1957〜1987年あたりの本格ミステリ作家達 4
落ちてたようなので、初代スレ3氏他多くの方々の帰還を願いつつ立て直してみますた
過去スレの>>1さんの主旨です
>清張以降綾辻以前の本格ミステリは、泡坂・島田・笠井・連城・東野・岡嶋などといった一部を除いて絶版が多い。
>また、名前は知られていても本格ミステリ作家としての認知度が低い作家も多い(笹沢・西村・森村等)。
>
>この時期に活躍した本格ミステリ作家達のうち専用スレがない作家達の傑作・駄作を紹介して下さい。
>(要するに「ミステリーズ」でやってた「本格ミステリフラッシュバック」のようなものです)
過去スレ
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1143140545/
http://love6.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1195364956/
前スレ
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1237095365/
大岡昇平「夜の触手」(光文社カッパノベルス)★☆
1960年の、作者初の長編ミステリとのこと。
幼馴染で結婚を誓い合った三郎とひろ子。高校卒業時にひろ子が行方不明に。タクシー運転手になった
三郎は銀座でひろ子と再会、だが、間もなくひろ子は殺されてしまう・・・。ひろ子は東京で何をして暮ら
していたのか、何も知らぬまま、三郎は容疑者として逮捕されてしまい、絶望して犯行を自白。だが
所轄署の波多野刑事は、三郎はシロだと判断、執拗な捜査の末に、もう一人の容疑者が浮かぶのだが、
その男には鉄壁のアリバイがあった・・・。
大して巧妙とはいえないものの、如何にもなアリバイ工作が出てくるので、その解明に期待したのです
が・・・。嗚呼、トリッキーな真相など期待した俺がバカだった・・・。終盤には、更に新たな容疑者がもう
一人登場するなどして、ひとヒネリしてはいますが、結局は読者の想定どおりの人物が犯人で幕。
これなら、以前に照会した「歌と死と空」や「最初の目撃者」の方がマシ。本作で評価できるのは、序盤で
姿を消してしまう被害者のひろ子の謎めいて不可解なキャラが、終盤まで深い印象を残し続ける点で
しょうか。この点だけは流石。 ・・・番外編。
アンソロジー「0番目の事件簿」(講談社)★★★★
いわゆる「新本格」でデビューした作家およびその影響を受けた新鋭作家らの「デビュー前の習作」を収録した
アンソロジー。収録作の多くが「1987年以前」のため、やや反則ながら紹介します。
有栖川有栖「蒼ざめた星」(1980年)。これは如何にも「大学機関誌に発表しました」風な作品。犯人特定の
詰めに甘さが見られるが、たどたどしい伏線など微笑ましいくらい。作者が言及している「ブラックジャック」
の一件は、コミックス20巻に収録の「台風一過」ではないのかな?
法月綸太郎「殺人パントマイム」(1985年)。真犯人の設定にブッ飛んだwでもその件の伏線が弱い。もっと
髪一重のところまで踏み込んでほしいです。
霧舎巧「都筑道夫を読んだ男」(1984年)。倒叙物。犯人を追いつめる外国人の正体とは・・・。タイトルどおり
のマニアックさもさることながら、犯人の追いつめ方がもう習作とは言えないぐらい堂に入って
いる。
安孫子武丸「フィギュア・フォー」(1984年)。これぞバカミス。「4」のダイイング・メッセージってw
これは俺にも真相が分かった。さりげない伏線がバカバカしくも上手い。
霞流一「ゴルゴダの密室」(1980年)。密室状態の部屋で、ドアに串刺しにされた死体・・・。これもバカミス臭い
が、密室ものとしては十分合格点だと思います。
高田崇史「バカスヴィル家の犬」(1973年)。収録作では最も古い作品、作者は当時中学生。ホームズ物のパス
ティーシュだが、これは一寸ねえ・・・。
綾辻行人「遠すぎる風景」(1984年)。冒頭に明記されているとおり、長編「人形館の殺人」の原型。これって、
当時読んだサークル仲間は、別の作品で、・・・・が・・・・であることに慣れていたので、見事引っかかった、
ということなのでしょうか?
他の収録作は、いずれも1987年「新本格」登場以降、その影響を受けた作家たちの習作なので略。
・・・いずれにせよ、1970〜80年代、一部を除いて謎解き本格ミステリに恵まれなかった時代の学生読者たちの怒り
と熱気が伝わってくる、「先ずは謎解きの本格ミステリ!、日本語の文法や作文の基礎などは後からついてくる!」、
とばかりの、ちょっと青臭いが、とても楽しめる作品集でした。 志茂田景樹「西城家の惨劇」(実業之日本社ジョイノベルス)★★★★☆
1995年の長編。「猟奇ミステリー」とありますが、拾い読みした限りでは、エログロ描写も少なそうだし、終盤では
探偵が謎解きをしているような描写もあり、真っ当なミステリっぽかったので購入。発表年は本スレの主旨から
外れていますが、本作は紹介せざるを得ないケッサクです。
鉄道をメインとする一大財閥を率いる西城家。熱海の岬をまるごと買い取った広大な敷地に当主・龍一を筆頭に
本家の一族が暮らし、後妻親子、執事、主治医、使用人らの家族ともども一大帝国を築いていた。だが使用人が
崖から謎の転落死を遂げたのを皮切りに、茶室の天井崩落、後妻の子供への襲撃未遂などなど、一族の命を狙っ
た不審事が相次ぐ。長女で盲目のピアニスト世志子は、長男で家を飛びしてアメリカで画家・小説家として成功
していた春彦を呼び戻す。十数年ぶりに帰国した春彦と、龍一が雇った香港に住む名探偵・烏丸良輔が一連の事件
を追及するのだが・・・。
何といっても、名探偵・烏丸良輔がスゴい。金髪で黒いソフト帽にカイゼル髭、燕尾服を着て、馬に乗って登場(爆)。
河原町ならぬ烏丸、燕尾服・・・、って、麻耶雄嵩へのカン違い対抗か?
プロットは意外とマトモで、大富豪の遺産相続絡みで進み、終盤、関係者を一堂に会しての名探偵の謎解きもある
王道の展開。しかし、真犯人の意外性を狙う余り、犯人に関する動機や事実関係に後出しが多く、最後になって
そんなこと言われてもなあ、というのが正直な感想。小味なトリックなどもありますが、いずれも高い評価は出来
ません。
しかし、本作がスゴいのは、一連の事件が解決した後のラスト2、3ページ。「エッ!?そうだったのかよ!!」と
大爆笑しました。読み返してみると、確かに伏線はあった。その事実を上手く回避している描写もあり、これに
は降参。・・・しかし、理由は理解できるけど、必然性はあったのかなあ・・・。
ラスト、日本バカミス史上に残る驚愕の真相を笑って済ませられる人にはお勧めの一冊。草の根分けても探し出し
て読むべし。或る意味、麻耶よりもスゴい。烏丸探偵バンザ〜イ!
