それは終電近く、地下鉄の某駅のホーム端で、酔っ払いが線路に向かってゲーゲーやり出した。
しばらくすると治まったみたいだったが、突然大きく線路に頭を突き出し、口から噴水のようなゲロを延々と吐き出し始めた。
気持ち悪かったが、あまりにも凄い光景なので見続けてしまった。

しかしタイミングが悪く、その時カーブの先から、電車がホームに入って来るところだった。
ああ!っと思った瞬間、パーンという音と共に、酔っ払いの突き出した頭が
砕ける音が響くと同時に、アゴから上が砕けた頭の固まりが、横の柱にぶち当たった。
黒い髪の付いた固まりが、柱の根本にまるでスイカをぶち当てたよう崩れ落ち、
灰色した脳が真っ赤な血とぐちゃちゃに散らばった。
その頭蓋骨が、割れたヘルメットのようだった。

うぁ・・・と思った瞬間、頭が下アゴだけになった体が、斜め前のホーム中央まで飛ばされていった。
同時に、これを見た乗客達からの凄い悲鳴が、ホーム中に響き渡った。
飛ばされたその体は、砕けた頭をこちらに向けるような位置で止まっていた。
下アゴの歯と舌だけが、首にくっ付いた状態だった。
喉と思われる穴から、空気が血と混じってゴロゴロ音を出しながら吹き出していた。

この時、体はまだ生きていたのだ!
膝を立てたように転がっていた体は、足を床に何度も何度も擦り付け、
砕けた頭を中心に円を描くように、ぐるぐる回転し始めた。
あれほど身の毛がよだつ瞬間はなかった。
脳がないのに断末魔の苦しみから逃げるように・・・。

何かの話で、首を切り落とした鶏が、そのまましばらく走り回る話を思い出してしまった。
人間でもあるんだ・・・。

ふと、柱を振り返ると、砕けた頭から飛び出した目玉が、まるで遙か向こうの自分の体を
見つめているように、じっと床に付着していた。
もう、気が狂うと思うほど、凍りついた瞬間だった。



これが列車事故の現実なんだと思った。