1957〜1987年あたりの本格ミステリ作家達 4
落ちてたようなので、初代スレ3氏他多くの方々の帰還を願いつつ立て直してみますた
過去スレの>>1さんの主旨です
>清張以降綾辻以前の本格ミステリは、泡坂・島田・笠井・連城・東野・岡嶋などといった一部を除いて絶版が多い。
>また、名前は知られていても本格ミステリ作家としての認知度が低い作家も多い(笹沢・西村・森村等)。
>
>この時期に活躍した本格ミステリ作家達のうち専用スレがない作家達の傑作・駄作を紹介して下さい。
>(要するに「ミステリーズ」でやってた「本格ミステリフラッシュバック」のようなものです)
過去スレ
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1143140545/
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1195364956/
前スレ
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1237095365/
赤川次郎 「幽霊候補生」★★★★☆ 「三毛猫ホームズの騎士道」★★★★☆
「幽霊列車」★★★★ 「三毛猫ホームズのびっくり箱」★★★★
「死体置場で夕食を」★★★★ 「華麗なる探偵たち」★★★★
「霧の夜にご用心」★★★★ 「ミステリ博物館」★★★★
「過去から来た女」★★★★ 「沈める鐘の殺人」★★★★
赤羽堯 「カラコルムの悲劇」★★★★
生田直親 「殺意の大滑降」★★★★
井沢元彦 「殺人ドライブ・ロード」★★★★☆ 「暗鬼―秀吉と家康の推理と苦悩」★★★★
「修道士の首」★★★★ 「謀略の首―織田信長推理帳」★★★★
井上ひさし 「十二人の手紙」★★★★☆
逢坂剛 「裏切りの日日」★★★★
岡島二人 「そして扉が閉ざされた」★★★★
海渡英祐 「影の座標」★★★★★ 「突込んだ首」★★★★☆
「閉塞回路」★★★★ 「白夜の密室―ペテルブルグ1901年」★★★★
風見潤 「殺意のわらべ唄」★★★★
梶龍雄 「海を見ないで陸を見よう」★★★★★
「灰色の季節―ギョライ先生探偵ノート」★★★★☆
「リア王密室に死す」★★★★☆
「ぼくの好色天使たち」★★★★ 「鎌倉XYZの悲劇」★★★★
川方夫 「親しい友人たち」★★★★★
日下圭介 「鶯を呼ぶ少年」★★★★☆
「密室(エレベーター)20秒の謎」★★★★☆
「女怪盗が盗まれた」★★★★ 「女たちの捜査本部」★★★★
草川隆 「東京発14時8分の死角」★★★★ 「急行〈アルプス82号〉の殺人」★★★★
小杉健治 「裁かれる判事―越後出雲崎の女」★★★★★
「法廷の疑惑」★★★★★ 「月村弁護士 逆転法廷」★★★★☆
「陰の判決」★★★★☆ 「原島弁護士の愛と悲しみ」★★★★☆
「偽証」★★★★ 「二重裁判」★★★★
小林久三 「火の鈴」★★★★☆
斎藤栄 「死角の時刻表」★★★★ 「方丈記殺人事件」★★★★
「春夏秋冬殺人事件」★★★★
嵯峨島昭 「グルメ殺人事件」★★★★ 「白い華燭」★★★★
桜田忍 「二重死体」★★★★ 「殺人回路」★★★★
笹沢左保 「霧に溶ける」★★★★★ 「招かれざる客」★★★★☆
「求婚の密室」★★★★ 「遥かなりわが叫び」★★★★
「異常者」★★★★ 「眠れ、わが愛よ」★★★★
「さよならの値打ちもない」★★★★
「アリバイ奪取」(「別冊宝石124号」収録)★★★★
佐野洋 「高すぎた代償」★★★★☆ 「脳波の誘い」★★★★
島田一男 「犯罪待避線」★★★★☆ 「箱根地獄谷殺人」★★★★
「去来氏曰く」(別題・夜の指揮者)★★★★
新谷識 「ピラミッド殺人事件」★★★★
蒼社廉三 「戦艦金剛」★★★★
高木彬光 「密告者」★★★★
高柳芳夫 「悪夢の書簡」★★★★ 「奈良-紀州殺人周遊ルート」★★★★
多岐川恭 「異郷の帆」★★★★
多島斗志之 「金塊船消ゆ」★★★★ 「聖夜の越境者」★★★★
陳舜臣 「方壺園」★★★★★ 「獅子は死なず」★★★★☆
「三色の家」★★★★☆ 「枯草の根」★★★★
「長安日記」★★★★
司城志朗 「そして犯人(ホシ)もいなくなった」★★★★☆
辻真先 「紺碧(スカイブルー)は殺しの色」★★★★☆
「迷犬ルパンの名推理」★★★★ 「ローカル線に紅い血が散る」★★★★
津村秀介 「北の旅 殺意の雫石」★★★★☆
「虚空の時差」★★★★ 「瀬戸内を渡る死者」★★★★
長井彬 「北アルプス殺人組曲」★★★★ 「槍ヶ岳殺人行」★★★★
「白馬岳の失踪」★★★★
中津文彦 「特ダネ記者殺人事件」★★★★ 中町信 「高校野球殺人事件」(別題・空白の殺意)★★★★
「女性編集者殺人事件」★★★★ 「『心の旅路』連続殺人事件」★★★★
夏樹静子 「蒸発」★★★★ 「第三の女」★★★★
「Wの悲劇」★★★★
「暁はもう来ない」★★★★(「見知らぬわが子」収録短編)
仁木悦子 「猫は知っていた」★★★★☆ 「冷えきった街」★★★★
西村京太郎 「殺しの双曲線」★★★★☆ 「殺意の設計」★★★★☆
「赤い帆船(クルーザー)」★★★★☆ 「消えた乗組員」★★★★
「発信人は死者」★★★★ 「消えたタンカー」★★★★
新羽精之 「日本西教記」(「推理文学」(1971年4月陽春号)収録中編)★★★★☆
伴野朗 「三十三時間」★★★★
「高昌城の怪」(「驃騎将軍の死」収録短篇)★★★★
深谷忠記 「ゼロの誘拐」★★★★☆ 「寝台特急『出雲』+−の交叉」★★★★☆
「津軽海峡+−の交叉」★★★★
松本清張 「点と線」★★★★☆ 「アムステルダム運河殺人事件」★★★★
水上勉 「巣の絵」★★★★
皆川博子 「妖かし蔵殺人事件」★★★★
南里征典 「オリンピック殺人事件」★★★★
三好徹 「疵ある女」(「悪の花園」収録短編)★★★★★
「砂漠と花と銃弾」★★★★ 「天使が消えた」★★★★
「乾いた季節」★★★★
本岡類 「白い森の幽霊殺人」★★★★
森真沙子 「青い灯の館」★★★★
森村誠一 「高層の死角」★★★★☆ 「虚構の空路」★★★★
「致死海流」★★★★ 「腐蝕の構造」★★★★
山村正夫 「大道将棋殺人事件」★★★★ 「獅子」(「宝石」(1957年11月号)収録)★★★★
山村美紗 「花の棺」★★★★
結城昌治 「赤い霧」★★★★☆ 「夜の終わる時」★★★★
「暗い落日」★★★★ アンソロジー「ホシは誰だ?」★★★★ 「鉄道ミステリ傑作選」★★★★
「私だけが知っている−第2集」★★★★
他の方の高評価一覧
岩崎正吾 「風よ緑よ故郷よ」★★★★☆
梶龍雄 「海を見ないで陸を見よう」★★★★★ 「草軽電鉄殺人事件」★★★★☆
「葉山宝石館の惨劇」★★★★ 「清里高原殺人別荘」★★★★
「大臣の殺人」★★★★
日下圭介 「木に登る犬」★★★★★
黒木曜之助 「妄執の推理」★★★★
笹沢左保 「愛人岬」★★★★
佐野洋 「七色の密室」★★★★ 「銅婚式」★★★★
関口甫四郎 「北溟の鷹」★★★★
草野唯雄 「もう一人の乗客」★★★★ 「女相続人」★★★★
陳舜臣 「闇の金魚」★★★★
土屋隆夫 「影の告発」★★★★
南條範夫 「三百年のベール」★★★★
伴野朗 「密室球場」★★★★
檜山良昭 「山之内家の惨劇」★★★★
眉村卓 「消滅の光輪」★★★★☆
結城昌治 「ハードボイルド夜」★★★★☆ 「仲のいい死体」★★★★
麗羅 「桜子は帰ってきたか」★★★★
サンクス。
前スレは、笹沢左保の時代ものを(「木枯し紋次郎」シリーズ以外にも)、本格ミステリ的要素に
着目して評した、3氏のコメントが興味深かった。
あの続きは、是非お願いしたいものだが・・・ 高評価一覧とかいるの?
たくさん読んでるのはすごいけど評価は極めて個人的なものだと思うよ
いくつか知ってる作品の評価を見るかぎりでは 別に、評価は違ってもかまわないな。
リストを眺めながら、うん、この高評価は納得、とか、え〜、あれがそんな傑作かい?