なお、星4つ半の評価は、バカミスとしての評価ですので念のため。 新宮正春「甲子園球場殺人事件」(講談社ノベルス)★★
1984年の長編、講談社ノベルス最初期の一冊。
スポーツ紙記者の笠井は甲子園球場での巨人阪神戦を観戦中に親友の立花を殺されてしまう。笠井の
スタジャンを借りて着ていた立花は自分に間違われて殺されたのではないか、悩む笠井は単身、事件
を追及する。更には恋人の絵梨も殺され、一連の事件は更に、立花の勤務先の大学からの天然痘ウィ
ルス盗難事件にまで発展、警察と笠井らによる犯人追及は意外な方向へと発展してゆくのだが・・・。
うーん、序盤は快調でしたが、途中から、国際謀略物に近いテイストになってしまい、本格ミステリ
から離れてしまいました。謎解きも面白くないし、この作者の長編はこれが初めてでしたが、既に紹
介済みの短編集「後楽園球場殺人事件」、「殺人球場−殺しのトリック・プレイ」の方が「本格」として
は上でしょう。 赤川次郎「駈け落ちは死体とともに」(集英社文庫)★★☆
1980年の短編集。本格ミステリとしては、表題作と「壁際の花」に注目。
表題作はユーモア物。予備校生カップルが駈け落ちして無理心中しようとするが、トランクがすり替えられ、中から
死体が。二人はすり替えられたトランクの行方を追ううち、意外な真相に行き当たる・・・。作者お得意の作風ですが、
伏線の巧みさと真犯人の意外性で読ませます。
「壁際の花」は、高慢ちきなアホ女子高生が密室状態の中で殺される。被害者を恨む者は多数いたが、みなアリバイ
があった・・・。ちょっと類例を知らないユニークな密室トリックが出てきます。
他の作品のうち、「交換日記」は、女性との同棲がバレて退学になった高校生。だが同棲相手の女性が一向に姿を現さな
い・・・。これは真相がバレバレ。
あと「遠い日の草原」もシンミリした良い話だが、ミステリとしては不十分な出来。残りの「善の研究」、「霊魂との約束」、
「二つの顔」、「命のダイヤル」は、ホラー風味などもあって工夫を凝らしているが、大した出来ではない。 まあ、ただの不注意だから5か月くらいムショ入りして
終いかな
ちょうどいい休暇くらいだな
そんなに日本は厳しくないよ 夏樹静子「蒸発」読んだけど、なんだこの話・・・・・ 司城志朗の「そして犯人もいなくなった」が
どうしても見つからない… ボウリング殺人事件とか白い森の幽霊殺人とか読むと、ボウリングやスキーがすごい流行ってて時代感を感じる 岡田秀文って面白いね(誰に向かって言ってるんだ?)
大沢在昌「眠りの家」(角川文庫)
1981〜1985年の短編集。
「ゆきどまりの女」★★★★。不要になった殺し屋たちを始末する謎の女性。或る男が掴んだ意外な
正体とは?
・・・最初から最後まで伏線だらけ。ハードボイルドのエッセンスともいえる短い枚数の小品なのに、
意外性に満ちた真相と、それを支える伏線が実に見事。
その他の作品は、いかにも1980年代の軽めのハードボイルド、謀略ものといった感じの作品が並びます
が割愛。
「ゆきどまりの女」だけでも読む価値があるでしょう。 西木正明「凍れる花火」(集英社文庫)
1986〜87年の作品を収めた短編集。
北海道などを舞台にした滋味溢れる作品が並びますが、巻末の「孝行代金」が秀逸。東北の田舎町から
上京した祖父をもてなす孫の男と「わたし」。寿司をとって歓待しているのだが実は・・・。もう冒頭の
一行目から伏線になっており、孫と「わたし」の、どこかズレた会話の真の意味など、素晴らしい、の
一言。20ページ足らずの小品だし、これを「本格ミステリ」といえるか疑問ではありますが、「真相の意外性と、
それを支える伏線」という点ではピカイチの出来栄え。
その他の作品にも、演歌歌手が北海道で無銭飲食し、昔、関わりのあった雑誌記者が引き取りに行くが実は・・・、
という意外な展開をみせる「海鳴り列車」などの秀作もあります。
いずれにせよ、「孝行代金」は、三好徹「疵ある女」、夏樹「暁はもう来ない」、そして先ほどの大沢「ゆきどまりの女」
などに連なる、突出した、単発の「知られざる名品」なので、是非読んでみて下さいね(・・・って、だから誰に向かって
言ってるんだ?)w 書き忘れたけど、「孝行代金」の評価は、無論、★★★★です。
夏樹静子「あしたの貌」(講談社文庫)★★☆
1978〜79年に発表された中編・短編を収めた作品集。
表題作の中編は、スタイリストの姉・麻生の失踪を追う妹のリツ子。姉と恋愛関係にあったカメラマンの
不審な様子に疑いを強めるが・・・。うーん、この枚数で登場人物が少ないから、真犯人はバレバレだし、
アリバイ工作も、やはり少ない枚数では露骨になってしまっており、高い評価ができないのが残念。
残りの短編では、別のアンソロジーで既読でしたが、「陰膳」がベスト。幼い子を亡くし、夫婦関係にも
ヒビが入った主婦が主人公。隣家の仲睦まじい初老の夫婦もまた、子を失っていたのだが、実はこの二人
には・・・。おお、こちらは少ない枚数を活かして、実に不気味な余韻とラストの切れ味の鋭さを磨き
上げた佳作。ひょっとしたら作者の全短編中のベストかも。
あと「遺書二つ」も、不治の病にかかった姉と妹の確執をシャープに描き、ラストのドンデン返しまでソツ
なく構成された佳作。
残りの「ベビ・ホテル」や「ひとり旅」は、オチや真相がバレやすく、在り来たりの結末の凡作。 おお今年初エントリーですね
今年も楽しみにしています 浅川純「死体の壁」(トクマノベルス)★★☆
1990年の長編。
別荘地・霧生湖で発見された女性の死体。湖畔の保養所で、泊りがけのパソコン通信のオフラインパーティ
をしていたグループの一人が行方不明になっていたことから、警察はその女性かと追及するが、別人である
ことが判明。ではその死体の身元は、そして行方不明の女性は何処に?地元署の桐田は、ひょんなことで知
り合いになった引きこもりの少女・深雪からパソコン通信の手ほどきを受け、事件を追及するのだが・・・。
この作者の作品を読むのは「伊豆大島殺人火山」(>>83参照)以来か。題名のセンスの無さは相変わらず
(というか、この題名がストーリーの何を意味しているのか全く分からない)。おまけに古びてしまった当時
の風俗などが、今読むとイタイタしくて・・・。昔のパソコン通信やオフの話題やらハンドルネームなどは
「時代の制約」として目をつぶるけど、プロローグの或る人物のモノローグが、「やったジャン!」「一発マイ
クタイソンされて」「軽くジャブを具志堅ヨーコーこいたら」「天下の険、カイコーケンの人生訓」・・・、冒頭
からこんなもの出すなよw、梶龍雄を遥かに凌駕する「オッサン勘違いの若者言葉」に頭がクラクラ、作者は、
これで、「軽めの登場人物のジョーク交じりのセリフ」を表現した積りでいるのだろうか?作者の頭の中身が
心配だ・・・。
それはさておき、肝心の小説の中身の方ですが、桐田刑事の地道な捜査過程などは丁寧なんだけど、どこか謎の
構成がスカスカというか、古典的なトリックを使って、被害者の身元と容疑者にヒネりを加えている努力は買う
