(承前)
後藤幸次郎「湖畔の死」△、アリバイものですが、謎解きよりも、昭和30年代の若者、六本木族の
生態が興味深い。
田中万三記「敗れた生簀」△。天草諸島を舞台にした作品ですが、謎解きとしては弱い。
楠田匡介「湯紋」○、温泉の密室趣向よりも、犯人の意外性がスゴい。
来栖阿佐子「疑似性健忘症」○、物忘れが酷くなり、婚約者と別れた女性。実は・・・。なかなか
シャレた味わいで、当時のサラリーマン社会の一端が興味深い佳作。
会津史郎「私は離さない」○、何よりもオチの凄まじさ、これは予測できなかったw
千葉淳平「静かなる復讐」○、探偵事務所に勤める若い女性が主人公。或る調査を切っ掛けに、思
わぬ事態に巻き込まれる。実は・・・。ラスト、凄惨なオチと見せかけて爽やかに切り抜けるオチ
が見事。事件の真相に関する伏線はダメですが。この作家も「宝石」誌で「13/18.8」と
いう密室物の作品を読んだことがあります
渡島太郎「走る“密室”で」△、走行中のバスで起きた刺殺事件。乗客に不審な者はおらず、バス
の外部から刺すのも不可能。果たして真相は・・・。まあまあでしょうか。
有村智賀志「ライバルの死」△、何と日教組の活動華やかなりし頃の、主流派と反主流派の争いを
題材にした作品。この当時から、組合活動に関するシニカルな視線ってあったんですね。謎解きは、
ちょっとした言葉の手掛かりによるもので、大したものではないです。
全体的に、解説にもあるように、1960年代ということもあって、このシリーズの他の巻と比べると、
今読んでも、それほど古さは感じませんでした。特に、「青田師の事件」と「童子女松原」の短編ミス
テリとしての完成度の高さは特筆すべきもの。この2作を読むだけでも価値があります。