と突っ込んだりするのが楽しい。
まあ、大事なのは星印よりコメントだけどね。
未読の作品が、面白そうにガイドされていると、よし、騙されてみるかw という気にな
って、俄然、読書欲をそそられる。
>>1乙
レビューされた作品のリストを途中まで作ったけど、面倒くさくなってやめちまった >>1乙です。
夏樹静子「砂の殺意」(角川文庫)★★★
1971〜73年に発表された初期作品を収めた短編集。
「あちら側の女」は、不倫相手の男が自宅に戻る途中で凍死。事故ではなく本妻が係わっている
のではないかと疑う愛人のお話。凍死に関するアリバイ工作がありますが、ぎこちない感じ。
表題作は、一人息子が工事現場でダンプの捨てた土砂に埋まって死亡。母親は執念で、土砂を
捨てた運転手を捜し求めるのだが・・・。思いも寄らない方向に事態が進んでゆきますが、少々虫の
良すぎる展開ですねえ。
「襲われた二人」は、アベックを狙う二人組に襲われて恋人に幻滅した経験のある女性。今度
は不倫の愛人の本心を確かめようとするのだったが・・・。冒頭にちょっとした仕掛けがあり、なか
なか錯綜した展開を見せ、意外な真相も決まっていますが、短い枚数に収めたため、ややゴチャ
ゴチャしているのが残念。
「面影は共犯者」は仲が冷えた夫が出張先で死亡。妻と夫の弟は事件の真相を探るのだが・・・。
結末はかなり意外なもので、冒頭の描写の技巧なども流石。本編中の佳作でしょう。
「沈黙は罠」は、昔の恋人に脅迫された妻が、その帰りに或る殺人事件の容疑者を目撃してしま
う。目撃したことを夫には知られたくないのだが、その殺人事件で夫に容疑がかかっているこ
とを知り・・・。まあまあ。
「だから殺した」は、婦人警官が主人公。恋人のサラリーマンが殺人事件の容疑者となる。だが
意外にも真相は・・・。
「二DK心中」は団地で母子がガス中毒死。無理心中かと思われたが、それを信じない友人の
女性が真相を探ると・・・。凡作ですね。
「秘められた訪問者」は名士の夫人が夫を毒殺。淡々とした様子で取り調べに応じていたが、
突然、共犯者の存在を暗示するようになる・・・。アリバイ物の変形ですが、出来は良くないです。
全体に、女性を主人公に据えて、その複雑な心理を描き分けようと苦心した作品群が並ぶので
すが、出来は玉石混交。総じて前半の作品の出来が良いですね。 小林久三「喪服の試写室」(角川文庫)★★★
映画物で固めた短編集。収録作の初出が不明ですが、文庫版は1978年初版。
先ずは表題作。銀座のど真ん中で、ビル壁面に予告編を映すという奇想天外な宣伝を行った映画
会社の宣伝マン。だがその最中に彼の上司が殺されてしまう。会社の方針を巡って対立していた
宣伝マンが犯人か、だが彼には映画を映写中というアリバイがあった・・・。アリバイ崩しと見せて
実は・・・、という真犯人の意外性とドンデン返しが鮮やかな佳品です。
「残酷な消印」は人気女優が郵便配達員と無理心中。だが巧妙に偽装した殺人ではと疑う刑事が
追及すると・・・。アリバイ物ですが、トリックよりも、妻が他の男と心中した刑事の微妙な心理
をメインに追求した作品です。
「鬼籍の眼」は奇談風の作品。隠棲した映画監督が、やはり引退して姿を消した幻の名女優を使っ
て新作映画を作っているとの噂を聞いた新聞記者。その映画とは・・・。
「赤い落差」は姉が著名な映画監督に殺されたとシナリオライターに訴える女性の話。果たして
その映画監督の容疑は濃厚だったのだが、彼には鉄壁のアリバイがあった・・・。或る古典的なトリッ
クによるアリバイ工作を打破した後にドンデン返しを迎えます。
「深夜の秘戯」、日本を代表する映画監督が撮影所内で殺される。一緒にいたカメラマンが容疑
者として逮捕されるのだが、実は・・・。
「柩の手紙」は、戦前に活躍した幻の女優のスチール写真を映画会社にリクエストしてきた男の話。
以上、斜陽のドン底にあった当時の映画界の状況を色濃く反映した、この作者らしい作品集。例に
よって作者の映画界へのドロドロした愛憎がムキ出しなので、どれも暗い作品ですが、一応、トリッ
クや犯人当てに配慮した作品も多く、一読の価値はあるでしょう。 赤川次郎「三毛猫ホームズと愛の花束」(角川文庫)★★
1988年のシリーズ第15作、短編集では第5作目。
「三毛猫ホームズの名騎手」は、馬に蹴られて死んだとしか思えない事件が連続。現場は普通の
住宅街で馬が出没するはずはないのだが・・・。序盤の不可解性は良いのだが、真相は尻すぼみで
ガッカリ。
「・・・の夜ふかし」は職人気質の泥棒とその娘の心温まる話だが、事件の謎解きは今ひとつの出来。
「・・・の幽霊城主」はアマチュア劇団のパトロンの大邸宅で起きた連続殺人の真相。これも謎解き
が単純で面白くない。
巻末の表題作は結婚相談所で起きた散弾銃による殺人事件。片山、晴美、石津とホームズの一行は
相談所が主催する合同見合いパーティでひと騒動。果たして真犯人は・・・。これも色々と胡散臭い人
物を配した割りにはトリッキーな真相ではなくガッカリ。
全体的に、謎解きで満足できるレベルの作品はないですね。三毛猫ホームズシリーズも、第1作
からほぼ時系列で読み進めてきましたが、この辺りで限界でしょうか。
佐野洋「I・N・S探偵事務所」(角川文庫)★★★
1963年の表題の連作集に、傑作長編「賭の季節」の原型となった短編「影の女」を併録。
先ずは表題の連作集。基本的に、素行調査、浮気調査などがやがて殺人などの大事件に発展して、
実は真相は・・・、というパターンの作品が多いですね。本格ミステリとして云々するほどの作品は
殆どないですが、まあ楽しめました。
短編「影の女」も、ちょっとしたトリックの引っ掛け方が上手いですね。本格ミステリとしては、
長編化した「賭の季節」の方が上ですが。 笹沢左保「潮来の伊太郎1−大利根の闇に消えた」(徳間文庫)★★★
1973年の股旅物シリーズ、潮来の伊太郎を主人公とした第1作。潮来の伊太郎、橋幸夫の歌で聞いた
ことのある人物ですが、渡世人だとは知らなかった・・・。
内容的には、同時期に発表していた木枯し紋次郎シリーズと同様のもの。渡世人の伊太郎が十年ぶり
に故郷の潮来に帰ってくるも、地元親分の策略により再び当てのない旅に出る。伊太郎は幼馴染みで
利根川で死んだはずのお袖という女性を探しながら、街道筋の道中で事件に巻き込まれてゆく、とい
う形式の一話完結方式で、ミステリ的なドンデン返しの効いた作品も幾つかある、といったところ。
紋次郎シリーズでも多用された、或る傾向のトリックが多いのですが、それが上手く決まった作品は
紋次郎シリーズに比べて少ないように感じられました。あと主人公もやはり紋次郎に比べると魅力不
足か。右手が痺れるという持病を抱えており、いざというときに窮地に追い込まれるなど、工夫はし
ているのですがねえ・・・。 笹沢左保「潮来の伊太郎2−決闘・箱根山三枚橋」(徳間文庫)★★☆
1974年のシリーズ第二巻にして完結編。
「怪談・熊谷宿大黒屋」は、手篭めにしようとして殺してしまった娘が、加害者である商家の旦那
の前に幽霊となって現れる。遂に旦那は恐怖のあまり死に至ってしまうのだが・・・。怪談嫌いの作者
なので、当然、怪談仕立てのまま終るはずはなく、ラストで論理的に解明されます。肝心の描写が
フェアであることに感心しました。
「貸元・鬼神丸の伊蔵」は、隣町の親分に縄張りを荒らされた一家が、復讐のため、一家に草鞋を
預けた伊太郎を差し向ける。だが・・・。意外な真相ですが、これは作者の股旅物では良くあるトリック。
表題作は、伊太郎が町娘と手を取り合って駆け落ち・・・、しかし。まあそんな筈はなく、中盤で引っ
くり返りますが凡作ですね。
「心中・東海道薩?峠」は、心中死した若い男女。片や商家の若旦那、もう一方は同じ町の貸元の
娘。死体を発見した伊太郎は事件に巻き込まれるのだが・・・。これも冒頭の伏線などが上手いですね。
最終話「名月・武州殺生ケ原」で、遂に伊太郎はお袖の居所を突き止める。だが彼女は一足違いで
地元の一家に殺されてしまう。しかし・・・。ラストのドンデン返しはミエミエで、感動の大団円、と
いうには残念な出来栄えでした。 6連投スマソカッタ
高橋克彦「即身仏の殺人」(文春文庫)★★★☆
「パンドラ・ケース」、「南朝迷路」に続く、塔馬双太郎とのその大学時代の友人である、雑誌編集者の
亜里沙、ミステリ作家の長山作治、女優の月宮蛍らが活躍する1990年のシリーズ第三作。
出羽三山の映画ロケ現場で発見された即身仏と思しきミイラ。現場にいた女優の月宮蛍から調査の
依頼を受けて、リサと作家のチョーサクのコンビが山形入りする。発見されたミイラには不審な点
があり、別の場所で発見されたものを、わざわざ埋め戻しておいたものが、またも再発見されたら
しい。更にミイラは何者かによって盗まれてしまう。埋め戻したのは、そして盗んだのは一体誰な
のか。地元出身の映画プロデューサー、彼と反発する地元議会議長、寺の住職など怪しい人物がう
ごめく中、遂に殺人事件も勃発してしまう。チョーサクから話を聞いて現地入りした塔馬双太郎の
推理や如何に・・・。
第二の殺人における「犯人は・・・・・していたのではなく・・・・していた」という意表を突いた真相や、或
る名前についての犯人の錯誤に絡めた伏線など、「本格」の琴線に触れる部分も多く、ミイラを巡る
真犯人の不可解な行動の謎解きも納得できるようになっています。やや強引な部分もありますが、
先ず先ず合格点でしょう。 >>1さんスレ立て乙です。
そして3師も早速のレビュー乙です!
