1957〜1987年あたりの本格ミステリ作家達 4
>>118
オリエントの意外な真相っていうのも、新しいミステリを読みなれてると正直拍子抜けで、
そこに至るまでの、ミステリ部分以外の作者のインド語りに付き合うのがしんどかった。
幻影城連載時に読んでいた身としましては
内容よりも掲載誌休刊のショックのほうが大きかった
忘れたころにNONノベルスで出たときは嬉しい驚き
速攻で買って読みましたけどね
読後感は…うーん
河野典生はやっぱりハードボイルドですかねえ >121
同士がいたw
「歌う男」という仮題での予告や、最終号の島崎編集長の、奥歯にもののはさ
まったようなコメントも忘れられない。
作品自体は、まあ・・・ね。 平岩弓枝「釣女」(集英社文庫)★★☆
1965〜1976年に断続的に描かれた、幕府目付・遠山景晋の密命を受けた花房一平の活躍を描く
捕物帳シリーズ。
「花の咲く日」では、瀕死の主人が大事な物をどこに隠したか、というトリックが使われ、表題
作では、京都御所を監督する役所の不正行為を調べるべく花房一平が上洛、そこで出会った謎
の美女の正体は・・・、という意外性が、また、長崎の唐人町を舞台にした「彩舟流し」では、トリ
ック自体は素朴なものですが、その場面の描写で、ちょっとした叙述上の仕掛けがあり、楽し
めます。
但し、残りの「子を思う闇」、「桜の下で」「呪いの家」は、謎解き趣向が弱くて、江戸の風物等の
描写に重点が移っておりミステリとしては薄味になっています。 笹沢左保「まぼろしの旅路」(角川文庫)★★
1979年の長編。
外科医・一ノ瀬の妻・理絵が日本全国を旅行中に福井・若狭湾で自殺。一ノ瀬は9年前に起きた
轢き逃げ事故で病院に収容された縁で理絵と知り合い結婚していたのだが、どうやらそれ以前の
彼女の過去に秘密があるらしい。一ノ瀬は妻の旅行先を訪ねて、自殺の真相を知ろうとするのだ
が、何者かが先回りして、妻の秘密を知る関係者を殺し始める・・・。
うーん、謎の真相が中盤辺りで全て丸分かりになっておしまいました。雑誌「旅の手帖」に連載さ
れたからなのか、一般読者向けというか、旅行好きの読者向けのサービスといった趣きのお話。
一ノ瀬の行動を察知して殺人犯が先回りできた理由も簡単に推測できるし、序盤の或る場面の描
写も空々しいことこの上ないですね。まあ作者も謎解きを志向して書いたものではないのでしょ
うが・・・。 出久根達郎「むほん物語」(中公文庫)★★★
1992年の連作集。
古書業界に突如現れた「笈の角文」という、江戸時代の貸本屋による日記。もしかしたら偽書
ではないのか、二人の古書店主がその来歴を探ろうとするのだが、彼らの調査の行く手には
次々と不可解な出来事が起こる。一体、「笈の角文」に隠された秘密とは・・・。
古書店主二人の軽妙なやり取り、地口、洒落に溢れた日記、古書業界の長老による昔話、電話
の会話のやり取り、痴呆気味の老人による通訳を交えた談話など、様々な文体による作品が展
開され、やがて明らかになるのは、大塩平八郎の乱に絡んだ秘史と、二軒の老舗古書店による
暗闘の歴史。いわゆる「信頼できない語り手」の手法を存分に使っており、「叙述トリック」とは
言えないものの、どこまでが真実なのか、読み終わっても定かではない話が続いた揚句、いき
な読者を外に放り出して終了するという、非常に風変りな作品。その点は楽しめたとはいえ、
やはり「本格ミステリ」とは言い難いですかねえ・・・。 平岩弓枝・・・まったく眼中に無い作家でした。
さすがに点数は低いようですが、3氏の探求心には脱帽します。
ところで、「御宿かわせみ」って、ミステリ要素があるんでしょうか?
読んでる人、誰かいます? 若桜木虔「死者のデビュー曲」(文化出版局ポケットメイツ)★★
1980年の中高生向けジュブナイル長編。
売れっ子作曲家の津田が殺人の容疑で逮捕された。無実を信じる弟子でアイドルの卵・順子は、友人で
弁護士事務所に勤める珠貴に助けを求め、珠貴は師匠の弁護士・長安とともに調査に乗り出す。被害者
は歌手志望の女性で、盛んに売り込みをかけていたらしい。ライバル作曲家やトラブルのあったレコー
ド会社らによる陰謀ではないかとも思われたが、彼らにはアリバイがあった。やがて珠貴らは、被害者
とその姉が世話になった元代議士の一家に疑いを持ち始めるのだったが・・・。
真犯人の意外性と、古典的な或るトリックによるアリバイ工作に挑んでいますが、伏線や手がかりの殆
どが後出しで、「実はこうだったのだ」と言われてもなあ・・・。そもそも、真犯人があんな面倒なトリック
を施した必然性が無いし、無理があり過ぎますね。
評価できるとすれば、被害者の衣服に関する伏線でしょうか。これは読者、特に男性読者の盲点を突く
もので、へえ、そうなんだ、と感心しましたが、感心したのはそこだけ。駄作、と切り捨てるほどでは
ないが、凡作とも言えないでしょう。 まさか馬鹿詐欺作品の感想を読めるとは…ありがたやありがたや 黒木陽之助「逆光のブルース」(春陽文庫)★★★☆
内容から1968〜70年頃の作品でしょうか。当時ブームだったグループサウンズを題材にした芸能界
物の長編。
人気GS、ザ・サイケデリックスのヴォーカリスト・サニーがライブ中に毒殺される。本番直前に
楽屋で飲んだ栄養剤に毒薬が仕掛けられていたらしい。だがその薬は、別のメンバー風見の常用薬
だった。犯人が狙ったのは風見だったのか。学生時代にサックスを吹いていた白石刑事と老刑事・
中島のコンビが事件を追及するのだが・・・。
白石・中島刑事のコンビの設定が意外とシッカリしており、捜査の過程も手堅いし、中盤での毒殺
を巡る刑事コンビの推理合戦なども面白く、こりゃ掘り出し物かな、と思って読み進めましたが・・・。
全体に伏線不足であり、せっかくのラストのドンデン返しの連続が活きていません。とはいえ、スト
ーリーの構成や、刑事コンビの造形が丁寧に作られており、また毒殺の真相の伏線だけはバッチリ決
まっています(バレやすいかも)。傑作とは言い難いですが、一読の価値はあります。 森村誠一「シンデレラスター殺人事件」(双葉文庫)★★
主として中高生向けジュブナイル作品を収めた1970年代の短編集。
「本格」として一応見るべきものは、山岳物で、登山ならではのアリバイ工作を扱った「腐った山脈」、捜査陣
も一緒に豪雪に閉じ込められるクローズド・サークルの変形「雪の湖殺人事件」、鉄道アリバイ物の推理
クイズ「545M列車の乗客」といったところ。
残りの表題作や「殺意の交差路」、「歪んだ構図」は出来が今イチ、というか子供騙しのレベル。 邦光史郎「幻の日本原人」(徳間文庫)★★☆
歴史評論家・神原東洋を主人公とする、1976年の「幻の・・・」シリーズ第5作。
テレビ制作会社のプロデューサー松坂は、日本原人の特集番組を企画していたが、スポンサーの強引な
主張で、当時、広島県・比婆山で目撃が相次いでいた謎の動物ヒバゴンを追う番組に変更させられる。
そのロケの最中に、元モデルの女性社員がヒバゴンらしき怪物に拉致され、心臓発作で死亡する事件が
発生。更にロケに参加していたスタッフが失踪の末、死体で発見される。更に第三の事件が起き、松坂
は事件の渦中に巻き込まれてゆく・・・。
うーん、古典的なトリックによる真犯人の意外性も考慮されていますが、このトリックは法医学的には
無理、バレるに決まっているでしょうね。
ただ、第三の事件、「男女の無理心中と思われるのに、死体が一つしかないのは何故?」で神原が示した
推理とその後の展開など、かなり「本格」を意識した構成にはなっており、凡作ではありますが、切り捨
てるほどではないと思います。 津村秀介「洞爺湖殺人事件」(講談社文庫)★★☆
浦上伸介物にして「湖」シリーズの1989年の長編。
北海道・洞爺湖畔で起きたサラリーマンの刺殺事件。被害者は何者かに電話で呼び出されたのだが、
彼の妹もまた一年前に刺殺され、迷宮入りとなっていた。どうやら、妹の事件の真相を掴んだもの
の、犯人に返り討ちにあったらしい。浦上は、容疑者を二人に絞るのだが、一方の容疑者は事件発
生時、九州におり、もう一方は寝台車「北斗星」で北海道に向かう途中だったという、鉄壁のアリバイ
があった・・・。
いつものパターンである交通機関がらみのアリバイ工作以外に、切り札として、思いきった着想が
用意されており、作者も冒頭の描写などにトリッキーな趣向を凝らしていますが、残念ながら不発
ぎみ。落ちついて良く考えれば、すぐにバレる子供騙しのレベル。浦上や先輩の新聞記者は騙せて
も、警察の前では何の効力もないでしょうね。作者自身も承知の上で、結末で言い訳してはいます
が、やはり冴えているとは言い難いですね。
まあ作者も、いつものアリバイ工作以外に新趣向を、と努力したことは認めますが・・・。 野村正樹「八月の消えた花嫁」(集英社文庫)★★★★
1989年の長編第3作。デビュー作「殺意のバカンス」(★★初代スレ参照)は、全共闘世代の勝手な価値観
を押しつける悪作でしたが(但し、トリックなどは練られていました)、同じ登場人物が探偵役となる
本作は、果たして・・・。
雑誌社の懸賞旅行に当たった加奈子はタヒチへ。ツアーの一行には著名なエッセイスト夫婦、下心のあ
りそうなカメラマン、少女時代に両親が悲惨な死を遂げ、その復讐を誓う女性、更には訳ありの不倫カ
ップルなどもいて、早くも波乱含みの予感。カメラマンの川越が落下したヤシの実に当たって死亡する
事故が起き、エッセイストの妻の溺死事故も起こる。更に帰国したメンバーを狙って、遂に殺人事件が
勃発。加奈子は恋人の速水とともに事件の追及に乗り出したが・・・。
同じ年に出た本岡類「ウブドの花嫁」(★★☆初代スレ参照)もまた、バリ島でのバブルな海外旅行を題
材にしたミステリでしたが、まさにバブル絶頂期、今読むと相当に恥ずかしい場面もチラホラしますが、
それに目をつぶれば、些細な伏線、特にヤシの実殴打事件の凶器や南十字星のエピソードなど、なかな
か侮りがたい出来栄え。またダイイングメッセージのヒネり方や毒殺トリック、ラストのドンデン返し
も計算されており、かなりの良作です。 鎌田敏夫「白い帽子の女」(角川文庫)★
1983年の長編。明治時代、日本最初の女探偵の活躍を描くミステリ。
明治時代末期の東京。浜松から出奔して、私立探偵事務所を営む村木のもとに弟子入りした宮野英子。
謎めいた女性から、浮世絵の春画に描かれたモデルの主を探してほしいとの依頼を受けたことから連
続殺人事件に巻き込まれてゆく。手始めに春画を描いたと思しき画家が殺され、更には関係する戦争
成金らが宴会の最中にフグの毒で死亡し、調理師が逃亡の末、自殺。一体、」事件の真相とは・・・。
うーん、ずいぶんとエログロな描写もあったりして、その癖、謎解きの構成が脆弱ではないかとも思っ
たのですが、結末は・・・。
ああ、ダメだ、こりゃ。謎解きの基本がまるで出来ていない。行きあたりばったりも良いところで、伏
線や推理の要素など殆どない。ただの小説としても非常に貧弱。悪役の程度も低いし、ヒロイン以外
の登場人物の造形もまるでダメ。
一点だけ、「あの犯人はどうやってアレを行えたのか?」に関する物理的なトリックとその伏線に少々
感心しただけ。他は採るところ無し。著名な脚本家なのに、小説はこの程度なのか。駄作ですね。 何だろう、>>134のタイトルだけはどっかで聞いたことある感は。
ぐぐってみたけどドラマ化されたものも知らないし。 小峰元「ヘシオドスが種蒔きゃ鴉がほじくる」(講談社文庫)★★★
1981年の連作集。
兵庫県・宝塚市近郊の宝谷村。地元の高校三年生、「おれ」こと「豪商」、寺の跡取り息子「法王」、芸大
を目指す「画伯」の三人組の身辺で巻き起こる怪事件の数々。三人組を向こうに回して名推理を披露
する「豪商」の祖母、「バアチャン」の活躍や如何に。
相も変わらず、「大人が脳内で妄想した、スレた高校生像」の、同時代からのズレ具合が気になります
が、今回はアクの強いキャラもなく、主人公は「バアチャン」の方なので、違和感は少ないですね。
各エピソードは、アリバイ工作、足跡のない殺人現場と感電死の謎、誘拐事件のヒネッた顛末など、謎
解き趣向の強い作品が多いのですが、各エピソードが短く、伏線があからさまだったりするのは残念で
すね。
とはいえ、この作者の作品では初の、先ず先ず楽しめる作品でした。解説の風見潤も、新本格登場以前
にして、風太郎「おんな牢秘抄」やE・D・ホックに言及したりと、レベルの高いものでした。 伴野朗「暴露(スクープ)」(祥伝社ノンノベルス)★★☆
秋田市と思しき東北の町で新聞記者を勤める「俺」を主人公とした「野獣」シリーズの、主に1989〜90年
に発表された作品を収めた連作集。
「愉快犯」○、町の自動販売機に置かれたドリンク剤に毒が混入され、三人が相次いで死亡。「俺」は
無差別殺人ではなく、隠された真相があるのでは、と疑うが、被害者には何の繋がりも無かった・・・。
トリッキーなのは良いですが、短い枚数では伏線がバレバレだなあ。
「悪夢の殺人」○、就寝中に悪夢にうなされ、隣に寝ている妻を絞殺してしまった男。だが実は・・・。
これもトリッキーなんですが、フェアな描き方のため全て丸分かり。
「背負い地蔵」○、中学生が自殺を装って絞殺される。二人の容疑者はいずれも手をケガしており、被害
者を絞め殺すことは出来なかった・・・。J・D・カーや横溝の某作品にもあるトリックの、ローカルな
ネタが楽しい。
残りの「香水の罠」、「アル中の女」、「危険な心中」はいずれも出来が悪く、△。
巻末には番外編で、作者本人が「俺」に出会うという趣向の「バー『ヘレン』で」を収録。
全体的に、トリッキーな作品も多いのですが、枚数が短いところにフェアに伏線を張ったため、読者に
感づかれ易くなってしまったのが残念。 >>142
3つ目、確か愛川晶にその手口があるので、それ読んでたらタイトルでバレバレな気が・・・ 雑誌「幻影城」(1976年5月号)★★☆
「新人賞作家競作」特集では、何と言っても泡坂「右腕山上空」◎。他の作品とレベルが違いすぎます。
説明不要ですね。
筑波孔一郎「懸賞小説」△、作者自身と「幻影城」新人賞そのものを題材にした作品ですが、凝った割
に謎の設定が唐突で粗い。
宮田亜佐「白い釣瓶」△、土地買収に携わる不動産会社社員の死。古臭く、やっつけ仕事も良いところ。
滝原満「旅立ち」△、母親が臨終を迎えようとしている娘が出会った男は・・・。幻想的なホラーの味を
狙ったのでしょうが、素人レベル。
村岡圭三「風紋」○、砂丘で写真のモデルとなった謎の女は、同時刻に起きた殺人事件の容疑者だった
が、アリバイが・・・。ごく単純なトリックですが、前2作に比べればマシ。
あと、書き下ろし中編の、飛鳥高「とられた鏡」○、内ゲバの殺人犯が工事現場の飯場に潜り込むが、
その秘密を知る男に脅迫され、人を殺してしまう。だが死体が消失して・・・。さすがに文章はシッカリ
しており、消失トリックも単純ですが、コンパクトにまとまった良作。
メインの「女流作家傑作集」には、四季桂子「胎児」(1957年)、藤木靖子「女と子供」があるが、ど
ちらも大した出来ではないです。泡坂を除けば、村岡圭三と飛鳥高の作品以外に見るべきものは無い
です。 栗本薫「ネフェルティティの微笑」(中公文庫)★★☆
>>62さんが紹介された作品、1981年のノンシリーズ長編。
失恋の痛手から、エジプトに旅立った秋夫は、カイロで謎めいた女性・小笠原那智に出会う。妖艶な
那智の不可解な行動に翻弄されてゆく秋夫だったが、ピラミッドの石室で、那智が何者かに襲われて
しまう。だが次の瞬間、犯人も那智もピラミッドから消え失せてしまった。何が起こったのか、そし
て那智の秘密とは・・・。
ピラミッド内の人間消失トリックは、はっきり言ってアンフェアというか、最後になってそんなこと
言われてもなあ、というのが正直な感想です。真犯人も、登場人物の少なさから簡単に想定できてし
まうレベル。カイロの街の喧騒に満ちた猥雑な雰囲気や、那智に翻弄され破滅してゆく男たちの心理
などは上手く描かれているとは思いました。 結城昌治「死者と栄光への挽歌」(文春文庫)★★
1980年の長編。「フラッシュバック」紹介作ですね。
先の大戦で戦死したはずの父が今まで生きていて、交通事故死したという。息子の売れない画家・睦男は
生命保険の受取人に指名されるが、納得のできないカネは受け取りたくない。そもそも交通事故死した男
は本当に自分の父親なのか、もしそうだとしても、何故何十年も家族の元に帰って来なかったのか、睦男
は関係者を尋ね歩き、真相を探るが、やがて不可解な事件に巻き込まれてしまう・・・。
ハードボイルドでお馴染みの「失踪人探し」テーマの変形で、父親は本物なのか、本物ならば何故今まで名乗
り出なかったのか、偽者ならば、それは誰か、別人の名を騙った理由は何なのか、というところがポイン
トなのですが・・・。うーん、これを「本格ミステリ」と評価するには無理があり過ぎますねえ。謎解きの核
として、作者は、旧日本軍に関する或る「動機」を持ち出し、父親の真偽と、更に派生して起きた事件の
謎解きを行い、その「非人間性」を告発しているのですが、発表当時の1970〜80年代ならともかく、現代
では読者の支持を得にくいのでは、とも思います。
また「あとがき」のヒステリックな主張は、結城昌治ともあろう者が見苦しいです。こんな調子だから、「真犯
人」に対する主人公の最終的な「処置」が、作者の告発した「非人間性」と同等の仕打ちであることに、主人
公が(すなわち作者が)全く気付きもしないのではないか。今読んでもピンと来ないし、むしろ「真犯人」を
支持する人の方が多くて反感を買いそうな話ですね。 笹沢左保「無情岬」(光文社文庫)★★★
1979年の「岬」シリーズ第3作。
会社の同じ課で立て続けに起きた3件の殺人事件。会社上層部は企業イメージ悪化を恐れて、課長の佐竹
を左遷する。一方、事件は、佐竹の部下・早乙女が失踪し、指名手配されることで解決したかに見えた。
だが佐竹は、真犯人は他にいるのではないかと疑い始める。やがて早乙女の不可解な服毒自殺が発覚した
ことで、早乙女の妻で、かつて佐竹を愛していた律子こそが真犯人なのではないかと佐竹は追及を始める。
だが彼女には鉄壁のアリバイがあった・・・。
「事件当時、容疑者は主人公とともに、現場のはるか沖合の船上にいた」という飛び切りのアリバイが出て
きますが、笹沢左保の先行する某名作が一種のミスディレクションになっているところがミソでしょうか。
作者がどこまで意識してやったかは分かりませんが、その誤誘導される名作は2作あり、俺はてっきり、
どっちかのパターンだろうと思っていたら、まんまと騙されてしまいました。但し、トリック単体の出来は、
先行2作の方が上で、先行作品を知らない読者には効果的なものではないし、本作のアリバイ工作自体、
少々無理があるのでは、と思いますね。 司城志朗「?(はてな)の家族殺人事件」(講談社Jノベルス)★★☆
1987年の長編。
女子大生の小林尚子は、年の離れた弟の幼稚園の友人で大富豪の息子・志麻津雅樹の屋敷に招かれる。
祖父と父母、執事ほかの使用人たちとの晩さん会。だが全員の様子がどことなくおかしい。泊った晩
に廊下に倒れていた家政婦は、翌朝、何ともなく元気だったかと思えば、男の死体は消えてしまうし、
もう一人の家政婦は遠く離れた場所で殺されてしまう。更に町のあちこちで、家族や使用人にソック
リの人間を見かける尚子。一体、この大富豪一族は何者なのか・・・。
メインのアイディアはなかなかトリッキーで面白く、ちょっと似た趣向は、麻耶雄嵩の某作品にも見
られるものですが、これが中盤で明かされてしまい、以降、真犯人捜しに移行してしまうのが残念。
真犯人の意外性だけではなく、このアイディアもひっくるめて、伏線を凝らして、結末まで引っ張っ
てほしかったですね。
なお「スラプスティックス・ミステリ」と銘打っていますが、さほどのドタバタではないのは良いもの
の、いかにも1980年代風といった風俗描写が今となってはイタいw 佐々木淳「消えた共犯者」(祥伝社ノンポシェット)☆
現役の大阪市役所幹部だった作者による1987年のデビュー作。
若手サラリーマンの里見真右エ門は、オーナー会長の孫娘・松平彬が社長を務める子会社に出向した
とたん、彬が一目ぼれし、婚約することに。そんな折、彬の自動車が盗まれ、高速道路で逆走して正
面衝突する事故が発生、だが衝突したもう一方の車もまた盗難車で、両方の運転者が行方をくらまし
てしまった。更に同様の事件が相次ぐ。盗難車を使って正面衝突を繰り返すのは何故なのか。二人は
事件を追及するのだが・・・。
・・・何と言うか、良い所が一つもない、ダメダメのお話。構成もダメなら文章もダメ、登場人物、特に
ヒロインの彬のキャラがもう何というか・・・、こんなバカ丸出しの気色悪い女を描いて、作者は「可愛い
女」だとでも思っているのでしょうか。事件の真相も採るところ皆無。ユーモア・ミステリとのこと
だが、殆ど笑えないアナクロぶり。
作者はミステリファンだというが、一体どんなミステリを読んできたのだろうか?どう考えても、志茂
田景樹ファンとしか思えないレベルの低さ。大阪市役所の現役幹部だった頃に発表しているけど、世間
体というものを考えなかったのだろうか?駄作中の駄作。 倉知淳の本名が佐々木淳じゃなかったっけ。
でも別人か。 3氏お元気ですか?
レビューはいいんで生存報告だけでも ハイ、元気です。最近ペースが落ちていますが、斎藤栄、松本清張、本岡類、赤江瀑など、紹介したい
作品は未だ未だ控えておりますので(但しこれから読むのですが)、長い目で待っていてください。
草野唯雄「仁衛門島殺人事件」(徳間文庫)★★
1977〜84年に発表された作品を収めた短編集。
表題作は、終盤で「読者への挑戦」のある気合いの入った作品、千葉の仁衛門島でコートの取り違え
から起きた殺人事件を推理するもの。コートを取り違えられた男と友人、被害者の娘の推理合戦がミソ、
伏線なども考えられていますが、所詮、中学生向け雑誌掲載作ということもあって、その程度の出来。
その他、「二億円の嘲笑」は、警官と組んで組の資金を奪ったヤクザ、出所してみると警官の行方が
分からない、持ち逃げされたのか?という話。
「まぼろしの指紋」は、身に覚えのない容疑者が、どうやって凶器に指紋を付けてしまったかを追うもの
だが出来は悪い。
「老人は撃った」、「復讐の導火線」、「みどりという女」などはサスペンス物。
異色作は「罪九族に及ぶ」。文豪・国木田独歩とその関係者たちを相次いで襲った悲劇を、作家が文献
から推理するもので、無論、長編「文豪挫折す」の元作品。但しミステリというには、ただ文献に当たっ
て調査しただけ、という感じが強く、思いきった発想とか着想の飛躍がないので今一つです。 岩崎正吾「風の記憶」(東京創元社)★★☆
1989〜90年に発表された作品を収めた短編集。
「八ヶ岳南麓・首なし死体」は、小海線で起きた死体轢断事件。初老の刑事が付近の別荘地に住む忘れ
られた往年の流行作家の行動に疑問を抱くが・・・。基本的なトリックですが、まあ短編だし、こんな
ものでしょうか。
「ぼくの愛した少女」は、山梨県の富士川流域を舞台にした青臭い青春小説ですが、奇抜なアリバイ工
作が印象的。
「長崎から来た女」は、作者の学生時代を反映した内容で、ミステリ味は薄い。
表題作も、少年時代に山で迷子になった男たちが、二十数年後、行方不明の仲間を探すために再会
して・・・、というもので、ホラー風でもあるが、本格ミステリではないです。
いずれも、この作者の持ち味が出ているのですが、「風よ、緑よ、故郷よ」や「恋の森殺人事件」(過去
スレ参照)と同様、どこか青臭さが抜けないですね。 斎藤栄「富士山麓殺人事件」(祥伝社ノンポシェット)(採点不能)
1979年の長編。後の小早川警視正シリーズに発展する牧警部シリーズの第1作とのこと。
フランス留学中に牧と知り合った智子は、帰国早々、母親の死に直面した。現場の別荘は密室で
事故死の可能性もあったが、母親の過去と、死の直前に漏らした「富士山麓って良いことがあるわ」と
いう言葉に疑問を持った智子は、牧野の助けを得て調査を開始する。
一方、国会議員・桜内の息子の誘拐事件が勃発。息子は既に成人した医師で、しかも犯人側は身
代金の代わりに桜内所蔵の絵画を要求するなど、不可解な状況だったが、無事、息子は解放され
る。だが、この事件がやがて、智子の追及する事件と絡んでくることに・・・。
うーん、アリバイ工作に密室、不可解な誘拐事件の真相など、トリッキーではあるし、一応論理
的に辻褄が合っているようにみえるのですが、常識的に考えて真犯人の行動が全く必然性ゼロ、
矛盾撞着も甚だしいです。あのアリバイ工作もショボいし、密室トリックも実に下らない。
「富士山麓」の謎は中盤であっけなく解決、むろん謎の核心でもないオマケ程度の謎だが、まあ誰も
が直ぐに思いつくアレですw気付かない方がどうかしている。
一点だけ、或る人物のレッドヘリングとしての使い方は上手く、伏線もあったのに、真犯人を上
手に隠すことには成功したとは思います。でもなあ・・・。
因みに、例のお抱え解説者の某、「トリッカー斎藤栄」とか持ち上げていますが、そりゃ何だ?「トリ
ッキー」とか「トリック・メーカー」とは言うけどねえw(この某、実は斎藤栄本人なんじゃないか?) あと、>>115で題名だけ挙げた作品の紹介です。
山崎洋子「三階の魔女」(講談社文庫)★★★★
1986〜1989年に発表された作品を収めた短編集。
「ラブレター」は、同窓会で再会した級友と不倫の関係になった男。相手から借金を申し込まれるの
だが・・・。冒頭の伏線から意外性のある結末までスキがない出来の佳作。
「狼女は眠れない」は誘拐物。祖父母に甘やかされている男児を誘拐した女性。実は・・・。
「いきなりハードボイルド」はユーモア調だが箸休め程度の作品。
「六本木メランコリー」は1960年代末に青春を過ごしたデザイナーの話。不倫の話やら団塊世代の
1960年代のノスタルジックな話で大したことないかと思っていたら、ラストでトリッキーな謎解
き物に変貌する良作。「赤いお月さま」は、モテない男が巻き込まれた罠の話。凡作。
「人形と暮らす女」は、乳母車に乗せた人形を自分の娘だと信じている母親に出会ったヒロイン。
精神病かと同情して彼女の家で家政婦として働き始めるが・・・。ホラーかと思わせて謎解き物に
変貌し、更にラストでは・・・、という凝った作品。
表題作は、カラオケスナックで働くヒロインの隣家に、人質を取って立てこもった男。ヒロイン
の知り合いだと言い、一緒に無理心中してくれないと隣家の住人を殺す、などと無茶苦茶な要求
を突き付けてくる・・・。これも、奇抜な冒頭のやり取りがラストで一転、鮮やかな結末を迎え
る佳作です。 高木彬光「どくろ観音−千両文七捕物帳」(春陽文庫)★★★☆
初出等の詳細は不明ですが、主に1950年代に発表された、白皙の美男子だが女嫌いの千両文七親分
(神津恭介に共通しますね)と、手下の合点勘八が活躍する捕物帳シリーズ。
「天狗の仇討ち」、人間には不可能な状況での怪事件、天狗の仕業かと思われたが・・・。トリッキー
ではあるが、解決がやや唐突かな。
「妖異雛人形」も、駕篭からの人間消失トリックが出てきて期待させるが、真相はあっけない。
その他、「新牡丹燈籠記」では長屋の密室からの消失、「怪談一つ家」はバラバラ死体の謎、「荒寺の
鬼」はアリバイ工作、表題作は作者お得意の刺青ネタに筋書き殺人の変形、更に「離魂病」では
クリスティの超有名作品に挑むなど、トリッキーな趣向がてんこ盛りで、その点は満足できた
のですが、如何せん、文庫版で各編30ページ弱の分量では、伏線や解明手順があっけなさ過ぎ
ますね。
とは言え、全12編、先ず先ずの収穫でした。 松本清張「失踪」(双葉文庫)★★★
これまでに文庫未収録だった1956〜71年までの作品を収めた短編集。
冒頭の「草」が面白い。病院に入院している、出版社の経営者である「私」。病院長と看護婦の駆け落ち
に続いて事務長の自殺など、病院内に怪事件が頻発する。隣室のおせっかいな入院患者の男とともに
一連の事件の真相を探るのだが・・・。後半になって突然、それまでの「私」の語りが変化し、急転直下
の結末に至ります。はっきり言ってアンフェアですが、それでも肝心の部分を登場人物のセリフにす
るなど、地の文と「私」の行動には一応整合性をとって注意を払っており、ラスト一行のセリフも含め、
この作者がこんな作品を・・・、という意外性はあります。
「詩と電話」は、病み上がりで九州の地方支局に異動になった新聞記者が、いつも特ダネにありつく地元
紙の古参記者の秘密に迫る話。特ダネに一番乗りするアイディア、作品の雰囲気なども含め、解説に
あるとおり、時代風俗を無視すれば、横山秀夫の新作短編といっても通りそうな佳作。
残りの「二冊の同じ本」と表題作は全体に消化不良ぎみの凡作。 赤羽建美「彼に殺される!?」(集英社文庫)★
1987年のノンシリーズ長編。
真理子は恋人の進一の不可解な行動に悩まされ、更に、自分が高校生時代に書いた日記の「将来、恋人に
殺されることになる」という記述が現実のものになるかも知れないと怯えていた。ところが、進一が轢き
逃げに遭って死亡する事件が起こる。進一はどんな秘密を抱えていたのか、真理子は調査を進める
うちに知り合った野口とともに事件を追及するのだが・・・。
アハハ、この作家はミステリを全く理解できていない。過去の日記の一節と現在の事件には繋がりは
無いし、進一を轢き逃げした犯人の設定は伏線無しで藪から棒も良いところだし、ヒロインは言い訳
しつつも節操が無い女だし、何より芥川賞候補になったとは信じられないほど文章も幼稚(まあ、芥川
賞受賞作家にも、宇能鴻一郎や菊村到のような例はありますが、彼らの通俗小説は題材が幼稚であっ
ても、流石と思わせる部分もあるのに、この作者と来たら・・・)。
おまけにバブル丸出しで、それも当時の先端を行っていたならともかく、本作より何年も前に出た
「なんとなく、クリスタル」の猿真似に近いとは・・・。
エピローグで、或る人物の思いもよらない真実が明らかになるという意外性もあるのですが、これ
また全体の流れから浮いてしまっており、駄作としか言いようがないですね。 >>159
時代ミステリとしての捕物帳に興味があり、未読のものにも少しずつ手をだして
いるところでした。
高木の千両文七ものを具体的に紹介していただき、これは読まねばと、大いに
刺激されました。
>初出等の詳細は不明ですが
「夢現半球」というサイトの、「高木彬光の部屋」に労作の時代小説リストがあり、
そこでかなりの程度、確認できます。ご参考まで。 3氏の紹介か知らないけど
アンソロジー「ホシは誰だ?」を入手しました
文庫なんだけど、土屋作品が削られてるみたいですね
5年以内に読めたらな・・・ >>163
サンクスです。
本岡類「窒息地帯」(新潮社)★★
1995年のノンシリーズの長編。発表年代はスレの主旨には合いませんが、文庫化もされていない作品
のようなので、ここで紹介しておきます。
東京の弁護士事務所でイソ弁勤めをしていた夏原は、ボスの急死によって、郷里の水戸に戻って独立、
弁護士事務所を開設する。第一号の依頼者の持ち込んだ事件は、連続放火事件の容疑者として逮捕さ
れた男の弁護だった。ムシャクシャしてボヤを起こした事件は認めたが、それ以外の死亡者を出した
放火事件は全く心当たりがなく、冤罪だと訴える被疑者。夏原は、地元新聞の女性記者・栗田泉とと
もに事件の真相を追うのだが・・・。
放火事件の詳細の描写がおろそかだったり、重要な情報が後出しだったりと、これは到底、佳作とは
言えない出来で残念。法廷の場面も力不足。主人公の弁護士のキャラは力を入れていますが、法廷ミ
ステリとしても、小杉健治には遠く及ばないです。
また真犯人の設定と伏線、その動機に絡む社会的な問題への掘り下げ方も中途半端な感じ。残念なが
ら凡作でしょう。 大谷羊太郎「殺意の交差点」(双葉ノベルス)★
1989年のノンシリーズ?長編。
色男の拝原は年上の女性実業家と結婚、だが女傑の妻に首根っこを押さえられているのを不満に思い、
知り合いの加賀と共謀して彼女を殺そうと企む。加賀が写真を使ったアリバイ工作を用意して、拝原は
自宅へ向かうが、いるはずの妻がいない。それどころか加賀もまた姿を消していた。一方、未解決の
迷宮入り事件を追う沖津警部は、過去の保険金詐欺事件を追っていたが、いつしか拝原の事件へと絡
んでくることに・・・。
ああ、ダメだ。二重、三重に絡み合った共犯関係とその騙し合いを、それを知らない狂言回しの拝原の
視点からだけに絞って描いて、ラストの謎解きで解決すれば、一応見られる作品になったのに、裏の
連中の動向も並行して描いたんじゃ全く無意味。謎解きもヘッタクレもあったもんじゃない。駄作。 笹沢左保「江戸の夕霧に消ゆ 追放者・九鬼真十郎1」(徳間文庫)★★★
江戸の浪人・九鬼真十郎が、裏切った仲間を殺して「重追放」の身となり、犬のシロを連れて諸国を
放浪、他人を一切信じず、関わりを持とうとしないにも拘わらず、様々な事件に巻き込まれては意外
な真相を暴いてゆく、という趣向の、1978年の時代物の連作集、第1弾。
第1話の表題作で、主人公が重追放となる経緯が描かれていますが、この話でも、真犯人の設定にヒ
ネりが加えられています。
「街道の青い鬼」は、信州の街道沿いに出没する鬼の正体と、その黒幕の動機の意外性が上手い。
「地獄の声か娘たち」は旗本の忘れ形見の娘と思われる候補者の娘たちが次々と殺される。容疑者には
アリバイがあったのだが・・・。読者をアリバイ崩しかと誘導させておいての意外な結末。
ベストは「むらさきの姫君」。田舎で暮らしていた江戸の豪商の娘を見捨てて死に至らしめた男たちが
次々と怪死。かつて娘が飼っていた小ギツネの祟りなのか・・・。シロの様子や冒頭の些細な出来事から
事件の真相を見破る真十郎の推理が見事。特に伏線の張り方は非常に巧みで、クリスティの古典的
な趣向まで使って、間然とするところのない佳作です。
その他「さすらいの狼」、「恐怖の村祭り」で全6編。 笹沢左保「美女か狐か峠みち 追放者・九鬼真十郎2」(徳間文庫)★★★★
居場所を定められず諸国を放浪する、重追放の浪人を主人公とする1978年の連作集第2弾。
「師走の風に舞う」○、武士との果たし合いに勝つため、真十郎は天気予報の名人二人に当日の天候を
聞くが、二人の天気予報は全く異なるものだった・・・。片方の予報を信じるに至るまでの、真十郎の逆説
的な論理展開がユニーク。
「雪に桜の影法師」○、飼い犬に大金を持ち逃げされたと訴える盗賊。真十郎はシロを使い、盗賊の犬
が逃げた真相と、裏の真犯人を暴く。
表題作△、峠に三本脚の狐が出没して旅人が相次いで殺される。真十郎の暴いた真相とは。
「禁じられた助太刀」◎、医師の娘にケガをしたシロを助けてもらった真十郎。娘とその父親は、母親
を殺した侍の敵討ちをするという。その助太刀を引き受けた真十郎だが・・・。結末の大ドンデン返しと、
それを支える伏線が実に見事、作者の「本格」魂が炸裂する傑作です。
「死んだ女の用心棒」◎、これも傑作。雪深い信州の宿に閉じ込められた真十郎と五人の男女。江戸で
夫が妾を殺すのを目撃して出奔してきた女が殺される。真十郎、出しゃばり過ぎですが、クローズド
サークルの事件を解決し、さらに江戸で起きた雪の密室殺人まで解決してしまう名探偵ぶりw
「鉄火場に鶯が啼く」△、止むにやまれぬ事情から、賭場で大金を得ようとする名主と出会った真十郎。
壺振りの若者とイカサマの手はずを整えたが・・・。
全体に「木枯らし紋次郎」と異なり、主人公のニヒルぶりが薄れ、むしろ積極的に全国津々浦々で起き
た事件を解決して回っているみたいw、ミステリとしてはこのシリーズの方が面白いかも。特にこの
第2集は「本格ミステリ」として評価できる佳作が揃っており、「求婚の密室」や「岬」シリーズなどの
「本格」の佳作群を書いていた同時期の時代小説として要注目でしょう。 高木彬光「刺青の女−千両文七捕物帳」(春陽文庫)★★★☆
「どくろ観音」(>>159参照)に続く、千両文七シリーズ第2弾、文七も登場する連作「私版天保六花選」
も併録。
「羽子板娘」△、さる藩のご落胤を探すよう、藩の重役から依頼された文七。折から起きていた羽子板
盗難事件と複雑に絡んでいることを知るが・・・。ご落胤の正体に意外性はありますが、やや錯綜しすぎで
スッキリしない。
「雪おんな」○、祝言間近の娘が雪女に攫われる。雪の現場には、娘の足跡しか残っていなかった・・・。
足跡トリックですが、江戸時代らしいおバカなネタが楽しい。
「阿蘭陀かるた」△、常磐津の女師匠が駕篭の中で殺される。誰も近づいた者はいないのだが・・・。
「白首大尽」△、盗賊上がりの豪商の正体は・・・。
「花嫁の死」△、新婚早々の嫁が実家に帰る途中で殺される・・・。
表題作◎、江戸じゅうの刺青持ちの女を集めた品評会の席上で起きた殺人。彫師の双子の娘に嫌疑が
かかるが、二人にはアリバイがあった・・・。瓜二つの双子の娘、見分ける手段は刺青の図柄の違い・・・、
あの名作のパロディか?と見せてのドンデン返しが面白い。
連作「私版天保六花選」は、江戸の悪党・河内山宗俊と片岡直次郎を主人公にした連作集なのですが、
各エピソードのつなげ方がマズく、全体としては凡作。但し、第1話「直侍雪の夜話」は傑作。江戸
を出奔した片岡直次郎を追って、中山道・深谷宿にやってきた千両文七。宿屋の主人から妻殺しの真
犯人を探してほしい、と頼まれるのだが・・・。結末のドンデン返しと真相に「アンフェアじゃないか?」
と読み返してみたのですが、これが実に見事な書き方。確かに・・・・・・・とは書いていないし、上手く
回避して読者に一杯喰わせており感心。作者の某佳作と同趣向ですが、こんな時代小説で、あのネタ
を使い回しているとは思いもしなかったw 津村秀介「横須賀線殺人事件」(講談社文庫)★★
1991年の浦上伸介物の長編。
横浜を走る横須賀線の列車内で起きた女性の刺殺事件。捜査を進めるうち、被害者は4億円ものサギ
事件に関わっていたことが分かり、サギ師グループの仲間割れかと思われた。更に北海道ではほぼ同
じ頃に、やはりサギ師グループの一員が殺されていることが判明する。やがて浮かび上がった容疑者
には、事件直前に列車から降りたことは間違いないという鉄壁のアリバイが。またどうやって北海道
へ飛んだのか、浦上と助手の美保の活躍や如何に・・・。
「北海道へ瞬時に飛んだ謎」は肩透かし、「いったん降りた列車にどうやって戻ることが出来たのか」も、
手掛かりが出た瞬間に誰でも分かるシロモノで、大したトリックではありません。だいたい、謎の提
出の段階が遅すぎるし、そのため謎解きの興味で引っ張る話になっておらず、凡作でしょう。 笹沢左保「影が見ていた」(徳間文庫)★★☆
1961年発表、自動車セールスマン北川を主人公とした三部構成の連作集。現代物では、「セブン殺人事件」
(過去スレ参照)とともに、作者には珍しい、シリーズ物の主人公が出てくる作品です。
先ず第一部(というか独立した第一話ですね)「もう時間がない」○、セールスのお得意先の有閑婦人が服
毒自殺?北川は、瀕死の彼女が言い遺した「もう時間がない」というダイイング・メッセージの謎を追及す
るのだが・・・。取り立ててトリッキーでもないのですが、冒頭の些細な伏線のさり気なさが上手い。それにし
ても、代官山が「場末」とは、さすが五十年も前の作品w、時代を感じさせます。
第二部「闇の眼」も先ず先ずの出来で○。北川が乗り捨てたタクシーの運転手が殺される。警察から疑われ
た北川は、彼の後に入れ違いでそのタクシー乗った男女二人組が真犯人ではないかと追及するが・・・。古典
的なトリックですが、一応、フェアな描写になっています。
第三部「静寂が来た」は、北川と愛人が旅行先で出くわした新婚旅行中の妻の自殺事件。北川の取引先に絡
んでくるのだが・・・。ミステリとしては大した出来ではないが、ラストは、いかにも笹沢左保らしい結末。
・・・本作は、「真昼に別れるのはいや」、「空白の起点」「泡の女」(いずれも過去スレ参照)といった名作・
佳作群と同じ年に書かれた、ごく初期の作品ですが、やはり上記の名作群と比べると見劣りしますね。 /: : :ヽ: : : : : : : : : : : : : \
/ : : : : : : :ヽ: : : : : : : : : : : : : ヽ
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|:| | : : : : ', ヽ l: : : : : :l `ヽ !
// {: : : : : ヘ j /: : : : : : ヽ |
ヽ:い-── ヘ イ: : : : : : : : : \ i' 嵯峨島昭「軽井沢夫人」(光文社文庫)★★★☆
1979年、「・・・夫人」シリーズの第3作。
軽井沢の別荘で発見された若い男の死体。友人の別荘に遊びに来ていた酒島警視が捜査本部とは別に
調査を続けるうち、被害者は一年前に軽井沢にやって来た貧乏学生・紫藤純一と判明。関係者を訪ね
歩くうちに分かってくる紫藤の野望と挫折。別荘で暮らす社長夫人・中川佳子に取り入って不倫の恋
に落ち、更に彼女を足がかりにして大臣令嬢を誘惑し、政財界に食い込んでゆこうとする紫藤。夏の
軽井沢で一体何が起きたのか・・・。
例によってベタベタのメロドラマ、今回はヒロインのみ清廉で、相方の主人公はピカレスクな青年で
したが、何とも昭和の香り漂う、古き良き時代のブルジョワ生活の延々とした描写にウンザリ・・・、と
思いきや、終盤では怒涛の謎解きが展開され、二重、三重のドンデン返しの末、意外な真犯人が暴露
され、ひと夏の野望に燃え尽きた主人公は破滅的な結末を迎えます。
しかし・・・、これほどの謎解きがありながら、中盤までの伏線が少な過ぎる。確かに幾つかの点では事
前に示唆されており、この点は良かったのですが、あの真相を支えるには不十分。もっと伏線に配慮
していれば傑作となりえたのに、惜しい作品です。
なお、作中でも言及がありますが、アラン・ドロンの名作映画「太陽がいっぱい」を連想する作品で、
読んでいる間はずっと、「太陽がいっぱい」の、あの何ともやるせない主題曲が流れていましたよ。
これで「・・・夫人」シリーズ、「湘南夫人」、「札幌夫人」(いずれも過去スレ参照)三部作を全て読了。
本作と「札幌夫人」の出来が割と良かったですね。
因みに、この作品、日活で映画化されましたね。高田美和と五代高之が主演。日活映画なので、当然
アレなのですが、当時高校生だった俺は・・・(以下略)。 赤江瀑「金環食の影飾り」(角川文庫)★☆
1975年の長編。
女優の綾野曙子は、亡き姉・姚子の遺した新作歌舞伎「大内御所花闇菱」の上演を見に行くが、劇場で
姉に良く似た女性が何者かに襲われるのを目撃する。曙子は京都で暮らしていた姉の秘密を追及する
のだが・・・。
うーん、好きな人は熱狂的に好きになるのでしょうが、ミステリとしては余りに構成が杜撰。真犯人
の設定や真相には何の意外性もなく、作中作となる「大内御所花闇菱」がもっと本筋に絡んでくるのか
と思ったらそうでもないし・・・。耽美小説としては別の評価があるでしょうが、「ミステリ」としては
お粗末な作品でしょう。 五木寛之「蒼ざめた馬を見よ」(文春文庫)★★★
「さらばモスクワ愚連隊」に続く、1967年のごく初期の短編集で、表題作は直木賞受賞作。約20年ぶりに
読み返してみました。
表題作は、実は「本格」風味を湛えた佳作です。ソ連の老作家による幻の未発表長編大作の存在を知った
新聞記者の鷹野。レニングラードに飛び、ソ連では発禁が予想されるその原稿を入手し、密かに国外
に持ち出し、全世界に発表しようと目論む。老作家は頑として原稿を手渡そうとしなかったが、苦労
の末、ようやく原稿を手に入れることに成功するのだが・・・。同時代の三好徹の作品といっても通りそ
うな国際謀略物の佳作です。三好や高柳芳夫の作品で見かける「裏の裏をかく」ドンデン返しと、或るト
リックが冴えまくっており、そのトリックを使った肝心の箇所も、一応、叙述に配慮してフェアな描
写になっています。これは思わぬ掘り出し物でした。
その他、「天使の墓場」は、高校登山部が冬山登山中、墜落した米軍機を見かけるが、一行は遭難し、唯
一生き残った教師は、墜落事故が隠蔽され闇に葬られる中、精神病院に入院させられてしまう。苦難
の末、墜落現場に戻った教師が見たものとは・・・。これまた、森村誠一作品のような社会派・謀略物ミ
ステリ。ラストは何となく予想できましたが、なかなかにコワいオチです。
残りの「赤い広場の女」、「バルカンの星の下で」は、冷戦下のソ連・東欧を舞台にした作者お得意の作品
ですがミステリ味は薄く、「弔いのバラード」は広告業界の酷薄さを糾弾した作品。
・・・作者には、「幻の女」などの「奇妙な味」系の作品も多く、「カーセックスの怪」など、ヨコジュンも裸足
で逃げ出すバカSFのケッサクもあり、また夢野久作ファンでもあり、傑作「戒厳令の夜」、「ヤヌスの首」
などの広義のミステリともいえる伝奇ふう冒険小説もあるなど、一時期、熱心に読んでいました。 山村美紗「京都鞍馬殺人事件」(徳間文庫)★☆
1985年のキャサリン物の長編。
京都で随一の日本舞踊の家元一族を巡って起きた連続不審死。鞍馬寺近辺で家元夫人が服毒死を遂げた
のが皮切りだったが、自殺とみられ、病気入院中の家元が、呼吸器が外れて死亡した件も事故と思われ
ていた。だが次期家元候補だった息子が舞台の本番で毒殺されるに及んで、ついに連続殺人と判断され、
京都府警が乗り出してきた。次期家元の座を巡る事件とみたキャサリンは、浜口とともに事件を追及す
るのだが・・・。
・・・山村美紗といえば、ベストセラーとテレビの二時間ドラマ・映画化という、ビジネス化した「産業ミス
テリ」(レコードの売り上げとコンサートで莫大な収入を得るためにポップス化し、何の批評性も持たず
にビッグビジネスと化した「産業ロック」(by渋谷陽一)と同様の意味で。邦光史郎らの「産業推理」ではな
いです)の一人ですが、むろん最初からそうだった訳ではなく、初期の作品には良いものもありました。
本作は1985年発表、前年の「京都大原殺人事件」(過去スレ参照。「京都××殺人事件」の嚆矢となった作品)
辺りから急激に発表作が増え、粗製濫造が開始された頃の作品ですが・・・。
冒頭の「自動販売機で何個もジュースを買って、それを置き去りにしてゆく男」など、「掴み」の不可解性
などは面白いのですが、やがてダメダメの展開に。病室の密室トリックも腰砕けなら、舞台での毒殺の
真相も何の伏線もなくただ説明するだけ、自動車電話のアリバイも「だから何?」といったレベル。
それにしても、キャサリンだけ重要な証拠や証言を得ることができて、京都府警が教えてもらう、なん
て、どこまでボンクラなんだ? 梶龍雄、本岡類が読みたくてブコフ巡りをしてるんだが、なかなか見つからないな。 山崎洋子「危険なあなた」(中公文庫)★★★☆
学生時代の友人5人組、卒業から二十年近くたち、結婚や仕事など生活に追われる中、それぞれが遭遇
した事件をロンド形式で描いた、1989年の連作集。
「あじさい色のレディ」△、冴えない中年主婦。母親が臨終の際に、父親は有名俳優だと言い遺したことか
ら起きた事件。主人公の言動にややイライラしましたが、真相は・・・。まあ大した出来ではないです。
「曼珠沙華の夜」○、夫の愛人と共謀して夫を殺そうとするが、実は・・・。ドンデン返しの効いた良作。
「ボニーに首ったけ」○、これも同様で、冴えない中年男に強盗に入られた、喫茶店を経営するヒロイン。
男を説得して、もっと身入りの良い、銀行の支店長を一緒に脅迫しようと持ちかけるが・・・、ラストの
ヒネりが効いています。
「騒々しい悪魔」◎、高校生の息子が妊娠させた年上の女性が息子の自宅に乗り込んでくる。夫と当の
息子が海外留学中、留守の母親は翻弄されっぱなし。女は自分の家族まで呼び寄せて傍若無人な振る
舞いに及ぶが・・・、「銀の仮面」ネタかよ、それにしても好い加減にしろよな、と読者のイライラが頂点
に達したところで、全く予想外の真相へ。この切れ味の鋭さはスゴい。「銀の仮面」ネタを、アレと結び
つけた例は他に知りませんね。
「あなたのいない夜」○、下着会社のキャリアウーマンで部長の要職にある女性。仕事が超多忙なため、
家庭を顧みなくなっていたところ、夫が失踪する、やがて、夫を拉致した犯人と思われる人物から謎
めいた電話が・・・、これも、主人公の傲慢ぶりが頂点に達する寸前でストンと落とし、意外な真相で
着地する作品。
・・・連作集ですが、基本的に各エピソードは独立した内容で、どれも、この作者特有のクセのあるヒロ
イン揃いで、読者はヘキエキするかも知れませんが、それすら演出にして、読者の不快感が頂点に達
する寸前で、ハッピーエンド、とはいかないまでもほろ苦くも暖かい、意外性のある真相を用意した、
なかなかの作品集です。「本格」とは言えないかも知れない内容ですが、作者の本領は長編よりも、
「三階の魔女」(>>158参照)や本作などの短編にあるようです。 赤川次郎「上役のいない月曜日」(文春文庫)★★
1980年のサラリーマンを主人公とした作品で固めた短編集。過去スレにて、どなたかが推薦されていた
作品ですが、さて。
冒頭の表題作は、色々な人物の思惑や事件が、最後のオチに収斂するまでをスピーディに描いた作者お
得意の作品だが、ミステリ風味は薄い。
「花束のない送別会」は、長期出張から帰ると自分の席が無いばかりか、上司や同僚全員から「お前は自分
で退職届を出して会社を辞めたじゃないか」と言われるが実は・・・、発端からグイグイと読ませるが、後
味は悪い。「禁酒の日」も同様、あのオチは無いだろ?
「徒歩十五分」は、引っ越し早々、終電で帰って来た男、自分の家が分からなくなってしまい迷子になる
が・・・、バッドエンドではなく、先ず先ずの作品。
「見えない手の殺人」は、結婚に反対する恋人の父親が工場に乗り込んできて主人公とケンカしたところ、
父親は内臓破裂で死亡。主人公がちょっと小突いただけなのに何故?まあそんなことも起こり得るで
しょうし、真相を暗示する伏線も巧みだが、これまた後味の悪いことといったら。そういえば、J・D・
カーの短編に、同じタイトルの短編があったと思うけど、比較にもならない。
うーん、全体に謎解き要素は薄いですね。あと、江上剛の解説もピント外れ。認識の甘さと読みの浅い
こと。アンタの銀行員時代の自慢は結構。同じ銀行員出身の池井戸潤の爪の垢でも煎じて飲めば? 豊田行二「スイス銀行日本支店」(廣済堂文庫)(採点不能)
1977年の長編。「ひかり10号殺人事件」(過去スレ参照)のイカガワしさを求めて、「久々に豊田行二でも読む
かあ」と、ブクオフで手にとってみると、「本格長編推理」と銘打たれていたので購入。むろん、1980年代
以前のミステリで「本格長編推理」とあっても全く信用できないのですが、それでも読まずにいられないの
は「性(さが)」なのかw・・・どっちにしろ、こんなタイトルじゃ、ミステリだと思ってくれる人は皆無だろ
うなあ・・・。
国会議員・茅野敬太郎のお抱え運転手が何者かに絞殺される。現場には戦前の郵便貯金通帳が遺されて
いた。被害者の友人もまた殺され、もう一人の友人はKCIAの陰謀だと怯える。彼らの過去に何があ
ったのか。
一方、茅野は、隠し資産を「スイス銀行日本支店」の口座に隠しているというが、その口座の在りかを家
族にも秘密にしていた。スイス銀行の日本支店とは何を意味するのか。長男の太郎は、その秘密を探る
うち、父親の愛人・知佳子と深い仲になってゆく・・・。
「スイス銀行日本支店」の真相である「××貯金制度」の実態がテーマだそうですが、作者は、それでは読
者の食い付きが悪いので「推理仕立てにした」とのこと。ミステリをナメているよなあ(そういう作品は当
時は多かったのでしょうね)。
しかし、そのお陰でw、「××貯金」を巡る政界物プラス官能小説プラス本格ミステリの出来損ない、という
キテレツな怪作を読むことができました。連続殺人の方は、一応、意外な真犯人に関する伏線とか(しょー
もない出来ですw)、事件発生時に主人公と一緒にいたというアリバイ崩しのアキれた真相など、無理やり
にも「謎解き」の趣向を取り入れて、それが官能描写とも、「××貯金」とも、全く相いれない浮きあがった
ものになっているのが何だかオカしくて・・・。
「採点不能」作品が好きな方にしかお勧めできません。 笹沢左保「日暮妖之介 流れ星破れ編笠」(集英社文庫)★★☆
1972〜73年に連載された時代物の連作集。父親を殺して脱藩した大谷伊左衛門を討つべく、但馬・出石藩
の目付の職を投げ打って、敵討ちの旅に出た日暮。ある時、同姓同名の別人を誤って殺してしまったこと
から、その娘に付け狙われる羽目になり、三つ巴の追跡行となるのだが・・・。
どのエピソードも、基本的な「結末の意外性」は持っているのですが、作者の股旅物でお馴染みのパター
ンが多く、いささかマンネリ気味。
強いて一編を挙げるならば、「影に怒る」のエピソード。日暮が道中で出くわした若い武士の敵討ち。若い
武士は討ちそこない、相手に逃げられてしまうが、日暮と意気投合。しかしその武士は近所で起きた殺人
事件の容疑者となる。事件発生時、その武士は例の逃げた武士と最初の斬り合いをしておりアリバイがあ
るという。日暮は逃げた武士を探し出し、その武士も男らしく、敵のアリバイを証明してくれるのだが、
実は・・・。これは結末の意外性、ドンデン返しもさることながら、「アリバイ」物にしては非常にユニー
クな真相で、ごくシンプルなものながら、話の構成上、盲点となる部分を突く見事な出来の作品でした。
なお連作の最後のエピソードにも、シリーズ全体にまたがるドンデン返しが用意されていますが、こちら
は容易に推測できました。 南條範夫「情事の連環」(徳間文庫)★☆
1963年の連作集。
父親の遺した資産で優雅に暮らす尾形康子は、父親の知り合いだという村上信夫と出会い結婚する。だが
村上はとんだ曲者だった。彼女の資産を横取りするため、わざと康子に近づき、見事成功を収める・・・。
だが次の話では、その村上の上前をハネようとする女性が登場し、更に次の話では、彼女もまた破滅に至
る。そして巡り巡って最終話、驚きの真相が・・・。
いわゆる「輪舞形式」というヤツで、当時のミステリでは未だ珍しかったのでしょうが、今となっては、その
先駆的な意義しか評価できないですね。騙した者が騙されて・・・、の連続も、トリッキーな趣向が少ないので
楽しめません。
最終回の驚きの真相も、もう誰でも予想できるレベル、驚きでも何でもなく、ヒネりも無い。ただ読みやす
くて、昭和30年代の風俗を懐かしがって読んでいれば良いだけの話です。 >>115で題名と評価だけ書いた作品の感想を追加しておきます。
藤原審爾「ろくでなしはろくでなし」(角川文庫)★☆
1974年のブンヤ物の長編、短編「新宿西口ビル街殺人事件」を併録。
表題作。スポーツ紙の不良記者・柳井は、他社の週刊誌に雑文を売るなどして不当な利益を稼いでいる
女たらしの新聞記者。知り合いでもあったプロ野球選手・久野が身元不明の女と自動車事故で不審死を
遂げた事件を追及するうち、競馬・競輪の賭博組織が絡んでいることを知る。新聞社内の派閥争いと上
からの圧力にもめげず、柳井は真相を追及するのだが・・・。
典型的な「社会派推理」ですね。不審死の真相に関する謎解きはあるけど、主人公がうろつき回るうちに
都合よく真相が次々と明らかになってゆくだけで、推理の要素は殆ど無し。面白かったのは、悪役のは
ずの主人公のキャラクターが非常にユニークで、どうしようもない悪徳記者なのに、読み進めるうちに
何故か主人公に肩入れしてしまう点で、楽しく読むことができました。でもやはり1974年の作品にして
は古めかしくて、完全に時代から取り残されているなあ・・・。
短編「新宿西口ビル街殺人事件」は「新宿警察」シリーズの一編。新宿西口のバーで起きた殺人事件。店の
常連だった某国の外交官が容疑者として上がるが、彼は鉄壁のアリバイと、外交特権の壁に守られて
いた・・・。アリバイ工作にしても結末の付け方にしても全てピントがズレている駄作。
以前に読んだ、殺意を抱きあう夫婦を描いた長編「贅沢な殺人」(1969年)はまっとうなミステリでし
たが、それでも古めかしさが目立っており、同時代の清水一行、森村誠一らはもとより、1960年代の
松本清張あたりと比べても更に古びてしまっており、既に1970年代初にして全盛期は過ぎていた作家
だったのでしょうかね。 同じく>>115の作品の感想を。
若山三郎「オフィス殺人事件」(青樹社ビッグブックス)★
春陽文庫の「お嬢さんシリーズ」など知られる作者の、1987年の長編。この投げやりなタイトルからして、
ダメダメな作品だろうな、と危惧していたのですが、果たして・・・。
中堅会社の新入社員・大宿淳吉はサッパリした気性の大男で、色々な女性から言い寄られる果報者だが、
誰にもなびかない硬派の男。またしても、勤務先の元OLだったホステス・春美に付きまとわれるが、春
美は大宿が留守の間にアパートで殺されてしまう。大宿は容疑を晴らすため、親友で同期入社の横村と
ともに捜査に乗り出し、被害者を一方的に慕っていたチンピラやら、かつて関係のあった会社の専務ら
と関わるうち、春美が不倫相手を脅迫していたという事実を知る。更に、第二、第三の殺人が起きるの
だが、果たして真犯人は・・・。
うーん、1987年発表の作品ですが、バブルまっ盛り、国鉄はJRに変わり、「新本格」誕生直前だというの
に、何なんだ、このアナクロぶりはw
ガンコ者の会社社長、蓮っ葉な令嬢とダメ社員、お転婆娘らを向こうに回して、腕っ節の強い明朗な坊っ
ちゃん社員が銀座で大活躍、という、昭和30年代から何も進歩していないストーリー。一応、1980年代の
風俗なども取り込んではいるのですが、時代に取り残されて浮きまくっています。
で、肝心の事件の謎解きは、レッドヘリングなり、アリバイ工作のための小技なトリックなり考えられて
はいるし、最後まで真犯人を隠そうと努力はしているのですが、全くパッとしない出来栄え。特に破綻し
ている訳ではないですが、およそ評価できるレベルではないですね。以前に読んだジュブナイルの「遅すぎ
た殺人事件」とドッコイドッコイの出来のスットコドッコイな駄作ですw >>191
そのブログ、過去の感想を確認、参照したいときなど、たいへん重宝しています。先般も、笹沢左保「眠れ、わが愛よ」
の俺の感想文に間違いがあったので、訂正をお願いしました。
島田一男「社会部長」(青樹社文庫)★★☆
1949〜1956年に発表された、東京日報・北崎社会部長と彼の部下らの新聞記者の活躍を描いた連作集。「特報社会
部記者」(過去スレ参照)と同じシリーズで、スレの主旨の年代からは遡ってしまいますがご容赦ください。
巻頭の表題作は、音楽家が巻き込まれた殺人事件。アリバイ崩しなども出てくるが取り立てて言うレベルで
はない凡作。「三つの仮面」も元華族の男の失踪話だが、ただの人情譚。
「泥濘の町」は、地元業者やヤクザと結託していると噂される新聞記者が殺される。だが真相は・・・。
「女殺陣師」は、部隊の稽古中に小道具の日本刀が本物とすり替えられ、斬殺された女剣劇の座長。果た
して刀をすり替えた真犯人は・・・。
「三行広告」は先ず先ずの作品。宝石店の不可解な募集広告。指定されたとおりのダンディな格好をした
男たちで溢れかえる宝石店。だが、その直後に起きた殺人事件で現場から逃げた男もまた同じ格好をして
いた・・・。広告の真相は、シャーロック・ホームズのアレというより、「ルパン三世」の或るエピソードを
思い出す愉快なもの。
「幻の男」は古典的な或るトリックだが、やはり法医学的にはどうかなあ。
「特ダネ売り」は、謎めいた情報屋から、大学生の殺し屋による殺人計画のネタを買った記者の話。
「アリバイ売ります」も先ず先ずの出来。ミエミエのアリバイ工作が実は逆に・・・、という発想の転換は面白い。 >>194
種村直樹は「日本国有鉄道最後の事件」(1987年、過去スレ参照)しか読んでいませんが、通常の「鉄道
ミステリ」とは異なる切り口が新鮮でしたね。
笹沢左保「残照岬」(光文社文庫)★★
1987年、一時中断していた「岬」シリーズの第7作。
蓉子は28歳独身、母親と兄夫婦らと暮らしていた。隣家で、夫が妻を殺して床下に埋めていた事件が、
何者かによる放火で発覚したのを皮切りに、一家にも暗雲が垂れこめてくる。居候していた兄の妻の
妹・真紀が謎の失踪を遂げる。真紀は、隣家の殺人犯の夫と深い仲にあり、放火したのも真紀なので
はないか、蓉子は義妹の疑いを晴らすべく、調査に乗り出したのだが・・・。
うーん、これまでの「岬」シリーズにあった、孤独感、ニヒリズムが消えてしまっており、真紀の行方を
探すヒロインの旅行は、恋人になった男と一緒のノホホンとしたものだし、結末の意外性、皮肉なオチ
は決まっているものの、錯綜した謎の真相が余りにもご都合主義的。ラストも、やや皮肉味が過ぎて、
悲劇性が薄れてしまったように思えます。凡作でしょう。 北杜夫「マンボウ最後の名推理」(青春出版社)★★
1992〜93年に発表された作品を収めた短編集。
「にっぽん丸殺人事件」は、サハリン行きの客船に乗り込んだ作家の「北杜夫」氏。船内で知り合った老人が
身投げしたらしき痕跡を発見、躁鬱病も手伝って、他殺と決めつけ、支離滅裂な推理を展開するのだが・・・。
客船からの消失の真相は肩透かしですが、本作の意外性は、何と言っても、老人と連れの少年の正体・・・。
これには意表を突かれたw
「梅干し殺人事件」は、ドケチの大富豪が変死。そこにやって来た「北杜夫」氏は、大好物の梅干しに毒が仕
込まれていたのではないか、と勝手な推理を展開するのだが・・・。うーん、ユーモアの質も落ちてしまったな
あ。見る影もない。オチも不出来。
「赤ん坊泥棒」は、ブラジルを舞台にしたドキュメント風の作品。収録作では一番手の込んだ作りだが、残念
ながら謎ときにはなっていない。
作者の作品では、以前に読んだ、旧制高校生が北アルプスの登山中に出会った謎の男が結末で実は・・・、とい
うミステリとして非常に出来の良い短編(題名失念)がありましたが、本作は凡作でしょう。 草上仁「市長、お電話です」(ハヤカワ文庫)
1991年のSF短編集ですが、注目すべきはSFミステリ「転送室の殺人」★★★☆。宇宙船内の物質転送装置
内で起きた殺人事件、現場は密室状態だったのだが、真犯人はどうやって出入りできたのか。乗船していた
刑事が突き止めた真相とは・・・。SFならではのトリックではありますが、伏線はバッチリ、真犯人の或る
描写など心憎いほどさり気なくキマッている。「あとがき」で作者は謙遜していますが、これは密室物の佳作。
他の作品はSFですので割愛。 嵯峨島昭「グルメ刑事(デカ)」(光文社文庫)(採点不能)
1987年の長編。
無類の食通である西郷刑事は、北大路魯山人を名乗る謎のグルメ男と出会い、恋人の由紀とともに、日本一の
料理人を決めるテレビ番組に出ることに。だが、「怪人百面相」と名乗る脅迫状が届く。日本一の料理人が決ま
り次第、殺害するという。上司の平束刑事も加わって、「怪人百面相」の正体を追いつつ、グルメの旅を続ける
のだが・・・。
出てくる料理は、ステーキ、カレー、鮨、フレンチにラーメン・・・。各料理の名店と料理人を訪ねて日本全国
を旅して回る、という、「美食倶楽部殺人事件」(過去スレ参照)と同様の展開。しかも、「美味しんぼ」にも似た、
もう聞き飽きたフレーズの数々・・・。ミステリとしての筋はかなり好い加減で、実在の名店を連想する店を登
場させ、その味やレシピを、登場人物のセリフを借りて批評しているだけの部分もあり、何というか、まあ・・・、
ですねw
そしてラスト、北大路魯山人と脅迫犯「怪人百面相」の意外な正体が明らかに・・・。魯山人の方は事前にバレバレ
ですが、脅迫犯の方は・・・、これは意外すぎて、というか、「そんなのアリかよ!!」と叫んでしまいました。まあ、
伏線らしきものもあったのですけどねえ・・・。
・・・これで嵯峨島昭作品も、残すは「秘湯ギャル探偵・・・」と「『活けじめ美女』・・・」の2作のみとなったが、1990年
代に発表された上記作品の評判は、・・・だからなあ。どうしようw 谷恒生「大暴風(ハリケーン)」(徳間文庫)★★★★
