個人の属性の「資格」より所属する「場」に偏っている集団意識


 本書で中根氏はまずこう述べている。社会集団を構成する要因を「資格」と「場」の2つに設定する
と、日本人の集団意識は「場」に偏っている。ここでいう「資格」とは個人の属性で、家柄や血筋、学
歴、地位、職業、老・若・男・女の相違、資本家か労働者かといったことも含まれる。これに対して
「場」は、一定の個人が属する地域、所属機関、職業組織を意味する。日本人はこの「場」における
存在認識が強く、自分を社会的に位置づけるときも、個人の属性ではなく、会社名や組織名を強調
して「ウチは」「オタクは」とよく口にする。言われてみれば確かに、自分の周りにもそういう表現をす
る人は多い。

 さらに企業が従業員の考え方、思想、行動を規制することで、仕事を通じた閉鎖的な社会集団が
構成され、「ウチの者」「ヨソの者」意識が強くなっていく。人間関係の強弱も、接触する時間の長さ
に比例するため、最初に5年、10年勤続して手に入れた個人の位置や発言権などの社会的資本を
捨てて転職し、たとえ地位や給料があがっても、その好条件を上回るほどの社会的損失を覚悟しな
ければならないという。

 入社2、3年目の転職組が多いのは、その損失が少ないためだ。言い換えれば、最初の就職から
約5年内外で直接接触をとおして形成された人間関係は、その人の集団所属において決定的な意
味をもつのである。

 こうしたことから「場」への所属意識が高い日本人は、二つ以上の集団に属するのが困難な単一
主義ともいえる。