けど、伏線が上手くいっていないため、トリッキーな謎解きとしては不満足の出来栄え。
あと、プロローグにおける中町信ばりの叙述上の仕掛けも、その人物の登場のさせ方が不味いので不発気味。
やはり同時代の初期「新本格」陣には太刀打ちできないなあ・・・。 鷲尾三郎「過去からの狙撃者」(光文社カッパノベルス)★★★
1950〜60年代に活躍した作者が約20年ぶりに復活した、1983年の長編。「フラッシュ・バック」では題名のみ
紹介されていますね。
神戸の高層ビルで起きた社長射殺事件。銃声の直後に警備員が現場に駆け付けるが、部屋には誰もおらず、
また途中で誰にも会わなかった、と証言、不可解な密室殺人事件となる。兵庫県警の各務警部は、社長の
碇山が戦争中、南方トラック諸島で起きた残虐な部下殺しの犯罪に絡んでいたことを突き止め、その恨み
による元部下らの犯行ではないかと追及するが、その容疑者たちはいずれも、社長射殺前に既に毒殺され
ていたことが判明、事件は暗礁に乗り上げるに見えたが・・・。
・・・密室殺人やら手の込んだ毒殺トリックなどトリッキーな謎解きに拘った点や、登場人物のキャラなどを
手堅くまとめた手腕は評価したいのですが、例えば、密室トリックそのものは、なかなか考えられた手口
で、ちょっとJ・D・カーの中期の良作を連想させる秀逸なネタとはいえ、そのトリックを成立させる点
で幾つか手抜かりがあり、特に「そのトリックの一部始終を知っている第三者がいた」というのは致命的
です。早めにソイツを尋問していればそこで終了、じゃないかよ。毒殺トリックも直ぐに解けてしまうし、
真犯人の隠し方も、現代の読者には直ぐに見当がついてしまうレベル。
別の事件のアレを使って、・・・・した、高層ビルならではの密室トリック、という点は評価したいのですが・・・。 松本清張「紅刷り江戸噂」(講談社大衆文学館)★★★
1967年の時代物連作集。
「七種粥」は正月行事の七種粥にちなんだ毒殺物。江戸時代ならではの七種粥の風習の描写が興味深いが、
トリッキーな趣向も凝らしており、特に第二の殺人における偽装工作などは非常に独創的。でも謎解きの
展開に重点を置いていないのが惜しい。
「術」は、白昼堂々首を切る辻斬りが横行する話。謎めいた浪人が事件を解決するのだが、「被害者は何故、
いずれも抵抗なく縛られて、喜んで首を差し出したのか?」の真相が意表を突いており、これもトリッキー
な一編。「役者絵」も、真犯人に自白させる手段に、或る古典的なトリックを用いているのが面白い。
その他「虎」は渡り職人が自滅する話だが、ただの因縁話、「突風」、「見世物師」も同様で高い評価はできない
です。 山崎洋子「吸血鬼たちの聖夜」(文春文庫)★★☆
1987〜1992年に発表された作品を収めた短編集。
表題作がベスト。何者かに殺された女性の幽霊。テレビドラマを巡る芸能界の醜い足の引っ張り合いの中で、
彼女を殺したのは、果たしてプロデューサーか、シナリオライターか、スポンサー会社の部長か・・・。ラスト
で、或るトリックが出てきて全てを引っくり返す手際が見事。やや伏線不足とも思いましたが、先ず先ずの
良作です。
他には「メランコリーは危険」、事故で記憶を失った女性。夫や娘、妹の話から、自分はかつて、家族を顧み
ずに外国で好き放題の暮らしをしていたことを知り、自殺しようとするが実は・・・。これまた意表を突いた
真相を用意していますが、やはり伏線不足は否めない。
残りの「妖女狂演」、「愛する人に、きらめく死を」、「やさしいだけでは生きられない」は謎解き風味が薄れた
作品で凡作。 日下圭介「負のアリバイ」(徳間文庫)★★
1980〜1991年までの作品を集めた短編集。
表題作は、倒叙形式で、二重のアリバイ工作を企むも、殺そうとした人物ではなく、別の人間を殺して
しまった主人公。だが何者かの動きでアリバイが成立してしまい・・・。偶然頼りでダメだな。
「その時、電話が・・・」は佳作。深夜の電話直後に殺された女性。その女性と話していた連中にはアリバイ
が成立し、被害者の弟が誤認逮捕、のちに釈放された弟は事件の真相を追うが・・・。これは犯人の意外
性と結末の付け方が上手い。
「ゼロの男」も、叙述上の綱渡り的なテクニックで真犯人の意外性を際立たせた佳作。
でもそれ以外には、「十五年目の客たち」が先ず先ずの出来の他は、「窓際のヒマワリ」、「隣室の事件」、「消え
た事情」など、いずれも取るに足りない出来で残念。 昔の週刊文春ベストミステリーを見ていたら、
斉藤栄の方丈記殺人事件に高評価を与えたり、
思ったよりもいい仕事していたんだね。 石沢英太郎「謀鬼」(講談社文庫)★★☆
1969年発表の表題作から、1975年までの中編、全3作を収めた作品集。
先ずは表題作。江戸時代初期に起きた福岡・黒田藩のお家騒動。家老・栗山大膳の遠い子孫に
あたる主人公が子文書に興味を持って調べるうち、栗山大膳が流された岩手県に住む子孫と知
り合う。だが彼は福岡に転勤するとともに会社の合併騒ぎに巻き込まれる。二人が掴んだ黒田
騒動の真相は、そして栗山大膳が起こした謀反の真の動機とは・・・。
歴史ミステリに、主人公が巻き込まれた会社の派閥争いを重ねわせた力作なのですが、中編で
まとめるには枚数不足が露わ。結末の付け方も含め、やや竜頭蛇尾に終わった惜しい作品。
むしろ、長崎・平戸の旅館で見つかった謎の浮世絵を巡る「秘画」の方が、謎解き趣向では優れ
ています。「写楽の正体」という、未だにミステリの題材となっているテーマですが、そこに連続
殺人を絡め、真犯人の意外性とアリバイ工作まで盛り込んだ作品。でも中編ゆえに、アリバイ
崩しや真犯人特定に至る謎解きの部分がアッサリしてしまった嫌いはあります。まあ水準作で
しょうか。
「沖田総司を研究する女」は凡作。新撰組に、過激派の内ゲバを絡める、というのはユニークだ
けど、全くまとまりに欠けた作品。 笹沢佐保のどんでん返し双葉にて新装発売。このスレ向けっぽいから貼っとく。
ttp://www.amazon.co.jp/dp/4575516511/ 赤川次郎「忙しい花嫁」(角川文庫)★★★☆
1982年の「花嫁」シリーズ第1作の長編。
女子大生の亜由美は、卒業した先輩・田村の結婚式に招かれるが、式全体の雰囲気がどことなくオカ
しいことに気づく。田村の結婚相手・淑子は、ホテルのオーナー一族の令嬢だったが、田村は亜由美
に、「彼女は良く似ているが別人だ」と打ち明けたまま、新婚旅行先のドイツで行方不明に。一方、日本
でも、田村の同僚がトラックにハネられて殺されかけ、遂には、亜由美と一緒に結婚式に参列した先
輩が、衆人環視下の密室状況にあった大学の部室で刺殺される事件も勃発する。田村の新妻の淑子は
新婚旅行から一人で戻ってきたが、やはり別人がなりすましているのか?だとしたら本物の淑子はど
うなったのか?亜由美は友人の有賀とともに事件を追及するのだが・・・。
・・・真犯人の意外性と密室トリックの謎解きに拘った、なかなかの良作です。特に、ちょっとした
言葉の錯誤による伏線と、密室トリックに関する伏線のさり気ない描写が秀逸。レッドヘリングも絶
妙に効いています。