今後とも楽しみにしております 西村京太郎「名探偵も楽じゃない」(講談社文庫)★★★★
1973年のシリーズ第3作。
ミステリ小説マニアの団体「Member of Mystery Manias」、通称MMMの会長・岡部は、自らが経営
するホテルに、ポワロ、クイーン、メグレ、明智小五郎の4大探偵を招待した。ところが懇親パーティ
に、自分こそは現代の名探偵、左文字京太郎と名乗る謎の青年が乱入してきた。その直後、岡部は
シャンパンに入っていた青酸カリで毒殺されてしまう。それを皮切りに、ホテルの最上階を舞台に
MMMのメンバーが相次いで殺されてゆく。4大探偵は左文字京太郎のお手並み拝見とばかり、一歩
退いて彼の推理に注目するのだが、果たして事件の真相とは・・・。
前作「名探偵が多すぎる」が豪華客船という密室内での事件を扱ったように、今回は、殆どの場面
が高級ホテルの最上階に限定されているという凝りようです。あまりにアッケなくバタバタと殺さ
れてゆく中で、名探偵たちが精彩を欠いており、特にクイーンの描き方が全くなっておらず、好い
加減にも程があるのが難点ですが、中盤以降に繰り広げられる、吉牟田警部補の推理、MMMメン
バーの推理、そして左文字京太郎の推理という、3者の推理合戦が一番の読みどころ。シャンパン
の毒殺トリックもなかなかユニークですが、ドアの鍵穴に張られていたガムテープの真相など、細
かい部分のトリックがかなり見事なもの。
なおラストに、4大探偵による最後の推理が出てくるのですが、これは評価が難しいですね。やは
り彼らの推理がないと納まらないし、とはいえ、あのラストの出し方では、どうしても真犯人が容
易に推測できてしまうし、何より、4大探偵の推理が、堅実だけど一番面白くない、というのが一番
の問題ですね。
しかしながら、1970年代に、珍しくも推理の応酬を描いた作品ということで、高い評価ができると
思います。 笹沢左保「寛政・お庭番秘聞」(祥伝社ノン・ポシェット)★★☆
徳川第十一代将軍・家斉に仕える公儀隠密のお庭番・伊吹竜之介を主人公とする、1975年の時代物
スパイ小説連作集。伊吹は「寅」のコードネームを持つ優秀なスパイだが、密命のかたわら、仲間
を裏切って姿を消した実の兄を斬るべく、その行方を捜している、という設定です。
第1話「羽後の国に死す」は情け容赦のないオープニング、任務に背き、秋田の城下で町人として過
ごす隠密の処刑に向かった竜之介。狙う相手が姿をくらましたのだが・・・。作者の時代物ではお馴染
みの或るトリックに、もう一つトリッキーな仕掛けが冴える佳作。
「加賀の国に燃える」は金沢で行方を絶った隠密の捜索に向かった竜之介。前田藩の隠し財産の横領
事件が背後に絡んでいることを知るが・・・。ダイイング・メッセージと暗号解読だが出来は今一つ。
「相模の国に斬る」は肥後から任務を終えて帰任する二人の隠密が箱根の宿で何者かに襲撃される。
同宿の容疑者は四人いるのだが・・・。真犯人の意外性を狙ったものだが、これはバレバレ。
「越後の国へ去る」は、米沢・上杉家の調査に向かった相棒が、竜之介の到着を待たずに不審な行動
を取っているのだが・・・。動機と心情は分かるけど、竜之介の行動と判断は甘いよなあ。
「備前の国は遠く」は、公儀隠密の潜入を恐れる岡山・池田藩、江戸詰め家老の娘が国許に向かう。
彼女の使命は何なのか。竜之介はわざと近づいてきた娘とともに備前への道中を続けるのだが・・・。
「薩摩の国に殪す」は最も警戒厳重な薩摩藩への潜入。現地には情報を握る謎の男がいるという。
そして遂に竜之介は仇の兄に出会うのだが・・・。
全体的に、前半はミステリ的な趣向が活きていますが、後半のエピソードは謎解き的な趣向やドン
デン返しが殆ど消えてしまっており残念な出来です。 「幻影城」誌(1976年9月号)
本号は収録短編が興味深い作品群だったので購入。
先ずは中町信「Sの悲劇」★★☆。本作を表題とする短編集が「フラッシュバック」で紹介されています
が、古書店でついぞ見かけたことがない・・・orz内容は、会社の独身寮の寮母を訪ねてきた妹が殺される。
ダイイングメッセージの「S」は何を意味するのか・・・。この作者らしいのですが、伏線があからさま
過ぎますw
麓昌平「折れた首」★☆。会津の温泉宿で初老の男が心臓麻痺死。同行していた男が何者かから脅迫
を受けるのだが・・・。全くトリッキーでなく、謎解きとしては失格。駄作。
山村直樹「わが師、彼の京」★★★。書道家でもある京都の大学教授が双ケ岡で殺害される。現場に
遺された「西行なけ」のダイイングメッセージの真相とは・・・。結末でひとヒネり加えており、先ず
先ずの出来。
桜田忍「弱者の部屋」★★★。左翼の大学講師が殺される。対立するセクトによる内ゲバか?初老の
刑事は、真相は別にあるとして事件を追うのだが・・・。謎解きとしては評価できませんが、犯人と彼
を追う刑事のうらぶれたキャラとその描写の上手さは群を抜いています。
香住春吾「一割泥棒」★★★☆。大阪・西荻署シリーズの一編、とのこと。1万6千円を盗んだ空き
巣。ところが被害者の中小企業社長は「16万円盗まれた」と供述し、アタマに来た空き巣。再び被
害者宅を襲い、8万7千円を盗むが、今度は「87万円盗まれた」と届け出る。十倍の被害額をデッチ
上げる被害者は何を狙っているのか・・・。これはユーモア・ミステリとして大変楽しめました。さすが
にテレビのコメディ番組だかの実績がある作者だけのことはあります。大阪弁による被害者と空き
巣のボケと突っ込みが最高。今読んでも笑えるユーモアのセンスの高さとテンポの良さ、ラストの
哀愁も上手い。十倍の被害額をデッチ上げた動機も、けっこう意外なところを突いており楽しめま
した。本作がベスト。 藤沢周平「秘太刀馬の骨」(文春文庫)★★★
1992年の長編。
北国の或る藩で、派閥争いを制した家老が、六年前に二代前の家老が暗殺された事件で致命傷を
負わせた謎の剣技「馬の骨」の使い手が一体誰なのか調べるよう、甥の銀次郎と部下の浅沼半十郎
に命ずる。馬の骨を断ち切るほどの剣技「馬の骨」が代々伝わってきた道場で、師匠から伝えられ
たと疑われる高弟は五人。他流試合を禁じている道場の連中の腕前をムリヤリにでも探るべく、
銀次郎は相手のスキャンダルを探っては、試合をせざるをない状況に追い込んでゆく。だが五人の
高弟と試合をしても「馬の骨」の使い手は見つからない。更に藩の派閥争いが再発し、巻き込まれ
てゆく二人。果たして謎の剣法の使い手の正体とは・・・。
これは「犯人当て」のミステリとしても、まあ鑑賞に耐える作品ですね。名探偵役に当たる銀次郎
のキャラも、時には反感を覚えるほど冷酷に描かれるかと思えば、アッサリ試合相手に負けてしま
ったり、剽軽な一面を見せたりと、結構魅力的に描かれています。彼を手伝う浅沼も、ワトソン役
としてなかなかの活躍。
ただ、真犯人は意外ではあっても、肝心の部分の描写がフェアではないし、伏線も不足気味。再発
した派閥争いとの繋げ方も、少々バタバタした感じ。
なお、解説で出久根達郎が指摘している「本当の真犯人」は、確かにそう考えることも可能とは思う