1991年の長編。
鉱油船「ブルーメディア号」号の三等航海士・伍代正之は、南米コロンビアの港町サンクレメンテで、麻薬
を巡るマフィアらの抗争に巻き込まれてゆく。手始めに一等航海士がフィリピン人の下級船員に殺され、
更に、ボーイが行方不明となる。そして伍代が宿泊していたホテルでドイツ人の船長が殺され、地元警察
からも追われる羽目に・・・。日系アメリカ人、チャイニーズ、スペイン人、イギリス人、フィリピン人など、
様々な人種が入り乱れ、一癖も二癖もありそうな船員たち。その中にマフィアの手先、殺人犯がいるので
はないか・・・。
作者お得意の海洋冒険小説ではありますが、連続殺人の犯人を探すフーダニットの基本は守られており、
疑わしい人物のアリバイが吟味されるなど、なかなかに謎解きの要素も充実しています。更に、ストー
リーの流れから、事件の真相を逸らせるテクニックも上手い。ネタバレにならない範囲で書いておくと、
真相は麻薬絡みと思っていたら実は・・・、というもので、コロンビアとくれば、メデジンカルテルで、コカ
インで・・・、と読者を誘導しておいての意外性。真相に係るさり気ない伏線も先ず先ずの出来で、ラストに
は、数々の出来事は実はこういう意味だったのだ、と明かす謎解きもあり、三好徹や伴野朗あたりの謎
解き要素の強いスパイ小説、冒険小説に近いテイスト、「本格」を意識した佳作といえます。あと、主人公
の伍代が冒険小説らしからぬ、やや軟弱な奴であるのもちゃんと意味があり、ラストで決着を付けてく
れます。とにかく面白かった。お勧めです。
・・・但し、この文庫版は、裏表紙の「あらすじ」で、全く許し難いことに、結末の真相、真犯人まで明かし
ているお粗末を演じています。読まれる方は要注意(俺は目も通さずにさっさと本文に取り掛かったの
でネタバレを免れましたが、読了後に読んでみて唖然としましたよ)。
徳間書店の担当者は、ミステリを全く知らないド素人の大バカ者なのか・・・。 山村美紗「京都新婚旅行殺人事件」(光文社文庫)★★★
1985年のノンシリーズの長編。
南田物産に勤める美知子は、独身の部長と結婚、玉の輿に乗るが、同じ日に結婚式を挙げた社長令嬢が
新婚初夜に京都のホテルから飛び降り自殺する事件に遭遇。だが京都府警の狩矢警部らの捜査により、
自殺ではなく他殺と断定される。更に琵琶湖畔に浮かぶ遊覧船の状態の船室で社長が殺される。財産目
当ての後妻の犯行か、或いは会社の人事抗争か。美知子は事件の謎を追うが、実は彼女の夫もまた、以
前に三人の妻を事故死や自殺で亡くしており、彼女とは四度目の結婚だった。夫への疑惑が膨れ上がる
うち、彼女もまた、命を狙われることに・・・。
はい、いつもの「産業ミステリ」ですね(>>180参照)。テレビドラマ化したときの演出だけを考えたかのよ
うな登場人物、構成ですが、それでも本作は、一応(飽くまで、一応、ですが)、謎解きの過程には、そ
れなりに力を入れており、密室の真相も、作者の作品で良くあるパターンを脱しようと努力はしています。
真犯人の動機には疑問があるものの、レッドヘリングも工夫の跡が見え、終盤まで容易に犯人を割らせま
せん。但し、アリバイ工作の方は・・・、例の電話のアレ、好い加減にしたらどうだ。
以上、陳腐な電話トリックを除いては、かなり努力していますので、決して駄作ではないと思います。少
なくとも、>>180の「京都鞍馬殺人事件」よりはマシ。
しかし、解説の郷原宏、よくもヌケヌケとこんなことを書いて絶賛できたものだなあ。作者の作品では
使い古された電話トリックを「乱歩の『類別トリック集成』に新しい一項目を要求して恥じない」って一体・・・。
おまけに「名前だけで本を買っても絶対に損をしない」とはねえ・・・。解説者としてのプライドはない
のか? × 遊覧船の状態の船室で・・・
○ 遊覧船の密室状態の船室で・・・ >>203
ないでしょ
質より量の典型的な提灯解説者って印象
○谷や小○も同じ印象 ○谷や小○も、石川真介の「不連続線」の馬鹿詐欺先生の解説には敵うまいw 郷原の手がけた松本清張事典のような本、実は内容もそこそこ充実していたんだが、
編者郷原ってことでずいぶん評価を下げていたような気がする。
実際、中身を見て郷原もこんなに仕事ができたんだと驚いた 郷原宏は
詩壇の芥川賞といわれるH氏賞を受賞していると知った時には
へ〜と思ったものだが
文庫で書きまくっている解説の中身にはちょっとなんといいますかね 雑誌「幻影城」(1979年1月号)
本号の作家再評価シリーズは竹村直伸。乱歩の称賛を得てデビュー、短編3本を送ったら3本まとめて
「宝石」誌に掲載されたというエピソードもある作家、本誌には1958〜59年の「宝石」誌掲載作を収録。
「風の便り」★★★☆、デビュー作。子供が風船に付けて飛ばした父親宛ての手紙。殺人容疑に問われ、今
は精神病院にいる父親から返事が届く。離婚して住所を知らせていないし、そもそも風船が父親のもと
に届くことなどあり得るのか、母親は不審を抱くが・・・。語り手の「私」の設定がややアンフェアではあ
りますが、冒頭の一行目など実にシブい。佳作ですね。
「タロの死」★★★☆、3作一挙掲載のうちの1本。これも良作。見知らぬ女性から犬を譲られた少年。
タロと名付け飼おうとするが母親の反対にあう。ガス中毒死した父親の巻き添えで死んだ犬もまた同じ
種類の犬でタロといい、母親は犬を譲った女性に不審を抱くが実は・・・。短編ミステリのお手本のような
作品。ガス中毒と犬の死の真相と、結末の繋げ方が抜群の冴えですね。
「見事な女」★★★、生活を支える妻に甘えて市役所を辞めて靴磨きになった男、妻が失踪した後、花屋
の出店を出した男と知り合う。彼もまた、妻に甘えて花屋に転身したのだが、その妻は靴磨き男の妻
だった。やがて・・・、これも上手いし、結末までグイグイ読ませるけど、真相はちょっとやり過ぎかなあ。
・・・以上3作、1950年代の作品にしてはセンスの良さが光りますね。伏線には不満が残るが、結末の
切れ味は現代でも通じる、独特の雰囲気に満ちた、洒落た短編を読んだな、と満足できます。
その他、書き下ろし作品としては、筑波孔一郎「自殺志願者」★★。六人組グループの一人が語る、不可
解な毒死事件。果たして自殺か他殺か。・・・些細な伏線はともかく、毒殺トリックも陳腐ならドンデン返
しも乱歩の亜流レベル。
日影丈吉「東官鶏」は戦時中の台湾を舞台にした作品、李家豊「深紅の寒流」は冒険小説(田中芳樹「流星
航路」収録、過去スレ参照)。赤川次郎「五分間の殺意」も作者お得意の展開だが後味悪し。
やはり収録作では、連城「桔梗の宿」、泡坂「意外な遺骸」がダントツの出来、説明不要ですね。 竹村直伸はアンソロで読んだ「タロの死」が面白かったから他の作品も読みたいと思ってたんだよな
幻影城捜してみよう >>213
>>雑誌「幻影城」(1979年1月号)
懐かしいですね
確かこれ50号記念とか銘打ちながら
この後数カ月休刊してやきもきした記憶があります
復刊後も三号くらいで休刊してジ・エンド
栗本薫・河野典生の長編連載、日影丈吉の長編分載後編があわや幻に… 風見潤「闇の夢殿殺人事件」(天山ノベルス)★★★☆
1989年、「殺意のわらべ唄」(過去スレ参照)に続く、天文考古学者の神堂と恋人の奈々のコンビが活躍
するシリーズ第2作。
奈々は友人の圭子から、姉の玲子が幼い子を置いて失踪した件で相談を受ける。玲子は新興宗教の信
者で、聖徳太子に由来するという教団の、「今太子」とも呼ばれる教祖の御曹司こそが自分の子の父親
であると主張して、教団発祥の地である栃木県の山奥を訪ねたところで行方を断ったらしい。神堂・
奈々コンビは調査に乗り出すが、玲子がついに死体で発見される・・・。
伏線、特に中盤でサラッと触れる小事件が結末でシブく決まっており、その他、アリバイ工作に密室
トリック、或るトリックなど、サービス満点の作品ではあるのですが、いかんせん200ページちょっと
の分量では消化不良ぎみ。特にラストの謎解きが駆け足すぎる。最後に起きた密室殺人は、真相その
ものが犯人特定につながるので、仕方ないかも知れませんが、もっとジックリ謎解きにページを割い
てほしいところ。なかなかの出来だけど、その点は残念。 加納一朗「血の色の冬」(トクマノベルス)★★
1983年の長編。
東京の青山でミニFM局を開局した若者たち。リポーターの坂口光子は、新宿のホームレスを取材中、
大学の恩師がホームレスとなっているのを見かける。だが数日後、そのホームレスは毒殺される。どう
やら大学講師時代の不倫相手と再会した末に、その相手に毒殺されたのではないかとの容疑が濃厚に。
しかし容疑者の女性は、事件発生直後、自動車事故を起こして意識不明の重体になっていた。不倫相手
を殺して自分も自殺覚悟で事故を起こしたのか。そして被害者の大学講師は、ホームレスになるまでに
一体何があったのか。光子は知り合いになった刑事らとともに調査を進めるが、第二の殺人事件が発生
し、全く別の容疑者が浮上することに・・・。
うーん、若者の風俗や刑事のダラダラした捜査にページを使い過ぎ。FM局の連中や若い刑事の心情な
どを丁寧に描写することにはなったけど、事件の展開のテンポが悪くなり、200ページ程度なのに読み
進めにくいことといったら・・・。事件の謎解きは、一つだけ或るトリックが使われているものの、第二の
殺人事件における犯人の動機が納得できない。何で殺す必要があるの?無理がありますね。 草川隆「寝台特急富士で消えた女」(青樹社ビッグブックス)★★★☆
久々に読む草川作品、これは1989年の長編。
従姉妹どうしで少女マンガを合作する由美と幸子。次々と男を振ってきた由美に間違えられて幸子が
クルマに轢き殺されそうになったのも束の間、大分・別府への取材旅行のため乗った寝台特急「富士」で
遂に殺人事件が勃発。個室寝台に血痕を残して由美が姿を消し、やがて、別府の温泉でバラバラ死体
が発見される。犯人は個室内で由美を殺害、バラバラにして下車したのか、だが該当するような不審者
は全く目撃されていなかった。やがて、同じ寝台車に、由美にフラれたライター・石田が偶然乗り合
わせていたことから、石田は容疑者とされてしまう。身の潔白を証明するため、石田は事件の真相を
追うのだが・・・。
バラバラ殺人と列車のトリックは、作者の独壇場ではありますが、本作のトリックは、まあ傑作とは
言えないものの、先ず先ず面白くはありました。バラバラにした理由も納得できるもの。ただ、捜査
がもっと綿密だったら、これはバレてしまうよなあw
冒頭の大胆な伏線も先ず先ずだが、カンの良い人はこの時点で真相に感づくかも。 笹沢左保「Tの複写」(角川文庫)★★☆
1976年の長編、「13番目の証人」を改題。
旅行代理店に勤める多美子は、上司の市原と不倫関係にあった。だが彼の態度が冷たくなり、その妻・タミ子
が子供を産んだことから二人の仲は決裂、絶望した多美子は市原を殺して自分も死ぬ、と思い詰め、最後の密
会だと男を誘い出して殺そうと計画、果たして市原の刺殺死体が発見され、警察は行方をくらました多美子を
容疑者と断定、その行方を追う。だが同じ日に、市原の自宅では、妻が目を離したスキに、生まれたばかりの
赤ん坊が誘拐される事件が起きていた。多美子の友人だった中曽根京子は、多美子が犯人なら、その場で後追
い自殺するはずだと不審を抱き、伯父で退職した元刑事の栗林に相談したところ、彼を大先輩と慕う、これま
た病気休職中の若い刑事・円城寺と知り合い、失踪した多美子と事件の真相を追及するのだが・・・。
うーん、事件を追う京子と円城寺による、ディスカッションの繰り返しによる推理がミソかと思うのですが、
如何せん、「意外性を求めるなら、アレしかないだろう?」と読者に容易に推測されてしまい、真相がそのとお
りなので、どうも物足りません。あと、誘拐事件の追及がなおざりにされており、後半の解決部分で思い出し
たかのように出してきて、しかも詰らない真相でガッカリ。
力の抜けた凡作としか言いようがないですね。それにしても元題「13番目の証人」って何だろう?題名の由来とな
るような内容は全く無かったようだが・・・。 藤丸卓哉「自衛隊脅迫」(トクマノベルス)★☆
1986年の長編。
防衛庁に届いた脅迫状。自衛隊員の給食の残飯代は換算すれば年間数十億円にも上っており、その分、社会
福祉に回すように要求。一蹴したところ、犯人側は、電力会社のエレベーターを皮切りに、野球場の照明設
備、遊園地の電源を相次いで爆破。死者を出さない巧妙な手口、しかも爆破装置は太陽電池を使ったデジタ
ル装置で、数十年先の日時まで指定して爆破できるもので、いつセットされたかも皆目分からない状況だっ
た。警視庁は福祉関係から容疑者を割り出そうとするが、果たして犯人は誰なのか・・・。
作者が残した2冊のミステリの一冊、もう1つの「殺人周波」は>>80参照。本作でも、科学者らしく爆破装置
のメカには力を入れて紹介していますが、フーダニットとしては余りに構成がお粗末。一応、レッドヘリン
グも考慮してはいますが、およそ効果が上がっていない。伏線もあからさまというか、ダメ。自衛隊に対す
る問題提起も余りに幼稚ですね。 福田洋「幻の女殺人事件」(光風社文庫)★★
1987年の長編。
東京のマンション駐車場で発見された不動産会社社長の死体。だが事件発覚直後に、盛岡で、会社社長と
偽って大金を引き出そうとしていた男が現れ、緊急逮捕。その男は、「見知らぬ女から依頼されてやっただけ」
と否定するが、警視庁は、その男が殺害犯と断定、起訴する。だが裁判中に、被告が主張する謎の女の存
在が明らかに。面目を失う警視庁。「幻の女」は一体どこに消えたのか。だが、裁判の証人となった探偵事務
所社長が何者かに殺害されたことから、事件は意外な方向に・・・。
序盤・中盤は快調でした。地を這うような捜査の手堅い描写、一向に正体を掴ませない「幻の女」の謎めいた
行動など、興味は後半まで繋がってゆくのですが・・・。ああ、こんな真相じゃダメだ。紆余曲折した挙句の
謎解きがまるでなっちゃいない。伏線には良いところもあるし、構成もシッカリとしており、ふた昔前ほど
の警察小説としては良く出来ているのですが、どうも謎解きにヒネりが足りないというか・・・。まあ探して
読むほどのレベルではないです。 平岩弓枝「ふたりで探偵」(新潮文庫)★★
旅行代理店の添乗員・森加奈子が旅先で出会った事件を、紀行作家である夫の清一郎に話し、その話
だけから解決するという、いわゆる「安楽椅子探偵」物の1987年の連作集。
先ずは第1話「ローマの蜜月」、ヨーロッパのツアーに参加した中年の男が帰国後、不審死を遂げる。旅
行中の様子から、清一郎の示した推理とは・・・。被害者が一人でツアーに参加していた理由などは面白
いのですが、推理が飛躍しているなあ。
「チュニジアの新婚旅行」は、息子夫婦の新婚旅行に同行した母親。気に入っていた嫁が見込み違いだっ
たことが分かるが実は・・・。意外性は十分だが、これまた推理が何の根拠も無く飛躍しすぎ。
「箱根・冬の旅」も結末のヒネりはあるが、清一郎の推理が、どうもなあ・・・。
その他、「スリランカの殺人」、「ロアールの幽霊」、「ハワイより愛をこめて」、「ニューヨーク旅愁」、
「香港の満月旅行」いずれも、オチの切れ味はともかく、探偵が推理して解決するような話ではない。
・・・全体に、探偵役を無理に登場させることは無かったかと思いますね。結末の意外性とオチだけ
で構成した方が良かったかと思います。 笹沢左保「影絵の愛」(光文社文庫)(採点不能)
1989年の長編。
大信田倫子は、スーパーの社長だが学者肌の夫に飽き、私立学校経営者の御曹司・白川との不倫に走って
いた。だが、新宿のホテルで人妻が殺される事件が勃発、あろうことか夫が容疑者として浮かび上がる。
夫は無実を訴えながらも、デタラメなアリバイを申し立て、全て虚偽だと暴かれてしまう始末。夫は一体
何を隠しているのか、倫子は白川とともに事件の真相を追うのだが・・・。
先ず、ヒロインの心理が甚だ不可解、作者はちゃんと説明していますが、どうも理解できかねます。そし
て、「すぐにバレるデタラメなアリバイ」の件は・・・、作者の先行作に、同じ趣向の某名作がありますが、
本作は・・・、うーん、そういうことですか。
しかし、事件の真犯人については・・・、なるほど伏線も巧みで、意外性に満ちてはいるけれど、真相発覚の
手掛かりや、夫が容疑者となった経緯が、余りにもご都合主義的。作者は、そうなる可能性をちゃんと
示唆してはいますが、広い東京で、そんなことが重なることなど先ずあり得ないでしょw
意外性を追求しすぎて、構成の手堅さを無視していますね。開いた口がふさがらない、面白かったけどw 笹沢左保「文政・八州廻り秘録」(祥伝社ノン・ポシェット)★★★
1972年の「朝霧に消えた男」文庫改題版。無法状態だった関八州の治安に当たる「関東取締出役」の活躍を
描く連作集。1972年といえば、「木枯し紋次郎」シリーズ等で脂の乗り切った時期、無宿渡世人の敵役に
当たる関八州取締出役を主人公に据えています。
「闇の四天王の罠」◎、上州で一晩のうちに2箇所の商家に押し入った強盗団。十里余りも離れているの
に、2時間足らずで徒歩で移動して強盗することは不可能なのだが・・・。トリック自体はシンプルながらも、
巧妙に仕組まれた不可能犯罪物の佳作。結末のダメ押しも先ず先ず。
「魔性の肌」○、脱走した犯罪者が悪事を再開、野州・小山宿に出向いた関東取締出役。小山には馴染み
の女がいるのだが・・・。これは大阪圭吉のアレと同じ趣向ですね。バレやすいのが難ですが。
「甘い餌」◎、足跡一つ無い雪で覆われた離れでの密室殺人。密室トリックよりも、序盤の些細な言葉の
錯誤が上手い。
残りの「雷神を殺した女」、「女色の代償」、「お旗本の秘め事」は、いずれも出来悪く△。 森村誠一「銀河鉄道殺人事件」(講談社文庫)☆
1985年の長編。
国鉄が主催した、行き先不明の「ミステリー列車・銀河鉄道X号」ツアー。参加者のうち、席を隣り合わ
せた二名の男が、遠く盛岡で殺害される事件が発生。更に相次いで殺人事件が発生する。ミステリー
列車に乗り合わせた乗客たちに一体何が起きたのか・・・。
極めつけの駄作。出だしは快調だったのに、事件の真相は、ただの偶然を積み重ねているだけ。最後
の最後に残った謎解きにやや期待したのですが、これもダメ。こんな偶然こそ在り得ない。 中津文彦、亡くなっていたのか…。
吉村達也もスレに該当する世代でしょうか? 合掌
「政宗の天下」しか読んだことなかった
積んでる「黄金流砂」「特ダネ記者殺人事件」も読まないとなぁ 大谷羊太郎「華麗なる惨劇」(集英社文庫)★★
1977年の長編の文庫改稿版。
城之内は暴力団を脱退し、芸能界専門の揉め事解決業に従事していた。だが或る時、彼に犯罪予告の電話が
かかってきて、予告通り、人気演歌歌手が殺害される。更に犯罪を予告してくる謎の男。どうやらバックに
は巨大な悪の勢力がついているらしい。また城之内の所属していた暴力団も、ただで城之内を解放した訳で
はなく、何かを画策しているらしい。続けて起こる第二、第三の殺人。犯人の狙いは一体何なのか、城之内
は単身、事件を追及するのだが・・・。
暴力団や裏社会の描き方が、今読むとマンガのようで今一つ迫力に欠けるのですが、それはさておき、殺人
犯の正体を中盤で明らかにしてしまったため、殺人犯を操るバックの勢力の真の動機と、暴力団側の狙いが
何なのかに期待したのですが・・・。
まあ、クリスティのアレの趣向も分からなくは無いですが、効果が上がっていませんね。バックの勢力に対
しても、そんなことのために連続殺人を犯すのかよ、と突っ込みたいです。駄作とはいかずとも、凡作も良
いところでしょう。 小池真理子「あなたに捧げる犯罪」(双葉文庫)★★☆
1989年の短編集。
基本的にサスペンス・ホラー系の作品が多いのですが、火災発生の伏線が巧みな「菩薩の様な女」○、推理
作家協会賞受賞作の「妻の女友達」○、これも序盤の伏線が上手く、ちょっと読者の予想からズレたところ
の真相とオチが決まっています。
あと注目は、割とオーソドックスな倒叙物で、アリバイ工作の手抜かりがどこにあったかがポイントと
なる「セ・フィニ−終幕」○も在り来たりのトリックながら面白い。上記3作くらいが論理的に割り切れる
ミステリとして、それなりに評価できる作品でしょうか。
一番の傑作は「男喰いの女」ですが、これはホラー系で、一応ラストで結論が出るものの、「本当にそう
か?」と一抹の疑惑を残す手際が見事。
残りの「転落」、「間違った死に場所」は水準作といったところ。 高柳芳夫の「『禿鷹城』の惨劇」を読んだ
題名の響きと目次におどる密室の文字にワクワクして購入。
……本格魂は感じられるし、どんでん返しをしっかり仕込んであったり、凝りに凝った物理密室トリックなどは良いんだが
小説としてはどうかと思った
登場人物が無暗に多すぎるのと社会派要素と本格要素が分離していた印象 梶龍雄「女たちの復讐」(トクマノベルス)★★★☆
久々に読む梶龍雄作品、これは1986年の長編。
興信所の探偵・真藤は知り合いの由香と鏡子の姉妹に騙され、全裸で監禁されてしまった。彼女らの父親
を殺した犯人が真藤だと言う。実は真藤は裏稼業で殺し屋もしており、確かに或る依頼者から彼女らの父
親殺しを依頼されていたのだが、真藤が被害者の住む熱海の別荘にやって来た時には、相手は既に何者か
によって殺された後だった。それを信じようとしない姉妹に対し、真藤は監禁されたまま、真犯人は誰な
のかを推理し、身の潔白を証明しようとするのだが・・・。
全裸で監禁だの、本筋に関係ないヒャッハー男の乱入など、エロ路線のサービスぶりが鼻につきますが、
のっけから異常な状況で展開する辺り、「浅間山麓殺人推理」に近いテイストで、主人公のキャラも軽ハー
ドボイルド風ではありますが、やはり、数年前に起きてしまった殺人事件を、関係者が説明してゆき、そ
こから真相に至る展開での謎解きには苦労したようで、説明ぶりが何とも渋滞気味で、二転三転する展
開なのに何故か重苦しく、話のスムーズさを欠いてしまったようで残念。それでも、さすがは梶龍雄、ダ
ラダラした説明にも周到に伏線を張っており、或る些細な事実から意外性のある真相を導く手際はなかな
かのもの。佳作というには一寸、ですが、決して凡作ではないと思います。
・・・これで梶龍雄も確か38冊目くらい、残りはあと3、4作くらいかなあ? 船山馨「海の壁」(河出文庫)★★
1959〜63年に発表された2中編&連作の全3本を収録。
表題作は、保険会社社員が出張中に失踪、その妻が単独で夫の行方を追う。やがて神戸港で水死体が上が
り、夫と目されるが、信じ切れない妻は更に事件の真相を追及するのだが・・・。
発表時期からみても、完全な清張の亜流。真犯人の意外性はなかなかのものだが、およそ中編レベルで収
めるには無理があり、伏線が不十分で、真相の解き方に欠点が露わになってしまった。身内が証言するア
リバイを「疑問の余地がない」とする点にも、作者の素人ぶりが如実に現れている。少々ヒネッた構成は良
かったのですが・・・。
「兜町殺人事件」も同様。錯綜した裏の裏の真相、真犯人の巧妙な手口などプロットは面白いのに、謎の隠
し方と解き方が甘い。とはいえ、これは一応水準作でしょうか。
「明日を売る男」は、謎めいた男に会った人々が人生を転落してゆく様を描いた全4話の連作。柴田錬三郎
「幽霊紳士」というか、「わらゥせぇるすまん」に近いテイストか。謎解き物ではないが、この時期にしては
センスの良い連作だとは思います。 林葉直子「気まぐれ天使は夜空がお好き!−恋の事件簿」(学習研究社)★
1992年のシリーズ物?の長編。作者はむろん、あのお騒がせ天才女流棋士、数々のスキャンダルの後、
今はどこで何をしているのでしょうか?
