたいなものだよ。
それに、委員会の連中の鼻を明かすのも楽しみだからね」 シアーズ財団自体は至高者の探求や人類の福祉を求める、ただの機能集団に過ぎない。
一応、『徒弟』、『職人』、『親方』と言った階位もあるが、今はあくまで名誉勲章のようなものだ。
だが、内部に委員会と呼ばれる秘密の結社を持ち、黄金世界実現のために裏で世界を動かしている。
『司祭』、『摂政』、『魔術師』、『王』などの密儀の階位は、その者が委員に所属することの証左だ。
「ゲームの構成員の多くに密儀の階位を授けた。彼らに今から教える暗号を示せばいい。
そうすれば、彼らはお前が『王』から生殺与奪の権威を委託されたことを認めるだろう」
『王』たる総帥は、それぞれの階位しか知りえぬ暗号をアリッサに授けた。
アリッサはこれをメモリーの特殊領域に格納。『王』に恭しく一礼、そして問いかける。
その口調は少々不遜だが、これも総帥直々の要望だ。
「王よ、結社の秘密を他者に教えるのは掟に反するのではないか」
「それは、お前は人間ではなく、ただの道具だからだよノートやコンピューターに秘密を記そうと私の勝手だからね。
そして、君はこの世界に戻ったときに解体されるのだ。問題はない」
男はきわめて自然に冷淡に、機械仕掛けの少女に答えた。
アリッサは彼の言葉に納得し、先程の暗号で『王』に絶対忠誠を表す。
「ガンジス川の砂の数に等しい本数のガンジス川、その川すべての砂に等しい数の平行世界を
七種の宝で満たすよりも、優れた宝をシアーズの前に献上しよう」
彼女に死の恐れはない。血に染まり切った兵器が、理想郷で砕かれるのは当然のこと。
自分は道具。全ては適材適所。それは眼前の王にしても同じこと。結局は歯車だ。
「あのクローンも、君くらい本物のアリッサとかけ離れていれば、気楽に接せたのだがね」
総帥はそう呟いて背中を向けた。この角度では"黄金の夜明け"の仮面を見ることはできない。
先ほどと違って、言葉に僅かにノイズがこめられているようだった。 「実際のところ、委員会はシアーズの支配者ではない、理念を横領する不実な会計人だ。
その帳尻あわせのために、あらゆる善行を施し、時にあらゆる悪事を尽くす。
私は黄金時代の幕開けを前者と信じている」
男はゆっくりと息を吐いて沈黙。そして、告白するようにつぶやく、
「だが、いかなる理想郷であろうと、そこに幸福を見出せるかは当人次第。そして、その逆も然り。
私が娘の死を振り切れたのが、無貌の邪神の対話で追い詰められている最中とは皮肉なものだよ。
……おっと、ここに『人間』は私しかいないな。これまでの話はただの独り言、ほら話だ」
語りきった頃には男の脳波の乱れは収まっていた。
今のは偽らざる感情の吐露なのか、それさえ計算した上での発言なのか、紅眼の少女には判断できない。
だから、アリッサの姿を持つアリッサでないものは、ただ、それを聞いていた。
アリッサ=シアーズのブラックボックスはここで終わっている。
・◆・◆・◆・
「それでは、現状をまとめましょうか」
放送を終え、再び司令室へと戻ってきた神崎は新しく用意された紅茶を一口啜ると、そう言葉を発した。
彼の目の前には重そうなファイルを小脇に抱えた秘書と、相変わらず気だるげな警備本部長とが立っており、
隣には妹である命。その後ろにはボディーガード兼お目付け役のエルザが控えていた。
神崎自身を含めれば5人。
人口密度で言えば決戦が始まってより最も高く、そしてまたその決戦も重要な局面へと差し掛かっている。 「まずは、各参加者の動向と対応について検討しましょう」
神崎が言い。それを了承すると秘書と警備本部長は部屋の端にある大型モニターが見えるよう脇へと身を引いた。
モニターを指して、秘書が報告を開始する。
「一番地本拠地・下層外縁部へと進入を果たした羽藤桂とユメイが、高槻やよいと接触。これと合流しました」
「こちらの誘導通りにね」
「目論んでいた通り、負傷した高槻やよいを治療すべく3人は居住エリアへと移動し、一室にて動きを止めています」
「すでに戦闘員を周囲に配置しているわ。今すぐにでも襲撃をかけることは可能よ」
二人の報告を聞き、神崎はふむと頷く。
放送で司令室を離れていた間のことであったが、那岐から柚明と桂の二人を離れさせる作戦は滞りなく成功してた。
放置しておいたやよいにしても上手く足手まといとして離れた二人に合流させることができている。
「では、彼女達が不得意とする狭い空間へと誘導するよう兵をけしかけて下さい。
戦力に関しては人間の戦闘員のみで――ただし、本拠地内での爆発物の使用をレベル2まで解除します」
「了解したわ。そう伝達しておく。
けど、最悪の場合、最下層のプラント等が利用できなくなる可能性があるけどかまわないのかしら?」
「この決戦が終われば地下に篭っている必要もなくなります。施設の損傷については気にしなくてもかまいません」
なるほどね。と頷くと、警備本部長は無線を取り出した。
神崎にも解らない暗号化したコマンドで手短に指令を手勢へと下すと、ひとつ頷いてまた神埼の方へと向きなおる。
「さて、次は最も重要な標的である凪に対してですが……警備本部長。戦力の準備についてはどうでしょうか?」
「言われた通り、各所からアンドロイドを集めているわ。
彼も霊脈の乗っ取りに時間をかけてくれたし、本拠地への通路も爆砕済み。上がってくる前に囲むことは可能よ」
上々だと神埼はいつもどおりの薄い笑みを浮かべて頷いた。
霊脈を餌として放棄させたのは確かに痛手と言えるが、結果として那岐を孤立させることには成功している。
参加者が神埼の首を落とせば勝利であるのと同じく、一番地側も那岐さえ滅することができればそれでいいのだ。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています