>>942 より
(略)
そして何より彼女を慄然とさせたのは一人の男の存在であった。
『ようこそポエムの園へ。』
文子が書斎と位置づけていた奥の小部屋からその男はクネクネと揺らめきながら歩み寄ってきた。
文子とさほど変わらぬ5寸半ほどの背丈、だらしなく弛んだ身体からは強烈な体臭が放たれている。
『ひっ、人を呼びますよ!』
そう言いかけた文子の声を制するとその豚男は一冊の小冊子を手渡してくる。
"私の歯臭"

(略)
『僕はぶるつり。詩人だよ。世間のふつうと戦っているんだ。平日の火曜から金曜までは倉庫で仕事がありますからちゃんとした社会人です。迷惑料がわりとして毎朝お弁当を要求します。』
一方的にそう告げると"ぶるつり"は部屋に篭ってしまった。
『何?この臭い。』
男が自分語りをする際、その口からは気を失うほどの悪臭が放たれていた。
前歯はほぼ喪失しており、口の奥は永遠の闇のようにも見えた。
この日から文子と"ぶるつり"の奇妙な同居生活が始まったのである。

(略)
ふと右手にある歯ブラシを見てとると少し黄ばんだ白い粘り気のある物質が付着しており、
未だ異臭を放っている。蛤や栄螺の殻を放置したような思わず顔を背けたくなるような臭い。

あの男の匂いだ、すぐさま文子は思うのであった。

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この続き、読みたいな。