二か所ほど偶然に頼った部分があり、それが結構重要な場面なので、その点で評価が落ちてしまうし、
回収し忘れた伏線らしきものが放置されているようでもあり、残念ながら「傑作」とは言い難いので
すが、一読の価値がある作品です。 和久峻三「蝮のようなレディ」(徳間文庫)★☆
1987年のノンシリーズ長編。
京都の産婦人科の病院長・本郷は病院敷地内に専用の写真室を増設して、道楽のヌード写真に精を出す
毎日だったが、密室状態の撮影室で殺害される。さらに後妻の愛人が、バカ息子の家庭教師が住み込ん
でいる部屋で発見され、その現場もまた密室状態だったことから、同じ部屋で熟睡していた家庭教師の
女子大生・篠原は逮捕されてしまう。だが後妻もまた密室の自室で殺されてしまう。釈放された篠原は、
自分に罪をなすり付けた真犯人を追及するのだが・・・。
三つの連続殺人が全て密室、ということで読んでみたのですが、やはり好い加減な駄作でした。三つと
も同じトリックというのは仕方ないにしても、オリジナリティはゼロだし、トリックの伏線もあるけど、
その伏線が描写された途端に全てがバレバレ、真犯人の意外性はあるけど、動機や人間関係に後出しが
多すぎて、高い評価はできないです。おまけに本筋に無関係なエロ描写、警察の捜査も好い加減にも程
がある・・・。
ホント、山村美紗と和久峻三のおかげで、京都府警の評判はガタ落ちだよw 由良三郎「13は殺人の番号」(双葉文庫)★★
1987年の長編。
坂巻医院の看護婦・湯田中淳子は、或る時、院長夫婦が舅の前院長を人知れず毒殺しようとしている
話を立ち聞きしてしまう。絶対にバレない毒薬をいつ入手するのかと不安に思っているうちに、肝心
の院長がウィルス性の病気で急死してしまう。死の直前、淳子は院長が「ミミー」と言い残し、また
「13」と書き残したことに気付く。実は病気ではなく、入手した謎の毒薬により、何かの手違いか、
或いは仲間割れで、妻が夫の院長を毒殺したのではないか、或いは後釜を狙う若手医師の仕業か。
淳子はダイイングメッセージの真相と真犯人、そして謎の毒薬の正体を追及するのだが・・・。
ダイイイングメッセージは、読み進めるうちに誰でも気付くネタですが、シェークスピアの有名な
或るネタが出てくるのが一寸ユニークでしょうか。フーダニット物としても、真犯人の意外性は工
夫しているけど、トリッキーなヒネりが足りなく、中途半端なまま終わってしまったのが残念。 手に入らない名作スレによると
草野唯雄が亡くなってたそうなので、3氏に追悼特集を期待 清水一行「銀行員」(青樹社文庫)★★☆
1971〜79年までの作品を収めた短編集。
巻頭の表題作、銀行の支店窓口から、あれよあれよという間に、他人の金を奪って去っていった男。
警備員が後をつけると、何とその男は近所の銀行の銀行員だった・・・。ミステリ味は薄いですが、現代
の池井戸潤の作風を先取りしたような「銀行員残酷物語」といったところ。もう40年以上も前に書か
れた作品ですが、銀行って全然変わってないんだなあ・・・。
「狂気の鎖」、「行方不明になった息子は、最後に会った友人に殺されたのだ」と信じ込み、イヤガラセ
を続ける老母。身に覚えのない友人は、実は溺愛の余り、その老母自身が息子を殺したのではないか
と疑うが・・・。これはヒネりの効いた良作のミステリ短編。真犯人の意外性も十分。しかし惜しい
ことに伏線が足りない。ただ、40年以上も前に正面からストーカーの問題を詳細に扱った先駆性は評
価すべきでしょう。
「走る男」は、健康のため、毎朝出勤前にジョギングを始めた男の話。或る男と知り合いになるが、妻が
男の開いている彫金教室に通うようになり・・・。うーん、意外性はあるけど、ちょっと「本格」とは違う
んだよなあ・・・。
冴えない三流会社員が、間違い電話で先方の犯罪計画を知り、その上前をハネようと企むお話「謀殺計画」
も同様。
あと、「現場消失」は、死体を発見したパトロール中の警察官が、所轄署が別の事件を抱えていて大忙しな
ため、その死体を川に流し、隣の所轄署に後始末をなすりつけたため、犯人にアリバイが成立してしま
うという話。或る古典名作短編と同趣向ですが、死体を流した警察官の行動を、伏線を匂わせるだけで
隠しておき、ラストで真相を明らかにすれば、ちゃんと謎解き物になるのに、最初からモロに全て描写
して、ただの「皮肉の効いたお話」にしてしまうのは勿体ないなあ・・・。
その他「陽気な未亡人」「逃げ水」などは特に論評すべき出来ではない。
・・・全体的に、思いもよらぬ人間関係、裏の共犯関係が浮かんでくるなどして、二転三転した末にドンデン
返しを迎える、というパターンが多く、その意味では真相の意外性に満ちてはいるのですが、一部の
作品を除いて、本格ミステリのテイストは感じられないなあ、というのが正直な感想。 山村正夫「死人島の呪い雛」(角川文庫)★★☆
1985年の、滝連太郎シリーズ第3弾の長編。
三重県・志摩に浮かぶ舟人島こと‘死人島’。古代中国の伝説「徐福伝説」を狂信的に研究していた島の
神主が謎の死を遂げてから数ヶ月後、その神主の遺志を継いで著書を完成させた女医らが主催する出版記
念パーティに招待された滝連太郎。だがパーティ会場のホテルで、密室殺人が勃発。被害者は、死人島の
村長の愛人だった。そして現場付近では死んだはずの神主の姿が目撃される。村長と対立していた今は亡
き神主が実は死んでおらず、復讐を開始したのか?滝は死人島へ向かうが、そこでも不可解な連続殺人が
発生する・・・。
・・・横溝の衣鉢を継ぐ、伝奇的・土俗的な本格ミステリを狙った意図は理解できます。しかし・・・、トリック、
プロットその他、一体どこにオリジナリティを求めれば良いのだろうか?色々と伏線やトリックも配し、
謎解き面の構成も配慮されてはいますが、余りにも分かりやす過ぎて、終盤に入る前に、真犯人もその
動機も感づかれてしまっており、飽くまで、映画・テレビ向け、初級者向け本格ミステリになってしまっ
たのが残念です。 田中文雄「猫窓」(集英社文庫)★★★
1988年のホラー物の長編。
東京・成城の亡父の実家に引っ越してきた若者夫婦。そこで一匹のネコに出会ったことから、身辺に
不審時が相次ぐ。夫に可愛がられるネコは妻に嫉妬しているのか?やがて夫は謎の病気に罹るが、その
時、妻は妊娠していた・・・。
・・・むろん、どうこじつけても本格ミステリとは言い難い作品ですが、ラストで提示される反転のネタ
が、結構、本格ミステリの影響を受けているようにも思えました。そこは「幻影城」出身作家、という
ことかw
ラストには少々驚いたけど、そこに至るまでが、読みやすいけど、ホラーとしても、或る「謎」の一発
ネタとしても、どこかパンチが足りないんだよなあ・・・。
生田直親「K峰(カラコルム)殺人事件」(光文社カッパノベルス)★
1985年の山岳ミステリ長編。
ヒマラヤの未踏峰・Kx峰に挑んだ東方大学山岳部パーティ。だが山頂にアタックした二人のメンバー
は登頂成功の帰りに悪天候の中で遭難、行方不明に。行方不明となった医学生・岩城の父親は、事故の
真相を求めるうちに、意外な事実を知ることに・・・。
