>>557 続き ※絵露有無:無

この洗剤で皿洗いをしていると、
きのと一緒に皿洗いをしている気分になるのだ。
きのはビックリした時、なにかと「マジか!」と言う。
僕はそのたびに「jajaja!また言ったね」と言ってきのをおちょくる。
すると、決まってきのは恥ずかしそうな顔になって頬を両手で覆う。
その仕草がたまらなく可愛いのだ。

今日も僕はマジカでお皿を洗っていると、きのがやってきて
「また『マジカ』で洗っているの?」と苦笑いする。
僕が「マジカを昨日、また買い足しておいたよ」と言うと、
きのが「マジか!!」と言って、次の瞬間ハッとした表情になり、
そして「また言っちゃった!!」と恥ずかしそうに笑った。
しかし、きのは次の瞬間、何かを思い出したように
悲しそうな―悔しそうな複雑な表情になった。
僕は「また思い出しちゃったのかい?きの」と尋ねた。
きのは「うん…」と瞳を伏せてうつむいた。
それは、去年の北京五厘でのSPのことだった。
きのはジャンプの軌道に大きな穴が空いていたせいで、
4Sが1Sになってしまい、予定通りのジャンプを実施することができなかった。
演技終了後、きのはその穴のところに戻って来て穴に手を突っ込んだ。
その時、きのは「マジか…」とつぶやいたのだ。
今、悲しい表情をしたと言うことは、
まだこの出来事はきのの心の傷になって残っていると言うことだ。
僕は岐阜戸の時にきのが言っていた
「これはいつの傷だろう?
ちゃんとかさぶたになってる。
でも…治ってない」と言うセリフを思い出した。
僕はきのに
「悲しい記憶を思い出させちゃってごめんよ、きの。
 この洗剤を買うと、いつも悲しい記憶を思い出してしまうから、
 もうこの洗剤を買うのはやめようか…」と尋ねた。
すると、きのは首をブンブンと横に振った。そして、僕にこう言った。
「この悔しさは忘れてはいけないもの。だから、この洗剤を買うのをやめないで!
 大丈夫、成功を続ければ傷は徐々に癒えていくものだから」