由衣は女子大生、製薬会社の研究者である兄の親友で写真雑誌「マタイデー」記者の大松を憎からず思っ
ているが、会えばケンカばかり。或る時、実験のミスで出来た新薬を飲んで由衣は透明人間になって
しまう。すったもんだの挙句、由衣は兄の会社の専務が絡む麻薬のスキャンダルを知り、大松ととも
に事件の真相を追うのだが・・・。
まあ、こんなラブコメ風ミステリに謎解きを云々するのも大人げないですが、冒頭の小事件が結末に
絡んでくる辺りは、素人にしては、その程度のことは考えているんだなあ、ぐらいは思いました。他に
は言及するようなレベルではないですね。探して読むような本ではないです。 林葉はついこのあいだ将棋界に復帰したよ
もちろんもうプロじゃないし実力は見る影もなくなってたが 別役実「淋しいおさかな」(PHP文庫)★★★★
1973年の、NHK幼児番組向けに書いた童話集。これは幼児向けにはもったいないほどレベルの高い
童話集で、しかも、発端の面白さと意表を突いたオチが見事な傑作。謎解き風の話もあり、特に序盤
の伏線と「発想の転換」的な結末に、本格ミステリのテイストに近いものがあります。幾つか紹介す
ると・・・。
「煙突のある電車」、乗客ゼロの市街電車。或る日、初めての乗客が乗って来たかと思ったら、この電車
で働かせてほしいという。そういう志願者が続出して・・・。なるほど、結末はこう来るかw
「機械のある街」街の中心に巨大な謎の機械が置かれている。何をする機械なのか誰も知らず、撤去する
ことになったのだが・・・。これぞ発想の転換というか、チェスタートンにも通じるナンセンスな結末が
冴える傑作。
「みんなスパイ」、謎の委員会から、スパイに任命したと手紙が届く・・・。ヒネりにヒネッたフーダニット
物かw
「工場のある街」、煙を出し続ける工場。何を作っているのか、工場で完成した物とは・・・。「機械のある
街」にも通じる逆転の発想が見事。
「穴のある街」、市民みんなで、ひたすら穴を掘り続ける街。七十年以上もかけて掘った穴が完成したと
き、最初に穴を掘ることを開始した市長の手紙が公開される・・・。これも素晴らしいオチ。
どれもこれも、本格ミステリのエッセンス、とまでは行かなくとも、発想のヒントになりそうな話が満載
の全22編、以前に紹介した「探偵物語」のような難解さは無いので、お勧めです。 井口民樹「外科病棟の陰謀」(双葉文庫)★★☆
1984年の長編。
大学病院で出世街道を走る外科医・交野。恩師の教授の娘との結婚で、足がかりを掴むかに見えた
が、悪性の腫瘍により、外科医の命ともいうべき右腕を切断、悲観して飛び込み自殺を遂げる。だ
が彼の恋人と交野の後輩である榊原は殺人ではないかと疑念を抱き、独自に真相を追及する。やが
て、交野を脅迫していた男も殺され、事件は医大の後継者争いにも関わってくることに。果たして
真犯人は・・・。
トリッキーな趣向に乏しいため高い評価はできませんが、地味ながらもフーダニットに徹した作品。
真犯人を特定する伏線が一つしかないのも難点ですが、さり気ない描写がシブく決まっています。
レッドヘリングの扱いにも難がありますが、新本格登場前、同時期の森村誠一や斎藤栄あたりの駄
作に比べれば遥かにマシ。 城島明彦「平家教団の陰謀」(光風社ノベルス)★☆
1986年の長編。
フリーのコピーライター蔵原圭子は、急激に拡大してきた新興宗「平家教団」の謎の女教祖の顔写真を
見て驚愕する。5年前の学生時代、若狭地方を一緒に旅行した時に行方不明になった親友・久江に瓜二
つだった。果たして本物なのか、久江はどういう事情で教祖になったのか、圭子と恋人の山口は教団に
近づくが、彼女らの身辺で連続殺人が勃発。教団幹部・平林の不審な行動の目的とは、そして教祖は本
当に久江なのか・・・。
本筋の殺人事件の顛末はお粗末で、論評すべき出来ではないです。むしろ、平家教団にまつわる、壇ノ
浦における平家滅亡と安徳天皇生存説の方がめっぽう面白くってw
既に知られている伝説の類の寄せ集めではあるし、出所不明のデッチ上げのような説も交じっています
が、読物としては、大変スリリングに、分かりやすく紹介されており、「成吉思汗の秘密」以来の面白さ。
まあ、これを「本格ミステリ」というかは疑問ですが、高木彬光の「・・・の秘密」シリーズふうの構成に
したら結構面白くなったのに・・・。 笹浩平「黒の文化財」(芙蓉書房)(採点不能)
1976年の長編。全く知らない出版社の、全く知らない作家の作品ですが、さて。
塗料メーカーの敏腕研究員・坂口は奈良・秋篠寺の隣に住んでいたが、寺の境内で発生した殺人事件に
巻き込まれてゆく。被害者の若い女性の身元も、また死因についても全く不明で、未知の毒物が使われ
たらしい。やがて坂口は、自分が手がけた海上自衛隊の護衛艦「ゆきかぜ」の塗装に関わって、政財官の
癒着へと巻き込まれ、秋篠寺の殺人事件にも関わって行くことに・・・。
うーん、何なんだこの小説は。塗料・土木業界に詳しいヒトが、当時の塗装業界、文化財保護行政の在
り方に私憤を感じて告発しました、ということか?以前に読んだ北川健「S公団醜聞事件」(過去スレ参照)
に近いテイストか。それにしても、「文化財は最新の技術と安いコストの材料で建て替えることに意義が
ある」とか言って、東大寺大仏殿修復で、屋根瓦を大量生産の安い瓦に葺き替え、木材も安物でOK、最
新技術の東大寺を未来に残そう!とか、この作者、少しイッちゃってますね。
で、肝心の事件の真相と真犯人ですが、何だそりゃ、アホか、といったレベル。検出されない毒物の正
体がアレだというのには驚いたし、一番スゴいのは、オウム真理教事件を二十年近くも前に予言してい
ることでしたが、ミステリとしてはダメダメも良いところ。まあ、オウム事件の手口と動機を完全に言
い当てており、その点にだけは感心しましたけど。でもそれだけ。 山崎洋子「横浜幻燈館−俥屋おりん事件帳」(集英社文庫)★★☆
頃は明治、横浜で家業の俥屋で車夫をしながらフェリス女学校に通う娘おりんと、混血の西洋料理シェフ
留伊の活躍を描く1992年の連作集。
第1話「らしゃめん」、外国人実業家の妾を人力車で送迎して殺人事件に遭遇。容疑者の妾は、おりんの俥に
乗っていたという鉄壁のアリバイがあるのだが・・・。トリックは大したものではないが、伏線にも配慮した
良作ですね。
第2話「薔薇の悲鳴」、女学校の演劇の最中の銃撃騒ぎ。銃声は一発だけだったはずなのに弾丸が二つ見つか
る・・・。凶器の隠し場所に工夫を凝らした作品。
第3話「狂女」は人力車を呼びとめては車夫を襲う幽霊の話。実は・・・。ちょっとした錯誤をメインにした
ものだが今一つ。
第4話「神の邪心」は、犯人の意外性を狙ったものだが、ミステリとしても、また最終回としても、どこか締
まっていなくて、或いは続編を考えていたのかも知れません。 笹沢左保「真夜中に涙する太陽」(廣済堂文庫)★★★
1987年の長編。
作家である「私」こと笹沢左保は、後輩作家・大野木が病気から復活して再度人気を博している中、彼を
怨んでいる連中の陰謀に巻き込まれてゆく。別れた前妻、大野木に盗作を告発され自殺した男の兄・仙石、
スキャンダルを見つけようとする三流ジャーナリストの多田の三人は、大野木の破滅を狙っているらしい。
果たして、大野木は何者かに足を刺され重傷を負い、作家として再起不能の危機を迎える。だが次に殺さ
れたのは、大野木を狙っていたはずの仙石だった。「私」はお気に入りの女性編集者とともに事件を追及す
る。果たして一連の事件の真犯人は・・・。
作家本人が登場し、普段の作家活動を描写しつつフィクションの殺人事件の探偵役になるという、なかな
かユニークな作品ですが、さほどトリッキーなヒネりがある訳ではありません。本作品はやはり、真犯人
の意外性、というか、その動機の特異性にあるでしょうか。余り詳しくは書けませんが、笹沢作品だから
当然、動機は「愛の不毛」絡みだろう、と読者を誤誘導させるシブいテクニック。この動機はちょっと予想も
出来ませんでした。笹沢作品だから・・・、という先入観が邪魔をして、作家の作風をトリックにした、とは
言い過ぎですが、なかなかシブいところを突いてくる作品です。 2時間ドラマ用量産作家たちの小説。
何も面白くない。 斎藤栄「日本鉄仮面殺人事件」(徳間文庫)★★★
1982年のノンシリーズ?長編。
横浜の地元誌編集部に勤める長谷川の妻が大量の血痕を遺して行方不明に。更に彫刻家の父親も謎の失踪
を遂げ、娘もまた何者かに誘拐される・・・。警察に犯人と目されて逃走した長谷川は、自ら事件の真相を追
及するうち、父親の知り合いの男が浮上、その邸宅に忍び込んだ長谷川が見たものは、鉄仮面を被せられ
た男だった・・・。
序盤から剃毛プレイとは・・・、相変わらず狂っていて安心したw
それはともかく、強引な茶番劇なのに、スイスイと読めてしまうは良いのですが、果たして真相は・・・。なる
ほど、そういうことでしたか。この真相には一寸驚きました。いわゆる「何が起きているのか、何が事件
なのか」という趣向かと思うのですが、現代の作家ほど洗練されてもいなければ、常識的にヘンな言動も
あったりして突っ込みどころは満載。とはいえ、不覚にも結末には驚かされました。よって★3つと、そ
れなりの評価にしておきます。稀にこういう作品があるから斎藤栄は侮れないなw 藤雪夫・藤桂子「黒水仙」(創元推理文庫)★★☆
1985年の菊池警部シリーズ第2作、藤雪夫の旧作「渦潮」の改定作業中の急逝により、娘の桂子が完成
させた作品。
宮城県の地方都市・白山市の地方銀行で起きた支店長殺害・現金強奪事件。事件はやがて、東京で起き
た守衛の密室殺人事件と深いかかわりを持ってくることに。菊池警部ら東京・宮城の刑事らが辿り着い
た真相とは・・・。
うーん、密室トリックが二つとも期待外れも良いところ。機械的トリックなど読者に推理不可能なメカ
だし、初動捜査で全くその疑問にも思われなかったのも、説明はあるけど納得できない。二つの事件を
巡る真犯人の異様な動機も一寸・・・。辻褄は合っており、登場人物の心理も丁寧に追っているが、およそ
謎解きとして納得できる展開にはなっていない。主人公の菊池警部のキャラにもイライラさせられるな
あ。凡作でしょう。 斎藤栄「<悪の華>殺人事件」(徳間文庫)(採点不能)
表題作の短めの長編および4短編からなる1984年の作品集。
表題作、これがスゴい。解説の権田萬治が「異色作中の異色作」、「真犯人の意外性も強烈」と書いているので
オッカナビックリ読んでみましたが・・・。アハハ。序盤から、初夜まで我慢できなくなった新婚旅行夫婦が新
幹線車内でヤラカすなど、C級も良いところ。本筋は、子供を誘拐・殺害された母親の、犯人家族への復讐、
といったストーリーで進んでゆくのですが、探偵役のカップルもヘンタイで、喫茶店でコトに及んだりと、
こりゃどうなることやら・・・、と思っていたら、復讐に燃える母親を操る真犯人の正体にはビックリ仰天。な
るほど、事件への関わりを考えたら、ソイツが犯人であることは納得できるし、ちゃんと伏線も張ってあっ
た。でもなあ・・・。アンフェアというか何というか・・・。C調変態趣味で本格ミステリに挑んだ、ということ
か?これは確かにスゴい作品。
その他の収録作は、「狂気の壺」がSF風ミステリでちょっと面白いが、「二十秒の盲点」、「優しい脅迫」は凡作、
巻末の「青い蜜」は子供の視点で書いたミステリだが、仁木悦子には遠く及ばない俗悪なもの。そういう趣向
が好きな方にはお勧めですが・・・。とにかく表題作が全て。作者の武勇伝にまた一つ汚点が加わったなw 桐生操「血ぬられた法王一族」(福武文庫)★★☆
「本当は恐ろしい・・・」や「やんごとなき姫君の・・・」シリーズなどで知られているコンビ作家の、メジャー
になる前、1986年のごく初期の歴史ミステリ長編。
15世紀末のイタリア。ボルジア家の当主がローマ法王アレッサンドロ六世になり栄華を極めていた時代、
次男のホアンが何者かに拉致され惨殺される。この事件を切っ掛けに、長男チェーザレが妹のルクレツィ
アも使って全イタリアの覇権を目指そうと台頭してくる。実はチェーザレ自身が弟殺しの犯人ではない
のか?事件の真相を究明し、ボルジア家の野望に待ったをかけようと目論むのは、フィレンツェの敏腕
外交官マキアベッリ。彼は天才レオナルド・ダ・ヴィンチの助けも借りて事件を追うのだが・・・。
前編「ボルジア一族の野望」、後編「探偵ダ・ヴィンチ」の二部構成。前半でチェーザレがイタリア制覇に
乗り出すまでを描き、後半で、マキアベッリとダ・ヴィンチによる一連の事件の黒幕・真犯人探しが描
かれるのですが、マキアベッリがワトソン役でダ・ヴィンチが名探偵、という割り振りが余り上手く行っ
ておらず、真相究明に迫力が欠けてしまったのは残念。最後に意外な真犯人の正体が明かされるのです
が、伏線が不十分で、真犯人の言動の「裏」について、事前にもっと踏み込んで描写してもらいたかった
です。
題材や登場人物のユニークさもあって非常に楽しく読むことができましたが、ミステリとしての評価は
また別でしょう。マキアベッリとダ・ヴィンチが、それぞれ探偵役になる海外ミステリ2作は素晴らし
かったのですがねえ・・・。 清水一行「百億円投機」(集英社文庫)★★
1971〜1986年の作品を収めた短編集。一編だけ「犯人当ての本格推理」があるとのことで読んでみま
したが・・・。
その作品「一度の賭け」、会社の絵画サークルの旅行中、幹事夫婦の乗ったヨットが転覆して夫が死
亡。しかし妻は、夫が溺死する前に毒物を飲まされていたのでは?と疑うのだが・・・。確かに、オーソ
ドックスな犯人当て物のミステリですが、毒物の種類がユニークながらも、入手方法などの詳細が
お粗末だし、結末のヒネりも在り来たり。全体に出来が粗くて残念。
むしろ、サラ金会社の重役の娘が誘拐され、身代金支払いに応じた父親だったが実は・・・、という誘拐
物ミステリ「誘拐自由」の方が、二転三転のヒネりが楽しい佳作です。
あと「影の男」は、見知らぬ女性に近づき大金を提供しようと申し出る男、その狙いは・・・。こちらは
ヒネり方が現代のミステリに比べて弱いなあ。
その他は経済・企業小説で、表題作は邦銀ニューヨーク支店の為替ディーラーのお話、当時起きた
大和銀行のスキャンダルがモデルですが、ミステリ味は無し。
「炎の墓標」、デパートのオーナー社長の堕ちた罠。松本清張風の力作だが、これもミステリ味は
薄い。
「巨きな亡霊」、新社長の改革で追放されようとする会長。地位に執着する余り、誇大妄想が広がっ
て・・・、完全な企業小説なのに、何故か最後はホラーで終わるユニークな作品。 いつもありがとうございます
清水一行ってミステリ的観点で言うと
やっぱり協会賞取った動脈列島の一発屋さんなんかなあ
社会派の時代だからミステリに色気出して
たまたま当てたみたいな
>>249
シビアな評価ですね。
「黒水仙」、トリック(おやじさんのパート?)は確かに駄目だけど、動機部分
は印象的でした。娘さんの伸びしろは、こちらにある感じで。 広山義慶「平家物語殺人事件」(祥伝社ノンポシェット)★
1984年の長編。
新聞記者の諏訪は、学生時代の友人で、恋人を奪っていった市島と再会する。「平家物語」に登場する
僧・俊寛に関する歴史を覆す大発見をしたので、情報を買ってくれと頼まれる。諏訪は断るが、数日
後、市島はホテルで殺されているのが発見される。一方、諏訪の見合い相手が謎の奇病にかかり、俊
寛の怨霊に祟られているかのような発作を起こして危篤に・・・。また市島の情報を巡って暗躍する謎
の勢力。諏訪は、元恋人の美也子とともに市島の発見したものと彼を殺した真犯人を追及するのだが・・・。
・・・バケモノが平気で登場するようじゃ話にならんw
それでも、市島殺しの真相はオカルト絡みとみせかけて、ちゃんと人間の意外な真犯人がいたので、
まあ良しとしましょうか。でも意外性はあるけど、およそ謎解きになっていない。しょーもない伝奇
小説に殺人事件の常識的な解決を付けくわえただけ、といった方が正しいか。読む価値なし。 西村京太郎「真夜中の構図」(角川文庫)★★
1979年の長編。
代議士の太田垣は、大臣就任を前に、5人の愛人を整理するよう秘書の早川に命じる。早川は500万円で手を
切るよう愛人を説得して回るが、誰一人応じようとしない。ところが、彼が会った愛人が次から次へと殺さ
れてゆく。容疑者と目された早川は真犯人とその動機を追及するのだが、遂に逮捕されてしまう。彼の言い
分を信じた十津川警部は、早川を罠にはめた真犯人を追及するのだが・・・。
西村作品では珍しい、官能シーン満載の作品。20ページに一回は出てくるぐらいか。一箇所だけ真相に絡
む叙述上の大胆な描写が登場するが、ミエミエで失敗ぎみ、効果が上がっておらず、残りの官能シーンは謎
解きとは関係なし、発表先がどこか知らないが、そこの要請だったのかな?
真犯人と動機の意外性を狙ったのだろうが、或る人物の登場が遅すぎる。もうちょっと早めに登場させ、更
に伏線などを考慮してくれれば一定の出来栄えになっただろうが、これではダメ。 山本周五郎「赤ひげ診療譚」(新潮文庫)★★★☆
江戸時代の療養所、「小石川養生所」の熱血医師「赤ひげ」と、見習い医師の保本登を主人公にした1959年の
時代物連作集。黒沢明の名画でお馴染みの作者の代表作の一つ。ミステリ風の話もあるかと思って読んで
みましたが、さて。
最初の第1話が、或るトリックを使ったミステリ短編で驚き、期待させたのですが、以降の作品はミステ
リ味は薄くなってゆくか全く無しで残念。しかし、普通の小説としても十分面白かったですね(★3つ半
の評価はミステリとしての評価ではないのでご容赦)。
新田次郎「つぶやき岩の秘密」(新潮文庫)★★★☆
1972年の少年冒険小説、NHK少年ドラマシリーズでも映像化された屈指の名作とのこと。・・・最近、
新田次郎の復刊が相次いでいるなあ、と思ったら、今年は生誕100年だったのですね。
・・・これは文句なしの傑作でしょう。ジュブナイルのミステリとしても十分な出来栄え。大人へと向
かう少年の心理を実に細やかに描いた骨太の作品。殺人、謎めいた要塞跡、暗号解読などの趣向も
バッチリ。まあ「本格の謎解き」とは言えないけど、久々に昭和の熱血少年小説に出会えて嬉しかっ
たのでw >>261
「つぶやき岩の秘密」なつかしいですね
自分は小学生の時NHK少年ドラマシリーズ版をリアルタイムで見てました
石川セリ(井上陽水夫人)の歌うEDがヒットして当時話題になりましたね 佐野洋「奇しくも同じ日に・・・・・・」(講談社文庫)★★★
1962〜1984年に発表された作品の短編集。
表題作◎、新聞記者を辞めて地元のタウン誌編集長になった「私」。地元の野球強豪校の甲子園出場時の
メンバーが二年続けて同じ日に変死する。部下の記者が疑念に思って調査すると・・・。短いページで、
思い切り意外な真犯人の趣向を活かしています。描き方もフェアな佳作。
「屋根の上の犬」○、向かいのマンションのベランダに放置された犬。そこに住む人間が殺されるが実
は・・・。なかなかユニークなアリバイ工作もの。
「切り抜きの意味」○、恋人からの贈り物を包んでいた古新聞の切り抜かれた紙面が気になり、何の記事
を切り抜いたのか調べた女性。実は・・・。或る有名な趣向なのですが、短い枚数ながらもキッチリと描
かれており、読者の予想を上回るドンデン返しが冴える佳作。
上記3編は秀逸でお勧めですが、残りの6編は、意外性はあるけどミステリの謎解きとしては凡作。 山崎純「死は甘くほろ苦く・・・・・・」(東京創元社)★★
1988年の「鮎川哲也と13の椅子」シリーズの一編、このシリーズなら「新本格(以降)」の括りとは思います
が、一応紹介しておきます。
雑誌のフリー編集者である「私」ことマリ子。フランス人の有名なチョコレート職人の勲章受章パーティ
に取材に行ったところ、チョコレートを食べた料理学校長が毒殺される事件に遭遇。被害者の妻、学校
の副校長、仲の悪い料理評論家などなど容疑者多数のなか、マリ子は雑誌編集長とともに真相を探るの
だが・・・。
・・・、何と言うか、文体そのものが酷い。1980年代後半、バブル真っ盛りとはいえ、この文章は無いだろ。
作者はポン女を卒業してソルボンヌに留学経験があるというのに、その知性を微塵も感じさせない軽薄
きわまる文章。「イヤ〜ン」、「ファ〜イ」、「ショーガナイナ〜」、「センセ、大スキ!」、「あ〜カンチガイ」・・・。
この破壊力は梶龍雄に匹敵するな・・・。
肝心のプロットとトリックはまあまあだし、些細な伏線なども上手いので、「本格」としてそれなりの評価が
出来るはずなのに、文章で全てブチ壊し・・・。
解説の鮎川まで「キャピキャピギャル」って・・・。そこまで軽薄な時代だったとも思えないのですが・・・。未だ
有栖川有栖もデビュー前で、東京創元社も、折原一とともに売り出したかったようですが、この文体はなあ・・・。 山村正夫「陸奥こけし殺人事件」(講談社ノベルス)★★☆
「振飛車殺人事件」でも活躍する女流棋士・小柳カオリを主人公としたシリーズ物の長編で、1982年発表、
講談社ノベルス最初期のラインナップの一冊。
岩手・花巻温泉で起きた興信所の所長殺し。被害者は、十年前に山形県鶴岡のコケシ工房で起きた殺人事件
で無実を訴えながらも有罪となり服役、出所後に行方をくらました男を追っていた。その男の母親とひょん
なことから知り合い、息子は冤罪だと訴えられたカオルは、警視庁の刑事である夫の協力も得て一連の事件
を追及する。やがて十年前の事件の関係者の一人が容疑者として浮かんでくるが、その人物には鉄壁のアリ
バイがあった・・・。
何というか、メリハリがないというかストーリーが停滞しているというか、ちょっと退屈な展開でした。肝心
のメイントリックも、中盤辺りで見当がついてしまい、事件の構図の全てがバレやすくなってしまっており
残念。それに、このシリーズのヒロイン・カオリ自体に魅力が無いのが致命的。被害者が残したダイイング
メッセージが将棋に因むネタで、ヒロインがそれに気付くシーンなど、良い場面もあったのですが・・・。 藤村正太「大三元殺人事件」(廣済堂ブルーブックス)★★★
1976年の長編。この本は作者の死後、1979年にノベルス版で出たもの。
公害防止機器メーカーに勤める梓は自他共に認めるマージャンかぶれの不良社員。だが常務からその勝負強さを
見込まれて、工場の廃液汚染で問題となっている静岡県N市の営業所に異動され、自社の汚染防止装置の売り込み
に躍起となる。マージャンを通じて知り合った監督官庁の役人から、賭け金のカタに、工場廃液の情報を取ろう
と画策するが、その役人が行方不明に。やがて発見された水死体。溺死させられた後、更に濃硫酸で顔を焼かれ
ていたものの行方不明の役人と判明、梓は廃液の情報に絡む或る会社の幹部を疑い、その弱みに付け込んで、自社
売り込みに利用しようとするのだが、その男には鉄壁のアリバイがあった・・・。
どうせ、マージャン命の昭和スチャラカ社員の好い加減な話だろうとタカを括っていたら、けっこう骨太な作品で、
主人公も意外と魅力的でした。メイントリックが弱いのが難点で、真犯人の意外性もあるが、その伏線が足りない
欠点もあり、決して佳作とは言えません。でも、死体に硫酸をかけた真相や、死体のポケットにあったマージャン
牌の件など、小味なサブトリックは先ず先ず評価できます。これは「コンピューター殺人事件」(過去スレ参照)にも
共通する特徴ですね。
あと、各章の間に「断章」として、黒幕らしき者が描かれ、最後の最後に真犯人を操る黒幕の正体が明らかになるので
すが、これは余り効果をあげておらず不発ぎみ。
なおマージャンのルールは全く知らないので、そのシーンは、謎解きには関係しませんように、と斜め読みしましたが、
殆ど影響はなかったw
「コンピューター・・・」と同様、やや甘い評価ですが★3つといったところでしょうか。 笹沢左保「地獄の辰・無残捕物控〜首なし地蔵は語らず」(光文社文庫)★★
1972年の捕物帳シリーズ、主人公・辰造は暗い過去を背負うニヒルな岡っ引き、庶民に嫌われながらも、
長十手で容赦なく江戸の犯罪を暴いてゆく・・・。
表題作は、商家で起きた殺人。客と主人を間違えた人違い殺人かと思われたが実は・・・。単純なアリバイ
工作ですが、ラストのヒネりが上手い。
「夜鷹が水を欲しがった」は、商家の連続殺人。ダイイングメッセージ物だが出来は良くない。
「縁切寺で女は死んだ」は、ちょっとした言葉の齟齬から意外な真相を暴く良作。
以上3編は、謎解き物としてそれなりの水準を保っているのだが、以降の「水茶屋の闇を突く」、「半鐘が
赤い雪に鳴る」、「瓦版に娘が欠けた」、「賽は知っていた」の4編は、辰造の過去の或る事件に絡む話に
移行して、謎解き趣向から離れてしまっており残念でした。 阿井渉介「京都原宿ハウスマヌカン殺人事件」(講談社ノベルス)(採点不能)
1987年のノンシリーズ長編。この素晴らしいタイトルw、「京都」、「原宿」、「ハウスマヌカン」と来て、作者は
阿井渉介とくれば、もうダメ押し。当時ヒットした「夜霧のハウスマヌカン」という一発屋イロモノ歌謡曲
に便乗したのか、三流ダメミス・クズミスの匂いがプンプンしてきて、迷わず購入。もはや性癖だなw
原宿のブティックで働くハウスマヌカンの「わたし」こと小泉祥子。専属モデルやスタイリスト、カメラマン
らと京都へ撮影旅行に出かけたが、独りで寺詣りに行ったところ、謎の男につけ回される。実はその男は
ブティックオーナーの時田好子が男装していたもので、彼女はやがて他殺体となって発見される。現場付
近にいてアリバイのない祥子は京都府警のボンクラ刑事・牛尾から疑われ、自らの潔白を明かすべく、犯人
探しに乗り出すのだが、親友も殺され、窮地に陥る・・・。
文体が少々ヘンでして、主人公の「わたし、・・・・なんです」といった独白体、宇能鴻一郎を少々上品にした
ような感じといったら良いか・・・、辟易しました。
電話のアリバイ工作やら、マンション階段での人間消失トリック、ヒロインのクルマのトランクに死体を
隠したトリックなどなど、トリッキーな趣向もあるのですが、いずれもショボい真相で脱力。但し、その
伏線はキッチリと張られており、「そうか、あの人物のあの言動はそういう意味だったのか」と感心する
ところは一応ありました。
あと牛尾刑事のキャラも類型を破るもので、後年の「警視庁捜査一課事件簿」シリーズの菱谷刑事とは逆の
「陽性な不良刑事」でユニークではありますが、やはり2時間ドラマ臭さが抜けなくて・・・。
なお本書は講談社ノベルス1987年3月刊、あの「十角館・・・」の半年前、日本のミステリ界はここまで混迷を
極めていたのか・・・wまあ、「夜明け前が一番暗い」とも言いますからw 赤川次郎「盗みは人のためならず」(徳間文庫)★★☆
1980年、大泥棒の夫・淳一と、その妻で警視庁刑事の真弓のコンビが主人公のシリーズ連作集の第1作目。
淳一が盗み目的で行動を起こすと、別の事件に遭遇して、その事件を解決する、というパターンです。
第1話「ヴィーナスの腰布」○、二つの事件の絡み具合が上手い。第2話「名画から出て来た女」◎、田舎の駅
で発見された有名画家の幻の作品。そのモデルにそっくりな少女が何者かに襲われて・・・。真犯人に意外性あ
り、伏線も先ず先ず。第3話「C線上のアリア」○、有名なオペラ歌手の警護を依頼された真弓と後輩刑事。
喉を痛めた歌手の代理でやって来た正体不明の男の狙いは・・・。犯人はバレバレですが、歌手の代理の男の謎を
交えてひとヒネりしており、ドンデン返しが冴えています。
ここまでは良かったのですが、第4話以降は、ドンデン返しの連続、被害者が実は加害者とか、善玉悪玉を
ひっくり返す趣向などもあるものの、伏線も無しに強引に話を引っ繰り返す話が多く、高い評価は出来ません
でした。 川上宗薫「寝室探偵(ベッド・ディテクティブ)」(光文社カッパノベルス)(採点不能)
1980年の長編。むろん作者も「ベッド・ディテクティブ」の本来の意味を承知しており、巻頭にわざわざ
解説まで入れて「本書のような間違った使い方は探偵小説を貶めるものだ」という主旨で、茶化してくれ
ています。
官能作家・毛利はフランス・パリで知り合った娼婦が殺された事件に引き続き、帰国早々、同じくパリで
知り合い、一足先に帰国していた女性カメラマンも変死したことを知る。更に自分を狙っている連中の存在
に気付き、自宅に帰らず、秘かにホテルを転々とする生活。だが毛利には、セックスすると頭が冴え渡り
推理能力が発揮されるという特異な癖があることから、あちこちの女性を取っ替え引っ替えナンパしてヤリ
放題で、自分を追っている連中の正体とその目的を推理する。パリの娼婦と女性カメラマン、そして自分が
関わっており、敵が狙っている秘密とは一体何なのか・・・。
・・・・。バカです。これはバカそのものです。まあ「確信犯」的にベッド・ディテクティブなどと称していること
から「冗談」で済ませれば良いのですが、せめて謎解きのレベルは上げてもらいたかった。結末に至っての真相
は脱力の一言。確かに、或る小道具や、真犯人の動機に関する伏線などもありましたが、余りに程度が低い。
以前に読んだ「夏が殺した」くらいにはトリッキーな趣向を取り入れて欲しかった・・・。
官能シーンも、今読むとすっかり古びてしまっており、「構造」とか「名器」などの用語で一世を風靡したのも今は昔、
他の登場人物も、一体いつ仕事をしているのか分からないノンビリした昭和元禄なスーダラ揃い、まあ割り切った
上で、クズミスとして楽しめば宜しいかと・・・。 >>268
阿井渉介ってダメミス代名詞扱いなのかw
「鉄道公安官」の脚本家だけあって、国鉄改革前後を扱ったシリーズは堂に入ってると思ってるんだが 島田一男「0番線」(徳間文庫)★★
1962年、鉄道公安官・海堂次郎を主人公とするシリーズ長編。
東京駅に落ちていた寝台券。裏には「助けて・・・殺される」の走り書きが。直後に東京駅近くで起きた
