それから孝行とは何だ、私も今日まで欧米人に接して日本人のもっておる孝行という観念を
何とかして説明しようと試みましたがどうしても徹底しない。
余程インテリゲンチャクラスの人がようやく理屈では判るような顔をするばかりです。
まず一通り孝行とは何そやといえば親を親切にするというくらいが関の山。

われわれの孝行とはそんな薄っぺらなものではない、あなた方には説明は要しないから説明は致しませぬ。
で現代文明というものは既に忠というものを失い考も失いましたが、
西洋かぶれしておってもまだまだ日本人は忠も考も判りまた多くの人は実行しております。

いやしくも忠と考を実行しておる人に個人主義があります、忠といえばすでに義務を対象としております。
これに繋がっております。

西洋のことは多く抽象観念で、あるいは個人主義とか何々主義とか抽象観念が多いが、
日本のは抽象観念ではなく忠義孝行せよといえば直ぐ判るのであります。
この忠と考とをもっている国民には個人主義、私のいう欧米に見るが如き個人主義というものはあり得ない、
ところが欧米は今いったような訳で忠孝がなくなっているのであります。

次にこれは甚だ皆さんの前でいい難いことですが今や欧米では貞という観念が地を払わんとして居るのであります。
これも見ようによっては何れの人間、ある程度は迄は同じく動物性をもっているから、そこでまあ女房が間男をしたところで、
それはどうも仕方がない、女が悟りを開けばそれでよいじゃないかという人があるかも知れませぬ(笑声)