ちくま文庫の陳舜臣『方壺園』、出来れば「狂生員」、「厨房夢」、「回想死」、「七盤亭炎上」を収録して『方壺園・完全版』に
してほしかったです・・・。せめて「狂生員」だけでも・・・。

生島治郎「傷痕の街」(集英社文庫)★★★☆
1964年、作者のデビュー作。
横浜でシップ・チャンドラーの会社を経営する久須見。十年前のイザコザで片足を失っていたが、今またトラブルの渦中に。
会社の運転資金として冷酷な高利貸しから借りた700万円が、戦争中以来の無二の相棒であった部下の妻の誘拐事件で
強奪され、もう一人の盟友ともども殺されているのが発見される・・・。
ハードボイルドの名作の一つですが、実は意外なほど、本格ミステリの構成に拘った、フーダニットの作品。或る古典的な
トリックが2つほど出てきて、そのトリック自体の出来は悪く、ややバレバレではあるものの、細かい伏線なども張り巡らせて、
意外な真犯人の指摘で終了、と思いきや、更にドンデン返しが出てくる結末。大井廣介「紙上殺人現場」の評にあるとおり
の、本格テイストもある作品。結城昌治「暗い落日」の一年前に発表された、ハードボイルドにしてフーダニットの良作だと
思います。