女性の変死事件。更には遠く富山県でも女性の轢死体が。被害者はいずれもチャイナドレスを着て
いたという共通点が。海堂は寝台券の受取人から、元陸軍将校とその娘に行き当たる。元将校は何人
もの愛人を囲っており、一連の変死事件の被害者はその愛人たちであったことが判明。更に愛人たち
を巡って第三、第四の殺人事件が勃発する・・・。
序盤、チャイナドレスを着た複数の女性たちが列車で複雑な動きを見せる辺り、トリッキーなアリバ
イ工作か何かの趣向か、と期待を持たせたのですが、やがて凡庸な真相であることが分かりガッカリ。
トリックも謎解きも中途半端だし真相も在り来たり、動機もなっていない。将校の娘のジャジャ馬ぶ
りだけが面白く読めるお話。 谷恒生「ホーン岬」(集英社文庫)★★☆
1977年のごく初期の冒険小説。
南米航路の貨物船・木星丸。一等航海士が謎の失踪を遂げ、日本から交代要員として招かれた陣内は、
木星丸の寄港地・パナマで日本人商社マンの殺害に巻き込まれ、地元警察の追及を振り払って木星丸
に乗船するも、事務長・山形の謎めいた行動に疑念を抱く。木星丸が秘かに積みだした荷物の中身は
何なのか、その謎を巡って、米CIAやナチス残党、反政府ゲリラなどが暗躍する。陣内が掴んだ真
相は、そして木星丸の運命は・・・。
冒険小説ではありますが、生島治郎などの先例もあるものの、まだ「冒険小説の時代」を迎える以前だ
ったためか、この作者の冒険小説には、まだ謎解きミステリから分かれずに、謎解きの趣向にウエイト
をかけた作品も多いのですが、本作は、謎解きが中途半端に終わってしまった感じ。謎の構成とその
解明が非常に粗っぽく、せっかく意外性のある真相が用意されていて、解明の手順次第では謎解きミス
テリにも成りえたと思うのに、少々残念な出来。むろん冒険小説としては佳作ですが。 斎藤栄「箱根高原殺人事件」(講談社文庫)★☆
1981年のノンシリーズ長編。
亜妃子は婚約者の大伴とともに箱根のペンションに旅行に出かけるが、大伴は一人で外出したまま行方不明と
なり、他殺死体となって発見される。所持品のうち唯一、大伴が付けていた腕時計だけが盗まれるという不可
解な状況。亜妃子は、現場で見かけた謎の女性を突きとめ、追及したところ、思いもよらなかった大伴の別の
素顔が明らかになる。彼は亜妃子と婚約する前、何人もの女性と付き合い、自殺に追い込んだりしたのだとい
う。更に亜妃子にその事実を告げた女性もまた殺される。亜妃子は大伴殺しを追っていた新聞記者とともに事
件の真相を追及するのだが・・・。
うーん、辻褄合わせも好い加減にしろよ、と言いたくなる出来栄えですね。ラストの謎解き場面が非常にバタ
バタしており、しかも、当時最先端だったカシオのメロディアラーム付き液晶腕時計に秘められた謎、って・・・、
たったそれだけの真相かよ。真犯人の意外性は相当なものですが、アリバイの件もお粗末なら、動機の後出し
も良いところ。どこか突き抜けたハジケ方にも欠けており、ごく真面目なストーリーであるが故に全く面白く
ないという、どうしようもない作品。 津村秀介「小樽発15時23分の死者」(講談社文庫)★★
1990年の浦上伸介シリーズ長編。
小樽在住のアマチュア女流画家が、初の個展で買い手のついた作品を売るために札幌に滞在中、ホテルで
殺される。被害者とその夫は莫大な財産を所有していたが、実は他人の財産を騙し取ったという後ろ暗い
過去が。ほどなく絵の買い手で被害者に財産を巻きあげられた男が容疑者として浮かび上がる。北海道旅行
中のアリバイは簡単に崩されたが、肝心の凶器は、犯行以前に宅配便で東京に送られており、現場には無
かったという不可解な状況が浮かび上がってくる・・・。
作中に何度か言及のあるように、クロフツ「樽」や鮎川「黒いトランク」を意識した作品で(そのためか、小樽
とか横浜の樽町など、「樽」に因んだ地名がでてくる)、トランクによる「凶器の移動」が謎解きの要なのです
が・・・、ええと、初心者でなく普通にミステリを愛読する人なら、誰でも先ず最初に「トランクは・・・・・・だった」
と考えますよ、そして真相はその通りでした、と言うんじゃあ・・・。
それでも最後まで「ではトランクをどうやって・・・・・なのか」という謎は残るので、まあ良しとしましょうか、でも
その真相すらもアレではねえ・・・。一点だけ、「トランクの鍵」の小細工がラストで一寸した働きをするのは感心
しましたが。
初心者または二時間ドラマ向けとしか言いようが無いですね。あと、タイトルも意味不明。小樽駅発15時23分
の列車なんて作品中に出てこないし、そもそも掲載されている時刻表にも存在しないような・・・。 笹沢左保「悪魔岬」(光文社文庫)★★★☆
1977年、まだ岬シリーズは第一作の「他人岬」しかなく、「悪魔」シリーズも無かった頃に中絶した作品を、後年の
1985年に復活させ、「岬」「悪魔」両シリーズに跨る題名で発表した長編。
松平の婚約者・美紗は妻子ある男・三条と不倫の末、心中未遂、死体遺棄事件を起こし、松平は婚約解消、そし
て一年後、美紗は失踪し、十和田湖で水死体となって発見される。不倫相手の後追い自殺を図ったのか、だが
美紗の所持品が沖縄で起きた殺人事件の現場で見つかるなど、不可解な出来事が相次いで起こっていた。松平は
三条の未亡人・八千代とともに事件を追及するのだが・・・。
「悪魔」シリーズに書き換えたこともあって、官能シーンも濃厚。結末の「ドンデン返し」に期待したのですが、
なるほど、これはかなりの驚き。序盤の肝心の部分の描写はハッキリ言ってアンフェアだが、その真相を知る
人物のセリフはウソを言っていない。地の文はアンフェアだが、真相を知る人物のセリフはフェアというのは、
ちょっと珍しいかも。
但し、もう一つの事件との絡め方が、どうもアッサリ過ぎて、唐突な感じが否めないです。なお伏線については
可も無く不可も無く、といった出来栄えでしょうか。
傑作とは言い難いが、一読の価値はあるでしょう。 >>277
「他人岬」じゃなくて「他殺岬」だと思ったけど。 >>278
ご指摘のとおり、「他殺岬」が正しいです。お恥ずかしい・・・。
・・・では2013年の第1弾。
曽野綾子「塗りこめた声」(桃源社)★★★
1961年の長編。かの乱歩が「宝石」誌刷新のために一般作家にミステリ執筆を呼び掛けた際、この作者も短編などを
書いたそうで、本書もその影響でしょうか。なお本書は1977年の再刊版。この作者といえば、何と言っても日本
ホラー史上、一、二を争う名作「長い暗い冬」。同作収録の短編集「華やかな手」の他、「消えない航跡」、「夢を売る
商人」などにも「奇妙な味」っぽいミステリ短編はあるけど、このスレで紹介するには難があったところ、ようや
く、フーダニットの基本を踏まえた、「本格ミステリ」の長編作品を紹介することができました(但し出来栄えは、
以下のとおりですが・・・)。
公共放送CBAの地方支局から東京の本局に帰って来た北上。栄転早々、世話になって来た先輩の興津が、スタジ
オで殺される事件が勃発。現場は施錠された完全な密室だった。その謎も解けぬうちに相次いで関係者を巡って殺
人が起こる。CBAの元理事の蓮沼が、そして競馬で一発当てた局員の神部が、そして蓮沼の愛人・敬子も・・・。
連続殺人の真犯人は誰なのか、北上はひょんなことから知り合った早苗とともに事件を追うのだが・・・。
各章には、クイーン、カー、ヴァン・ダイン、ベントリー、C・ブランド、果ては清張や星新一などの作品からの
引用文がエピグラフとして出てきて、何か、作者のやる気が伝わってきそうで、非常に魅力的だったのですが・・・。
うーん、「フーダニットと密室トリック」が出てくるので、出来るだけ高い評価にしたかったけど、肝心の密室トリッ
クがアレではねえ・・・。施錠に関する、或る人物の或る「錯誤」の伏線は上手いのですが、トリック自体はヒドいもの。
また真犯人の意外性についても、最後の事件が非常にジャマで余計なもので、それなりに意外性はあったのに最後
で台無し、「何てことをしてくれたんだっ!」と言いたいです。その他、競馬ネタでのレッドヘリングなども余り効果
は上がらず、一応、「本格ミステリ」の基本は踏まえているものの、決して高い評価は出来ず残念。 高場詩朗「神戸須磨殺人事件」(天山ノベルス)★★★
「神戸舞子浜殺人事件」(過去スレ参照)でデビューした作者の長編第2弾、1990年の作品。
校長と対立して高校教師をクビになり、恋人とも別れてトラック運転手をしている「私」の元に、元恋人が訪ねて
くる。結婚した夫が市会議員殺しの容疑で逮捕されたが、夫のアリバイを証明する東南アジア留学生を探して
ほしいと言う。だが現場は、議員と一緒にいたとされる容疑者以外には、誰も出入りすることは不可能な状況
にあった。「私」は元恋人への未練を断ち切れないまま、報いの無い人探しを引き受ける。だが、真相に近づいた
かと思うと、疑わしい人物は次々と殺されてゆく。一体真犯人は誰なのか・・・。
前作の「あとがき」に出てくる、作者自身の情けない生活ぶりを彷彿とさせる「自己憐憫に酔った似非ハードボイル
ド風の主人公」の情けなさにイライラしましたが、そこは我慢。密室トリックは早々に暴かれてしまい、犯人
探しに移行するのですが、謎の構成にやや難があるものの、伏線なども考慮されていて、ラスト、関係者を
集めての「私」の謎解きも、まあ満足できるものでした。ただ、真犯人があんな厄介なトリックを弄する必要も
なく、もっと別の方法があったのでは?とも思いました。あと、前作でもそうでしたが、警察が余りにボン
クラ過ぎて・・・。こんなマヌケな警察なんかいないよw 南原幹雄「新選組探偵方」(福武文庫)★★
1988年発表、幕末の京都に活躍した新選組を巡る数々の事件の裏の真相を、隊士の沖田総司が、隊の監察を
務める島田魁をワトソン役にして解決する趣向の連作集。
第1話「総司が見た」は芹沢鴨暗殺事件の裏の真相。近藤・土方らによる粛清ではないとしたら真犯人は一体・・・。
まあスタートとしてはこんなものでしょうか。
第2話「残菊一刀流」は山南敬助切腹の真相。まあまあか。
第3話「風雲六角獄」は捕縛された尊王志士たちを惨殺した真犯人は?別に起きた毒薬騒ぎとの絡め方に工夫
が見られる良作。
第4話「祇園石段下の暗殺」は名だたる剣士であった谷三十郎変死の真相。一種の凶器トリックだが、後出しも
良いところ。
その他、第5話「銭取橋の斬撃」、第6話「よく似た二人」、第7話「耳のない男」。・・・新選組のことは余り知ら
ず、詳しい人にとっては「この程度の裏の真相では・・・」と思われるかも知れませんし、「本格ミステリ」の謎
解きを云々するレベルではないですが、実際に起きた数々の事件の史実や通説を引っ繰り返して意外な真相を
明かす、という趣向は大変面白かったですね。 松尾詩朗以前にも、詩朗という名のミステリ作家がいたのか… 笹沢左保さんの短編で
皆生温泉の芸者さんの話があったと思うんですけどタイトル分かる方いますか 牛次郎「三千万円の撒餌(こませ)」(祥伝社ノンノベルス)★★☆
1984年の誘拐物ミステリの長編。
一代で中堅サラ金会社を作り上げた男の息子が誘拐され、ワープロによる脅迫状が届く。身代金は1億
3千万円。捜査陣は脅迫状の特徴からワープロの機種を特定し、付されていた文書番号から犯人に肉迫
してゆく。犯人は母親の浮気相手か、恨みを持つ同業者か、それとも・・・。
冒頭、いきなり身代金奪取の場面から始まり、更に誘拐事件と関係ないかと思われた倉庫での変死事件
の顛末が語られ、終盤で二重のドンデン返しを迎えます。この手法はそれなりに効果を挙げており、読
者に先ず先ず驚きを与えてくれるのですが、当時脚光を浴びていたワープロにまつわる蘊蓄が今となっ
ては完全に時代遅れ、というか、捜査に精彩が欠けてしまっており、主人公格の藤堂竜刑事の造形が上
手いだけに残念。その他、文書番号の暗号解読興味や、身代金の半端な金額の秘密などの趣向もあるの
ですが、どうも伏線の張り方というか、どこか綿密さや面白味に欠けます。マンガ原作者としてのキャ
リアを感じさせる、なかなかメリハリのある出来の良い小説ではあるのですが・・・。 斎藤栄「横浜山下公園殺人事件」(光文社文庫)☆
1986年の「白い魔術師の部屋」の文庫改題版の長編。
大学教授の徳井は腎臓の病気で長期入院中、透析を続けなければ明日をも知れない状態にあった。彼に
親切にしてくれた看護婦の早苗は婚約者から謎めいた手紙を受け取り、心配になって郷里の四国に帰る
が、婚約者は密室状態の浴室で殺されてしまう。徳井は、アメリカから導入した最新の携帯透析器の世
話になりながら、事件を追及し、早苗の恩に報いようとする。事件の背景には地元暴力団が暗躍してい
るようなのだが、徳井は友人の水木に協力を求める。だが姿を現さない水木。そして徳井の行動もまた
早苗に何かを隠しているらしく謎めいていた。一体事件の真相は、そして謎めいた徳井の行動の秘密
とは・・・。
・・・ああ、もはや「ミステリ小説」としての最低限の構成の緊張感すら失われてしまっている。どうやった
ら、こんなスチャラカでスカスカなお話を書けるんだ?婚約者が生前に遺した手紙の暗号解読なり、
浴室の密室トリックなり、謎解き興味までは失っていないようですが、オリジナリティはゼロだし、
姿を現さない謎の友人「水木」の正体・・・、って、あんな書き方したら、どんなボンクラでも真相は丸分か
りだろ?本当に作者は、これで正体を隠せた気でいるのだろうか?もしそうなら、もう二十年以上も
前の作品だが、この時点で引退した方が良かったと思う。ここまで駄作だと、書いた当時の精神状態
を疑いたくなるw
斎藤栄のクズミス群、もう止めようとは思うけど、もしかしたら次の作品こそ・・・、と気になって止めら
れないですねえ、って、ひょっとして一種のギャンブル中毒みたいなものなのか、俺? 山村正夫「死体化粧人」(講談社ノベルス)★★☆
監察医務官だったが退職して民間の葬儀会社の遺体修復師になった垂水。持ちこまれる死体の不審な
点から意外な真相を暴く、という趣向の1985年の連作集。
第1話「死体装飾人」は、飛び降り自殺したかと思われた若い女性。その修復を請け負った垂水は、死
体の異様な状態を見抜き、他殺ではないかと疑う・・・。スタートとしてはこんなものでしょうか。真犯人
が死体から或る「もの」を盗んだ動機がヒネッてある。
第2話「髭のある死体」は兵器・火薬工場の爆発事故。だが何者かによる爆弾事件の疑いが濃厚になって・・・。
大した出来ではない。
第3話「眼のない首」、これは先ず先ずの良作。思い切ったトリックを使っており、その必然性は弱くて、
強引な部分もあるのですが楽しめた。
第4話「屍ブローカー」もまた、或るトリックを使っているものの偶然に頼り過ぎ。
第5話「異形のかたみ」も同様のトリックで、そんな都合良く行かないよ。
第6話「指の告発」は意表を突いた真相があるも、やはり同様。
・・・主人公の「死体修復師」という職業を通り一遍になぞっただけで、踏み込んだ話に発展しておらず勉強
不足。また死体修復に絡まず、ただの鑑識の話もあったり、特に後半のエピソードは、どれも或る同じ
トリックの繰り返しみたいなところがあるのが残念。 石沢英太郎「唐三彩の謎」(徳間文庫)★★★
1973年の長編。
会社社長の父親の面倒を見ている娘の砂原麻也子、父親が古美術品絡みの殺人事件に巻き込まれて
容疑者となり、香港に逃亡。更に戦争中、日本占領下の北京・紫禁城で起きた不可解な盗難事件と
人間消失事件に関係した男が殺される事件も勃発。麻也子は恋人の菅原とともに父を追って香港に
飛ぶ。北京・紫禁城の盗難と人間消失の真相は、そして玄界灘の孤島・沖ノ島で発見された唐三彩
との繋がりは、謎は謎を呼ぶのだが・・・。
真犯人の設定に甘さが見られるのですが、父親の不可解な失踪事件の意外性とその伏線、人間消失
トリックなど、さほど独創的なトリックでもないですが、なかなか読みごたえのある作品に仕上が
っていました。「カーラリー殺人事件」と並ぶ良作でしょう。 斎藤栄「紅の天城高原」(集英社文庫)★★
1971〜86年の短編を収めた作品集。
「三色の告発」はお得意の囲碁に絡めた暗号解読物ですが、ラストのヒネり方といい、色々と粗い点が
目立つ凡作。
「幻のパンダ」は、動物園が募集した児童の作文の内容に不審なものを覚えた園長。作文を書いた女の
子が誘拐される騒ぎに発展するのだが・・・。突っ込みどころ多数ですが、身代金強奪のトリックや、子
供の作文に隠された謎など、趣向を凝らした力作で合格点。
「二重心中殺人」は、男女の無理心中と思われたガス中毒死事件、現場は内側から目張りした密室だっ
たのだが・・・。真犯人の意外性と密室トリックに挑んでいますが、オリジナリティはありませんね。
「桜咲く殺意の里」は、サラ金苦で心中することを決意して旅行に出た夫婦。夫が行方不明になった後、
殺されてしまう・・・。駄作だが、ラストで妻のとった行動がかなり意表を突いていて驚いた。
表題作は駄作。やはり1970年代に書かれた前半の作品は許せるが、1980年代の後半の作品は、読む
必要がない、というか読むと損するw 日下圭介「ころす・の・よ」(新潮文庫)★★★
同じく新潮文庫の「偶然かしら」と同じく、文庫オリジナルの短編集。1985〜87年の作品を収録。
巻頭の「暗い光」と巻末の「盲点のひと」がベスト。「暗い光」は、浪人生の甥と同居する若妻。田舎
町の暮らしに飽き飽きしていたところ、近所で起きた殺人事件で甥が疑われるが・・・。この作者独特の
暗いムード満点で、やはり作者お得意の或る昆虫ネタと小味なトリック、ラストでハッピーエンド
になる反転の瞬間が素晴らしい。傑作揃いの初期短編群が復活した佳作。
「盲点のひと」は女性刑事・倉原真樹シリーズの中編。会社の保養所で殺された社員。保養所の鍵を
管理するヒロインの女性の証言により、保養所は密室状態にあり、自殺かとも思われたのだが・・・。
題名どおり、いわゆる「見えない人」のトリックで、さほどの驚きはないが、伏線なども上手く
処理されている良作。
その他には、「うぶな娘」の出来も先ず先ず。ヒロインに殺人の濡れ衣を着せようと企む二人組。だが
自らのアリバイ工作が一転、墓穴を掘る結果に・・・。
残りの「バイバイ・アリバイ」、「初恋」、表題作、「阿美の女」などは出来がイマイチでした。 矢島誠「シンデレラエクスプレス殺人事件」(ハルキ文庫)★★☆
1991年のノンシリーズ?長編。
日曜日最終の新大阪行きひかり号で発見された女性の手首。発見者となった京都のOL・亜紀と範子。
手首を持ちこんだ人物が亜紀の同僚の仁美であったことから事態は更に紛糾してゆく。仁美は何者かに
脅迫されて指図に従っただけだというが・・・。更に現場に居合わせたカメラマンの志麻の撮影した写真に
隠された秘密とは・・・。亜紀は志麻とともに真相を追及するのだが・・・。
特にどこが破綻している、という訳でもないのですが、裏の裏を突いた真相を狙う余り、辻褄合わせに
なってしまった、という印象が拭えません。バラバラ死体にした理由が意表を突いているけど、ちょっと
説得力が弱いというか必然性に乏しいですね。決して駄作という訳ではありませんが、良作とも言えない
レベル。 笹沢左保「魔性の誘惑」(徳間文庫)★★
1969年の「陰獣の血」の文庫改題版長編。
元ホステスの亜衣子は会社社長と知り合い、玉の輿に乗り幸福な生活を送っていたが、刑務所に
服役中の昔の男が出所後、復縁を迫っていると刑務所仲間に脅される。今の贅沢な暮らしを失い
たくない亜衣子は、スナックで知り合った‘サタン’と名乗る謎の青年から「夫を完全犯罪で殺し
てしまえ」と唆される。一方、夫の方も不審な動きを見せてくる。果たして夫殺害は成功するの
か、そして‘サタン’の正体とは・・・。
うーん、‘サタン’がレッドヘリングとして上手く機能すれば、作者が隠したかった真の「秘密」が、
ラストのドンデン返しで大きな驚きを与えられたかも知れないですが、どうも失敗気味。
‘サタン’の秘密も、この作品発表当時ならあまり知られておらず、読者を驚かしたかも知れない
ですが、今となっては、何が意外なのかすらも理解できないでしょうね。作者の意図が上手くいか
ないまま終了、残念な出来でした。 小林久三「夏の秘密」(カドカワノベルズ)★
1982年の、この作者には珍しい青春ものミステリ長編。映画化もされたようで、当時の売れないアイドル
ユニットが主演ですが、原作が以下のような出来栄えもあってか、映画の方もアレのようですw
私立高校の女子高生・ちえみは早朝のプールで担任共振惨殺死体を発見。容疑者かと疑われた親友の佐和子
が失踪の後、海に飛び込み自殺したかにみえたが、ちえみは偽装自殺で、佐和子はどこかで生きていると
信じ、同じ親友の久子とともに事件を追及するうち、一連の事件は、元刑事だった自分の父親が扱った過去
の事件に絡んでいることを知る・・・。
謎解きとしては大失敗じゃないかよw
佐和子が親友たちの前から姿を消して一時間と経たないうちに、遠く離れた場所で自殺した痕跡のみが発見
される・・・、って、それなら偽装自殺(しかも何者かとグルか、或いは本人とは関係ない人物の何かの陰謀か)
に決まっているのに、どうしてそれが‘不可能犯罪’になるんだ?
真犯人もバレバレだし、序盤で重要な立場にあった登場人物がいつの間にかいなかったかのような扱いに
なっているし・・・。好い加減なやっつけ仕事も良いところのダメダメな駄作。この作者がこんな青春ものを・・・、
という意外性はあります。まあ梶龍雄より若者の描き方が上手いのだけが取り柄か。 大岡昇平「夜の触手」(光文社カッパノベルス)★☆
1960年の、作者初の長編ミステリとのこと。
幼馴染で結婚を誓い合った三郎とひろ子。高校卒業時にひろ子が行方不明に。タクシー運転手になった
三郎は銀座でひろ子と再会、だが、間もなくひろ子は殺されてしまう・・・。ひろ子は東京で何をして暮ら
していたのか、何も知らぬまま、三郎は容疑者として逮捕されてしまい、絶望して犯行を自白。だが
所轄署の波多野刑事は、三郎はシロだと判断、執拗な捜査の末に、もう一人の容疑者が浮かぶのだが、
その男には鉄壁のアリバイがあった・・・。
大して巧妙とはいえないものの、如何にもなアリバイ工作が出てくるので、その解明に期待したのです
が・・・。嗚呼、トリッキーな真相など期待した俺がバカだった・・・。終盤には、更に新たな容疑者がもう
一人登場するなどして、ひとヒネリしてはいますが、結局は読者の想定どおりの人物が犯人で幕。
これなら、以前に照会した「歌と死と空」や「最初の目撃者」の方がマシ。本作で評価できるのは、序盤で
姿を消してしまう被害者のひろ子の謎めいて不可解なキャラが、終盤まで深い印象を残し続ける点で
しょうか。この点だけは流石。 ・・・番外編。
アンソロジー「0番目の事件簿」(講談社)★★★★
いわゆる「新本格」でデビューした作家およびその影響を受けた新鋭作家らの「デビュー前の習作」を収録した
アンソロジー。収録作の多くが「1987年以前」のため、やや反則ながら紹介します。
有栖川有栖「蒼ざめた星」(1980年)。これは如何にも「大学機関誌に発表しました」風な作品。犯人特定の
詰めに甘さが見られるが、たどたどしい伏線など微笑ましいくらい。作者が言及している「ブラックジャック」
の一件は、コミックス20巻に収録の「台風一過」ではないのかな?
法月綸太郎「殺人パントマイム」(1985年)。真犯人の設定にブッ飛んだwでもその件の伏線が弱い。もっと
髪一重のところまで踏み込んでほしいです。
霧舎巧「都筑道夫を読んだ男」(1984年)。倒叙物。犯人を追いつめる外国人の正体とは・・・。タイトルどおり
のマニアックさもさることながら、犯人の追いつめ方がもう習作とは言えないぐらい堂に入って
いる。
安孫子武丸「フィギュア・フォー」(1984年)。これぞバカミス。「4」のダイイング・メッセージってw
これは俺にも真相が分かった。さりげない伏線がバカバカしくも上手い。
霞流一「ゴルゴダの密室」(1980年)。密室状態の部屋で、ドアに串刺しにされた死体・・・。これもバカミス臭い
が、密室ものとしては十分合格点だと思います。
高田崇史「バカスヴィル家の犬」(1973年)。収録作では最も古い作品、作者は当時中学生。ホームズ物のパス
ティーシュだが、これは一寸ねえ・・・。
綾辻行人「遠すぎる風景」(1984年)。冒頭に明記されているとおり、長編「人形館の殺人」の原型。これって、
当時読んだサークル仲間は、別の作品で、・・・・が・・・・であることに慣れていたので、見事引っかかった、
ということなのでしょうか?
他の収録作は、いずれも1987年「新本格」登場以降、その影響を受けた作家たちの習作なので略。
・・・いずれにせよ、1970〜80年代、一部を除いて謎解き本格ミステリに恵まれなかった時代の学生読者たちの怒り
と熱気が伝わってくる、「先ずは謎解きの本格ミステリ!、日本語の文法や作文の基礎などは後からついてくる!」、
とばかりの、ちょっと青臭いが、とても楽しめる作品集でした。 志茂田景樹「西城家の惨劇」(実業之日本社ジョイノベルス)★★★★☆
1995年の長編。「猟奇ミステリー」とありますが、拾い読みした限りでは、エログロ描写も少なそうだし、終盤では
探偵が謎解きをしているような描写もあり、真っ当なミステリっぽかったので購入。発表年は本スレの主旨から
外れていますが、本作は紹介せざるを得ないケッサクです。
鉄道をメインとする一大財閥を率いる西城家。熱海の岬をまるごと買い取った広大な敷地に当主・龍一を筆頭に
本家の一族が暮らし、後妻親子、執事、主治医、使用人らの家族ともども一大帝国を築いていた。だが使用人が
崖から謎の転落死を遂げたのを皮切りに、茶室の天井崩落、後妻の子供への襲撃未遂などなど、一族の命を狙っ
た不審事が相次ぐ。長女で盲目のピアニスト世志子は、長男で家を飛びしてアメリカで画家・小説家として成功
していた春彦を呼び戻す。十数年ぶりに帰国した春彦と、龍一が雇った香港に住む名探偵・烏丸良輔が一連の事件
を追及するのだが・・・。
何といっても、名探偵・烏丸良輔がスゴい。金髪で黒いソフト帽にカイゼル髭、燕尾服を着て、馬に乗って登場(爆)。
河原町ならぬ烏丸、燕尾服・・・、って、麻耶雄嵩へのカン違い対抗か?
プロットは意外とマトモで、大富豪の遺産相続絡みで進み、終盤、関係者を一堂に会しての名探偵の謎解きもある
王道の展開。しかし、真犯人の意外性を狙う余り、犯人に関する動機や事実関係に後出しが多く、最後になって
そんなこと言われてもなあ、というのが正直な感想。小味なトリックなどもありますが、いずれも高い評価は出来
ません。
しかし、本作がスゴいのは、一連の事件が解決した後のラスト2、3ページ。「エッ!?そうだったのかよ!!」と
大爆笑しました。読み返してみると、確かに伏線はあった。その事実を上手く回避している描写もあり、これに
は降参。・・・しかし、理由は理解できるけど、必然性はあったのかなあ・・・。
ラスト、日本バカミス史上に残る驚愕の真相を笑って済ませられる人にはお勧めの一冊。草の根分けても探し出し
て読むべし。或る意味、麻耶よりもスゴい。烏丸探偵バンザ〜イ!
なお、星4つ半の評価は、バカミスとしての評価ですので念のため。 新宮正春「甲子園球場殺人事件」(講談社ノベルス)★★
1984年の長編、講談社ノベルス最初期の一冊。
スポーツ紙記者の笠井は甲子園球場での巨人阪神戦を観戦中に親友の立花を殺されてしまう。笠井の
スタジャンを借りて着ていた立花は自分に間違われて殺されたのではないか、悩む笠井は単身、事件
を追及する。更には恋人の絵梨も殺され、一連の事件は更に、立花の勤務先の大学からの天然痘ウィ
ルス盗難事件にまで発展、警察と笠井らによる犯人追及は意外な方向へと発展してゆくのだが・・・。
うーん、序盤は快調でしたが、途中から、国際謀略物に近いテイストになってしまい、本格ミステリ
から離れてしまいました。謎解きも面白くないし、この作者の長編はこれが初めてでしたが、既に紹
介済みの短編集「後楽園球場殺人事件」、「殺人球場−殺しのトリック・プレイ」の方が「本格」として
は上でしょう。 赤川次郎「駈け落ちは死体とともに」(集英社文庫)★★☆
1980年の短編集。本格ミステリとしては、表題作と「壁際の花」に注目。
表題作はユーモア物。予備校生カップルが駈け落ちして無理心中しようとするが、トランクがすり替えられ、中から
死体が。二人はすり替えられたトランクの行方を追ううち、意外な真相に行き当たる・・・。作者お得意の作風ですが、
伏線の巧みさと真犯人の意外性で読ませます。
「壁際の花」は、高慢ちきなアホ女子高生が密室状態の中で殺される。被害者を恨む者は多数いたが、みなアリバイ
があった・・・。ちょっと類例を知らないユニークな密室トリックが出てきます。
他の作品のうち、「交換日記」は、女性との同棲がバレて退学になった高校生。だが同棲相手の女性が一向に姿を現さな
い・・・。これは真相がバレバレ。
あと「遠い日の草原」もシンミリした良い話だが、ミステリとしては不十分な出来。残りの「善の研究」、「霊魂との約束」、
「二つの顔」、「命のダイヤル」は、ホラー風味などもあって工夫を凝らしているが、大した出来ではない。 まあ、ただの不注意だから5か月くらいムショ入りして
終いかな
ちょうどいい休暇くらいだな
そんなに日本は厳しくないよ 夏樹静子「蒸発」読んだけど、なんだこの話・・・・・ 司城志朗の「そして犯人もいなくなった」が
どうしても見つからない… ボウリング殺人事件とか白い森の幽霊殺人とか読むと、ボウリングやスキーがすごい流行ってて時代感を感じる 岡田秀文って面白いね(誰に向かって言ってるんだ?)
大沢在昌「眠りの家」(角川文庫)
1981〜1985年の短編集。
「ゆきどまりの女」★★★★。不要になった殺し屋たちを始末する謎の女性。或る男が掴んだ意外な
正体とは?
