しかし私がこの貞操と云うことに重きを置く所以は肉体にあるんじゃない、精神にある、人間と云う動物が社会を造り、
国家を造って行く上において信と云うものがなくしては立てるもんじゃない、(拍手)
然るにたった一人の自分の女房さえ信用ができない、信を置くことが出来ない、
たった一人の女房さえ自分を裏切る。

こう云うことにもし人間社会が落ちて行くならばわれわれ人間はどうなるか、
人間社会に信と云うものがなくなったらわれわれは一体どうなるか、かく考えて見るとこの貞操と云うものは非常に大事なものである。
男女間が乱れてローマは滅びた。
男女の間が乱れてきたと云うことが既に滅びる前提である。

これは人類史を御覧になれば私がこの上諄く申し上げる必要はない。
男女の間が全く乱れてなお存続して行った帝国もなければ国民もない。
余程われわれの根本事情が今とは反対に変わってこない以上はそう云うことはない。

そして人間の性状がそう変わるものじゃない、
私のいわゆる貞は主に精神方面について云うのでありますが、かような文明がこのうえ何時までも存続するものではない、
これだけを御覧になっても近代文明はまさに行き詰まりつつあるのである。

欧米の先覚者の中にも近代文明が行き詰りつつあると云うことを自覚しているものは相当にある。