朝刊新連載小説「我らが少女A」が8月1日から始まる。東京郊外で起きた未解決事件をめぐり、町の風景と人びとの記憶が交錯する。高村作品ではおなじみの刑事、合田雄一郎が登場し、ファン待望のシリーズ新作となりそうだ。
十数年ぶりの新聞連載とあって、高村さんは苦しんでいた。「1回の文字数が原稿用紙2枚半に満たない。1、2回ごとに人物の視点を変えて書き、それを重ね合わせて最後に1枚の大きな絵が出来上がるように書いていきたい。
が、これが難しい。あと4、5行あればということばかりで絶えず不全感が残る」と、もらす。
20年前ならこんな試みはしなかったという。しかし、「小説とは話法で決まる。ストーリーやテーマはあとからついてくるもの。新聞小説のスタイルにこだわりたい」と自らの足かせとした。
さらにもうひとつ挑戦がある。池袋で起きた撲殺事件と、12年前の殺人事件の関係者「少女A」が思わぬ関連性を見せる。「孫ほど年が離れた10代の少女を書けるだろうか」。これまであらゆる人間を書いてきたが、現代の少女を書くのは実は初めてだ。
作者や読者とともに年を重ねて合田も57歳になった。「彼はいま警察大学校の教授です。刑事としてではなく、1人の男として事件に向き合わせたかった」ため
、たまたま警察大学校がある武蔵野の町が舞台になったそうだが、くしくも作者にとっては大学時代を過ごした「地元」。
「授業中、調布飛行場からきたセスナ機の飛行音を聞くと眠くなった。殺伐としていて、何十年も時が止まっているかのよう」。そんなどこにでもある土地の風景を丹念に描写する。
「いわゆる大事件を書くことに興味が持てなくなった。単純に見えて実は複雑、複雑に見えて実は単純な一般の人びとの暮らし、価値観をありのまま書きたい」