し、ミステリを愛読していた作者なら、その点も計算に入れていたのだろうとは思いますが、本当
に「あの人」が真犯人だと想定していたのなら、幾らでもそれを匂わせる伏線を序盤から張ることが
できたはず、少々考えすぎでは?と思いますけどね。 矢島誠「鎌倉XXの殺人」(天山ノベルス)★★☆
1988年の長編。
妻を亡くして転業を決意していたルポライターの北沢は、友人の婚約者が失踪した事件を追っていた
女性編集者が行方不明になったことから、その婚約者の男と女性編集者の行方を追うことに。だが事
件は鎌倉で起きた鎌倉彫の第一人者の家族を狙った連続殺人事件へと絡んでゆく。母親と兄を相次い
で喪った一人娘の早紀子とともに事件を追及する北沢だったが、最初に失踪した男が残していた謎の
メモ「八八○×」は何を意味するのか・・・。
主人公のキャラに一工夫が見えるし、事件の構成にもヒネりを加えてはいますが、いかんせん謎解き
自体の設定が弱すぎる。「八八○×」の真相がどうにもバカらしくて・・・。特に破綻している訳ではな
いですが、構成もスキが多すぎます。凡作ですね。 和久峻三「魔女失格」(角川文庫)★★
1972〜78年発表の、割と初期の短編集。
表題作は、酒造会社の会長と女性社員の騙しあいの顛末。まあこんなものか。
「尊属殺人事件」は法廷物の佳作。飲んだくれの義父を殺した女性。裁判では一転して無罪を主張する
が・・・。結末の意外性もさることながら、本作が、尊属殺人が無期又は死刑のみと規定されていた時代
の作品であることがポイント。
「淫獣の寺」、「残酷な埋葬」、「残忍な天使」、これらはどれも駄作。
「鸚哥は知っていた」も、或る法律を使ったオチは上手いが、それだけ。
注目すべきは「さそりの女神」。推理作家協会の新年会用の懸賞小説として書かれたもの。選挙で当選
した直後の議員が、室内にいたところを洋弓で射殺される。開いていた窓を通して外部から射られた
ものと思われたのだが・・・。失敗して壁に突き刺さった一本目の矢、という伏線、そして窓が開いて
いた本当の理由が意表を突いており、これは「本格」ミステリの良作として、作者の底力を示す出来栄
えの作品でした。 眉村卓「還らざる空」(ハヤカワ文庫)★★★
主として昭和30年代に書かれたごく初期の作品集。
「準B級市民」は、減少する人口問題を解消するために作られた「政策出生者」という名のロボットたち
が、やがて人口の回復とともに普通の人間たちから弾圧を受ける。主人公のイソミは、妻のマツヤと
ともに収容所送りとなるのだが・・・。トリッキーにヒネッたオチと伏線の張り方は、本格ミステリにも
通じるものがありますね。
表題作もまたトリッキーな作品。巨大なドーム内に作られた都市で、都市を維持する機能が故障する。
都市の技師長であるカートは、必死になって故障の原因を探り、復旧させようとするのだが、実は・・・。
SFでは割とポピュラーなテーマですが、結末の意外性に工夫を凝らした作品。
「表と裏」は、シェクリイの名作短編集「人間の手がまだ触れない」の影響を受けたような作品。探検
隊救助のため緊急出動する宇宙船に、手違いで閉じ込められてしまった士官。宇宙船の人工頭脳は、
彼を救助用ロボットだとしか認識しなかった。主人公はコンピュータを騙し騙し、生き延びてゆく
のだが・・・。これもラストのドンデン返しが効いていますが、暖かい気分とほろ苦さのバランスが絶妙。
「紋章と白服」は、己の能力次第で貴族階級になることができる時代の話。だが実は・・・。
「ゲン」は、宇宙戦争を扱った作品。敵の正体とは一体・・・。
「惑星総長」は、甘いにも従順な原住民の住む惑星でダラケきった地球人らを改革しようと奮闘する
男の話。まあまあ。「時のオデュセウス」、「ある出帆」は、今ひとつ面白さが分かりませんでした。
もちろんSF短編の作品集ですが、「準B級市民」と表題作は、ミステリの構成に従った作品として
評価できると思います。 日下圭介「偶然かしら」(新潮文庫)★★
作者の著作のうち、ブクオフで一番よく見かけるのはコレと「こ・ろ・す・のよ」ですね。1985〜1988年に
発表された作品を収めた短編集。
先ずは表題作。偶然に偶然が重なって殺されてしまった男。だが実は・・・。まあ偶然の積み重ねと、
それをひっくり返すのは簡単なことで、何とでも書けるネタだよなあ。トリッキーな面白さが全く
ない。
「歌で死ぬ」はバーでカラオケの最中に死んだ男。毒殺の容疑が固まるのだが・・・。これも同様。
「透明な糸」も、犯人はバレバレ。
「消えない女」はなかなかの佳作。或る男が旅行先の伊勢湾のホテルで男に出会う。その男が話す奇怪
な話。二十年以上も前に家出した妻に似た女性をこのホテルで時折り見かけるため、毎年ここに来
るのだと言う。今年もまたホテルの送迎バスの中で見かけたのだが、密室状態の車内から突如消え
てしまった・・・。だが聞き手の男にもまた、その女性に重大な関係があった・・・。不可解な発端から
意表を突いた真相まで間然とするところのない構成で、ラストの一行も非常に効いています。
「健康のための殺意」「青い百合」ともに凡作。
「仰角の写真」がベスト。家族のスキャンダルをライバル紙に暴かれた新聞記者。それがデッチ上げ
であることを証明してくれた女性が殺される。新聞記者とその後輩が事件を追うのだが・・・。これは真
犯人の意外性に成功した作品。何気ない会話に含ませた伏線も上手く、フェアであるよう配慮されて
います。
「印画紙の場面」、「長すぎた一瞬間」は、ともに写真や動植物ネタなのだが、かつての初期傑作短編
群における同じネタの扱いに比べると、雑というか散漫な印象の凡作でした。
「消えない女」と「仰角の写真」の2作のみ読む価値があるでしょう。 9連投スマソカッタ
阿井渉介「生首岬の殺人」(講談社文庫)★★☆
「まだらの蛇・・・」「風神雷神・・・」「雪花嫁・・・」に続く、1994年の警視庁捜査一課事件簿シリーズ
第4作。
写真週刊誌専門のカメラマンが偶然撮影した、人間の生首をくわえた犬の写真。一方で、女子銀行
員の誘拐事件が勃発。犯人の要求は、5つの零細企業に融資をしろという風変わりなものだった。
若手刑事の堀と不良中年刑事の菱谷のコンビが捜査を進めるうち、犬のくわえていた生首は、誘拐
事件で融資を受けた会社の社長であることが判明する。二つの事件はどう関わっているのか、堀・
菱谷コンビの活躍や如何に・・・。
相変わらずのキャラの登場人物らに、相変わらずの妙な正義感と人情に満ちた「阿井調」の世界w
メイントリックは、アリバイ工作に関する、かなり大技のトリックなのですが、捜査陣、特に不良
中年刑事の菱谷の手前勝手な「浪花節」全開で、謎解きが全く楽しめませんでした。堀刑事が真相に
気づく場面など、なかなか印象的なシーンで良いのですけどねえ・・・。 「黄金の鍵」
イマイチだったな〜
高木先生には悪いけど >>27
「黄金の鍵」がイマイチだったら、あのシリーズ、残りはつらいぞ〜。
最後まで読んで、アノ趣向を確認してほしいけど。 「黄金の鍵」は殺人事件の謎解きより赤城山埋蔵金に関する解釈のほうが面白かった。 「黄金の鍵」は確かに事件よりも埋蔵金のネタの方が面白かった。
糸井重里はこの本を読んだことがあるのだろうか?