・・・うーん、謎解きのミステリとしては余りにも杜撰。遭難事故の意外な真相も、さんざん引っ張りまわ
した挙句、脱力・・・。また、中盤以降で起きる或る人物の不審死と、容疑者のアリバイ工作の謎解きも、
全体の構成の中で浮きまくっている。駄作。 wikiに数行でまとめられてるが本当にドロドロだなw
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%83%80%E3%83%A0%E8%B7%AF%E5%AD%90 谷甲州「36,000キロの墜死」(講談社)★★★☆
1988年のSFで本格ミステリに挑んだ長編作品。
22世紀の未来、地球周回軌道に浮かぶサイナス市は巨大メーカー・サイナス社が牛耳る工場都市だったが、
サテライトのラボで奇妙な不審死が発生。無重力状態のラボ内で、高所から墜落死したとしか思えない
死体が発見され、しかも事件を通報してきたのは、既に死んでいた被害者自身だった。この謎に立ち向
かうのは、市の保安部に所属するヒロサワ部長、ダグ刑事、新米のエレナ刑事たち。サイナス社と会社の
警備部が権力を振りかざして捜査を妨害する中、やがて容疑者と思しき男が、別の宇宙船で黒焦げの死体
となっていたのが発見される・・・。
・・・「あとがき」によると、作者は本気で「本格ミステリとSFの融合」を目指していたようで、「無重力
状態の墜落死」や「死後の被害者がかけてきた通信」、「軌道計算から証明されるアリバイ」などなど、それ
なりに面白そうなSFならではのトリッキーな仕掛けがあり、その伏線にも工夫の跡が見られます。が、
残念なことに中盤までにほぼ解決してしまい、終盤の展開がやや失速ぎみで、しかも謎解き興味から離
れてしまったのが惜しいところ。
とはいえ、SFで本格ミステリを描こうとした作者の努力は評価したく、その意味で一読の価値はある
かと思います。 小林信彦「サモアン・サマーの悪夢」(新潮文庫)★★☆
1981年の長編。
元恋人の伶子がハワイで自殺。テレビ・プロデューサーの柳井は現地を訪ね、彼と別れて別の男と
結婚するも、離婚してハワイでブティックを経営していたという彼女の死の真相を探るうちに、不
審な出来事に巻き込まれてゆく。ハワイで財を成した素性不明の老人・志水に食事に呼ばれたり、
その顧問弁護士や彼らを追う女性ルポライターに出会ったり・・・。伶子は果たして自殺したのか、
それとも・・・。
・・・「フラッシュ・バック」では、題名のみ紹介されていた作品ですが、なるほど、「本格ミステリ」
の構成に沿ってストーリーは展開し、真犯人の意外性も考慮されており、謎解きに必要な伏線も
無い訳ではないのですが、でも何かが足りない・・・。その「何か」を上手く説明できず申し訳ない
ですが・・・。何だろうな、このスッキリしない気分は・・・。 西村京太郎「ある朝 海に」(光文社文庫)★★★☆
1971年、ごく初期の長編で唯一(多分)、未読だった作品。
フリーのカメラマン田沢は、アパルトヘイトの南アで黒人少年を助けたことから、警察にマークされる羽目に。
そのピンチを救った現地の白人弁護士に誘われ、米国の豪華客船をシージャックするグループの仲間入りする
ことに。グループは乗っ取りに成功、南アのアパルトヘイト政策を批判し、国連に黒人運動家の証人を呼ぶよ
う全世界にアピールする。国連やアメリカ始め各国の思惑が錯綜する中、彼らの要求は通るかに見えたのだが、
船内で殺人事件が勃発する。凶器となった銃を持つ者は乗っ取り犯グループ以外にはいないことから、自分た
ちの身内に殺人犯がいることになるのだが・・・。
非常に読みやすいお話で、まあ国際的なダイナミックな動きの描き方など、現代の国際謀略物に比べると、やや
幼稚な感じがしないでもないですが、もう40年以上も前に描かれた作品なので、その点はご容赦をw
ただ、殺人犯を特定する推理が、伏線が無い訳ではないものの、やや取ってつけたような感じで、全体の流れ
から浮いてしまっているような・・・。
本作は、飽くまでシージャックをテーマにしたサスペンス物として秀逸な出来栄えであり、殺人事件の謎解き
は飽くまで付け足し、と評価した方が良さそうですね。 「別冊『宝石』−新鋭二十二人集」(昭和27年6月)
昭和20〜30年代に活躍した戦後派作家22名の22短編を収録。本スレの守備範囲以前の作品
ですが、内容紹介は珍しいと思うのでご容赦を。
著名な作家では、日影丈吉「天仙宮の審判日」、土屋隆夫「青い帽子の物語」がありますが、残念ながら
出来が良いとは思えません。当時の人気投票は、確か、朝山蜻一「巫女」、狩久「すとりっぷと・まい・
しん」、そして土屋隆夫の順だったと思いますが、これも納得できず、他のマイナーな作品の方に
興味深いものがあると思いました。
まず、埴輪史郎「ヒマラヤの鬼神」は、太平洋戦争中、東京・ベルリン単独飛行中に消息を絶ち、ヒマ
ラヤ山中に遭難した男と地元の娘の出会いを描き、角田實(後の左右田謙)「嫉妬」は、ゴムのチュ
ーブを使った奇矯な絞殺トリックが面白く、島久平「犯罪の握手」は長編「硝子の家」にも登場する
伝法探偵が連続殺人の密室トリックに挑みます。トリックは馬鹿馬鹿しいですが、犯人の意外性がまず
まず。
そして山沢晴雄の「厄日」。この人の作品、僕には非常に難解で、短編「電話」はともかく、「離れた
家」は未だに理解できません。この「厄日」は、推理作家が出会った事件を、彼の作品から心理的に
分析するもので、少々腰砕けですが、それなりに読ませます。 (承前)
川島郁夫(藤村正太)「法律」は、玉川上水での溺死事件を扱い、アリバイ工作は大したことはないです
が、法律の規定を逆手にとった犯人の動機に意外性があります。夢座海二「死の時」は、ラジオの時報を
使ったアリバイ工作と凶器消失による密室構成に工夫を凝らし、坪田宏「俺は生きている」も、外地から
の引揚げに絡む脅迫事件での風変わりなアリバイ工作がユニーク。
一番優れていると思ったのは、宮原龍雄「灰色の犬」と黒津富二「亜流『探偵小説』」の2本。
「灰色の犬」は、場末の工場で起こった人間消失トリックを扱い、埋立地をうろつく野良犬に萩原朔太郎
「月に吠える」の詩が被さる冒頭が上手く、さり気ない伏線も良く、トリックも従来の蒸し返しに近いで
すが無理がなく、傑作です。
「亜流『探偵小説』」は、作家が或る事件をモデルにした探偵小説の構想を友人に打ち明けて、ディス
カッションを進めながら、トリックを組み立ててゆく話。コーヒーの毒殺トリックや、インディアン・
ポーカー風の遊びによって色盲を見破る点など、緻密なロジックの積み重ねが光ります。最後に、作家が
見聞した事件の真相が作家の構想通りだった、というオチがつきますが、タイトルといい内容といい、
横溝正史の傑作短編「探偵小説」に挑戦したものと思われます。この黒津富二ってヒト、どういう来歴の
人なんだろうか・・・? 影山荘一ってなんで斎藤栄の本の解説ばかり書いてるんですか それはもう公然の卑弥津ということでいいんでしょうか わざわざ変名つかって解説書いてるのってどういうこと?
