雑誌「幻影城」(1979年1月号)
本号の作家再評価シリーズは竹村直伸。乱歩の称賛を得てデビュー、短編3本を送ったら3本まとめて
「宝石」誌に掲載されたというエピソードもある作家、本誌には1958〜59年の「宝石」誌掲載作を収録。
「風の便り」★★★☆、デビュー作。子供が風船に付けて飛ばした父親宛ての手紙。殺人容疑に問われ、今
は精神病院にいる父親から返事が届く。離婚して住所を知らせていないし、そもそも風船が父親のもと
に届くことなどあり得るのか、母親は不審を抱くが・・・。語り手の「私」の設定がややアンフェアではあ
りますが、冒頭の一行目など実にシブい。佳作ですね。
「タロの死」★★★☆、3作一挙掲載のうちの1本。これも良作。見知らぬ女性から犬を譲られた少年。
タロと名付け飼おうとするが母親の反対にあう。ガス中毒死した父親の巻き添えで死んだ犬もまた同じ
種類の犬でタロといい、母親は犬を譲った女性に不審を抱くが実は・・・。短編ミステリのお手本のような
作品。ガス中毒と犬の死の真相と、結末の繋げ方が抜群の冴えですね。
「見事な女」★★★、生活を支える妻に甘えて市役所を辞めて靴磨きになった男、妻が失踪した後、花屋
の出店を出した男と知り合う。彼もまた、妻に甘えて花屋に転身したのだが、その妻は靴磨き男の妻
だった。やがて・・・、これも上手いし、結末までグイグイ読ませるけど、真相はちょっとやり過ぎかなあ。
・・・以上3作、1950年代の作品にしてはセンスの良さが光りますね。伏線には不満が残るが、結末の
切れ味は現代でも通じる、独特の雰囲気に満ちた、洒落た短編を読んだな、と満足できます。
その他、書き下ろし作品としては、筑波孔一郎「自殺志願者」★★。六人組グループの一人が語る、不可
解な毒死事件。果たして自殺か他殺か。・・・些細な伏線はともかく、毒殺トリックも陳腐ならドンデン返
しも乱歩の亜流レベル。
日影丈吉「東官鶏」は戦時中の台湾を舞台にした作品、李家豊「深紅の寒流」は冒険小説(田中芳樹「流星
航路」収録、過去スレ参照)。赤川次郎「五分間の殺意」も作者お得意の展開だが後味悪し。
やはり収録作では、連城「桔梗の宿」、泡坂「意外な遺骸」がダントツの出来、説明不要ですね。