次作の「一、二、三-死」は案外面白かったよ。
犯人はある程度予想つくけど動機や犯人像が楽しめた。
>>30
確かに、あの殺人動機は異様だったね。
墨野朧人シリーズは作者の全盛期に完結していたら、と思うと残念です。 栗本薫「伊集院大介の私生活」(講談社文庫)★★★☆
1985年のシリーズ短編集第2弾。「伊集院大介の・・・」のタイトルで統一された作品を収録。
「・・・の追憶」は、伊集院の学生時代の話。ドケチな質店の女主人殺しの真犯人を暴くもの。被害者
の知られざる性格を見抜く腕前は流石だが、ただそれだけ。
「・・・の初恋」は高校時代、同級生らが恋焦がれる女性を巡る事件。或る男には妖艶な美女と慕われ、
また別の男からは清楚な日本風の女性に思われ、また別の男からはアンニュイな大人の女性と思わ
れているその美女の正体とは・・・。文中でも指摘されていますが、チェスタートン流の思い切った着想
が上手いです。
「・・・の青春」は学園紛争の時代の話。伊集院は同級生とともに、活動家の女子大生が何者かによっ
て校舎から転落させられた事件を追及する。事件直後に伊集院が見た「緑色の腕の男」の正体とは・・・。
これはアッサリした凡作。
「・・・の一日」は、山科警部から電話で概要を聞いただけで事件を解決するや、今度はラーメン屋で
見かけた女性のなぞめいた行動からトンデモない真相を引き出す話。
「・・・の私生活」は、毎日、山手線に乗り続け、適当な駅で降りては、キオスクで脈絡もない買い物
を続ける伊集院。山科警部と森カオルのコンビが密かに尾行してみると・・・。これはいわゆる「日常の謎」
系の佳作ですね。後味も良い作品に仕上がっています。
「・・・の失敗」は雪の密室殺人。軽井沢で真冬の別荘を管理するアルバイトを続ける伊集院が隣の別
荘で起きた殺人事件の真相を暴くのだが・・・。密室トリックは、はっきりいってバカミスに近いですが、
これはこれで面白かった。
以上6編、本格ミステリとして詰めの甘い作品もありますが、奇想天外なアイディアと発想の飛躍
は、「新本格」の先駆といって良いでしょうね。 中田耕治「異聞猿飛佐助」(東都ミステリー)★★★
1963年の時代ミステリ長編。
江戸時代初期、徳川と豊臣の対立が決定的となり、風雲急を告げる頃、猿飛佐助は、信州・中仙道
を旅していたが、道中で彼に出会った稲村光秋と名乗る侍から、徳川方から豊臣方に寝返った隠密
の重鎮・郡山帯刀を無事に上方まで送り届けてほしいと頼まれる。稲村は何者かに殺され、その魔
手は猿飛に迫る。更には諏訪藩の奉行・久仁や幕府方の追っ手、高谷左近の一派らが三つ巴、四つ
巴の暗闘を繰り広げる中、佐助は、知り合った謎の女性らを殺した真犯人と、郡山の居所を追求す
るのだが・・・。
錯綜する対立関係と人間関係がやや分かりにくいのが難点ですが、終盤、一連の連続殺人の真犯人
を特定する猿飛の推理や、郡山の居所を暗示する手紙の暗号解読など、謎解きの要素はそれなりに
あり、満足できました。「本格」とは言い難いかも知れませんが一読の価値はあるでしょう。 (番外編・オマケ)
マンガ「新オバケのQ太郎」より、「Qちゃんは名たんてい」の巻
木佐くんが正ちゃんに、貴重なマイクロシールを自慢していたところ、くしゃみでシールが吹っ飛んで
紛失、木佐くんは正ちゃんが盗んだと疑う。憤慨したQちゃんは、木佐くんを正ちゃんの自宅に連れて
きて、部屋じゅう探してみろと言う。だが本当に部屋からマイクロシールが出てきてしまう。Qちゃん
はドロンパとO次郎に探偵になって真相を解明してくれ、と頼むのだが・・・。
ドロンパは明智小五郎、Oちゃんは銭形平次に化けて、シール盗難事件を追及します。結局、Oちゃんが
見つけた或る手がかりから意外な真犯人が暴露されます。ミステリにしてはごく軽いものですが、紛失
直後のコマと、正ちゃんの部屋でシールが見つかる瞬間のコマに、ちゃんと真相を暗示する「もの」が
ハッキリと描かれており、伏線としてもなかなかフェアではないか、と感心しましたw
しかし本編で一番好きなのは、「犯人はこの中にいるっ!」と大見得を切ったドロンパとQちゃんの以下の
やり取りですね。
ドロンパ「正ちゃんが犯人でないとすると、真犯人は外から来たことになる」
Qちゃん「そのとおり」
ドロンパ「しかるに、部屋のふすまも窓も閉まっていた!」
Qちゃん「そのとおり!」
ドロンパ「閉まっていても入れるもの、なあんだ?」
Qちゃん「すきま風かオバケ!」
ドロンパ「(Qちゃんを指差す)」
Qちゃん「なあんだ、そうだったのかあ!・・・・・・・みんな聞いた?犯人はぼくだってよ。
・・・・・・・・・とおんでもない!」
古今東西のミステリにおける密室解明シーンで、これ以上のものはないです。最高w ひょっとして辻真先先生は、>34の密室解明シーンを意識してアノ作品を書かれたんですかね? 山崎洋子「きらきらと闇に堕ちて」(中公文庫)★★★☆
1988年の長編。
富豪の次男ながらも麻薬中毒になった夫・隼人に愛想を尽かし、タイ・バンコクから帰国した妻の
実生。自らもアル中になってしまっていたが、東南アジアに残してきた隼人がマレーシアで何者か
に殺される。死の直後に出した手紙には、珍しい蝶を手に入れて、父親に贈ってほしい、との謎の
メッセージが。実生は隼人の遺言に従って、希少な蝶のコレクションを巡る迷宮へと踏み込んでゆ
く。実生はかつての恋人だった久門草平と再会し、隼人の母親の意を受けて実生を監視する北川に
付きまとわれながらも、事件の真相を求めて、東南アジア各国を旅する・・・。
メイントリックについて、或る人物がなかなか・・・・・・・であったためにバレやすくなっているのが
残念ですが、レッドヘリングが先ず先ず成功しており、真犯人とその動機を気付かせにくくなって
いるのは評価できると思います。隼人の手紙にあった蝶の名前や、序盤の小事件の真相など、細か
い部分の趣向も上手い。
なおヒロインの造型が個人的には好きになれなかったのですが、東南アジアに棲息する希少な蝶と
いう題材も含め、熱帯の毒に魘されたような雰囲気に満ちた作品。傑作とは言えないですが、犯人
当て興味も踏まえた独特な雰囲気の良作でしょう。 夏樹静子「死の谷から来た女」(文春文庫)★★☆
1987年の長編。
高知県の鉱山で夫や両親らを爆発事故で亡くし、東京に出てきてサウナ風呂で働く北村恵は、常連客
の俵と知り合ったことから運命が大きく変わってゆく。俵の知り合いである鉱山会社オーナー相庭に
気に入られ、彼の養女となることに。だが、高知県の廃鉱では、謎の男が転落死を遂げていた。使い
道のなくなった鉱山に拘る恵は、夫の死について何かを知っているのではないか。一方、相庭や俵の
方もまた秘密を抱えているらしい。更に第二の事件も起きるのだが、果たして真相は・・・。
ヒロインの恵、相庭、俵が、それぞれ相手の知らない秘密を抱えており、その三つ巴の暗闘の真相が
ポイントなのですが、どれも途中で薄々と分かってしまうので、結末の意外性に驚きがないのが残念。
構成はしっかりしたものですが、伏線の張り方などに、衰えが感じられます。凡作でしょう。
斎藤栄「湘南海岸殺人事件」(講談社文庫)★☆
1969〜1978年に発表された、湘南・横浜を舞台にした作品を収めた短編集。
倒叙物の「ポケベル殺人」、「殺人者の指」は、一応、一定の水準を満たしていますが、他は駄作ばかり。
ホラー風の「稚児ケ淵の呪詛」、「氷川丸・幻の出港」、「油壺の殺意」は、理屈っぽさがおよそホラーに
合っていないし、「腐った海」、「黒い海の花」は三流アクション。
ベストは、大藪春彦風ながら二転三転する終盤が評価できる「翳りの海」ですが、これは別の短編
集で既読で、以前のスレで紹介済みなので略。 谷恒生「喜望峰」(集英社文庫)★★★☆
1977年のデビュー作の長編。
アフリカ航路の貨物船・白雲丸。モザンビークで正体不明の貨物を預かったことを皮切りに、船の
行く手に暗雲が漂ってくる。南ア・ケープタウンに停泊した白雲丸だったが、一等航海士の稲村は
混血女性のリンを助けたことから、南アフリカの黒人解放運動と、それを弾圧する南ア公安当局の
抗争に巻き込まれることに。折りしも白雲丸には南ア保安局の大物ケインとモザンビークの治安当
局の大物アンタレスが船に乗り込んでくる。モザンビークに向かう彼らとともに再び船に積み込ま
れた謎の貨物の正体は、そして同じく白雲丸に密航を果たしたリンの目的とは・・・。