だれも解説を書いてくれる人がいないから自分で書いてるということなのかな。 長尾誠夫「秀吉 秘峰の陰謀」(祥伝社ノンポシェット)★★★★
1988年の歴史ミステリ。
戦国時代、台頭する羽柴秀吉と敵対するも、秀吉勢の前田・上杉に挟まれて苦慮する越中の佐々成政は
起死回生の策に出る。絶対に踏破不可能と言われてきた、真冬の立山・北アルプスを越えて、信濃から
三河に入り、秀吉と休戦していた反秀吉派の筆頭・徳川家康に再決起を促そうという奇策だった。佐々
は、主だった家臣や地元猟師らのほか、かつて謎の敵に襲われていたところを助けてあげた修験者の若
者・武虎をメンバーに加えて出発する。しかし立山の極寒地獄と猛吹雪の中、一人、また一人と脱落し
てゆく・・・。そこに敵方の放った刺客も襲い掛かってくる。果たして佐々成政は無事、立山を越える
ことが出来るのか・・・。
・・・傑作、お勧めです。
佐々成政の立山越えという史実を踏まえつつ、ラストの一発ネタともいえる大ドンデン返しに成功した
作品。そのドンデン返しは、或る人物にまつわる「説」に基づくもので、この頃には結構新鮮だったかも。
正しくは、本作とほぼ同時期に出た或る時代小説作家の有名作により、人口に膾炙したようですが、本
作の作者は「自分の方が先」と「あとがき」で主張しています。
・・・まあどっちが先であれ、本作の「意外な真犯人」には結構驚いた。残念ながら、中盤の無用な描写の
ヒントで、「もしかして・・・」と感づきつつもあったが(俺が戦国史に詳しくないせいかな?この時代に
興味のある人には、この時点で、或いはそれ以前から全てバレバレかも知れませんが)。いずれにせよ、
あの無用な描写さえ無ければ、ミスディレクションは大成功だったはず。
更に、新田次郎の遭難物の登山小説にも匹敵する、荒れ狂う冬山の描写も迫力十分で、冒険小説として
もなかなかの出来栄え。あと、題名もね・・・、或る理由から秀逸ですw 「別冊宝石33号−新人二十五人集」(1953年12月)
本スレの対象からは外れますがご容赦を。
この別冊で一番有名な作品は、白家太郎「みかん山」◎。むろん多岐川恭のデビュー作。旧制高校を
舞台にした密室状況の事件。バカトリックっぽいですが、犯人の動機も含め、全体に漂う感傷的で
ロマンティックな雰囲気が抜群の佳作です。
その他の佳作は以下のとおり。
山沢晴雄「死の黙劇」◎、砧探偵の名刺を受取った男が、その数分後、遠く離れた場所で自動車事故死。
絶対に不可能なのだが・・・。これは面白かった。事故で頓挫した裏のアリバイ工作が秀逸で伏線も先ず
先ず。鮎川哲也の名作「五つの時計」(1957年)に先駆けて、似た趣向のアリバイ工作に挑戦した佳作
です。
吉田千秋「書くに適さぬ犯罪」◎、知られざる佳作です。警察官の兄を持つ妹が勤務先の役所で公金を
紛失。施錠した机の抽斗から金が消えたのは何故・・・。ほんの一寸したトリックですが、小道具の使い
方やその伏線、犯人の動機まで無理なく収まっており、犯人がバレバレなのが難ですが、コンパクトに
仕上がった逸品。 (承前)
次いで良作レベルを。
水原章「日の果て」○、画家の不倫相手の夫の死。被害者は雪に覆われた完全密室状態の自宅の
離れで殺されていた・・・。これはアレしかない真相で、それによって犯人もバレバレですが、雪の
密室トリックに挑んだ意欲は買いたいです。
白井龍三「千秋楽」○、女優が元恋人を客席に見かけるが、その男は直後に殺されてしまう。彼女
が目撃した時間から、容疑者にはアリバイがあるが・・・。ミエミエのトリックですが、法医学者の
探偵役なども配して、この本の中では「本格」味は強い方で満足。
井上銕(てつ)「何故に穴は掘られるか」○、警察署や個人宅に「死体(或いは財宝)を隠している
ので掘り起こしてほしい」という手紙が、あちこちに届く。名探偵・関口十三郎の推理や如何に。
・・・このトリックは見抜けましたが、シンプルながらも面白かった。
渡辺一郎「天意」○、三角関係に悩む女性の養父が密室状態の自室で刺殺される。やがて養女も謎
の死を遂げる・・・。短い枚数でバレバレではあるが、密室トリックとアリバイ工作を盛り込んだ意
欲は買います。 (承前)
大島薫「かげぼうし」○、アメリカ帰りの新進女流作家の服毒死。養女とその婚約者が疑われるが、
現場が密室で、遺書もあるため自殺と判断されるが・・・。遺書の真相や密室トリックも面白く、構成
も上手いが、短編のためご都合主義を平気で取り入れて解決したのが残念。
木島王四郎「ある青春」○、戦争直前、婚約者のいる女性を好きなった男が衆人環視の中、ビルか
ら転落死、自殺として処理される。三人の共通の友人であった素人探偵の木島王四郎は、終戦直後、
その女性と意外な形で再会し、事件の真相を知るのだが・・・。作者と探偵の名が同じで、文中でも
エラリー・クイーンが引用されていますが、事件の真相はバカバカしい機械トリックで萎えます。
でも結構面白かった。
深尾登美子「居眠り天使」○、札幌で暮らす孤児の姉弟。姉がハンドバッグごと給料と指輪を引った
くられる。同じアパートに住む素人探偵・猿山女史に相談、事件現場に行ってみると、住人が謎の
死を遂げていた・・・。トリックは単純で謎解きの過程も素人丸出しですが、猿山女史のキャラがユニー
クだし、いかにも昭和20年代の女性作家の作品らしくて楽しい。 (承前)
次は凡作。
鳥井及策「晴れて今宵は」△、神戸のチンピラ健太。仲間を殺したと訴えるも、アリバイがあると警察に
相手にされず釈放。真相は・・・。車六先生なる名探偵も登場しますが、説明不足の凡作。
隠伸太郎「悲しき自由」△、これも神戸が舞台。港湾労働者の事故死の意外な真相を扱っており、独特の
雰囲気は良いが謎解きとしてはお粗末な出来。
木下義夫「砒素」△、密室状況での砒素中毒死。どうやって服毒させたか?がポイントですが、こんな
知識を持つ読者は稀でしょう。知らんがな。
明内桂子(四季桂子)「伝貧馬」△、病気で殺処分される競争馬が男を蹴り殺した事件にダイヤモンド紛
失事件が絡んできて・・・。うーん、ホームズ物のアレの焼き直しで凡作。
豊田寿秋「月蝕」△、新任の婦人警官がプレーボーイの巡査に誘惑されるが実は・・・。遺書のトリックが
ミエミエでダメ、ピカレスクな結末は良かった。この作者の「草原の果て」は「密室探求・第1集」にも