・・・最初から最後まで伏線だらけ。ハードボイルドのエッセンスともいえる短い枚数の小品なのに、
意外性に満ちた真相と、それを支える伏線が実に見事。
その他の作品は、いかにも1980年代の軽めのハードボイルド、謀略ものといった感じの作品が並びます
が割愛。
「ゆきどまりの女」だけでも読む価値があるでしょう。 西木正明「凍れる花火」(集英社文庫)
1986〜87年の作品を収めた短編集。
北海道などを舞台にした滋味溢れる作品が並びますが、巻末の「孝行代金」が秀逸。東北の田舎町から
上京した祖父をもてなす孫の男と「わたし」。寿司をとって歓待しているのだが実は・・・。もう冒頭の
一行目から伏線になっており、孫と「わたし」の、どこかズレた会話の真の意味など、素晴らしい、の
一言。20ページ足らずの小品だし、これを「本格ミステリ」といえるか疑問ではありますが、「真相の意外性と、
それを支える伏線」という点ではピカイチの出来栄え。
その他の作品にも、演歌歌手が北海道で無銭飲食し、昔、関わりのあった雑誌記者が引き取りに行くが実は・・・、
という意外な展開をみせる「海鳴り列車」などの秀作もあります。
いずれにせよ、「孝行代金」は、三好徹「疵ある女」、夏樹「暁はもう来ない」、そして先ほどの大沢「ゆきどまりの女」
などに連なる、突出した、単発の「知られざる名品」なので、是非読んでみて下さいね(・・・って、だから誰に向かって
言ってるんだ?)w 書き忘れたけど、「孝行代金」の評価は、無論、★★★★です。
夏樹静子「あしたの貌」(講談社文庫)★★☆
1978〜79年に発表された中編・短編を収めた作品集。
表題作の中編は、スタイリストの姉・麻生の失踪を追う妹のリツ子。姉と恋愛関係にあったカメラマンの
不審な様子に疑いを強めるが・・・。うーん、この枚数で登場人物が少ないから、真犯人はバレバレだし、
アリバイ工作も、やはり少ない枚数では露骨になってしまっており、高い評価ができないのが残念。
残りの短編では、別のアンソロジーで既読でしたが、「陰膳」がベスト。幼い子を亡くし、夫婦関係にも
ヒビが入った主婦が主人公。隣家の仲睦まじい初老の夫婦もまた、子を失っていたのだが、実はこの二人
には・・・。おお、こちらは少ない枚数を活かして、実に不気味な余韻とラストの切れ味の鋭さを磨き
上げた佳作。ひょっとしたら作者の全短編中のベストかも。
あと「遺書二つ」も、不治の病にかかった姉と妹の確執をシャープに描き、ラストのドンデン返しまでソツ
なく構成された佳作。
残りの「ベビ・ホテル」や「ひとり旅」は、オチや真相がバレやすく、在り来たりの結末の凡作。 おお今年初エントリーですね
今年も楽しみにしています 浅川純「死体の壁」(トクマノベルス)★★☆
1990年の長編。
別荘地・霧生湖で発見された女性の死体。湖畔の保養所で、泊りがけのパソコン通信のオフラインパーティ
をしていたグループの一人が行方不明になっていたことから、警察はその女性かと追及するが、別人である
ことが判明。ではその死体の身元は、そして行方不明の女性は何処に?地元署の桐田は、ひょんなことで知
り合いになった引きこもりの少女・深雪からパソコン通信の手ほどきを受け、事件を追及するのだが・・・。
この作者の作品を読むのは「伊豆大島殺人火山」(>>83参照)以来か。題名のセンスの無さは相変わらず
(というか、この題名がストーリーの何を意味しているのか全く分からない)。おまけに古びてしまった当時
の風俗などが、今読むとイタイタしくて・・・。昔のパソコン通信やオフの話題やらハンドルネームなどは
「時代の制約」として目をつぶるけど、プロローグの或る人物のモノローグが、「やったジャン!」「一発マイ
クタイソンされて」「軽くジャブを具志堅ヨーコーこいたら」「天下の険、カイコーケンの人生訓」・・・、冒頭
からこんなもの出すなよw、梶龍雄を遥かに凌駕する「オッサン勘違いの若者言葉」に頭がクラクラ、作者は、
これで、「軽めの登場人物のジョーク交じりのセリフ」を表現した積りでいるのだろうか?作者の頭の中身が
心配だ・・・。
それはさておき、肝心の小説の中身の方ですが、桐田刑事の地道な捜査過程などは丁寧なんだけど、どこか謎の
構成がスカスカというか、古典的なトリックを使って、被害者の身元と容疑者にヒネりを加えている努力は買う
けど、伏線が上手くいっていないため、トリッキーな謎解きとしては不満足の出来栄え。
あと、プロローグにおける中町信ばりの叙述上の仕掛けも、その人物の登場のさせ方が不味いので不発気味。
やはり同時代の初期「新本格」陣には太刀打ちできないなあ・・・。 鷲尾三郎「過去からの狙撃者」(光文社カッパノベルス)★★★
1950〜60年代に活躍した作者が約20年ぶりに復活した、1983年の長編。「フラッシュ・バック」では題名のみ
紹介されていますね。
神戸の高層ビルで起きた社長射殺事件。銃声の直後に警備員が現場に駆け付けるが、部屋には誰もおらず、
また途中で誰にも会わなかった、と証言、不可解な密室殺人事件となる。兵庫県警の各務警部は、社長の
碇山が戦争中、南方トラック諸島で起きた残虐な部下殺しの犯罪に絡んでいたことを突き止め、その恨み
による元部下らの犯行ではないかと追及するが、その容疑者たちはいずれも、社長射殺前に既に毒殺され
ていたことが判明、事件は暗礁に乗り上げるに見えたが・・・。
・・・密室殺人やら手の込んだ毒殺トリックなどトリッキーな謎解きに拘った点や、登場人物のキャラなどを
手堅くまとめた手腕は評価したいのですが、例えば、密室トリックそのものは、なかなか考えられた手口
で、ちょっとJ・D・カーの中期の良作を連想させる秀逸なネタとはいえ、そのトリックを成立させる点
で幾つか手抜かりがあり、特に「そのトリックの一部始終を知っている第三者がいた」というのは致命的
です。早めにソイツを尋問していればそこで終了、じゃないかよ。毒殺トリックも直ぐに解けてしまうし、
真犯人の隠し方も、現代の読者には直ぐに見当がついてしまうレベル。
別の事件のアレを使って、・・・・した、高層ビルならではの密室トリック、という点は評価したいのですが・・・。 松本清張「紅刷り江戸噂」(講談社大衆文学館)★★★
1967年の時代物連作集。
「七種粥」は正月行事の七種粥にちなんだ毒殺物。江戸時代ならではの七種粥の風習の描写が興味深いが、
トリッキーな趣向も凝らしており、特に第二の殺人における偽装工作などは非常に独創的。でも謎解きの
展開に重点を置いていないのが惜しい。
「術」は、白昼堂々首を切る辻斬りが横行する話。謎めいた浪人が事件を解決するのだが、「被害者は何故、
いずれも抵抗なく縛られて、喜んで首を差し出したのか?」の真相が意表を突いており、これもトリッキー
な一編。「役者絵」も、真犯人に自白させる手段に、或る古典的なトリックを用いているのが面白い。
その他「虎」は渡り職人が自滅する話だが、ただの因縁話、「突風」、「見世物師」も同様で高い評価はできない
です。 山崎洋子「吸血鬼たちの聖夜」(文春文庫)★★☆
1987〜1992年に発表された作品を収めた短編集。
表題作がベスト。何者かに殺された女性の幽霊。テレビドラマを巡る芸能界の醜い足の引っ張り合いの中で、
彼女を殺したのは、果たしてプロデューサーか、シナリオライターか、スポンサー会社の部長か・・・。ラスト
で、或るトリックが出てきて全てを引っくり返す手際が見事。やや伏線不足とも思いましたが、先ず先ずの
良作です。
他には「メランコリーは危険」、事故で記憶を失った女性。夫や娘、妹の話から、自分はかつて、家族を顧み
ずに外国で好き放題の暮らしをしていたことを知り、自殺しようとするが実は・・・。これまた意表を突いた
真相を用意していますが、やはり伏線不足は否めない。
残りの「妖女狂演」、「愛する人に、きらめく死を」、「やさしいだけでは生きられない」は謎解き風味が薄れた
作品で凡作。 日下圭介「負のアリバイ」(徳間文庫)★★
1980〜1991年までの作品を集めた短編集。
表題作は、倒叙形式で、二重のアリバイ工作を企むも、殺そうとした人物ではなく、別の人間を殺して
しまった主人公。だが何者かの動きでアリバイが成立してしまい・・・。偶然頼りでダメだな。
「その時、電話が・・・」は佳作。深夜の電話直後に殺された女性。その女性と話していた連中にはアリバイ
が成立し、被害者の弟が誤認逮捕、のちに釈放された弟は事件の真相を追うが・・・。これは犯人の意外
性と結末の付け方が上手い。
「ゼロの男」も、叙述上の綱渡り的なテクニックで真犯人の意外性を際立たせた佳作。
でもそれ以外には、「十五年目の客たち」が先ず先ずの出来の他は、「窓際のヒマワリ」、「隣室の事件」、「消え
た事情」など、いずれも取るに足りない出来で残念。 昔の週刊文春ベストミステリーを見ていたら、
斉藤栄の方丈記殺人事件に高評価を与えたり、
思ったよりもいい仕事していたんだね。 石沢英太郎「謀鬼」(講談社文庫)★★☆
1969年発表の表題作から、1975年までの中編、全3作を収めた作品集。
先ずは表題作。江戸時代初期に起きた福岡・黒田藩のお家騒動。家老・栗山大膳の遠い子孫に
あたる主人公が子文書に興味を持って調べるうち、栗山大膳が流された岩手県に住む子孫と知
り合う。だが彼は福岡に転勤するとともに会社の合併騒ぎに巻き込まれる。二人が掴んだ黒田
騒動の真相は、そして栗山大膳が起こした謀反の真の動機とは・・・。
歴史ミステリに、主人公が巻き込まれた会社の派閥争いを重ねわせた力作なのですが、中編で
まとめるには枚数不足が露わ。結末の付け方も含め、やや竜頭蛇尾に終わった惜しい作品。
むしろ、長崎・平戸の旅館で見つかった謎の浮世絵を巡る「秘画」の方が、謎解き趣向では優れ
ています。「写楽の正体」という、未だにミステリの題材となっているテーマですが、そこに連続
殺人を絡め、真犯人の意外性とアリバイ工作まで盛り込んだ作品。でも中編ゆえに、アリバイ
崩しや真犯人特定に至る謎解きの部分がアッサリしてしまった嫌いはあります。まあ水準作で
しょうか。
「沖田総司を研究する女」は凡作。新撰組に、過激派の内ゲバを絡める、というのはユニークだ
けど、全くまとまりに欠けた作品。 笹沢佐保のどんでん返し双葉にて新装発売。このスレ向けっぽいから貼っとく。
ttp://www.amazon.co.jp/dp/4575516511/ 赤川次郎「忙しい花嫁」(角川文庫)★★★☆
1982年の「花嫁」シリーズ第1作の長編。
女子大生の亜由美は、卒業した先輩・田村の結婚式に招かれるが、式全体の雰囲気がどことなくオカ
しいことに気づく。田村の結婚相手・淑子は、ホテルのオーナー一族の令嬢だったが、田村は亜由美
に、「彼女は良く似ているが別人だ」と打ち明けたまま、新婚旅行先のドイツで行方不明に。一方、日本
でも、田村の同僚がトラックにハネられて殺されかけ、遂には、亜由美と一緒に結婚式に参列した先
輩が、衆人環視下の密室状況にあった大学の部室で刺殺される事件も勃発する。田村の新妻の淑子は
新婚旅行から一人で戻ってきたが、やはり別人がなりすましているのか?だとしたら本物の淑子はど
うなったのか?亜由美は友人の有賀とともに事件を追及するのだが・・・。
・・・真犯人の意外性と密室トリックの謎解きに拘った、なかなかの良作です。特に、ちょっとした
言葉の錯誤による伏線と、密室トリックに関する伏線のさり気ない描写が秀逸。レッドヘリングも絶
妙に効いています。
二か所ほど偶然に頼った部分があり、それが結構重要な場面なので、その点で評価が落ちてしまうし、
回収し忘れた伏線らしきものが放置されているようでもあり、残念ながら「傑作」とは言い難いので
すが、一読の価値がある作品です。 和久峻三「蝮のようなレディ」(徳間文庫)★☆
1987年のノンシリーズ長編。
京都の産婦人科の病院長・本郷は病院敷地内に専用の写真室を増設して、道楽のヌード写真に精を出す
毎日だったが、密室状態の撮影室で殺害される。さらに後妻の愛人が、バカ息子の家庭教師が住み込ん
でいる部屋で発見され、その現場もまた密室状態だったことから、同じ部屋で熟睡していた家庭教師の
女子大生・篠原は逮捕されてしまう。だが後妻もまた密室の自室で殺されてしまう。釈放された篠原は、
自分に罪をなすり付けた真犯人を追及するのだが・・・。
三つの連続殺人が全て密室、ということで読んでみたのですが、やはり好い加減な駄作でした。三つと
も同じトリックというのは仕方ないにしても、オリジナリティはゼロだし、トリックの伏線もあるけど、
その伏線が描写された途端に全てがバレバレ、真犯人の意外性はあるけど、動機や人間関係に後出しが
多すぎて、高い評価はできないです。おまけに本筋に無関係なエロ描写、警察の捜査も好い加減にも程
がある・・・。
ホント、山村美紗と和久峻三のおかげで、京都府警の評判はガタ落ちだよw 由良三郎「13は殺人の番号」(双葉文庫)★★
1987年の長編。
坂巻医院の看護婦・湯田中淳子は、或る時、院長夫婦が舅の前院長を人知れず毒殺しようとしている
話を立ち聞きしてしまう。絶対にバレない毒薬をいつ入手するのかと不安に思っているうちに、肝心
の院長がウィルス性の病気で急死してしまう。死の直前、淳子は院長が「ミミー」と言い残し、また
「13」と書き残したことに気付く。実は病気ではなく、入手した謎の毒薬により、何かの手違いか、
或いは仲間割れで、妻が夫の院長を毒殺したのではないか、或いは後釜を狙う若手医師の仕業か。
淳子はダイイングメッセージの真相と真犯人、そして謎の毒薬の正体を追及するのだが・・・。
ダイイイングメッセージは、読み進めるうちに誰でも気付くネタですが、シェークスピアの有名な
或るネタが出てくるのが一寸ユニークでしょうか。フーダニット物としても、真犯人の意外性は工
夫しているけど、トリッキーなヒネりが足りなく、中途半端なまま終わってしまったのが残念。 手に入らない名作スレによると
草野唯雄が亡くなってたそうなので、3氏に追悼特集を期待 清水一行「銀行員」(青樹社文庫)★★☆
1971〜79年までの作品を収めた短編集。
巻頭の表題作、銀行の支店窓口から、あれよあれよという間に、他人の金を奪って去っていった男。
警備員が後をつけると、何とその男は近所の銀行の銀行員だった・・・。ミステリ味は薄いですが、現代
の池井戸潤の作風を先取りしたような「銀行員残酷物語」といったところ。もう40年以上も前に書か
れた作品ですが、銀行って全然変わってないんだなあ・・・。
「狂気の鎖」、「行方不明になった息子は、最後に会った友人に殺されたのだ」と信じ込み、イヤガラセ
を続ける老母。身に覚えのない友人は、実は溺愛の余り、その老母自身が息子を殺したのではないか
と疑うが・・・。これはヒネりの効いた良作のミステリ短編。真犯人の意外性も十分。しかし惜しい
ことに伏線が足りない。ただ、40年以上も前に正面からストーカーの問題を詳細に扱った先駆性は評
価すべきでしょう。
「走る男」は、健康のため、毎朝出勤前にジョギングを始めた男の話。或る男と知り合いになるが、妻が
男の開いている彫金教室に通うようになり・・・。うーん、意外性はあるけど、ちょっと「本格」とは違う
んだよなあ・・・。
冴えない三流会社員が、間違い電話で先方の犯罪計画を知り、その上前をハネようと企むお話「謀殺計画」
も同様。
あと、「現場消失」は、死体を発見したパトロール中の警察官が、所轄署が別の事件を抱えていて大忙しな
ため、その死体を川に流し、隣の所轄署に後始末をなすりつけたため、犯人にアリバイが成立してしま
うという話。或る古典名作短編と同趣向ですが、死体を流した警察官の行動を、伏線を匂わせるだけで
隠しておき、ラストで真相を明らかにすれば、ちゃんと謎解き物になるのに、最初からモロに全て描写
して、ただの「皮肉の効いたお話」にしてしまうのは勿体ないなあ・・・。
その他「陽気な未亡人」「逃げ水」などは特に論評すべき出来ではない。
・・・全体的に、思いもよらぬ人間関係、裏の共犯関係が浮かんでくるなどして、二転三転した末にドンデン
返しを迎える、というパターンが多く、その意味では真相の意外性に満ちてはいるのですが、一部の
作品を除いて、本格ミステリのテイストは感じられないなあ、というのが正直な感想。 山村正夫「死人島の呪い雛」(角川文庫)★★☆
1985年の、滝連太郎シリーズ第3弾の長編。
三重県・志摩に浮かぶ舟人島こと‘死人島’。古代中国の伝説「徐福伝説」を狂信的に研究していた島の
神主が謎の死を遂げてから数ヶ月後、その神主の遺志を継いで著書を完成させた女医らが主催する出版記
念パーティに招待された滝連太郎。だがパーティ会場のホテルで、密室殺人が勃発。被害者は、死人島の
村長の愛人だった。そして現場付近では死んだはずの神主の姿が目撃される。村長と対立していた今は亡
き神主が実は死んでおらず、復讐を開始したのか?滝は死人島へ向かうが、そこでも不可解な連続殺人が
発生する・・・。
・・・横溝の衣鉢を継ぐ、伝奇的・土俗的な本格ミステリを狙った意図は理解できます。しかし・・・、トリック、
プロットその他、一体どこにオリジナリティを求めれば良いのだろうか?色々と伏線やトリックも配し、
謎解き面の構成も配慮されてはいますが、余りにも分かりやす過ぎて、終盤に入る前に、真犯人もその
動機も感づかれてしまっており、飽くまで、映画・テレビ向け、初級者向け本格ミステリになってしまっ
たのが残念です。 田中文雄「猫窓」(集英社文庫)★★★
1988年のホラー物の長編。
東京・成城の亡父の実家に引っ越してきた若者夫婦。そこで一匹のネコに出会ったことから、身辺に
不審時が相次ぐ。夫に可愛がられるネコは妻に嫉妬しているのか?やがて夫は謎の病気に罹るが、その
時、妻は妊娠していた・・・。
・・・むろん、どうこじつけても本格ミステリとは言い難い作品ですが、ラストで提示される反転のネタ
が、結構、本格ミステリの影響を受けているようにも思えました。そこは「幻影城」出身作家、という
ことかw
ラストには少々驚いたけど、そこに至るまでが、読みやすいけど、ホラーとしても、或る「謎」の一発
ネタとしても、どこかパンチが足りないんだよなあ・・・。
生田直親「K峰(カラコルム)殺人事件」(光文社カッパノベルス)★
1985年の山岳ミステリ長編。
ヒマラヤの未踏峰・Kx峰に挑んだ東方大学山岳部パーティ。だが山頂にアタックした二人のメンバー
は登頂成功の帰りに悪天候の中で遭難、行方不明に。行方不明となった医学生・岩城の父親は、事故の
真相を求めるうちに、意外な事実を知ることに・・・。
・・・うーん、謎解きのミステリとしては余りにも杜撰。遭難事故の意外な真相も、さんざん引っ張りまわ
した挙句、脱力・・・。また、中盤以降で起きる或る人物の不審死と、容疑者のアリバイ工作の謎解きも、
全体の構成の中で浮きまくっている。駄作。 wikiに数行でまとめられてるが本当にドロドロだなw
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%80%E3%83%A0%E8%B7%AF%E5%AD%90 谷甲州「36,000キロの墜死」(講談社)★★★☆
1988年のSFで本格ミステリに挑んだ長編作品。
22世紀の未来、地球周回軌道に浮かぶサイナス市は巨大メーカー・サイナス社が牛耳る工場都市だったが、
サテライトのラボで奇妙な不審死が発生。無重力状態のラボ内で、高所から墜落死したとしか思えない
死体が発見され、しかも事件を通報してきたのは、既に死んでいた被害者自身だった。この謎に立ち向
かうのは、市の保安部に所属するヒロサワ部長、ダグ刑事、新米のエレナ刑事たち。サイナス社と会社の
警備部が権力を振りかざして捜査を妨害する中、やがて容疑者と思しき男が、別の宇宙船で黒焦げの死体
となっていたのが発見される・・・。
・・・「あとがき」によると、作者は本気で「本格ミステリとSFの融合」を目指していたようで、「無重力
状態の墜落死」や「死後の被害者がかけてきた通信」、「軌道計算から証明されるアリバイ」などなど、それ
なりに面白そうなSFならではのトリッキーな仕掛けがあり、その伏線にも工夫の跡が見られます。が、
残念なことに中盤までにほぼ解決してしまい、終盤の展開がやや失速ぎみで、しかも謎解き興味から離
れてしまったのが惜しいところ。
とはいえ、SFで本格ミステリを描こうとした作者の努力は評価したく、その意味で一読の価値はある
かと思います。 小林信彦「サモアン・サマーの悪夢」(新潮文庫)★★☆
1981年の長編。
元恋人の伶子がハワイで自殺。テレビ・プロデューサーの柳井は現地を訪ね、彼と別れて別の男と
結婚するも、離婚してハワイでブティックを経営していたという彼女の死の真相を探るうちに、不
審な出来事に巻き込まれてゆく。ハワイで財を成した素性不明の老人・志水に食事に呼ばれたり、
その顧問弁護士や彼らを追う女性ルポライターに出会ったり・・・。伶子は果たして自殺したのか、
それとも・・・。
・・・「フラッシュ・バック」では、題名のみ紹介されていた作品ですが、なるほど、「本格ミステリ」
の構成に沿ってストーリーは展開し、真犯人の意外性も考慮されており、謎解きに必要な伏線も
無い訳ではないのですが、でも何かが足りない・・・。その「何か」を上手く説明できず申し訳ない
ですが・・・。何だろうな、このスッキリしない気分は・・・。 西村京太郎「ある朝 海に」(光文社文庫)★★★☆
1971年、ごく初期の長編で唯一(多分)、未読だった作品。
フリーのカメラマン田沢は、アパルトヘイトの南アで黒人少年を助けたことから、警察にマークされる羽目に。
そのピンチを救った現地の白人弁護士に誘われ、米国の豪華客船をシージャックするグループの仲間入りする
ことに。グループは乗っ取りに成功、南アのアパルトヘイト政策を批判し、国連に黒人運動家の証人を呼ぶよ
う全世界にアピールする。国連やアメリカ始め各国の思惑が錯綜する中、彼らの要求は通るかに見えたのだが、
船内で殺人事件が勃発する。凶器となった銃を持つ者は乗っ取り犯グループ以外にはいないことから、自分た
ちの身内に殺人犯がいることになるのだが・・・。
非常に読みやすいお話で、まあ国際的なダイナミックな動きの描き方など、現代の国際謀略物に比べると、やや
幼稚な感じがしないでもないですが、もう40年以上も前に描かれた作品なので、その点はご容赦をw
ただ、殺人犯を特定する推理が、伏線が無い訳ではないものの、やや取ってつけたような感じで、全体の流れ
から浮いてしまっているような・・・。
本作は、飽くまでシージャックをテーマにしたサスペンス物として秀逸な出来栄えであり、殺人事件の謎解き
は飽くまで付け足し、と評価した方が良さそうですね。 「別冊『宝石』−新鋭二十二人集」(昭和27年6月)
昭和20〜30年代に活躍した戦後派作家22名の22短編を収録。本スレの守備範囲以前の作品
ですが、内容紹介は珍しいと思うのでご容赦を。
著名な作家では、日影丈吉「天仙宮の審判日」、土屋隆夫「青い帽子の物語」がありますが、残念ながら
出来が良いとは思えません。当時の人気投票は、確か、朝山蜻一「巫女」、狩久「すとりっぷと・まい・
しん」、そして土屋隆夫の順だったと思いますが、これも納得できず、他のマイナーな作品の方に
興味深いものがあると思いました。
まず、埴輪史郎「ヒマラヤの鬼神」は、太平洋戦争中、東京・ベルリン単独飛行中に消息を絶ち、ヒマ
ラヤ山中に遭難した男と地元の娘の出会いを描き、角田實(後の左右田謙)「嫉妬」は、ゴムのチュ
ーブを使った奇矯な絞殺トリックが面白く、島久平「犯罪の握手」は長編「硝子の家」にも登場する
伝法探偵が連続殺人の密室トリックに挑みます。トリックは馬鹿馬鹿しいですが、犯人の意外性がまず
まず。
そして山沢晴雄の「厄日」。この人の作品、僕には非常に難解で、短編「電話」はともかく、「離れた
家」は未だに理解できません。この「厄日」は、推理作家が出会った事件を、彼の作品から心理的に
分析するもので、少々腰砕けですが、それなりに読ませます。 (承前)
川島郁夫(藤村正太)「法律」は、玉川上水での溺死事件を扱い、アリバイ工作は大したことはないです
が、法律の規定を逆手にとった犯人の動機に意外性があります。夢座海二「死の時」は、ラジオの時報を
使ったアリバイ工作と凶器消失による密室構成に工夫を凝らし、坪田宏「俺は生きている」も、外地から
の引揚げに絡む脅迫事件での風変わりなアリバイ工作がユニーク。
一番優れていると思ったのは、宮原龍雄「灰色の犬」と黒津富二「亜流『探偵小説』」の2本。
「灰色の犬」は、場末の工場で起こった人間消失トリックを扱い、埋立地をうろつく野良犬に萩原朔太郎
「月に吠える」の詩が被さる冒頭が上手く、さり気ない伏線も良く、トリックも従来の蒸し返しに近いで
すが無理がなく、傑作です。
「亜流『探偵小説』」は、作家が或る事件をモデルにした探偵小説の構想を友人に打ち明けて、ディス
カッションを進めながら、トリックを組み立ててゆく話。コーヒーの毒殺トリックや、インディアン・
ポーカー風の遊びによって色盲を見破る点など、緻密なロジックの積み重ねが光ります。最後に、作家が
見聞した事件の真相が作家の構想通りだった、というオチがつきますが、タイトルといい内容といい、
横溝正史の傑作短編「探偵小説」に挑戦したものと思われます。この黒津富二ってヒト、どういう来歴の
人なんだろうか・・・? 影山荘一ってなんで斎藤栄の本の解説ばかり書いてるんですか それはもう公然の卑弥津ということでいいんでしょうか わざわざ変名つかって解説書いてるのってどういうこと?
だれも解説を書いてくれる人がいないから自分で書いてるということなのかな。 長尾誠夫「秀吉 秘峰の陰謀」(祥伝社ノンポシェット)★★★★
1988年の歴史ミステリ。
戦国時代、台頭する羽柴秀吉と敵対するも、秀吉勢の前田・上杉に挟まれて苦慮する越中の佐々成政は
起死回生の策に出る。絶対に踏破不可能と言われてきた、真冬の立山・北アルプスを越えて、信濃から
三河に入り、秀吉と休戦していた反秀吉派の筆頭・徳川家康に再決起を促そうという奇策だった。佐々
は、主だった家臣や地元猟師らのほか、かつて謎の敵に襲われていたところを助けてあげた修験者の若
者・武虎をメンバーに加えて出発する。しかし立山の極寒地獄と猛吹雪の中、一人、また一人と脱落し
てゆく・・・。そこに敵方の放った刺客も襲い掛かってくる。果たして佐々成政は無事、立山を越える
ことが出来るのか・・・。
・・・傑作、お勧めです。
佐々成政の立山越えという史実を踏まえつつ、ラストの一発ネタともいえる大ドンデン返しに成功した
作品。そのドンデン返しは、或る人物にまつわる「説」に基づくもので、この頃には結構新鮮だったかも。
正しくは、本作とほぼ同時期に出た或る時代小説作家の有名作により、人口に膾炙したようですが、本
作の作者は「自分の方が先」と「あとがき」で主張しています。
・・・まあどっちが先であれ、本作の「意外な真犯人」には結構驚いた。残念ながら、中盤の無用な描写の
ヒントで、「もしかして・・・」と感づきつつもあったが(俺が戦国史に詳しくないせいかな?この時代に
興味のある人には、この時点で、或いはそれ以前から全てバレバレかも知れませんが)。いずれにせよ、
あの無用な描写さえ無ければ、ミスディレクションは大成功だったはず。
更に、新田次郎の遭難物の登山小説にも匹敵する、荒れ狂う冬山の描写も迫力十分で、冒険小説として
もなかなかの出来栄え。あと、題名もね・・・、或る理由から秀逸ですw 「別冊宝石33号−新人二十五人集」(1953年12月)
本スレの対象からは外れますがご容赦を。
この別冊で一番有名な作品は、白家太郎「みかん山」◎。むろん多岐川恭のデビュー作。旧制高校を
舞台にした密室状況の事件。バカトリックっぽいですが、犯人の動機も含め、全体に漂う感傷的で
ロマンティックな雰囲気が抜群の佳作です。
その他の佳作は以下のとおり。
山沢晴雄「死の黙劇」◎、砧探偵の名刺を受取った男が、その数分後、遠く離れた場所で自動車事故死。
絶対に不可能なのだが・・・。これは面白かった。事故で頓挫した裏のアリバイ工作が秀逸で伏線も先ず
先ず。鮎川哲也の名作「五つの時計」(1957年)に先駆けて、似た趣向のアリバイ工作に挑戦した佳作
です。
吉田千秋「書くに適さぬ犯罪」◎、知られざる佳作です。警察官の兄を持つ妹が勤務先の役所で公金を
紛失。施錠した机の抽斗から金が消えたのは何故・・・。ほんの一寸したトリックですが、小道具の使い
方やその伏線、犯人の動機まで無理なく収まっており、犯人がバレバレなのが難ですが、コンパクトに
仕上がった逸品。 (承前)
次いで良作レベルを。
水原章「日の果て」○、画家の不倫相手の夫の死。被害者は雪に覆われた完全密室状態の自宅の
離れで殺されていた・・・。これはアレしかない真相で、それによって犯人もバレバレですが、雪の
密室トリックに挑んだ意欲は買いたいです。
白井龍三「千秋楽」○、女優が元恋人を客席に見かけるが、その男は直後に殺されてしまう。彼女
が目撃した時間から、容疑者にはアリバイがあるが・・・。ミエミエのトリックですが、法医学者の
探偵役なども配して、この本の中では「本格」味は強い方で満足。
井上銕(てつ)「何故に穴は掘られるか」○、警察署や個人宅に「死体(或いは財宝)を隠している
ので掘り起こしてほしい」という手紙が、あちこちに届く。名探偵・関口十三郎の推理や如何に。
・・・このトリックは見抜けましたが、シンプルながらも面白かった。
渡辺一郎「天意」○、三角関係に悩む女性の養父が密室状態の自室で刺殺される。やがて養女も謎
の死を遂げる・・・。短い枚数でバレバレではあるが、密室トリックとアリバイ工作を盛り込んだ意
欲は買います。 (承前)
大島薫「かげぼうし」○、アメリカ帰りの新進女流作家の服毒死。養女とその婚約者が疑われるが、
現場が密室で、遺書もあるため自殺と判断されるが・・・。遺書の真相や密室トリックも面白く、構成
も上手いが、短編のためご都合主義を平気で取り入れて解決したのが残念。
木島王四郎「ある青春」○、戦争直前、婚約者のいる女性を好きなった男が衆人環視の中、ビルか
ら転落死、自殺として処理される。三人の共通の友人であった素人探偵の木島王四郎は、終戦直後、
その女性と意外な形で再会し、事件の真相を知るのだが・・・。作者と探偵の名が同じで、文中でも
エラリー・クイーンが引用されていますが、事件の真相はバカバカしい機械トリックで萎えます。
でも結構面白かった。
深尾登美子「居眠り天使」○、札幌で暮らす孤児の姉弟。姉がハンドバッグごと給料と指輪を引った
くられる。同じアパートに住む素人探偵・猿山女史に相談、事件現場に行ってみると、住人が謎の
死を遂げていた・・・。トリックは単純で謎解きの過程も素人丸出しですが、猿山女史のキャラがユニー
クだし、いかにも昭和20年代の女性作家の作品らしくて楽しい。 (承前)
次は凡作。
鳥井及策「晴れて今宵は」△、神戸のチンピラ健太。仲間を殺したと訴えるも、アリバイがあると警察に
相手にされず釈放。真相は・・・。車六先生なる名探偵も登場しますが、説明不足の凡作。
隠伸太郎「悲しき自由」△、これも神戸が舞台。港湾労働者の事故死の意外な真相を扱っており、独特の
雰囲気は良いが謎解きとしてはお粗末な出来。
木下義夫「砒素」△、密室状況での砒素中毒死。どうやって服毒させたか?がポイントですが、こんな
知識を持つ読者は稀でしょう。知らんがな。
明内桂子(四季桂子)「伝貧馬」△、病気で殺処分される競争馬が男を蹴り殺した事件にダイヤモンド紛
失事件が絡んできて・・・。うーん、ホームズ物のアレの焼き直しで凡作。
豊田寿秋「月蝕」△、新任の婦人警官がプレーボーイの巡査に誘惑されるが実は・・・。遺書のトリックが
ミエミエでダメ、ピカレスクな結末は良かった。この作者の「草原の果て」は「密室探求・第1集」にも
採られた密室トリックの名作だったけど・・・。 「草原の果て」なつかしいですね
「密室探求・第1集」の中でも印象に残ったほうだ あーやのツイートじゃちらっとしか触れられてないし分かり難いような・・・
>>365
ttp://togetter.com/li/759769 陳舜臣 老衰で死去 享年90歳
ご冥福をお祈りします。
「方壷園」読まなきゃなあ…… 中公で中国歴史短編全集みたいなの出してるんだな。今後文庫で何か発売されるかも… 谷恒生「錆びた波止場」(講談社)
本格の知られざる佳作長編「横浜港殺人事件」(★★★★、前スレ参照)と同じく、横浜近辺の寂れた
港町の船舶鑑定人・日高凶平を主人公にしたシリーズ第一作目の連作集。1979〜1980年の作品を収録。
巻頭の「オピュームナンバー4」(★★★)、フィリピン人船員が謎の溺死。背後に麻薬密輸が絡んでい
ることを知った日高は、所轄署の悪徳刑事・犬飼の捜査に協力するが・・・。これは堂々たる「本格」短編。
港の特徴を生かしたアリバイ工作に、一人二役まで導入。ちょっと伏線が弱いのが難ですが、先ず先ず
の滑り出しで期待大。
しかし、続く「花の殺意」で残念なことに「本格」志向から離れてしまう。馴染の娼婦と船員の間に起き
た傷害沙汰。二人の間に何があったのか・・・。シケた港町のうらぶれた風情や、そこに生きる娼婦たちの
心情など、ハードボイルドとしては一級の出来栄えなのですが、事件の真相に謎解き趣向が少なすぎて・・・。
「雨の追憶」も、謎解きミステリというよりも、海洋物のホラーといった方が良い話。ラストの伏線の
さり気なさは良かったですが。
「彼岸花狩り」は娼婦の集団失踪の真相。さり気ない伏線は良かったけど、謎解きの展開が安直すぎる。
「狂い花」もヤク絡みの話で、真相は大したものではない。
「積荷目録」は、荷役事故で用途不明の鉄球が転がり出てきた、それを見た防衛大中退のインテリのポン
引きが謎めいた死を遂げる話。これも、謎解きというには物足りない。
以上6編。日高凶平と犬飼刑事のコンビ、脇を固めるキャラ、何よりも海運不況に喘ぐ廃れた港町の描写
が、船員上がりの作者ならではの、誰にも真似できないほど素晴らしい出来栄えで、非常に面白いシリー
ズなのですが、巻頭作以外に、本格ミステリが無かったのは残念でした。 長井彬「ゴッホ殺人事件」(実業之日本社)★★☆
1993年、作者の最後の長編作品。
ゴッホの幻の名画が発見されるが、所有者の英国貴族と買い手の日本の画商が、取引先のウェールズの
古城で謎の墜死を遂げ、絵画と取引額120億円の小切手が犯人に奪われてしまう。現地で画商の妻を案内
していて事件に巻き込まれたツアーガイドの千鶴子と、画商の妻の元恋人であるルポライターの神野は、
国際問題に発展することを恐れて事故として処理しようとする地元警察に代わり、事件の真相を追及する。
画商の妻も謎の水死を遂げる中、日本に帰国した二人は関係者を訪ね歩き、或る不審人物に行き当たるの
だが・・・。
・・・一時のトラミスに比べると、原点に戻ったような手堅いストーリーは良かったのですが、謎解きの構成
としてはいささかお粗末。真犯人の設定は先ず先ずながらも、伏線が弱いし、その真犯人の鉄壁のアリバイ
が最後に立ちふさがるのですが、その真相も、特に秀逸というレベルでもなく、現代では不可能なネタなの
も惜しい。初期の山岳ミステリの傑作群に比べると、残念な出来栄え、というしか無いでしょう。 笹沢左保「闇狩り人犯科帳」(祥伝社文庫)★★☆
愚鈍で無精髭の冴えない容貌のダメ男。だが実は岡っ引きの秘密の手下という裏の顔を持ち、更には、
その親分も知らない、凄腕の闇の世界の処刑人だという源次こと音なし源のシリーズ第一作。1979年
頃に発表された作品集の再編集版。
序盤の作品に、ほとんど謎解きが無かったので危惧したのですが、途中から、それなりのミステリに
なってきたので一安心。「霜柱は笑う」は、右腕に情夫の名の刺青を持つ女が腕を切られて殺された
事件で、或る伏線から、かなり意外な真相に行き当たる展開が、まあ無理なく進められています。
「木枯しの辻」は、木枯しの吹く日にだけ現れる辻斬りの正体。「木枯し」というヒントが、これまた
意外な真犯人に結びつく良作。
あと「凍った三日月」は、不倶戴天の敵同士である看板娘の争い。笹沢作品では前例のある一発ネタの
アリバイ物ですが、なかなかスッキリした出来栄え。
「赤い初雪」は、両国・回向院の、周囲を初雪で覆われた土俵で発見された死体。足跡トリックの基本
ですが、もう一つ、喋れない寝たきり老人の作った「俳句」による暗号も添えており、暗号としては簡単
すぎるものの、更にもう一つ、真相にヒネりを入れており、動機についても、短い枚数の中でちゃんと
伏線を張っているのは見事。
その他には、全く「本格」味の無い話もあり、トリックを施している作品でも、謎解きの過程がかなり唐
突な場合が多く、やはり高い評価はできませんが、まあこんなものでしょうか。 佐野洋「崩れる」(講談社文庫)★★☆
1960〜66年の作品を収めた短編集。
「ある自殺」や表題作などは、意外性はあるし、構成にもソツがなく、キッチリとまとまっているのに、
全く面白くない、というのはどういうことだw
ベストは、選挙違反に絡んだ話で、或る人物のミスディレクションが効いている「透明な暗殺」だが、文
中で、「役不足」の使い方を間違えているというオソマツ。偉そうなこと言う前に、中学校あたりから
国語の基礎をやり直せよ、と言いたい。
全体に、やはり1960年代発表ということで、どれもこれも古臭くなってしまっているのが残念。 笹沢左保「闇狩り人犯科帳−盗まれた片腕編」(祥伝社文庫)★★
音なし源シリーズ第2弾。
「罪なお年玉」は、弓矢で射殺された事件。現場の足跡からの推理が一寸面白いけど、それだけ。
「藪入りの留守」は、江戸の町の常識の裏をかいたアリバイ工作が出てきて印象的。
「消えた花嫁」は、新婚初夜に行方不明になった花嫁の謎。・・・江戸時代ならではのおバカなトリックに苦笑。
でも斎藤栄「新婚恐怖殺人旅行」のアレに比べれば説得力があるかもw
その他の作品にも、幾つかトリックを仕掛けているものもありますが、謎解きが唐突だったり伏線不足
だったりと全体に難あり、残念でした。
笹沢左保「闇狩り人犯科帳−嘲笑う墓編」(祥伝社文庫)★★
“音なし源”シリーズ第3集。
巻頭の「長屋の賭」が、殆ど謎解き趣向が無くてガッカリ、続く「飛ぶ稲妻」も一寸したトリックが出てくるけど、
やはり謎解きには程遠い。その後も謎解き興味の薄い話が続いてガッカリ。
「江戸を去る朝」は、母娘による仇討ちと思われた事件を、源太が現場の状況を聞いただけで引っ繰り返す安楽
椅子探偵ぶりが見られるけど、これもトリッキーな趣向に乏しい。
その後の作品群も、謎解き興味には程遠く、ガッカリの一冊でした。 「古都殺人まんだら」ジェフ・バーグラント
ブコフで見かけた気になる一冊
お世話になります。
私、責任者の加茂と申します。以後、宜しくお願い致します。
http://www.apamanshop.com/membersite/27009206/images/kamo.jpg
浪速建設様の見解と致しましては、メールによる対応に関しましては
受付しないということで、当初より返信を行っていないようで、今後につい
てもメールや書面での対応は致しかねるというお答えでした。
http://www.o-naniwa.com/index.html 事務員 東条 南野
http://www.o-naniwa.com/company/ 岡田常路
このように現在まで6通のメールを送られたとのことですが、結果一度も
返信がないとう状況になっています。
http://www.apamanshop-hd.co.jp/ 加茂正樹 舟橋大介
http://s-at-e.net/scurl/nibn-apaman.html 大村浩次
私どものほうでも現在までのメール履歴は随時削除を致しております
ので実際に11通のメールを頂戴しているか不明なところであります。
・friends もののけ島のナキ http://s-at-e.net/scurl/NakionMonsterIsland.html
・妖怪ウォッチ http://s-at-e.net/scurl/Youkai-Watch.html
・崖の上のポニョ http://s-at-e.net/scurl/Ponyo.html
・スター・ウォーズ/フォースの覚醒 http://s-at-e.net/scurl/SWfa.html
・A http://s-at-e.net/scurl/ia-A.html
■http://s-at-e.net/scurl/ia-Pos.html
大阪府八尾市上之島町南 4-11 クリスタル通り2番館203
に入居の引きこもりニートから長期にわたる執拗な嫌がらせを受けています。
この入居者かその家族、親類などについてご存知の方はお知らせ下さい。
hnps203@gmail.com 昔読んだ笹沢佐保の作品、題名は忘れたが多分有名なやつ
男が服毒自殺?だったか、探偵は恋仲であった女の殺人と推理
だが女には鉄壁のアリバイ
真相は女が男に同日同時刻に死のうと提案、そして男は死に
女は残った、そんな純な男がいるのかって問題より、これを
トリックとは呼べんだろうって事
招かれざる客や霧に溶けるなどの、本格推理物書いた人の
作品とはとても思えんかった。 笹沢左保は作品数が多いから、アタリハズレの差が大きいね。
笹沢左保はきらいじゃないけど、「アリバイの唄」にはあきれた。 結城昌治の『ひげのある男たち』読んだ
ハードボイルドのイメージが強い人だったけど、ガッチガチのフーダニットでかつ傑作でビビった
ロジック好きは一読の価値ありありだと思う 大元帥閣下がトイレに行けないほど怖かったという永井豪の「吸血鬼狩り」やっと読んだけど、このオチでトイレに行けない??