今読めば冒険小説としてさほど迫力があるとも思えないのですが、1980年代の「冒険小説の時代」を
迎える前の時代にあっては、結構衝撃的だったのでしょう。稲村を助ける甲板長がシブく良い味を
出しています。
本作は飽くまで冒険小説ということで、本スレの趣旨には合わないのですが、実は一点だけ、或る
人物の正体について、「本格」テイストを感じる意外性が隠されており、驚かされました。伏線とい
う観点からは不満がありますが・・・。 高橋克彦「偶人館の殺人」(祥伝社ノン・ポシェット)★★★
1990年のノンシリーズ長編。
江戸時代に発達した巧緻なメカ・からくり人形のイベントのため、英国育ちのハーフで新進デザ
イナーの矢的遥と知り合った池上佐和子。からくり人形の権威・神楽教授を訪ね、更に彼の義娘
の百合亜や、その兄のロックシンガー露麻雄、からくり人形のコレクターである会社社長の加島
らと係わることに。だが加島の豪邸で起きた毒殺未遂事件を皮切りに、加島の養女が殺される事
件が勃発。加島のもとに届いた「べんきちはゆるさないぞ」という脅迫文の意味するものは・・・。
矢的は、江戸時代のからくり人形師・大野弁吉のパトロンであった加賀の豪商・銭屋五兵衛の莫
大な隠し財産と、二十数年前に宮城県の山奥の洋館で起きた事件が絡んでいるのではないかと調
査を始めるのだったが・・・。
矢的は、マイナーな日本の諺にめっぽう詳しく口癖になっているという、なかなかユニークなキャ
ラで、彼を取り巻く池上や個性豊かな友人たち、からくり人形という題材などからも、どこか泡
坂妻夫作品の雰囲気も感じさせるミステリなのですが、果たして真相は・・・。
うーん、事件を追う側の矢的や友人らの面々は上手く描かれているのですが、対する加島、神楽
教授らの事件の容疑者らの方が描き足らないです。従って、ラストの謎解きがどこか中途半端な
感じ。真犯人の動機についても、今ひとつ納得できないし、二十数年前に起きた事件の不可能興
味も、大した出来ではないです。
ストーリーを彩る、からくり人形や大野弁吉、銭屋五兵衛の話、さらには隠れキリシタンとの関
連など、作者らしい奔放さがあって、その点は満足できましたが、「本格ミステリ」としては不完
全燃焼でした。探偵役の矢的も、なかなかユニークなキャラですが、これ一作のみの登場でしょ
うかね。作者も納得できなかったのかな、残念。 大谷羊太郎「やまびこ129号逆転の不在証明」(立風書房)★★☆
1991年の八木沢警部補ものの長編。
友人がレイプ事件の末に自殺してしまった経験を持つ河西幹子が殺された。別れ話でモメていた恋人
の男が容疑者として浮かぶが、彼には、事件当時、大宮駅で新幹線に乗り込む姿が目撃されていた。
八木沢警部補は鉄壁のアリバイを崩そうとするうち、もう一つのレイプ事件もまた事件に複雑に絡ん
でいるのでは、と疑い始めるのだったが・・・。
アリバイトリックについては、作者が自画自賛するほどには大したトリックが使われている訳ではな
いのですが、まあ、容疑者のアリバイが実は・・・、というアイディアはそれなりに工夫しているので
評価できると思います。しかし二転三転させた挙句のドンデン返しによるあの真相は、一寸どうで
しょうかね。真相とアレが重なったのは、全くの偶然としか思えないのですが・・・。
作者が珍しくアリバイトリックに挑戦した意気込みは買いますが、良作というレベルですらありませ
んでした。 笹沢左保「無宿人御子神の丈吉4」(徳間文庫)★★★
シリーズ第4巻、完結編(1〜3巻は前スレ参照)。
「脇本陣の娘が追った」、誰にでも抱かれる色狂いの娘。その真の動機とは・・・。
「用心棒は裏切った」は、国定忠治をお上に密告した村を忠治が意趣返しで襲撃するとの噂を聞い
た丈吉は、報酬抜きで村の用心棒となる。果たして襲撃者が現れるが実は・・・。
そして最終回「幻の太陽は沈んだ」。街道沿いで弓矢の攻撃を受けて負傷した忠治に出会った丈吉。
実は忠治にはニセ者がいて、そいつこそが丈吉の仇なのだと打ち明けられる。ニセ者が潜む宿場に
向かった丈吉を待っていたのは、更に驚きの真相だった・・・。さほど期待したほどのドンデン返しで
はなかったですが、結末の付け方が作者の作品では結構異色かも。ラストがアレというのは、かな
り珍しいかも。
ということで、御子神の丈吉シリーズ全4巻、先ず先ず楽しめましたね。 笹沢左保「木枯し紋次郎11−お百度に心で詫びた紋次郎」(光文社文庫)★★
シリーズ第11作。
佳作は「白刃を縛る五日の掟」。賭けに負けて、向こう五日間、長脇差を抜かないと誓った紋次郎。
道中で知り合った旅の少女と同行することになったが・・・。可憐な少女の死に、紋次郎の怒り爆発の
一編。あと、紋次郎が唯一、心を許していた亡き姉の墓参りのエピソード「年に一度の手向草」、そ
して第二期シリーズの最終回に当たる表題作など。はっきり言ってミステリ的な趣向は少ないし、
あっても二番煎じと言わざるを得ないのですが、これはこれで面白い。
笹沢左保「木枯し紋次郎12−奥州路・七日の疾走」(光文社文庫)★★
シリーズ第12作は初の長編。
紋次郎は駿河から乗った船が難破して、奥州のはるか奥地、八戸に漂着。大名領の支配が強く、親分
衆が存在せず、渡世人が生活できない奥州からは、一刻も早く脱出しなければならない。だが手付か
ずの奥州を狙う大親分・大前田栄五郎の手下たちと衝突することに・・・。
まあこんなものでしょうか。ミステリ的なドンデン返しが弱いので今ひとつの出来栄えでした。
笹沢左保「木枯し紋次郎13−人斬りに紋日は暮れた」(光文社文庫)★★★
第三期に当たるシリーズ第13作。
佳作は「明日も無宿の次男坊」。十五年前に勘当した次男坊の行方を捜す豪商。懸賞目当てに、次男
坊の特徴を持ったニセ者が続々と現れるのだが、果たして・・・。意外性に満ちた真相は、久々に初期
の秀作を思わせる出来栄え。 8連投スマソカッタ
三好徹「オリンピックの身代金」(光文社文庫)★★☆
1984年のシリーズ第三作。
天才犯罪者・泉とその一派が今回狙うのは、日本でロスアンジェルス・オリンピックを独占放送する
テレビ局NBC。30億円を払わなければ、開会式本番から、全ての中継を妨害すると脅迫。しかも千
円札で30億円を用意しろ、という奇妙な要求だった。NBCの報道局長は彼らの不可解な動機から、
一味を割り出し、放送妨害を防ごうと尽力するのだったが・・・。
今回はトリッキーなヒネり方が余り上手く行かなかったようで残念。テレビ局脅迫の一方、ロスで起
きているもう一つの事件との絡め方が上手くリンクしていません。そっち絡みが真の目的で、テレビ
局の方は実は・・・・なんだな、と簡単に気付かれる一方で、その意外性の出し方に失敗いたような気が
します。思わせぶりな結末の付け方もピントがズレている感じ。凡作でしょう。 今回は凡作が多いっすね。隠れた佳作を探すのはそういうもんでしょうけど… 栗本薫「吸血鬼−お役者捕物帖」(新潮文庫)★★☆
浅草の芝居小屋・初音座の看板役者にして美貌の女形・嵐夢之丞を主役とする1984年のシリーズ
第1作の連作集。
「瀧夜叉ごろし」は、久々に舞台に復帰した女形・嵐采女が芝居の本番中、宙吊りの場面で転落死。
誰も近づいた者はいなかったのだが・・・。第1話としては好調な滑り出し。真犯人の大胆な登場シ
ーンが上手い。
「出逢茶屋の女」は、町で夢之丞を見かけた贔屓の男が尾行してみると、夢之丞は出逢茶屋に入っ
たまま出てこなかった。更に中の部屋では殺人事件が勃発。夢之丞が犯人なのか、そして彼は一体
どこに消えたのか・・・。いかにも役者らしい消失トリックの一種ですが、出来は大して良くない。
「お小夜しぐれ」は醜女をめぐる話で凡作、「鬼の栖」は、年増の莫連女に惚れた商家の一人息子。
彼女は店の金を盗んだ疑いをかけられた末に殺されるのだが・・・。夢之丞が些細な手掛かりから
事件の構図を引っ繰り返す手際が見事。
「船幽霊」、「死神小町」ともに凡作、更に表題作や最終話の「消えた幽霊」に至っては、夢之丞の
生い立ちや前半生を巡る謎へと傾斜して、一話完結の謎解きから伝奇小説へと変貌してしまい、
第2シリーズの長編「地獄島」へと繋がってゆきます。前半の話に見られた謎解き物から離れてし
まったのは残念です。 笹沢左保「真夜中の残光」(角川文庫)★★
1988年の長編。
