彼にとって馴染みのBGMが流れると、路肩に車を止める。
いつもより音量が大きく感じられたからだが、全く聞こえなくなってしまっては差し支えがある。慎重にツマミを絞った。
囁くような音量が、彼にとって心地よいらしい。
演奏者は嘆くに違いないが、人は人とはよく言ったものだ。

ここ数日、彼の心を捉えて離さなかったのは、幼い娘のはしゃぐ姿だった。
後部座席には、ピンクのリボンに包まれた、小熊の人形が微笑んでいる。
配達を生業として久しいが、届け先が愛する娘となればやはり格別の思いだ。

短い出張が重なった事は不運に違いないが、電話越しに妻の愛情を確かめるには良い時間だと思うようになった。

仕事を終える頃にはすっかり夜が明けようとしていたが、ここからなら半時もかかるまい。
家族の寝顔を拝む分には、差し支えがない。