山村美紗「京都新婚旅行殺人事件」(光文社文庫)★★★
1985年のノンシリーズの長編。
南田物産に勤める美知子は、独身の部長と結婚、玉の輿に乗るが、同じ日に結婚式を挙げた社長令嬢が
新婚初夜に京都のホテルから飛び降り自殺する事件に遭遇。だが京都府警の狩矢警部らの捜査により、
自殺ではなく他殺と断定される。更に琵琶湖畔に浮かぶ遊覧船の状態の船室で社長が殺される。財産目
当ての後妻の犯行か、或いは会社の人事抗争か。美知子は事件の謎を追うが、実は彼女の夫もまた、以
前に三人の妻を事故死や自殺で亡くしており、彼女とは四度目の結婚だった。夫への疑惑が膨れ上がる
うち、彼女もまた、命を狙われることに・・・。
はい、いつもの「産業ミステリ」ですね(>>180参照)。テレビドラマ化したときの演出だけを考えたかのよ
うな登場人物、構成ですが、それでも本作は、一応(飽くまで、一応、ですが)、謎解きの過程には、そ
れなりに力を入れており、密室の真相も、作者の作品で良くあるパターンを脱しようと努力はしています。
真犯人の動機には疑問があるものの、レッドヘリングも工夫の跡が見え、終盤まで容易に犯人を割らせま
せん。但し、アリバイ工作の方は・・・、例の電話のアレ、好い加減にしたらどうだ。
以上、陳腐な電話トリックを除いては、かなり努力していますので、決して駄作ではないと思います。少
なくとも、>>180の「京都鞍馬殺人事件」よりはマシ。
しかし、解説の郷原宏、よくもヌケヌケとこんなことを書いて絶賛できたものだなあ。作者の作品では
使い古された電話トリックを「乱歩の『類別トリック集成』に新しい一項目を要求して恥じない」って一体・・・。
おまけに「名前だけで本を買っても絶対に損をしない」とはねえ・・・。解説者としてのプライドはない
のか?