確かに意外というか完全に想定外の結末だったけど、呆気にとられたというのが正直なところ
これを恐怖と捉えるのは……どうなんだろう 笹沢左保は依頼が多すぎたからしゃない
当時は今とは比べもんにならん雑誌出てたしな 笹沢は寝る時間もないくらいな売れっ子だったね。
寝ないよう立ったまま机高くして書いてたっていうし。 笹沢は腹這いで寝そべって原稿書くので有名なのだが・・・ 一番ヤバかったときは立ってたんだよ
結構有名なエピソードだと思うが ……早書きするために油性マジックで原稿を書いていた(チンタラ書いてると下のページにインクが写ってしまうから早く書かざるを得ない)某馬鹿詐欺エピソードを思い出してしまった 松本清張「絢爛たる流離」(文春文庫)★★★☆
1963年発表の連作集。確か「ミステリの祭典」で紹介されていて、面白そうだったので読んでみました。
昭和初期、炭鉱王の父親から娘に贈られた3カラットのダイヤモンド。持ち主を襲う運命とともに、転々
と所有者が変わってゆく。炭鉱王の娘から商社マンの妻の手に渡って日本統治時代の朝鮮に、更に流転
を重ねて終戦直後の闇市に、そして・・・。
・・・ダイヤの持ち主たちを襲う様々な事件から構成された連作集なのですが、これが、かなりトリッキー
なお話ぞろい。特に「小町鼓」の遠隔殺人(?)トリック、「百済の草」の軍隊の習慣を利用したトリック
などなど・・・。しかし一番スゴいのは、「雨の二階」のキテレツなアリバイ工作の真相。これは日本バカ
ミス史上に残る、一読忘れがたい爆笑トリックでした。
その他には、「灯」の、事件現場の照明が点いたままだった理由のトンデモぶり、「代筆」の謎の心臓マヒ
の真相、ラストのエピソード「消滅」における幕切れの切れ味など、なかなかのもの。
決して傑作、佳作とは言い難いのですが、これは面白かった。お勧めです。 井上ひさし「新釈遠野物語」(新潮文庫)★★★☆
昭和二十年代、大学を休学して母親の住む三陸地方・釜石に戻り、地元の療養所で働き始めた「ぼく」が、
洞穴に住む謎めいた老人と出会い、大正・昭和初期に老人が実見した怪談を聞かされる、という趣向の、
1976年の連作集。
題名どおり、柳田国男「遠野物語」を踏まえて、山男、狐憑き、マヨイガなどなどの怪異が語られ、
大変読みやすく、なかなかに怖い話ぞろいで楽しめました。中でも、巻頭の「鍋の中」の恐怖感の盛
り上げ方はスゴい。オチには笑いましたが。あと、「笛吹峠の話売り」も意表を突いたドンデン返し
と哀しい結末が見事に決まった佳作。
ラスト「狐穴」で、この連作全体にまたがる「オチ」があり、解説では、あの「十二人の手紙」も引用
して評価しているので期待したのですが・・・、それほどのことでも無かった。前例のあるオチです。
とはいえ、ホラーとしては勿論、ミステリとしても、まあまあ評価に値する良作です。但し一部の
趣向を除いて、「本格」とは言い難いかな・・・。 >>3氏じゃないけど保守を兼ねてレビュー。
結城昌治『温情判事』
角川文庫の結城昌治初期短編傑作集シリーズの一冊で、本当に最初期の結城短篇が収録されている。
このスレの対象になりそうな本格ミステリは
「寒中水泳」「長すぎたお預け」「幽霊はまだ眠れない」の三編でどれも高品質。
まず「寒中水泳」がデビュー作とは思えないほど文章も伏線も推理もこなれている佳作。
若干、真相に専門知識ネタが混じっているのが玉に瑕だけど、よくまとまっている。
次に「長すぎたお預け」、これが傑作。
銀行強盗に成功した悪党グループの中で、分け前を争って殺人が起こる話で、
視点人物を一章ごと変える構成は『そし誰』っぽい(それがミスリードに繋がっているあたり含めて)
ラストに明かされる真犯人はかなり意外で説得力がある。
次の「幽霊はまだ眠れない」も傑作かな。
有栖の『幽霊刑事』みたいな感じで幽霊になった主人公が自分を殺した犯人を捜す話で、伏線も真犯人の意外性もかっちり決まってる。
その他の三編は本格度は低いけれど、ツイストはちゃんとあるし、かなりレベルの高い一冊だった。オススメ エラリー・クイーン「いいのあったら送れ」
生島治郎つ『寒中水泳』
エラリー・クイーン「イマイチ」 >>399
その後、日本傑作推理12選に結城の「凍った時間」採用しているし、ま、多少はね? 南原幹雄「謎の団十郎」(講談社文庫)★★★☆
この作者の作品は、以前に紹介した、新撰組の沖田総司・島田魁コンビを探偵役とする「新撰組探偵方」しか
読んでいませんが、本作は1980〜1984年に発表された作品を収めた時代物の短編集。
「初代団十郎暗殺事件」は、歌舞伎役者の初代団十郎が舞台上で衆人環視の中、刺殺された事件を、150年後に
八代目団十郎が追及し、これまでの通説を引っくり返す話。江戸歌舞伎と上方歌舞伎の確執に注目し、或る
人物と意外な動機を持ち出す趣向や、歴史上、犯人とされている人物に代わる真犯人と、或るトリックを使っ
た真相を提示するなど、なかなかに「本格」味が横溢した良作。
「死絵七枚揃」は、その八代目団十郎に死相を読み取った死絵専門の絵師の話。ホラー風の作品で謎解き物で
はない。
「油地獄団十郎殺し」も、その八代目団十郎が大坂で自殺した史実の真相に絡んだ話。江戸経済の裏面に絡んだ
趣向は面白いが、謎解きミステリとしては今ひとつ。
「長州を破った男」は、長州藩の御用商人・鴻池一族と毛利家の暗闘を描いた力作。鴻池の先祖は戦国武将・
山中鹿之助で、先祖の恨みを晴らすべく、主人公の採った奇策とは・・・。
これは面白かった。大名の毛利家と豪商・鴻池家の虚々実々の経済戦争が大変興味深いところだが、惜しむらく
はミステリとしての謎解き趣向が弱い。
その他の2編は、喜多川歌麿にまつわる話だが、ミステリ味は薄いので略。
・・・全体に、巻頭の「初代団十郎暗殺事件」を除いては本格ミステリとは言いがたいですが、良作でしょう。 井口民樹「大山・宍道湖殺人ライン」(青樹社ビッグブックス)★★
1988年の長編。以前紹介した「さいはて特急おおぞら殺人事件」と同じく、ルポライター友部が主役の
シリーズ第?作。
ルポライターの友部は、ひょんなことから画廊の従業員と関わりを持ち、彼が関係する若手女流画家の
個展が開かれる山陰・松江に向かう。だが米子駅で友部に見られたのを最後に、女流画家は失踪、画廊
の男は大山山麓で他殺体となって発見される。友部と学生時代の友人である地元紙の女性新聞記者ととも
に事件を追ううち、画家の師匠やその愛人、画廊の社長親子など不審人物が浮かび上がってくる。やがて
第二、第三の事件が起こるのだが・・・。
うーん、鉄道を使ったアリバイ工作なり、「×人×役トリック」なり、謎の構成には工夫が見られるの
ですが、ストーリー展開が謎解きを前面に出す感じではなく、伏線の張り方も上手くないので、ラストの
真相解明がグダグダになってしまっており、残念な出来栄え。前作の「さいはて特急おおぞら殺人事件」
の法が遥かにマシ。題名も、深谷忠記の壮・美緒シリーズの真似だし・・・。 石川喬司「競馬聖書」(徳間文庫)★★
新聞記者にして競馬マニア、SF作家・評論家でもある作者の、1975年の競馬ミステリ長編。
競馬狂の雑誌編集者・北野大助が出会った謎のフランス人美女。フランスで起きた誘拐事件の被害者
に瓜二つだったが、美女は競馬場で不可解な失踪を遂げる。以来、大助は不審な事件に巻き込まれて
ゆくのだが・・・。
競馬に麻雀、パチンコが「男の娯楽の王道」だと思われていた昭和のお話。大助の友人には、作家の
海野徹(海渡英祐と佐野洋と三好徹の合成w)やら山川浩司(山野浩一と石川喬司の合成)などなど、
競馬好きで知られた作家たちのパロディめいた人物が登場します。
解説には、「密室などのトリックやら犯人当ての趣向など、本格ミステリの趣向も盛りだくさん」と
あったので期待したのですが・・・。うーん、謎解きどころか、ストーリーもあってないようなもので、
これは嵯峨島昭「グルメ刑事」に近いテイスト、ひたすら競馬に関する薀蓄やらゴシップを垂れ流す
だけのもの。密室からの消失とか、意外な黒幕とかの謎解き場面があったような気もするけど・・・、
殆ど意味なし。駄作ですね。 (オマケ・番外編)
寺山修司「花嫁化鳥」(角川文庫)★★★☆
あらすじで、「金田一耕助とともに旅をして、彼の視点で謎を解く・・・云々」とあったので、どんなもの
かと購入。1973年に旅行雑誌に連載された、独特の感性による日本各地を訪ね歩いた紀行文集。
八重山諸島、鳥葬の習慣が残る因習に縛られた孤島・大神島に始まり、ヒバゴン騒動の比婆山、土佐犬を
巡る旅、浅草の見世物小屋、青森県、キリストの墓がある戸来村などなど・・・。
「金田一耕助ふうの謎解きの旅」は最初の数編のみで、途中から主旨が消えてしまったのが残念ですが、
巻頭の大神島が圧巻。本当にこんな島が1970年代になっても残っていたのかと驚嘆した。本土はもとよ
り、沖縄の他の島の人間をも排斥しようとする島の秘密とは・・・。作者も、金田一耕助シリーズのみな
らず、「パノラマ島奇談」まで持ち出して島の風習の謎解きに挑んでおり、これはミステリそのもの。
あと、戸来村、例のキリストの墓のお話も、大真面目なのか、からかっているのか良く分からない作者の
視点が面白い。
ともかくも、1973年、未だ横溝ブームが来る前に、この作者が金田一耕助に着目していた点は評価したい
です。 浅黄斑の「夫婦岩殺人水脈」(光文社文庫) を読んだ。
1995年に文庫書下ろしとして発表された作品。
フリーライターの女の子が取材先の城ケ島で段ボール詰めの死体を見つけるところから話が始まる。
一番怪しい人物は死亡推定時刻に商用でカナダにいたというアリバイがある・・・
というストーリーから、単なるアリバイ崩しの作品かと思ったら、
この最初の殺人事件についてはあっさり解決し、ストーリーが二転三転していく。
探偵役のフリーライターの女の子の書き方や、
警察の情報を都合よく入手する点については疑問がないわけではないけど、結構面白かった。
100点満点で75点というところかな。(ちょっと高すぎるか?) 梶山季之の「傷だらけの競走車(ラリー・カー)」は面白かった。
1967年に発表された作品のようだ。(私が読んだのは角川の文庫本。)
小説としては企業小説というジャンルになるのかもしれないけど、
モンテカルロラリーの最中に、主人公の所属する自動車メーカーのラリーカーが行方不明になり、
数日後、トライバーとコドラの凍死体が最後に目撃されたところから数百キロ離れたところで発見され、
しかも乗っていたはずのラリーカーが見当たらない・・・等、社会派ミステリーの要素が強い。
日産あたりに取材しているようで、モンテカルロラリーやサファリラリーのこともよくかけてるし、
車好きの人は読んでほしい。
タイガー自動車は日産がモデルだな。新日本自動車はトヨタか? オウム真理教に殺害された坂本堤弁護士(深夜自宅に押し込まれ一家皆殺し)が住んでいた団地の他の住人(7世帯)は、
全員事件の起こる半年前より後に越して来た人達だった。
そのうち五世帯が創価の会員世帯。
神奈川県警は初動捜査の段階で、この住人達全員に行動確認をかけていた。
その矢先に城内康光県警本部長の婦警へのセクハラ疑惑や
生活安全課の警視がノミ屋(もぐりの馬券売り場)を開帳していた疑惑が突然次々と出始めて、
行確をはずしたら、マスコミからの疑惑追及は止まった。
それで勢いの付いたオウムは脱会信者の家族らを次々とVXガス(今度の金正男殺害で使われたのと同じもの)で襲撃。
当時の官房長官だった野中広務は
北朝鮮詣でから帰ると出所不明の大量の金を政界にばらまき始め、自民党の実質的な党首におさまり
公明党を政権に引き入れた。
ネトウヨもいないし、韓流ブームもまだ無い頃だったけど、あの頃から俺達の国はもうおかしかった。 井上ひさし「月なきみそらの天坊一座」(新潮文庫)★★★☆
終戦直後の東北地方、山形県を中心に興行を続ける三流の奇術師夫婦に弟子入りした天才少年。巡業地で
彼らが出会う事件を描いた、1977〜81年に発表された連作集。
手品のタネの数々がなかなかトリッキーで、本格ミステリ風味もあって楽しめました。直接、論理的な事件解決に
至る話は少ないものの、盗難の冤罪に悩む母子のために、主人公たちが事件の真相を追及する話もあって、
これは本格ミステリそのもの。但し、シャーロック・ホームズの有名作の二番煎じですがw
各エピソードの全てが、ミステリ的な構成になっている訳ではありませんが、これは大変面白かった。お勧めで
しょう。 中町信「悪魔のような女」(ケイブンシャ文庫)★★☆
1988年の「殺人病棟の女」改題版の長編。
埼玉の病院で、医師の3兄弟を巡る連続殺人事件。疎遠だった伯父が遺した遺言書を巡る遺産相続争いか。だが、
相続権を持つ3兄弟が全て殺されてしまう。一体真犯人は、そしてその動機とは・・・。
うーん、二転三転して、真相が予測もつかない構成や、読みやすさ、そして下品な話題が少なかった点は評価でき
ますが、二転三転して謎が謎を呼んだのは、後出しで都合よく目撃者や証拠を登場させていただけ、のような気が
します。真相は、まあ、こんなものかな、といったところ、「単身赴任」の件もほぼ丸わかりでしたしね・・・。
凡作でしょう。 sage忘れた、スミマセン・・・。
高木彬光「人斬り魔剣」(春陽文庫)★★
春陽文庫なので、発表時期不明でしたが、調べてみると1958年の「青貝進之丞人斬り控」が元題のようです。備前・
池田藩出身の浪人・青貝進之丞を主人公にした連作集。青貝は、「自分の命売ります」で江戸中の評判になり、彼の
腕前を買う人々に絡んでくる事件を解決、或いは自分の腕を買った本当の理由を暴く、というパターン。
第一話「女自雷也」がベスト。青貝を千両で買った女。さる旗本屋敷に幽閉されている娘の救出を青貝に依頼するの
だが・・・。アリバイ工作の一種ですね。ミエミエだけど楽しめた。
続く「女敵討ち」は、或る道場主を仇と狙う男に買われた青貝。道場破りに出向くのだが・・・。これは真相の意外性に
ヒネりが見られるが、ミステリとしては弱い。
続く以降のエピソードでは、ミステリ的な構成が全く薄れてしまっており、ただのチャンバラ小説になってしまったのが
残念でした。 谷口敦子「かぐや姫連続殺人事件」(講談社ノベルス)★★☆
矢口敦子の改名前のデビュー作(裏表紙の写真を見て、今邑彩かと思った・・・)。1991年発表の長編。
現代のかぐや姫とも称される絶世の美女・鈴子。資産家の令嬢である彼女には一条薫という、同性の恋人がおり、意に
沿わぬ結婚を強いられることになり、「竹取物語」さながらに、宝探しの勝利者と結婚するという条件を出すことに・・・。
富士山ろくの別荘に5人の求婚者を招待し、宝探しのヒントとして出されたのは、「竹取物語」に出てくる和歌2首。その
暗号を解くことになるのだが、求婚者の一人が古井戸に転落して怪我をしたり、もう一人は鈴子に襲い掛かって追放さ
れるなど不穏な雰囲気に。そして遂に殺人事件が勃発。薫が、足跡一つない雪の降り積もった庭で刺殺されているの
が発見される・・・。
暗号解読なり、密室殺人なり工夫を凝らしているのは分かりますが、何かドタバタした印象。そもそも、結婚逃れのため
の宝探しの意図が浅はかすぎる。足跡の無い殺人の謎については、大胆な伏線が張られているのは良いのですが、
そのトリックが余りにバカバカしすぎて・・・。何だろう?劣化版の「斜め屋敷の犯罪」に近いテイストと言ったら良いのか、
違うかな?
最後の最後に待ち構えていたラストシーンは、先ず先ずでしょうかね。わざわざ探して読むほどではないけど、ちょっと
風変わりで面白いかも・・・。 長部日出雄「津軽世去れ節」(文春文庫)★★★
1972年に津軽の地方出版社で出た作品集で、直木賞受賞作。
「死者からのクイズ」はミステリ作品。津軽地方に住む老人が作った日本庭園。園芸専攻の大学生が、その庭に隠された
秘密を探るのだが真相は・・・。まあ本格ミステリの謎解きとしては初歩のレベルですが、なかなかに味わいのあるお話。
「津軽じょんから節」は、伝説の津軽三味線の奏者のお話。表題作もまた、戦前に夭折した幻の津軽三味線奏者を描い
た話。
「津軽十三蜆唄」は、最果ての地・津軽半島西岸を舞台にした作品で先ず先ずの出来。
「猫と泥鰌」は現代の津軽地方が舞台。農地の池でドジョウの養殖を副業にしているサラリーマンの若者のお話。地方色
の描き方が上手い。
「雪の中の声」は、息子がキツネ憑きになったと思い込んで殺人を犯してしまった母親の事件を追う地元新聞社の記者の
話。これもまたミステリ風味が効いています。
全作品とも津軽地方を舞台にしていて、楽しく読むことが出来ました。ミステリ作品があったのが意外でしたが、この作者っ
て、ミステリ作品の解説をしていたこともあったような・・・。 井上ひさし「犯罪調書」(集英社文庫)★★★
十九世紀から戦後まもなくの時代に発生した古今の犯罪実話を紹介する、エッセイとも脚色した小説ともつかぬ作品集。
ドンデン返しのある話もありますが、ミステリのそれとは一寸違う意外性ですかね。事件の異常性や時代背景などを楽しむ
べきもの。
ミステリの趣向からいうと、ベストは「熊毛ギロチン事件」。密室状態の田舎家で首を切り落とされた死体の謎。本当にこん
な犯罪があったとは驚き。本格ミステリそこのけの機械的トリックの連打に、頭がクラクラしました。あと、“フラッシュバック”
でも触れていたと思うけど、英国で起きた貴族の二重生活を扱った「ドルース=ポートランド株式会社事件」。ホームズ譚や
「ジギル博士とハイド氏」なども引き合いに出して、十九世紀末の英国において「一人二役」がもてはやされた時代状況の
分析が興味深いです。 >>416
続編の『魔剣青貝流』を読んでみました。
高木彬光の時代もの、少年ものは基本、裏のかき合い、騙し合いの応酬といった感じ。
扮装やら成り済ましやら、嘘、はったりで欺くことに主眼が置かれているので、
トリック的な興味はないものの、どこまで見破れるかの直感試しとすれば、それなりに楽しめます。
『刺青』や『能面』、「妖婦」や『人形』を期待しては駄目ですが。 中津文彦「成吉思汗の鎧」(講談社)★★★
1987年の講談社書下ろし叢書に発表された長編。
東朝新聞の記者が新婚旅行先の三陸海岸で、OLの殺人事件に遭遇。更には八戸で学生が殺され、竜飛岬でもまた・・・。
被害者たちは義経北行伝説を研究するアマチュア団体のメンバーだった。事件に見え隠れする謎の外国人。東朝新聞は、
法眼や姿などの敏腕記者を総動員して、事件の謎を追及するのだが・・・。
乱歩賞デビュー作「黄金流砂」の法眼記者、「特ダネ記者殺人事件」他「三四郎」シリーズの姿記者など、過去の探偵役が
勢ぞろいで、記者の追及ぶりが活き活きと描かれており、作者がかなり力を入れて書いたことは分かるのですが、義経北
行伝説の「新説」もパッとしなければ、連続殺人の謎解きもダメ。そもそもフーダニットになっていないし、トリッキーな趣向も
無い。
しかし、成吉思汗だから蒙古、モンゴルだから・・・、と思わせての結末、真相に関する或る意外性だけは鮮やか。アレに誤
誘導させる、作者の筋の運び方のテクニックだけは見事でした。 白石一郎「足音が聞えてきた」(新潮文庫)★★★
1977年の時代小説短編集。
巻頭の表題作が、地味ながらも歴とした本格ミステリ。寺社奉行の夫を通り魔事件で喪った妻。部屋住みの義弟が
見事仇を討ち、その兄に代わって寺社奉行につき、更に兄嫁と再婚するのだが・・・。種明かしを手紙に頼っている
など安直な部分もありますが、序盤の些細な伏線とミスディレクションが見事に決まった佳作。ある人物の印象が、
たった一言でガラリと変わる瞬間が見事でした。
残りの作品はミステリではないですが、「筑前狂想曲」は、奇想天外な藩財政の立て直し策の顛末、経済時代小説と
も言えそうなユニークな内容で、主人公のクレイジーぶりもスゴく、一種のサイコホラー、これがベスト。
あと、「お駒の虹」のホロッとさせる、藤沢周平作品のような爽やかなラストも良かった。 (オマケ)
大井廣介「紙上殺人現場」(現代教養文庫)★★★★
以前に一部を斜め読みしただけでしたが、ようやく入手出来て通読。1960〜66年の国産ミステリを毎月、ミステリ・マガジン
誌上で、辛口で批評したもの。
これまで読んできた清張、笹沢左保、三好徹、結城昌治、佐野洋、陳舜臣、多岐川恭などなどの作品群の、発表当時の状
況や同時代の批判が大変面白く書かれている。でも、ちょっと今読むと、文章がヘンな感じもするし、ポイントがズレている
というか、どうでも良いことに拘っているとしか思えない部分もあるが、まあ、そこはそれ。
全体的に言って、日影と陳への批評が好意的ですね。次いで鮎川、清張か。笹沢左保は確かに、作品によって評価がピン
からキリまで。
ともかくも、陳舜臣や三好徹、西村京太郎などがデビューしたころの状況、空気が感じ取れたのが最大の収穫でしょうか。
たった7年余りだけど、最初の年度は、乱歩や大下宇陀児の作品を批評していたのに、最後の年度は、斎藤栄だもんなあ・・・。
世代が変わってゆく様が実感できました。
あと、決して高評価ではないのだが、藤本明男「白い対角線」、「暗い年輪」、森田雄三「あたしが殺したのです」、山田克郎
「海の異教徒」、竜茂記「謀略海峡」とか全く未知の作品も出てきた。読んでみたいなあ・・・。 >>406
1973年といえば角川には既に横溝文庫が10冊入っているわけで、先見の明があったとはとても言えたもんじゃないと思うが >>426
藤本、森田あたりは今も安価でよく見かけます
「あたしが…」のほうは昨年の三省堂書店8Fの古書市で、箱付き700円だったのでついに買ってしまった 過去スレまで全てチェックしました。
気になった本をネット古書店で取り寄せて読んでるのだけど...紹介文上手ですよね。今のところ期待を上まわったモノは皆無で、埋もれた傑作など早々見つからなそう。
本編より予告編が面白い映画のようなスレですなココは。 >>406
正確には横溝正史リバイバルブームであって
それ以前から横溝正史は有名作家だったんだから
なんの不思議もないと思うけどね とは言っても、横溝は昭和40年代には推理小説は、49年の年末に1冊出した
だけだし、みんなほぼ忘れてただろうな。 >>432
でもたとえば、海外のミステリー作家で今はほとんど絶版になっている人でも
ミステリーファンにとっては有名な人もいるわけだし、
横溝正史がいくら世間から忘れられていても興味のある人にとっては
それなりに有名な存在だってだけの話でしょ。 >>406
>>427
寺山は昭和10年生まれ
早熟でならしたひとだし、先見の明も何も
金田一耕助の活躍はリアルタイムで知ってて当然 お前ら普段ろくにレビューも書かないくせに他人の揚げ足取るときだけはワラワラと湧いて出るんだな >>435
知ってるかどうかじゃなくてブームが来る前に着目していたことを評価してるんでしょ
せめて揚げ足は正しく取ろうな 角川春樹が横溝正史に興味を持ったのは、多分、少年マガジンに連載された影丸譲也の八つ墓村。
連載時期があしたのジョーとかぶってる。(角川春樹は学生時代ボクシング部。)
寺山修司は力石の葬式の葬儀委員長をやってるし、主題歌も書いてる。
横溝正史に興味を持ったのは、やっぱりマガジンあたりからじゃないかな。 >>437
>知ってるかどうかじゃなくてブームが来る前に着目していたことを評価してるんでしょ
>せめて揚げ足は正しく取ろうな
だから有名な作家なんだから着目してなんの不思議があるのって話だよ
別に横溝正史ブームを予言したというわけではなく、単に金田一耕助を
使ったっていうだけの話なんだから 寺山が金田一を自作に起用した事が不思議だなんて、そもそも元スレ3氏は書いてないでしょ。
角川の大ブームが来る前に、世間一般から忘れられた名探偵を自作に登場させた事を「ミステリファンとして評価する」という感想が文意かと。
個人に感想にあれこれ言っても意味は無い。 >>440
すでに角川に代表作が10点近く収録されてた年だから
単に最近流行ってきたみたいだからと便乗しただけなんじゃ 初代スレの3氏は、八つ墓村や犬神家の一族の映画化によって横溝正史ブームが来たと思ってるようだけど、
実際には1970年に講談社から全集が出てるし、1971年に角川文庫から八つ墓村が出てる。
八つ墓村が売れたから角川はその後も復刻し続けたわけで、1973年には横溝正史ブームは始まりつつあった。
(東宝にしろ松竹にしろ、アタリそうもなければ映画化するわけはないし。) 初代スレ3氏がいう「ブーム」って、犬神家映画化以降の大ブームを指してるんじゃないの?
映画の前年が角川の横溝フェアだから、>>442氏>>443氏の見解は正しいと思うけど、だからといって>>406がおかしなことを書いてるとは到底思えない。 >>444
> ともかくも、1973年、未だ横溝ブームが来る前に、この作者が金田一耕助に着目していた点は評価したい
この文からよくそんなに都合のいい解釈できるな >>445
角川映画「犬神家の一族」が公開されたのは1976年。ミステリーの年表なるものがあれば、横溝ブームはその年をしめすというのが私の見解(おそらく3氏も)。 趣旨はブームの時期云々じゃなくて寺山修司に先見の明があったかどうかってことでしょ
で、散々「なかった」と突っ込まれてるわけ
すり替えるなよ 「横溝正史ブームはいつからいつまで?」でググろう
寺山修司が一般人レベル以下の流行に疎くて書店にあまり足を運ばないような人だったなら「そういうレベルの人の中では」先見の明があったと言えるだろうね >>447
寺山は横溝ブームが来る前からそれに着目していた。3氏はそれを評価したいと書いてるだけ。
先見の明云々なんて書いてないでしょ。
すり替えてるのはどっちだ。
相手の言うことを理解できないのは知性の問題。理解する気がないのは理性の問題。 >>448
それはブームの定義の問題(自分の考え方は>>444>>446)。
映画公開時点で相当部数が売れていたのだから、公開後からブームが始まったという考えは間違いと言われたら「あっそ」と言うだけ。 横溝の本が売れるようになったのは映画がきっかけというのは間違い。大ブームは映画がきっかけということね。 >>449
ブームの定義は関係なく寺山修司が何の情報もなく独自に横溝に着目したわけじゃないと何度も言われてるのが分からんのか >>452
寺山が何の情報もなく独自に横溝に着目したなんて誰が言ったって?
あなたに足りないのは理性では無く知性だな。 ついにバカアホレベルの煽りを始めたか
> 寺山は横溝ブームが来る前からそれに着目していた。3氏はそれを評価したいと書いてるだけ。
これが「先見性」を評価していないのだとしたら何を評価してるんだ?
お前は「ブーム」を「大ブーム」にすり替えているが「ブーム」の時点で着目したのなら別段評価に値しないだろ >>454
映画「犬神家の一族」公開以降の「大ブーム」後に寺山が自作に金田一を登場させたなら、それはただ流行に乗っただけ。でも、そうではない事を評価してるんじゃないかな。
それがどうしたといえば、それまでのことで、個人の考えにどうこう言っても仕方ないでしょ。 で、寺山が何の情報もなく独自に云々なんて誰が書いたって?
妄想と捏造も大概だぞ 寺山と同時期かそれ以前に、金田一パロディを書いた作家がいたら、それなりに先見の明はあると言ってもいいんじゃないかな? マガジンに八つ墓村連載した後だけど…
講談社から全集出た後だけど…
角川から代表作がどんどん文庫で出て300万部突破してたけど…
犬神家が映画化される前に横溝に着目してた寺山スゲー!
はぁ…そうですか 大ブームになりつつあったからこそ、昭和49年の終わりに実に10年ぶりの
新作を出せたんだろうね。 >>456
独自じゃないんなら寺山を評価するとこなんてどこにもないじゃん もうバカとかアホとかしか言えなくなるまで追い詰められたか >>461
それがどうしたといえばそれまでのことって書いたはずだが? >>462
追い詰められたって、誰が何に追い詰められたんだよ。追い詰められるのなら頼むから追い詰めておくれよ。 >>458
「それなりに先見の明」を何語で翻訳すれば「寺山スゲー!」になるんだろう? 初代スレの3氏はこの基地外に勝手に自説を代弁されちゃって大丈夫なん? >>466
この件ついて、3氏は何とも思ってないと思うよ。あえて言うなら「まだやってるよ...」程度では?
彼の読書量から判断して「横溝は犬神家の一族公開以前はほとんどの人から忘却の彼方であった」よって「何の情報もなく独自に着目した寺山はスゲー」なんて思うはずがないのでね。 角川文庫の横溝著作がどのような売り上げ推移を示したのか、細かいデータは持ち合わせていないが、映画公開後に跳ね上がった事は想像に難くない。
ブームとはそういうもの。普段ミステリを読まない人、そもそも読書をしない人までを巻き込むのがブームかと。
3氏が寺山の何を評価したのかは本人しかわからないけれど、単なる個人の感想にケチをつけても仕方ない。このスレで3氏が傑作・佳作と持ち上げた小説を他人が読んで、つまらかった・騙された・金返せ、と言ってもしょうがないのと同様。 いやほんと
他人の印象に茶々入れた時点で全うな議論になんてなり得ないのはわかりきってるのにここまで食い下がろうとする意味がわからない。 >>467
> 彼の読書量から判断して「横溝は犬神家の一族公開以前はほとんどの人から忘却の彼方であった」
これが間違ってると再三言われてるのにお前頭大丈夫か >>470
馬鹿確定。
よく読んでから書き込めよ。
「思うはずがないのでね」と書いてあるだろう?