採られた密室トリックの名作だったけど・・・。 「草原の果て」なつかしいですね
「密室探求・第1集」の中でも印象に残ったほうだ あーやのツイートじゃちらっとしか触れられてないし分かり難いような・・・
>>365
ttp://togetter.com/li/759769 陳舜臣 老衰で死去 享年90歳
ご冥福をお祈りします。
「方壷園」読まなきゃなあ…… 中公で中国歴史短編全集みたいなの出してるんだな。今後文庫で何か発売されるかも… 谷恒生「錆びた波止場」(講談社)
本格の知られざる佳作長編「横浜港殺人事件」(★★★★、前スレ参照)と同じく、横浜近辺の寂れた
港町の船舶鑑定人・日高凶平を主人公にしたシリーズ第一作目の連作集。1979〜1980年の作品を収録。
巻頭の「オピュームナンバー4」(★★★)、フィリピン人船員が謎の溺死。背後に麻薬密輸が絡んでい
ることを知った日高は、所轄署の悪徳刑事・犬飼の捜査に協力するが・・・。これは堂々たる「本格」短編。
港の特徴を生かしたアリバイ工作に、一人二役まで導入。ちょっと伏線が弱いのが難ですが、先ず先ず
の滑り出しで期待大。
しかし、続く「花の殺意」で残念なことに「本格」志向から離れてしまう。馴染の娼婦と船員の間に起き
た傷害沙汰。二人の間に何があったのか・・・。シケた港町のうらぶれた風情や、そこに生きる娼婦たちの
心情など、ハードボイルドとしては一級の出来栄えなのですが、事件の真相に謎解き趣向が少なすぎて・・・。
「雨の追憶」も、謎解きミステリというよりも、海洋物のホラーといった方が良い話。ラストの伏線の
さり気なさは良かったですが。
「彼岸花狩り」は娼婦の集団失踪の真相。さり気ない伏線は良かったけど、謎解きの展開が安直すぎる。
「狂い花」もヤク絡みの話で、真相は大したものではない。
「積荷目録」は、荷役事故で用途不明の鉄球が転がり出てきた、それを見た防衛大中退のインテリのポン
引きが謎めいた死を遂げる話。これも、謎解きというには物足りない。
以上6編。日高凶平と犬飼刑事のコンビ、脇を固めるキャラ、何よりも海運不況に喘ぐ廃れた港町の描写
が、船員上がりの作者ならではの、誰にも真似できないほど素晴らしい出来栄えで、非常に面白いシリー
ズなのですが、巻頭作以外に、本格ミステリが無かったのは残念でした。 長井彬「ゴッホ殺人事件」(実業之日本社)★★☆
1993年、作者の最後の長編作品。
ゴッホの幻の名画が発見されるが、所有者の英国貴族と買い手の日本の画商が、取引先のウェールズの
古城で謎の墜死を遂げ、絵画と取引額120億円の小切手が犯人に奪われてしまう。現地で画商の妻を案内
していて事件に巻き込まれたツアーガイドの千鶴子と、画商の妻の元恋人であるルポライターの神野は、
国際問題に発展することを恐れて事故として処理しようとする地元警察に代わり、事件の真相を追及する。
画商の妻も謎の水死を遂げる中、日本に帰国した二人は関係者を訪ね歩き、或る不審人物に行き当たるの
だが・・・。
・・・一時のトラミスに比べると、原点に戻ったような手堅いストーリーは良かったのですが、謎解きの構成
としてはいささかお粗末。真犯人の設定は先ず先ずながらも、伏線が弱いし、その真犯人の鉄壁のアリバイ
が最後に立ちふさがるのですが、その真相も、特に秀逸というレベルでもなく、現代では不可能なネタなの
も惜しい。初期の山岳ミステリの傑作群に比べると、残念な出来栄え、というしか無いでしょう。 笹沢左保「闇狩り人犯科帳」(祥伝社文庫)★★☆
愚鈍で無精髭の冴えない容貌のダメ男。だが実は岡っ引きの秘密の手下という裏の顔を持ち、更には、
その親分も知らない、凄腕の闇の世界の処刑人だという源次こと音なし源のシリーズ第一作。1979年
頃に発表された作品集の再編集版。
序盤の作品に、ほとんど謎解きが無かったので危惧したのですが、途中から、それなりのミステリに
なってきたので一安心。「霜柱は笑う」は、右腕に情夫の名の刺青を持つ女が腕を切られて殺された
事件で、或る伏線から、かなり意外な真相に行き当たる展開が、まあ無理なく進められています。
「木枯しの辻」は、木枯しの吹く日にだけ現れる辻斬りの正体。「木枯し」というヒントが、これまた
意外な真犯人に結びつく良作。
あと「凍った三日月」は、不倶戴天の敵同士である看板娘の争い。笹沢作品では前例のある一発ネタの
アリバイ物ですが、なかなかスッキリした出来栄え。
「赤い初雪」は、両国・回向院の、周囲を初雪で覆われた土俵で発見された死体。足跡トリックの基本
ですが、もう一つ、喋れない寝たきり老人の作った「俳句」による暗号も添えており、暗号としては簡単
すぎるものの、更にもう一つ、真相にヒネりを入れており、動機についても、短い枚数の中でちゃんと
伏線を張っているのは見事。
その他には、全く「本格」味の無い話もあり、トリックを施している作品でも、謎解きの過程がかなり唐
突な場合が多く、やはり高い評価はできませんが、まあこんなものでしょうか。 佐野洋「崩れる」(講談社文庫)★★☆
1960〜66年の作品を収めた短編集。
「ある自殺」や表題作などは、意外性はあるし、構成にもソツがなく、キッチリとまとまっているのに、
全く面白くない、というのはどういうことだw
ベストは、選挙違反に絡んだ話で、或る人物のミスディレクションが効いている「透明な暗殺」だが、文
中で、「役不足」の使い方を間違えているというオソマツ。偉そうなこと言う前に、中学校あたりから
国語の基礎をやり直せよ、と言いたい。
全体に、やはり1960年代発表ということで、どれもこれも古臭くなってしまっているのが残念。 笹沢左保「闇狩り人犯科帳−盗まれた片腕編」(祥伝社文庫)★★
音なし源シリーズ第2弾。
「罪なお年玉」は、弓矢で射殺された事件。現場の足跡からの推理が一寸面白いけど、それだけ。
「藪入りの留守」は、江戸の町の常識の裏をかいたアリバイ工作が出てきて印象的。
「消えた花嫁」は、新婚初夜に行方不明になった花嫁の謎。・・・江戸時代ならではのおバカなトリックに苦笑。
でも斎藤栄「新婚恐怖殺人旅行」のアレに比べれば説得力があるかもw
その他の作品にも、幾つかトリックを仕掛けているものもありますが、謎解きが唐突だったり伏線不足
だったりと全体に難あり、残念でした。
笹沢左保「闇狩り人犯科帳−嘲笑う墓編」(祥伝社文庫)★★
“音なし源”シリーズ第3集。