ユリ、千晶、奈保子はかつて女子高で美少女三人組の親友同士だったが、奈保子がユリの恋人・三宅
を略奪した挙句に三宅を自殺に追い込み、更に奈保子は千晶からも恋人の高見沢をも奪い、ユリと千
晶は奈保子と絶交していた。だが或る日、奈保子が三重県熊野の断崖から何者かに転落死させられる
事件が発生する。旅行に同行していた高見沢の仕業か。だが、憎い奈保子を単なる「被害者」にはした
くないユリは、もっと惨めな真相を信じて、千晶とともに真相を追及するのだが・・・。
作者は、「他殺を装う自殺」、「自殺を装う他殺」といった従来のパターンには属さない、新規の解釈に
よる真相をラストで提示しますが、これはまあ、トリックというよりも、作者の独特の宿命観に基づ
く、「或る人物の虚無的な行動の結果」といった方が良いかなあと思います。初期の良作「暗い傾斜」な
どでも追及されたテーマですが、そっちの方が出来が良いですね。
従って、いわゆる「本格ミステリ」の謎解きを期待すると肩透かしをくらいます。いかにも作者らしい
話ではあるけど、本格ミステリとしては高い評価はできないでしょう。 辻真先「迷犬ルパンと幽霊海峡」(光文社文庫)(採点不能)
1988年のシリーズ第9作の長編。
ルパンと朝日刑事が下宿する家の息子・健が通う中学校のスケ番・檜垣と、対立していた中学校
のスケ番・相場。瀬戸内海への修学旅行先と時期が両校で図らずも一致したことから、あわや旅
行先で衝突か、と思われた矢先、相場が北海道の函館で殺された、という情報が入る。だが肝心
の死体が消えてしまう。彼女の中学校では瀬戸内海と北海道の二手に分かれて修学旅行に向かっ
たのだったが、当日の夕方、四国で朝日刑事と健に目撃された相場が、どうして北海道で殺され
ることになったのか・・・。
四国における肝心の部分の描写が・・・・・・・なので、コレはアレかな、と予想がついてしまい、真
相もそのとおりでした。
しかし、事件の真相よりも何よりも、終盤の解決場面における或る重要人物の壊れっぷりがスゴい。
作者も何を意図して、ここまで感情むき出しになったのだろう?この作品発表時の1988年って、中
学生を巡る重大事件って何かありましたっけ?とにかく何とも言いがたい作品ですね。この作者の
ユーモア・ミステリでは珍しい評価ですが、採点不能、ということで。 笹沢左保「嘉永二年の帝王切開−姫四郎医術道中1」(徳間文庫)★★★
1980年から開始されたシリーズの文庫版の第1作。主人公は野州の医師の三男坊だったが、一家皆
殺しに遭い、更に自分が殺して家に火を放ったと疑われたため、出奔して渡世人となった乙井の姫
四郎、通称・乙姫。医術の心得があり、右手で人を助けながら、左利きの長脇差で人を殺めるはぐ
れ者、という設定。・・・作者も懲りずに色々なキャラの渡世人を作り上げるなあw
「利根川に孤影を斬った」、下総を舞台に先ずは挨拶代わり。ちょっとしたトリッキーな錯誤がミソ
だが、それ以上の趣向はないです。
「天竜川に椿が散った」は、生臭坊主と島帰りの連中に用心棒を頼まれた姫四郎。彼らは地元の材木
商と結託して江戸に大火事を起こし、材木の高騰でひと儲けしようと企む。だが彼らの陰謀を邪
魔しようとする連中が登場する。その黒幕の意外な正体とは・・・。これも作者の股旅物ではよくある
トリック。
「大井川を命が染めた」、姫四郎、帝王切開に挑戦。でも本編よりも、冒頭の何気ないエピソードと、
途中でチラッと出てくるサイドストーリーが、最後にあんな調子で交わる点に意表を突かれましたw
「久慈川に女が燃えた」、水戸藩御用達の名医ですら匙を投げた怪我を、姫四郎が手術で治してしま
うってwしかし、それが一連の事件の動機になっている点や、レッドヘリングの使い方も上手い。
タイトルも上手く、どうしたって別の方向に誘導されてしまうよなあ。
「笛吹川に虹が消えた」は今ひとつの出来栄え。
「吾妻川に憎悪が流れた」は、山間の温泉宿を舞台にした大量殺人事件。突拍子もない連続殺人の真
相に唖然、笑ってしまった。
「千曲川に怨霊を見た」は、幽霊騒ぎの裏の真相と動機に工夫を凝らしています。
股旅小説に、江戸時代の医療の実態をドッキングさせた怪作ですね。むろんミステリ的趣向もなか
なかのものですが、トリック自体には新味はありませんね。 笹沢左保「嘉永三年の全身麻酔−姫四郎医術道中2」(徳間文庫)★★☆
1980年のシリーズ第2作。
「命を競う小田原宿」は、昔馴染みの女に騙されて、武士らに拉致された姫四郎。連れて行かれた
先で待っていたのは、乳ガンに冒され、あちこちの医者から見放された姫君だった・・・。
「女郎が唄う三島宿」は、死ぬ間際の女性から、連れていた姪を母親である妹のもとに届けるよう
頼まれた姫四郎。妹のいる三島宿を訪ねるが、自分の子供に冷淡な態度を取る母親。その真相とは・・・。
「肌が溺れた島田宿」は壺振りの玄人女と関わりになった姫四郎が島田宿で起きた助成の身投げ事
件の真相を追及する・・・。
「波が叫んだ新居宿」、関所の役人のスキャンダルを見た姫四郎を、役人たちが地元の渡世人らを
使って殺そうと企むが・・・。
「夢が破れた岡崎宿」は、窮地に陥った亡き名医の娘を助ける姫四郎。だが彼女には・・・。
「潮に棹さす桑名宿」は、ひょんなことから仇討ちの旅を続ける侍と知り合いになった姫四郎。二
人が助けた娘の住む桑名へと向かうのだが・・・。
木枯し紋次郎シリーズに比べると全体に明るいトーンで、しかも後半の2作など、作者には非常
に珍しい、ちょっと爽やかなハッピーエンドに近いラストで驚きました。ミステリとしては「あの
人物は実は・・・・だった」というパターンが多く、少々飽きましたw
それにしても、ニヒルな渡世人にして神業の腕を持つ名医って、何か「ブラック・ジャック」に似
ているよなあw 別役実「探偵物語」(大和書房)(採点保留)
1977年の連作集。巻頭のエピグラフ「推理小説ではなく、探偵小説であらねばならないと考える、全て
の読者に、これを捧げる・・・・・」、こんな文章を読めば先を読まずにはいられないですね。果たして・・・。
プロローグ「X氏登場」、日本とも思えない、どこにもない町に住むX氏。「事件を解決するから探偵
なのではなく、先ず人は探偵になって・・・」という、ちょっと奇妙な問答。???何だろう、この不思
議な感覚は。安部公房とも違うし、星新一を高級にしたのともちょっと違う、独特の雰囲気です。
「夕日事件」より、X氏の独自の「探偵」がスタート。X氏のもとに届いた白紙の手紙。ハミガキ粉の
臭いを頼りに、手紙の差出人を探すうち、病院に辿り着くのだが、差出人が白紙の手紙を出した理由
とは・・・。うーん、益々分からなくなってきたw純文学なのか、ミステリのパロディなのか、ブラック
ユーモアなのか・・・。
「監視人失踪事件」は、自転車を食べて町の名士となったT氏が、今度はバス食べつくしに挑戦。その
様子を監視していた男が謎の失踪を遂げたため、その行方を調べるべく、X氏が監視人となって乗り
込むが・・・。当然、読者は「行方不明の監視人はT氏に・・・・・」と思うわけですが、まあ、何だろうな
あ、やはり分からん。
「大女殺人事件」、運河沿いの倉庫街で巨大な女の死体を発見したX氏。警察より先に解決すべく、倉
庫番に頼んで、一時的に死体を倉庫に隠したことから事態は紛糾する・・・。これは密室トリックのパロ
ディでしょうかね。でも「物凄い力で絞殺された死体」の真相が、なかなか豪快なアリバイトリック
になっているところは上手い。これは本格ミステリ風の佳作です。
そしてエピローグ「X氏と短提小説」。「ある人物が被害者であり探偵でもあり、そして加害者でもある」、
最も短い探偵小説とは・・・。これは笑った。けどねえ・・・。
それなりに楽しめましたが、こういうハイブラウなお話は苦手ですwでもこんな洒落た本が105円だ
からブクオフは侮れないですね。 ×「X氏と短提小説」
○「X氏と探偵小説」
西村京太郎「特急北アルプス殺人事件」(角川文庫)★☆
1984年の十津川警部物の長編。
飛騨高山で起きた殺人事件。女性の死体が水瓶の中から発見され、更に、離れたところでは男の
死体が雪洞に埋まっているのが発見される。地元署の刑事が執念で捜査を続けるが、何者かに殺
されてしまう。十津川・亀井刑事コンビは、一連の事件に東京都の公安委員の大物が関わってい
ることを突き止めるのだが、その男には事件発生時に、飛騨高山を出発する特急「北アルプス」に