議論したいなら相手の書き込みを理解した上でどうぞ。もっともあんたは議論の門前にすら立てていないのだが。 だいたい初代スレ3氏は「横溝ブームが映画によって引き起こされた」なんてどこにも書いてないのだが。そもそも議論の前提が間違っている(全く議論になっていないが...)。
横溝自身はブームについて随筆の中で、昭和50から51年にかけてと認識(さらに映画公開後、部数は跳ね上がるわけだが)。ならば昭和48年に発表された寺山の小説を読み、慧眼だと思っても何ら間違いはないと思うけどね。 久しぶりにスレが急激に伸びているなと思ったら、・・・嗚呼。
私の認識は、1974年の「仮面舞踏会」完成と角川文庫数百万部突破あたりから火がついて、1975年のATG「本陣」映画化
前後から世間一般にもブームが拡散、角川文庫も1000万部突破して、そして1976年の角川映画「犬神家」で頂点に達した、
というもの。
だからその前にミステリ界とは縁の薄そうな寺山が着目したのを、ミステリファンとして単純に評価したもの。
でも事実誤認ならば訂正します。過去スレでも、横溝ブームの時期については指摘を受けたのに、俺としたことが・・・。
しかし、寺山「花嫁化鳥」の感想が一つも無いのが悲しい(それほど入手困難でもないが、俺の紹介文が拙いからか)。
島田一男「紅の捜査線」(春陽文庫)★★☆
発表年不明、警視庁の星子警部をリーダーとする捜査一課メンバーの活躍する連作集。
「赤きVの悲劇」は、娼婦だけを狙い、死体にVの字のサインを残してゆく連続殺人。真犯人は果たして・・・。100ページ
近い力作ですが、ミッシングリンクものというか・・・。最後に鉄壁のアリバイが立ちはだかるのですが、まあ数々のアリバ
イ崩し物の作品でおなじみのアレです。
その他の作品も、法医学がらみのトリッキーな話も多いとは言え、題材が下品な方向にいっているし、トリックがワンパタ
ーンなので、どうも評価できないですね。 花木深「B29の行方」(文芸春秋社)★★★
1992年のサントリーミステリー大賞受賞作。
身代金目的の幼児誘拐事件。カネは奪われたが人質は無事帰ってきた。だが15年前に同じ手口の誘拐事件があり、今まさに
時効を迎えつつあった。刑事の宮脇と新聞記者の井上は、今回の事件の被害者の父親である成金実業家が、15年前の事件
にも絡んでいるのでは、と疑い、更に二つの誘拐事件に共通する関係者を追及するのだが、彼らを巡って殺人事件が勃発
する・・・。
ちょっと構成がゴチャゴチャしすぎ、真相の一部に辻褄合わせのようなところもあり、また偶然の一致めいたところもあり、高く
は評価できません。主人公の刑事の幼年時代の話、戦争中の疎開先で起きたB29の話も取って付けたようで、事件との関わ
りに必然性が乏しいし、或る事件の密室トリックも無くもながのもので、トリック自体も稚拙なもの。但し読みやすかったし、それ
なりに楽しむことはできました。 本岡類「一億二千万の闇」(講談社)★★☆
「桜島一○○○キロ殺人空路」、「白い手の錬金術」(過去スレ参照)などで活躍した高月警部補シリーズ、1990年の長編。
東京・練馬区で起きた連続幼児傷害事件。被害者はいずれも顔を刃物で切りつけられていた。高月警部補と島刑事のコンビ
が捜査するうちに、一連の事件には「鈴木」姓の人間が関係していることに気づく。ポピュラーな苗字の鈴木が関わっている
のは単なる偶然ではないのか。やがて3人の容疑者が浮かび上がるが、第4、第5の事件が起き、容疑者には全員、確固たる
アリバイが成立してしまう・・・。
思わせぶりなプロローグが、後半でちょっとした錯誤を生むけど、それ以上の効果は上がっていないし、容疑者全員のアリバ
イが成立した真相も、微妙な伏線もあって合格点ではあるけど、さほど驚くものではありません。レッドヘリングの設定も、どこ
かワザとらしい。
最終的な真犯人の意外性とその動機が、この時代らしいもので、この本の帯に「社会派」とあるのも理解できなくはないけど、
本格ミステリとしての解決時のカタルシスという点では一寸・・・。
残念ながら凡作でしょうね。 俺は本岡類が好きで、「一億二千万の闇」や「鎖された旅券」なんかは面白く読んだんだけど、評価が低いね。
読み直したいけど、なぜか本岡類は文庫化されないんだよなあ。単行本も今では入手しにくいし。
新潮社、角川書店、文藝春秋社等の大手の出版社から出てるのに。 >>474
ケチつけてきた奴らの誤読と曲解と無理解が原因のようだから、気にすることはないですよ。
過去のあなたの書き込みを読んで、何冊か購入してみましたが感想は>>430でした。だからと言って文句をつける気はさらさらないですし。
本文より紹介文の方が面白いなんて素敵じゃないか。 久しぶりにスレをチェックしてみたら…
>>477
本岡類、作家を辞めてしまって残念ですよね かつて乱歩賞最終候補になって、その後出版された作品を探しては購入してました。
受賞作品より面白かったのは
天藤真「陽気な容疑者たち」
久司十三「波切の怪」
島田荘司「占星術のマジック」
折原一「倒錯のアングル」
あたりかな。
その後人気作家になった人ばかりだが、唯一、久司十三だけは講談社ノベルズで
「大陰謀 振袖火事」を刊行したのみ。誰かその他の作品を知りませんか? 初めて読んだ推理小説が「猫は知っていた」だったな
そこから乱歩、横溝、高木、土屋、西村当たりを読んでいたな 「猫は知っていた」は当時としては先鋭的だったのだろうが、今読むと
どこが面白いのかよくわからんなあ 点と線は時刻表を使ったアリバイ崩しの先駆的存在だけど
より凝った作りの黒いトランクの方が先に発表されているわけだからなあ
それに、多くの人が指摘しているけれど、
あのトリックといえないようなトリックに当時の人間なら気が付かないのが普通なのか?
リアルタイムで読んだ人に聞いてみたい 松本清張の著名な作品は一通り目を通したけど、
長編ミステリーで感心するような作品は全くなかったなあ。
短編は面白いのが多いけど。
点と線は、なんであんなに評価が高いのか分からない。 >>486
社会派推理小説という新しい形のミステリーを確立したという意味での
評価が大きいのだろうけど
点と線自体は社会問題が背景にあるというだけでメインストーリーは
普通の本格ミステリなんだよなあ 虚無への供物は何が面白いのか全く分からなかった
事件は悲劇的なのに、素人が面白半分で緊張感のない緩い推理合戦を延々続けるノリに
ついていけなかったわ。 笹沢左保のデビュー作、招かれざる客が乱歩賞の次点
トリックのぎっしり詰まった本格物の傑作だと思うのだが
この年の受賞作が、新章文子危険な関係(読んでないので内容は不明)
でもこの作家受賞後執筆してない模様
その後の活躍を考えると、選考委員のめがね違いが明らか
せめて同時受賞でもよかった。 >>489
>でもこの作家受賞後執筆してない模様
もうちょっと勉強しよう。
長編『バックミラー』短編『併殺ダブルプレイ』はなかなかの出来だよ。 >>489
江戸川乱歩賞はガチガチの本格ミステリはあまり受賞させない傾向があるからね
本格ミステリ自体が駄目というわけではないけど、何かテーマ性のようなものを
求められる。 古いミステリファンは「招かざる客はどれだけ
ひどかったんだろう。いっぺん読んでみたい」と
言っていたものだよ 第15回は受賞作が高層の死角、候補作が天使が消えていく
これ天使の方が出来上回っているように思うのだが
おまけに高層は491の言うガチガチの本格物で不利の筈なんだが
そしてコロンボ構想の死角、NHKに題名パクられてる
題名が良かったから受賞した、これあるあるやろ。 >>493
高層の死角が乱歩賞を受賞したのは1969年
1985年版の東西ミステリーベスト100では高層の死角は52位、天使が消えていくがランク外
夏樹静子の作品の最高順位が「蒸発」の64位
2012年版の東西ミステリーベスト100では両方ランク外、蒸発もランク外
少なくとも昭和の時代には「高層の死角」の方が上に見られていたようだよ 追記
でも、ネットでの書評をチェックして見ると確かに「高層の死角」より
「天使が消えていく」の方を高く評価する声が多い印象なので
時代の変化によってどこかで評価が逆転したんだろうね >>489
>この年の受賞作が、新章文子危険な関係(読んでないので内容は不明)
>でもこの作家受賞後執筆してない模様
新章文子は、作品は多くはないが、「危険な関係」以後もミステリーを書いてるぞ。
俺も読んだことないけど。 >>497そら書いてるかもしれないけど、人気作家となった他に比べると
圧倒的に存在感が薄い、受賞はまぐれと言われても仕方ない。 >>489はまぐれとは書いてない
「受賞後執筆していない」に対して執筆していると返されているだけ
勝手に解釈変えなさんな >>499まぐれとは書いてないが、本音はまぐれだよ
だって489も498も俺が書いたんだもの >>501
アホか?
読んでないのに何でそんな事言えるんだ?
結局落選したが、直木賞にも危険な関係は候補に挙がったぞ。
俺は結構好きだけどな、あの作品。 >>502しつこいなあんた
乱歩賞取って直木賞の候補にも挙がったんだから傑作なんだろうよ
でもその後目立った活躍はしていない
だから危険な関係はまぐれだと言ってるんだ >>503
レス見ていくと、ずいぶん無茶な論理展開をする人だな。おとなしくしときゃいいのに。 >>501
頭が論理的に出来ていないみたいだからもうミステリ読むの辞めたら? >>505論理的じゃない思考の持ち主は、ミステリーを読むに値しない
理由を、論理的に説明しろ ミステリーは犯人探しがメインである。犯人は論理的矛盾が存在する人間である
論理的な思考ができない人間は論理的矛盾が理解できない
よって論理的な思考ができない人間はミステリーを理解できず、読むべきではない
という答えと
ミステリーとは小説の一ジャンルである
小説は誰もが楽しめる趣味である
よって論理的な思考ができない人間であろうとミステリーは楽しむべきである バカには楽しめんだろ
ハーレムラノベでも読んでシコってろ チェスタートンや泡坂妻夫の作品に狂人の行動に規則性を見出だし、それを論理的に解決する作品があるけど、この人の場合は支離滅裂だから、ブラウン神父も亜も解決出来ない。
多分生きていく上の悩みなんか全くないんだろうな。 >>507
推理モノの作品は犯人を推理せずに読む楽しみ方もある「妖しさにドキドキしたり探偵の活躍にワクワクしたり」
https://togetter.com/li/1228537 今更な話だし、わけのわからない議論を蒸し返す気もないが、
寺山修司は紛れもなく推理小説ファンだよ
ディクスン・カーとかが好きだった
明言しているレスがなかったようなので書いておく 寺山修司って覗きで逮捕されたあれか?
ではなぞかけを一つ
のぞきと掛けてディクソン・カーと解きます
そのこころは
どちらも密室の秘密を探るのが好きです 清張全盛期の頃、本格物ファンの間で人気のあった作家に鮎川哲也が
居たんだが、でもこの人の長編結構ひどいのがある
1、別荘でヒ素を使った連続殺人、犯人はヒ素を飲んで色白になる癖の為耐性があった
被害者と同じヒ素を飲んでも、被害者だけ死ぬ
2、中編で発表を長編として出版、前半容疑者のアリバイを崩そうとするが、結局本物
3、女は家を出たが、何故か直ぐに家に戻る
探偵はその理由として、女はパンツのゴムが切れたから家に戻ったんだと推理 ボウリングがブームだった頃、発表された作品
誰も知らないだろうが、幾瀬勝彬(乱歩賞候補に挙がった事有り)死のマークはX
夜の公園で何者かと待ち合わせの被害者、頭部を殴打され死亡、Xのダイイングメッセジ
犯人は木の枝にロープを掛け、ロープにボウリングの球を結びブランコの如く凶器とす
Xはストライクの意味で、ボウリングを連想との事
某評論家、これは酷い作品と紙上で酷評
幾瀬、どこが酷いのか説明しろと反論
評論家、暗い中で殴打されて、凶器がボウリングの球だと何故分かったのか?
まあこんな作品発表するようじゃ、乱歩賞は無理やね。 ちくま文庫の陳舜臣『方壺園』、出来れば「狂生員」、「厨房夢」、「回想死」、「七盤亭炎上」を収録して『方壺園・完全版』に
してほしかったです・・・。せめて「狂生員」だけでも・・・。
生島治郎「傷痕の街」(集英社文庫)★★★☆
1964年、作者のデビュー作。
横浜でシップ・チャンドラーの会社を経営する久須見。十年前のイザコザで片足を失っていたが、今またトラブルの渦中に。
会社の運転資金として冷酷な高利貸しから借りた700万円が、戦争中以来の無二の相棒であった部下の妻の誘拐事件で
強奪され、もう一人の盟友ともども殺されているのが発見される・・・。
ハードボイルドの名作の一つですが、実は意外なほど、本格ミステリの構成に拘った、フーダニットの作品。或る古典的な
トリックが2つほど出てきて、そのトリック自体の出来は悪く、ややバレバレではあるものの、細かい伏線なども張り巡らせて、
意外な真犯人の指摘で終了、と思いきや、更にドンデン返しが出てくる結末。大井廣介「紙上殺人現場」の評にあるとおり
の、本格テイストもある作品。結城昌治「暗い落日」の一年前に発表された、ハードボイルドにしてフーダニットの良作だと
思います。 藤原宰太郎「多摩湖別荘殺人事件」(光文社文庫)★★★
久我京介シリーズの長編第5作、1994年の作品。
久我の亡妻の妹が、再婚早々に自動車事故死。その知らせを聞いた夫の資産家も、別荘の庭で運悪く梯子から転落死。
久我は助手の明夫・洋子コンビ、そして遺された姪とともに事件の追及に乗り出すが、別荘の隣家で、事件に深いかかわ
りを持つ画家が、室外から不可解な状況で射殺される事件が発生。現場には、被害者が記したらしき“OFf”のダイイング
メッセージが残されていた・・・。
事件のポイントは「真っ暗な室内にいる人間を、何の目印も無しに射殺する方法」なのですが、まあ可もなく不可もなく、と
いったトリックでしょうか。厳密には確実性に問題あるけど、ちゃんと、別の可能性についても検討して、その方法を潰して
いるし、「二発撃った理由」の真相は、まあ買えるでしょう。しかし、ダイイングメッセージについては、全く必然性なし、真相
も何だそりゃ?のレベル。
最初の事件についても、動機に関する伏線の出し方が甘すぎ、とは思いますが、まあ悪くはないですね。かと言って、作品
全体で特に褒めるべきところも無く、凡作ですが、まあ他の作品に比べればマシではないかと・・・。
なおJ・D・カー「震えない男」のネタバレあり注意w >>517
小泉喜美子の復刊したやつのあとがきとか読むと、
日下さんの選定基準、いま手に入れやすいか否かに結構重点置かれてるみたいだから、
2000年代までは普通に新刊であった『獅子は死なず』収録作よりも、
『紅蓮亭の狂女』収録作をとったみたいな感じかなあ。
「狂生員」は「方壺園」「九雷渓」と並ぶ傑作だと思ってるからちょっと惜しいけど
まあ、「紅蓮亭の狂女」と「鉛色の顔」も本格の傑作だけどさ。
「スマトラに沈む」も物語として滅茶苦茶面白い ブコフに本岡類の「ささやきの小道」「南海航路殺人事件」があったんだけど、面白い? 奈良「ささやきの小道」殺人 (講談社ノベルス)
出版社: 講談社 (1988/07)
シルクロード博にわく奈良で、東京から来た老人が変死した。鹿に襲われたのである。
だが狂乱地価のおかげで、老人の残した資産は15億円といわれ、その遺産をめぐって殺人が起こる。
警視庁“独立捜査班”高月圭一が見破った、前代未聞のトリックと鉄壁のアリバイ。
緻密な仕掛けで読者に挑む傑作長編ミステリー。 >>5の「山之内家の惨劇」
今度の日曜スカパーのTBSチャンネルで2時間ドラマ版をやるね。
原作は未読だけど、貴重だろうから観てみます。 >>514
鮎川ってそんな駄作もあるんだ
長編はリラ荘とトランクしか読んだことないから知らなんだ >>514
1、は実際、そういう事例があったんだよ。
オーストリアだかスイスだかのとある田舎町では昔から強壮剤として
微量のヒ素を飲む習慣があって、そこの村人を調べたら常人の
数10倍の耐性があったという話がある。 ご無沙汰してます。
最近はミステリから少し離れており、「日本文学に時折り出没するヘンな短編」にハマっています。
岡本かの子の、泥鰌汁・無銭飲食男の鬼気迫る話とか。
永井龍男の、友人と一緒に借金依頼に出かけたら、友人がクルマに跳ねられて、でも何とも無かったので、そのまま一緒に出かけたら、やっぱり友人は…。というクレージー極まる話とか。
黒島伝治の、牛小屋で首がねじ切れた子供の話とか。
牧野信一の、爪に関する話とか。
島尾敏雄の、頭にカルシウム煎餅のようなカサブタが出来て、痒くて掻いてたら、身体が足袋をめくるように裏返しになる話とか。
福永武彦の、精神病者が認識する「世界」の話とか。
井伏鱒二のストーカー話とか、イタ電で空き巣に警戒する話とか…。
そういう、ケッタイな日本文学の短編群を探し求めている最近です。
いずれ、昭和の本格ミステリに戻ろうとは思いますが…。 島尾の夢を題材にした作品群は確かに迫力があるよね。
漱石『夢十夜』百閨w冥途』の系列とはまた違う。 >>527
俺も何か無いかと頭を絞ったんだがなかなか出てこないね。
田宮虎彦の短編「小さな赤い花」(長編バージョンもある)が少年と足の不自由な幼女がパラダイスを作る話で“びっこ”をオチに使っていたりしてて、よく印象に残ってる。
もし未読だったらよかったら読んでみて下さい。 初代〜3スレ目と関連スレに投稿された3氏やスレ住民の採点表が完成。
本スレのデータもポチポチ打ち込んでいきまっする。 エア本格ミステリ大賞
笹沢左保(1930年11月15日 - 2002年10月21日)『霧に溶ける』1960年 東都書房
陳舜臣(1924年2月18日 - 2015年1月21日)方壷園 (推理小説集 中央公論社 1962年)
山田風太郎(1922年1月4日 - 2001年7月28日)太陽黒点 桃源社、1963
角田喜久雄(1906年5月25日 - 1994年3月26日)『影丸極道帖』1965年 東都書房
海渡英祐(1934年9月24日 - )『影の座標』講談社(1968年)
鮎川哲也(1919年2月14日 - 2002年9月24日)鍵孔のない扉(1969年6月、光文社〈カッパ・ノベルス〉)
都筑道夫(1929年7月6日 - 2003年11月27日)くらやみ砂絵 桃源社、1970
仁木悦子(1928年3月7日 - 1986年11月23日)冷えきった街(1971年3月、講談社)
中町信(1935年1月6日 - 2009年6月17日)殺された女(1974年2月 弘済出版社)
【改題】「心の旅路」連続殺人事件(1987年8月 徳間文庫)
夏樹静子(1938年12月21日 - 2016年3月19日)黒白の旅路(1975年 講談社)
泡坂妻夫(1933年5月9日 - 2009年2月3日)亜愛一郎の狼狽(1978年5月 幻影城ノベルス)
井上ひさし(1934年11月17日 - 2010年4月9日)『十二人の手紙』(中央公論社 1978年)
梶龍雄(1928年 - 1990年8月)龍神池の小さな死体(講談社、1979年6月)
連城三紀彦(1948年1月11日 - 2013年10月19日)戻り川心中(1980年9月 講談社)
笠井潔(1948年11月18日 - )サマー・アポカリプス (角川書店、1981年10月)
島田荘司(1948年10月12日 - )斜め屋敷の犯罪(1982年11月 講談社)
泡坂妻夫(1933年5月9日 - 2009年2月3日)妖女のねむり(1983年7月 新潮社)
岡嶋二人、井上泉(1950年 - )徳山諄一(1943年 - )そして扉が閉ざされた(1987年12月 講談社)
連城三紀彦(1948年1月11日 - 2013年10月19日)黄昏のベルリン(1988年8月 講談社)
有栖川有栖(1959年4月26日 - )孤島パズル(1989年7月 東京創元社)
法月綸太郎(1964年10月15日 - )誰彼(1989年10月 講談社ノベルス) 影の座標の意外な犯人にはぶっ飛んだ(いい意味で)思い出がある
鮎川があるのに土屋隆夫が無いのはお気に召さない? 採点表の入力が終わりました
見直しに少し時間をください
(うpろだを見つけなきゃ・・・) >>539
すげー、よくまとめたな
あとこの表を見るまで、司城志朗を「つかさ じょうしろう」だと思ってたら、「つかさき しろう」だったのか 生島治郎の『浪漫疾風録』『星になれるか』が復刊されるね >>539
ものすごく乙。
日下圭介『山頭火 うしろ姿の殺人』は★★★か。
読了して間もないけど、なかなか雰囲気があってよかった。
歴史ミステリが好きなので、個人的には★★★★。
ちょっと登場人物出しすぎなところと、詰め込みすぎなのが気になったが。
採点表のリスト、情報の修正・追加したものを年内に公開できればと思っています
(遅れたらゴメン) >>549
何回トライしても見れないんだけどどうしてかな? >>552
もう1度539のリンク先に飛んで、メ欄のパスワードを入力してダウンロードしてみてください >>430
非常に参考になるコメントです。
ここでは★★★★の梶龍雄の「大臣の殺人」も、確か江戸川乱歩賞の
応募作品で最終候補にも残ってはいません。そのため当方はこの作品
持ってはいるのですが430さんのコメント読んでいまだに読む気がせず
本棚で眠っています。実際は★ひとつ(かふたつ)引いたのが、正当な
評価なのでしょうね。 『大臣の殺人』はかなり力を入れて書かれたのが分かる歴史ミステリの良作だと思う
カジタツ作品の中でも面白い部類に入る長編ですよ
(読む前に黒田清隆に関する知識を入れておくとニヤリとできる箇所がいくつもある) >>558
御教示ありがとうございます。
乱歩賞二次止まりという先入観もあり、古本屋で安く買ったものの
気が進まないでいました。 1月に田中小実昌『幻の女』が出るけど、本格じゃないか…… 採点表の改訂版です(保存期間はどれくらいか不明)
パスワードはメ欄をご覧下さい
https://firestorage.jp/download/846192602d32ab3892bc417ab7568f97b9a1826d
<変更点>
・関連書籍のデータを追加
・誤字脱字の修正
・各種データの訂正・修正・追加 >>564
これは労作。
しっかりここのスレの評価も反映されてますな。 こないだブックオフで、「サスペンスマガジン 2月創刊号」というのを見つけた。発行元は久保書店。
内容は官能小説+ミステリーて感じで、山風ほか山村藤村飛鳥らの名前が並んでた。
買っとくべき? 岡田鯱彦『駒形堂の藤吉親分捕物話』が5月10日発売される 草野唯雄の死霊鉱山呼んだけどありゃすごいな
本格とホラーの融合を狙ったんだろうけど正面衝突した挙げ句に双方とも致命傷を負っているという
あとやたらエロ描写がネチっこかった ボーナストラック付きの場合もあるのでとてもありがたい 霜月信二郎探偵小説選
発行:論創社
価格 3,400円+税
発売予定日2021年12月28日
喜寿を迎えた今なお旺盛な執筆活動を続ける著者の初単行本。
巻末には書下ろしエッセイ「幻影城・影の会の思い出」を収録! PIXIVの絵師に描かせたようなカバーと口絵がなー
ラノベかジュブナイルと勘違いさせて売る手法かな 徳文・小泉喜美子の復刊のやつのイラストはミスリードすぎや
女優はもう中年婆のはずなのに、若い女にしかみえん
パケ詐欺やで >>584-584
カバーイラストと口絵なんかどうでもいい
有栖川の笹沢解説の適当さには腹が立つが(編集は仕事しろ)、復刊してくれるだけ有り難い 笹沢はとりあえず10冊(100冊やりたいらしいけど無理だろ)という話
中町は3冊確定、都筑は4冊予定か?(「アダムと七人のイヴ」は4回で中絶しているので)
梶龍雄の復刊に向けて動いているみたいだな カジタツでプレミアついてないのは『大臣の殺人』くらいじゃねえかな 『透明な季節』『海を見ないで陸を見よう』『ぼくの好色天使たち』の3冊だけじゃん 講談社のROMANBOOKSが電子で続々と復刊してて嬉しい >>596
おお、いいこと教えてくれたな。
ミステリだけじゃなく、昭和30年代大衆小説の宝庫じゃないか 山沢靖雄のダミープロット、なかなか良かった。
梶龍雄は長編は殺人回廊と淡雪の木曾路殺人行だけ読んでないけど、こんなマイナーなのは復刊されんだろうな。
あと司城志朗の日出づる国のスパイもどこか復刊してくれないものか。 笹沢とカジタツの復刊は好調のようだけど、中町は1冊で終わりなのか? >>603
80歳くらいまで一応著作は刊行してたんだな。
筆名は大物作家っぽくて好き。 おお、ほんとだ
知らんかった
10/7発売
名作マジックミラーで紹介されていたから読みたかったんよ 笹沢佐保、梶龍夫は今回の復刊でほとんど読めるようになるんじゃない?
都筑道夫はミステリの範疇だけっぽいけど >>611暗い傾斜は昔読んだことあるけど、被害者が亡くなった時
容疑者には完璧なアリバイがあって云々って話で
これアリバイ崩しの本格物だと思って読んだら腹立つよ
強いて言うなら純愛ミステリーとでも言おうか。 笹沢左保はだんだんエロミスになっていったので興味なくした
本人も相当女癖が悪かったよう 「招かれざる客」読了
班員とトックリはとちゅうでわかったけど、動機がね・・・
そーゆーもんか、人生て 引き続き「真夜中の詩人」読み始めた
ちょうどかーちゃんがひき逃げされたとこ 「真夜中の詩人」、清子自殺の週刊誌が出てきたとこまで北
真紀の真の父ちゃんは江戸幸の社長で、純一も江戸幸の血を継いでるってとこにこのゆーかい事件の動機があるんじゃまいかと推理 「真夜中の詩人」読了
途中でほぼ完全にプロットを見抜けてた
次は「他人岬」行きますは 「他殺岬」読了
この辛味方は怪しいと思ってたらやっぱり
次は「求婚の密室」行きますは
読み始める前の登場人物リストだけ見てて27歳長女に6歳次女てーどーみてもここに核心がありそうっぽい できれば読みました報告だけじゃなく簡単な感想を付けてくてると有難い 「人喰い」読み終わった
むむって感じ
次は「霧に溶ける」いく 「霧に溶ける」読みオワタ
プロットは途中で見抜けた 「小沼丹推理短篇集-古い画の家」が今月の中公文庫で出たので、次はこれいく >>631むむっは中々よく出来てる、それとも今一つ納得いかない
どっちだ? >>639
なんだよ泡坂妻夫のパスティーシュでも出たのかと思ったじゃないか 「後ろ姿の聖像」こーてきた
ささざざわさほええのう 「後ろ姿の聖像」読了
これは途中でプロット読めた
典型的2時間ドマラ設定 「若きウェルテルの怪死」復刊されたが読みやすくなっているね >>644
読みやすくなったってどういうこと?
改行などが原本より適切にされているとか? 深谷忠記って、80年代から2020年代まで、継続的に本出してるのよな。
親の本棚にあったトラベルミステリーの印象が強かったが、さいきんの『執行』読んで、
認識を新たにした。もうちょっと評価されてもいいような。 深谷忠記の2文字シリーズっていいよね。
年1冊書いてるのかな?もっと話題になってもいいと思う。 >>648
今年で80歳みたいだし、何か賞を取っていてもおかしくないんだけどねえ
一時期、樋口有介が日本推理作家協会賞の候補に集中して推されていた時期があったけど、
けっきょく無冠のまま(新人賞は除く)、亡くなっちゃったしなあ 深谷忠記、サントリーミステリー大賞で佳作になっているけど、他は候補止まりなんだよな
(サンデー毎日新人賞候補(2回)、乱歩賞候補、協会賞候補(2回))
社会派系統の長編はもっと評価されていいと思うのだが… >>650
まあ、華はないよねえ
昔はけっこうぶっ飛んだトリック書いてたけどw 笹沢「シェイクスピアの誘拐」読みおわた
Oヘンリーぽいっくてよき >>652
毎度、こーてきた
はいらんだろ、貴重なレスを無駄にすんな 小杉健治とか鳥羽亮とか、時代小説に移って活躍してる作家もいるから、
深谷忠記もそっち方向いくと思っていたが、ミステリでがんばってるな。
ただし「この作家ならでは」の特徴というか売りがないのも確か。
読めばそれなりに面白いけど。 小杉は今でもミステリー書いてるから時代小説に移ったというよりも二刀流だね 鳥羽はミステリはイマイチだったから転向して正解だったな
乱歩賞作家の中では出世組だろう >>656
ウィキみて、小杉と鳥羽が同学年だと知った。
2人とも現役、だけど特に小杉、あまりの多作ぶりにびっくりした。もう75過ぎてるのに。
>>657
同時に乱歩賞受賞した『フェニックスの弔鐘』の阿部陽一のほうが、当時は評価高かったような。
佐野洋が「推理日記」で触れてた記憶。 夏樹静子とか伏線も丁寧に張った本格っぽいミステリ書いてた記憶があるが、
このスレではそこまで話題にならんは、有名すぎるからかな。
特に本格仕立ての作品をピックアップして東京創元社あたりで再刊してほしい。 夏樹静子くらいメジャーだと
ブッコフに転がってるから再刊しても売れない気が・・・
中町信とかブッコフにあまりないマイナー作家だと、
復刊して新刊として並ぶのは意味があるけど 斎藤栄の『魔法陣』シリーズを全巻読んだ。
「水(1978)」「火(1980)」「空(1982)」の初期三部作は力作だけど(名作・傑作とは言ってない)、
「風(1987)」以降は凡作・駄作だらけ・・・・・・
(「雪(1988)」は短編だったらソコソコだが、無理に長編化して変になっている)
なお、一部の電子書籍版は「月(1990)」を最終巻としているケースがあるが
実際には「人(1992)」「天(1996)」と続き、「花(1999)」で完結するので
これから読もうとする人は注意。 >>664
あのシリーズ全巻読んだのか?(良い意味で)物好きな人もいたもんだな。貴重な情報ありがとう。
物好きついでに短くてもいいので、魔方陣シリーズ各各のレビューと感想聞かせてください。 連投すまんが、斎藤栄に関しては、殺人の棋譜、王将殺人、紙の孔雀読んで、この人根本的にミステリ理解してないんじゃない?と思ってしまったんだが……。そういう意味で同じ量産作家でも、西村京太郎とは全く違う印象。名作と言えるような良い作品ってあるのかな? 斎藤栄と森村誠一、カッパノベルスの広告で、奥の細道殺人事件と新幹線
殺人事件が並んで掲載されていた、でも斎藤栄の文章は読みづらい、スラスラといかない >>666
斎藤先生としては「ミステリ(探偵小説)を誰よりも理解しているし、実践もできている」なんだと思う。
かなり古臭いミステリ観+本人がド天然の結果、読者と根本的にズレているだけで・・・・・・
名作かどうかはともかく、インパクトのあった作品としては
・金糸雀の唄殺人事件
・赤蛇家の惨劇
・斎藤栄のミステリー作法(カルチャーセンターでの講演をまとめたもの。9割がた自慢話) 斎藤栄って「ストリック(=ストーリー+トリック)」という用語を作ったことくらいしか印象にないな
今でいう叙述トリックに近そう
一作も読んだことないので、本人が実践していたかどうかは知らんけど 斎藤栄、一冊も読んだことないが、なぜか日ペンのミコちゃんが脳裏に浮かぶ 辻正紀の中高のもこーてきてよんだったは
次は受験が今月か ヒーリング系もしくはドローンアンビエントで最強のリラックスを手に入れてください。
自然の波音も入っているので、さまざまな周波数の恩恵をえることができます。
神経過敏でイライラしやすい人、なんらかの依存症にも少なからず効果が期待できます。
//youtu.be/e1IPKVrDUoM トクマの特選のさささほ復刊が止まってしまってかなp むかし、綾辻以前の作家の作品で「本格ミステリ」として読める小説を
どこかの雑誌だかムックだかで特集していたが、その中で荒巻義雄の小説が入っていた。
「紺碧の艦隊」シリーズとかの架空戦記じゃなく、1巻完結モノだったと思う。
誰か、どの作品だか思い当たる人います? >>683
天女の密室か?う~ん、大した作品じゃないぞ。 >>684
うーん、そういう露骨に本格ミステリってタイトルじゃなかった気が。
ウィキで著作リスト眺めても思い出せません…… >>686
ググったらそれです! ウィキには旧題の「ガストロバルバ」しか載ってなかったので、
思い至りませんでした。でもあまり評価高くなさそうw マイナーな文庫で出てた「日本変態ミステリ集成」てのおもろかったは