巻頭の「長屋の賭」が、殆ど謎解き趣向が無くてガッカリ、続く「飛ぶ稲妻」も一寸したトリックが出てくるけど、
やはり謎解きには程遠い。その後も謎解き興味の薄い話が続いてガッカリ。
「江戸を去る朝」は、母娘による仇討ちと思われた事件を、源太が現場の状況を聞いただけで引っ繰り返す安楽
椅子探偵ぶりが見られるけど、これもトリッキーな趣向に乏しい。
その後の作品群も、謎解き興味には程遠く、ガッカリの一冊でした。 「古都殺人まんだら」ジェフ・バーグラント
ブコフで見かけた気になる一冊
お世話になります。
私、責任者の加茂と申します。以後、宜しくお願い致します。
http://www.apamanshop.com/membersite/27009206/images/kamo.jpg
浪速建設様の見解と致しましては、メールによる対応に関しましては
受付しないということで、当初より返信を行っていないようで、今後につい
てもメールや書面での対応は致しかねるというお答えでした。
http://www.o-naniwa.com/index.html 事務員 東条 南野
http://www.o-naniwa.com/company/ 岡田常路
このように現在まで6通のメールを送られたとのことですが、結果一度も
返信がないとう状況になっています。
http://www.apamanshop-hd.co.jp/ 加茂正樹 舟橋大介
http://s-at-e.net/scurl/nibn-apaman.html 大村浩次
私どものほうでも現在までのメール履歴は随時削除を致しております
ので実際に11通のメールを頂戴しているか不明なところであります。
・friends もののけ島のナキ http://s-at-e.net/scurl/NakionMonsterIsland.html
・妖怪ウォッチ http://s-at-e.net/scurl/Youkai-Watch.html
・崖の上のポニョ http://s-at-e.net/scurl/Ponyo.html
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■http://s-at-e.net/scurl/ia-Pos.html
大阪府八尾市上之島町南 4-11 クリスタル通り2番館203
に入居の引きこもりニートから長期にわたる執拗な嫌がらせを受けています。
この入居者かその家族、親類などについてご存知の方はお知らせ下さい。
hnps203@gmail.com 昔読んだ笹沢佐保の作品、題名は忘れたが多分有名なやつ
男が服毒自殺?だったか、探偵は恋仲であった女の殺人と推理
だが女には鉄壁のアリバイ
真相は女が男に同日同時刻に死のうと提案、そして男は死に
女は残った、そんな純な男がいるのかって問題より、これを
トリックとは呼べんだろうって事
招かれざる客や霧に溶けるなどの、本格推理物書いた人の
作品とはとても思えんかった。 笹沢左保は作品数が多いから、アタリハズレの差が大きいね。
笹沢左保はきらいじゃないけど、「アリバイの唄」にはあきれた。 結城昌治の『ひげのある男たち』読んだ
ハードボイルドのイメージが強い人だったけど、ガッチガチのフーダニットでかつ傑作でビビった
ロジック好きは一読の価値ありありだと思う 大元帥閣下がトイレに行けないほど怖かったという永井豪の「吸血鬼狩り」やっと読んだけど、このオチでトイレに行けない??
確かに意外というか完全に想定外の結末だったけど、呆気にとられたというのが正直なところ
これを恐怖と捉えるのは……どうなんだろう 笹沢左保は依頼が多すぎたからしゃない
当時は今とは比べもんにならん雑誌出てたしな 笹沢は寝る時間もないくらいな売れっ子だったね。
寝ないよう立ったまま机高くして書いてたっていうし。 笹沢は腹這いで寝そべって原稿書くので有名なのだが・・・ 一番ヤバかったときは立ってたんだよ
結構有名なエピソードだと思うが ……早書きするために油性マジックで原稿を書いていた(チンタラ書いてると下のページにインクが写ってしまうから早く書かざるを得ない)某馬鹿詐欺エピソードを思い出してしまった 松本清張「絢爛たる流離」(文春文庫)★★★☆
1963年発表の連作集。確か「ミステリの祭典」で紹介されていて、面白そうだったので読んでみました。
昭和初期、炭鉱王の父親から娘に贈られた3カラットのダイヤモンド。持ち主を襲う運命とともに、転々
と所有者が変わってゆく。炭鉱王の娘から商社マンの妻の手に渡って日本統治時代の朝鮮に、更に流転
を重ねて終戦直後の闇市に、そして・・・。
・・・ダイヤの持ち主たちを襲う様々な事件から構成された連作集なのですが、これが、かなりトリッキー
なお話ぞろい。特に「小町鼓」の遠隔殺人(?)トリック、「百済の草」の軍隊の習慣を利用したトリック
などなど・・・。しかし一番スゴいのは、「雨の二階」のキテレツなアリバイ工作の真相。これは日本バカ
ミス史上に残る、一読忘れがたい爆笑トリックでした。
その他には、「灯」の、事件現場の照明が点いたままだった理由のトンデモぶり、「代筆」の謎の心臓マヒ
の真相、ラストのエピソード「消滅」における幕切れの切れ味など、なかなかのもの。
決して傑作、佳作とは言い難いのですが、これは面白かった。お勧めです。 井上ひさし「新釈遠野物語」(新潮文庫)★★★☆
昭和二十年代、大学を休学して母親の住む三陸地方・釜石に戻り、地元の療養所で働き始めた「ぼく」が、
洞穴に住む謎めいた老人と出会い、大正・昭和初期に老人が実見した怪談を聞かされる、という趣向の、
1976年の連作集。
題名どおり、柳田国男「遠野物語」を踏まえて、山男、狐憑き、マヨイガなどなどの怪異が語られ、
大変読みやすく、なかなかに怖い話ぞろいで楽しめました。中でも、巻頭の「鍋の中」の恐怖感の盛
り上げ方はスゴい。オチには笑いましたが。あと、「笛吹峠の話売り」も意表を突いたドンデン返し
と哀しい結末が見事に決まった佳作。
ラスト「狐穴」で、この連作全体にまたがる「オチ」があり、解説では、あの「十二人の手紙」も引用
して評価しているので期待したのですが・・・、それほどのことでも無かった。前例のあるオチです。
とはいえ、ホラーとしては勿論、ミステリとしても、まあまあ評価に値する良作です。但し一部の
趣向を除いて、「本格」とは言い難いかな・・・。