既に乗車しており、それを証明する第三者の証人がいるという鉄壁のアリバイがあった。だが職
人気質の刑事を殺されて怒り爆発の十津川は、執念で彼のアリバイを崩そうとする・・・。
苦笑。アレとアレを騙したぐらいじゃ、鉄壁のアリバイ工作にはならないじゃないか。一番の問
題は、特急の車内にはアレとかアレとか、難題が満載でしょう。それらをどうクリアしたのか、
説明が全くないのだから話にならない。駄作。 8連投スマソカッタ
山村正夫「災厄への招待」(角川文庫)★★★
1987年の中・短編集。
中編「崩れた砂丘」△、繊維会社の社長からカネを奪おうとする男女の話。駄作。
短編「狐の穽」○、会社重役の罠にはまって冤罪で逮捕、懲役を済ませた男が出所し、自分をハメた
重役に復讐を開始しようした矢先、敵は何者かに殺されてしまう。彼が追及した真相とは・・・。これ
はアリバイ工作や或るトリックも出てきて先ず先ずの出来。
表題作の中編がベスト、◎。勤務先の社長の息子に娘を見初められ、玉の輿にのった娘と父親。だが
彼女を中傷する男が現れ、やがて娘は東京駅で誘拐されてしまう。社長に反発する派閥の連中や、遺
産を狙う社長の愛人など容疑者が蠢く中、辿り着いた真相とは・・・。これは完全に意表を突かれました。
あの人物のアリバイや行動だけは考慮しなかったもんなあ。
短編「赤い灯台」△、駄作。内容からかなり古い作品と思われるが、ホラーなのか何なのかサッパリ・・・。 西村のトラベルミステリーのおかしなところを指摘した本が昔出てたけど
「北アルプス〜」も取りあげられてたね
まあ鉄ヲタが鉄道ミステリーを読むと、そういうところは必要以上に気になっちゃうんだよね
鮎川作品ですら「それはどうだろう」と思ってしまう点があったりする 出久根達郎「踊るひと」(講談社文庫)★★★★
手紙、インタビュー、交換日記など、叙述形式の様々なテクニックを駆使した作品群を収めた
1994年の短編集。ミステリでない作品も含まれており、また発表年も本スレの趣旨から外れま
すが、これは傑作です。
表題作は、女性記者が半年振りに外国から帰ってみると、学生時代の友人からの手紙が何通も
届いていた。内容は、病死した彼女の姉に義兄が出した手紙が、難病の女性との純愛記録の本
からの盗作であることを告発する手紙だった。一番最近に届いた手紙を記者が読んでみると・・・。
手紙の中で手紙にまつわる奇妙な話が展開、しかもその内容は、その手紙が他の手紙の盗作だ
という、非常に技巧的でミステリアスな作品です。
「立ち枯れる」は、関東大震災の当日に生まれた男が記者のインタビューに答える話。これまた、
その男がかつて知り合った刑務所の刑務官から聞いた話で、その話とは、大震災の当日に刑務
所で起きた事件を、その主人公が語る、という二重、三重の構造になっているところがミソです
が、ホラーにしてはパンチが足りない。
「くっつく」、これは傑作。女子高生の交換日記のやり取りで構成され、二人の間で話題となる
のは薄気味悪い転校生の話。やがて二人は交換日記を誰かが盗み読みし、二人の筆跡を真似て
勝手に書き足していることに気づく、その犯人とは・・・。序盤の何気ない伏線の巧妙さ、ラスト
の二段構えのドンデン返しなど、折原一も顔負けの超絶技巧ミステリ。 (承前)
「花粉症」も佳作。弱小映画プロダクションの助監督が、ロケハンで或る邸宅を訪れる。案内
する不動産会社の男の様子が変で、彼はやがて、この屋敷で起きた殺人事件の話を始める・・・。
騙しあいの応酬は珍しくないが、語り口と盛り上げ方がもう絶妙。
「むだぐち代参」、非ミステリのしみじみした話だが、作者にしては駄洒落のレベルが低すぎる。
「夜の民話」、これはホラーの名品。自称200歳の老人が語る、幼い頃に表具師の男から聞いた、
絶対に他人に話してはいけない恐ろしい話とは・・・。句点だけで言葉を区切った、たどたどしい話
が恐怖感を盛り上げます。それにしてもヤツメウナギって・・・。怖い。
「秘密の場所」は、中学時代の友人三人組が経験した放火魔の事件。数十年後、友人の一人が亡く
なったことから、残された二人が手紙で思い出を語り合うのだが・・・。これも手紙という媒体を活か
した良作。
全体に、凡作が殆どないという高レベル、井上ひさし「十二人の手紙」にも匹敵する短編集。お勧め
です。なお、同じ作者の短編集「猫の縁談」(1989年、中公文庫)、「無明の蝶」(1990年、講談社文庫)
にもミステリといって良い作品が幾つかあり、こちらもお勧めです。 山田風太郎「青春探偵団」(廣済堂文庫)★★★★
たまには「フラッシュバック」掲載作の感想も。本作は1959年の高校生向けジュブナイルの連作集。
北国の高校の寮に暮らす、男子高校生三人組と女子高生三人組が結成したミステリ愛好クラブ「殺人
クラブ」の面々が活躍する、終戦直後の「青い山脈」とも違う、また昭和40年代後半の青春ドラマの
高校生気質とも違う、昭和30年代の高校生の青春群像が描かれた一冊。
先ずは「幽霊御入来」○、雪の足跡トリックだが、これは犯人が限定されてしまうよなあ。
「書庫の無頼漢」◎も密室的な趣向。女子高生の家に押しかけた来た父親の知り合いであるヤクザな
男たちが殺されてしまう。現場を犯人が出入りした状況はなかったのだが・・・。哀しいラストととも
に本編中の佳作です。
「泥棒御入来」○、寮の消灯時間後の外出、人呼んで「脱獄」を起こした直後に逆に泥棒が寮に潜入。
結末は読めましたが着想は面白いです。
「屋根裏の城主」○、寮の天井裏の秘密基地が舎監にバレそうになり、寮生らが取った奇策とは・・・。
「砂の城」△、夏休み番外編。海水浴場で砂浜に死体を埋めた犯人グループと「殺人クラブ」の面々
の微妙なズレ具合が面白いのだが、これは今一つの出来栄え。
「特に名を秘す」◎、ダイイングメッセージをヒネッて、更に裏の裏を読んだアリバイ工作など、トリ
ッキーな趣向が満載の佳作。また、本格ミステリの「論理性」を皮肉った、「事件の真相はそんなに論理
的に解明できるものなのか」という主張は今も新鮮です。本作と「書庫の無頼漢」の2作が双璧ですね。 高橋義夫「武器商人」(徳間文庫)★★☆
1989年の長編。
幕末、戊辰戦争も大詰めの頃、横浜から新潟に進出して幕府軍向けに武器を売る商売を行っていた
ドイツ商人のシュネル。彼の助手を務めていた川上が何者かに切り殺される事件が勃発。やはりシュ
ネルとともに横浜から来ていた商人・海屋の栄三郎が真相を探ろうとするが、薩長軍による新潟攻
撃により、命からがら横浜へ舞い戻る。薩長の支配する世の中になり、無一文となった栄三郎はシュ
ネルの援助で新しい商売を始めつつ、かつての殺人事件の真相を追及するのだったが・・・。
作者は、高橋克彦と同時に直木賞を受賞した作家、しかも幕末に活躍した謎の商人シュネルは、高橋
克彦も某作品で取り上げているという因縁もありますが、果たして本作の出来は・・・。
うーん、確かに事件の真相や真犯人、それらに関する伏線など、ミステリとして評価できる部分もあ
るのですがが、やはり作品のメインテーマは、「幕末・明治維新の動乱の時代における商人たちの生き
ざま」といったような、ミステリとは別のところにあり、本格ミステリの謎解きとして評価するのは
一寸難しいですね。話としては結構面白かったのですが。 高橋克彦「春信殺人事件」(光文社文庫)★★★☆
1991年の浮世絵を題材にしたミステリ、「写楽・・・」「北斎・・・」「広重・・・」の「浮世絵三部作」とも絡まる
番外編といった感じの長編。
仙堂耿介は大学の浮世絵研究室を辞め、行方不明となった浮世絵などを探して日本全国を旅する「探し
屋」稼業を続けていた。或る日、お得意先の藤枝から、鈴木春信の幻の肉筆画の話を聞き、画廊の
女主人・駒井みどりらとともに幻の絵の捜索を開始する。だがその絵の取引を商社に仲介した男が
行方不明となっており、耿介は行方不明の男と絵を追って、ニューヨークへと旅立つ。そこで知り
合った塔馬双太郎とともに、きな臭い絵画取引にかかわる事件の真相を探るのだが・・・。
真犯人と動機の意外性には、上記の浮世絵三部作よりも「本格ミステリ」に近い技巧が施されており、
その点では満足できました。春信の絵に隠された謎の設定自体は、三部作に比べて小ぶりですが、
ミステリとしては綺麗に纏まった良作だと思います。なお、「浮世絵三部作」のネタバレに近い部分
がありますので要注意