私は「空中キャンプ」ツアーの最終日を新宿で見て、その後は「世田谷」のときともう一度を地方ツアーで観ている。
この「男たちの別れ」公演はグループからのダイレクトはがきで案内をもらったが、「世田谷」ツアーでのやや重苦しい感じがいやで次のアルバムが出た後のツアーを観ようと考えて行かなかった。
その後佐藤氏は死んでしまった。

まずは重く苦しさに充ちた空気でステージは始まる。
MC等聞いていると相当の衝撃がメンバーたちの上にのしかかっており、おそらくは東京を中心とした過大な広告とキャンペーンのわりには実売が特に地方において上がらずに大きな負債ができて
(これほどの世界的グループが「世田谷」アルバムの時期でさえ地方の本当のライブハウスで百人にみたない観客の前で演奏していた)、
レコード契約も切られ楽曲の権利等も売らざるをえなくなり、ベーシストもグループを離れることになり、佐藤氏は手脚をもがれたような悲痛で苦しい状態だったのではないのか。

MCで来 年 の 予 定 な ど を 語 っ て い る が 、 そ ん な も の は な か っ た の か も し れ な い 。 あまりにも痛々しい 。

2日程度の公演にかけるステージの飾りやライティングセットとしてはこのグループ規模で考えると相当にお金をかけている。
残ったお金をかなり使ってでも最後の姿を素晴らしいものにしようという意図があったのではないか。
ステージ前半あれだけ苦しみに充ちていた佐藤氏の顔が「ロング・シーズン」の途中では光の内で国宝の仏像の半跏思惟像のような顔つきになっている。
持っていたものがすべて溶けて逝ったという喪失の意識の中でも最後は幸福感に包まれたのだろうか。

音はかなり手が加えられているらしい。まずノイズが徹底的に削り取られている。ライヴならマイクをいじるときのノイズとかあるはずだが、このDVDでは音楽の音しか聞こえない。
観客の音も演奏中は消されており、あたかも佐藤氏の頭の内で鳴っている観念の中の音像だけが海底に届く光のように聞こえてくる。
演奏音と映像が全く合っていないところもあり、この夜のステージ上での出来事がそのまま収められているライヴというわけではないようである。彼岸のDVD、というところだろうか。
ドラマーとベーシストが両方素晴らしいグループだった。日本のバンドでそういうバンドは他にいない。(他にはブランキージェットシティくらいか。みな日本的な腰の決まっていないリズム隊になってしまっているグループばかりである。)
ライヴでのドラマーの独特の正確さ---生き生きしているのに正確---は調子のいい時のビル・ブラッフォードと似た感じが一部する。

佐藤氏と素晴らしきグループ双方にR.I.P.。



思い出して貼ったけど、やっぱりどう考えても追い込まれて、絶望して死んじゃったとしか思えないよね
来年の予定だの未来などないとわかってるからこそ、「来年は」と語ろうとした後にはあの表情になってしまったんだし、来年も再来年もライブはやりますっていうなんとか絞り出した強がりだったんだよね

サトちゃんが自殺したからといって残してくれた音楽の素晴らしさは何も変わらないんだから別にそれでもいいじゃん

合掌