ハン・フォン・メーヘレンと言うが画家いた。
画家と言うよりは贋作者としての方が有名で、
ナチスの高官にフェルメールの贋作を売りつけた男だ。
ナチス相手に商売して儲ける画家や画商がいる一方、
マックス・エルンストや、パウル・クレーや、エミール・ノルデ等、
退廃芸術家の烙印を押され押され弾圧される画家もいた。
未来を生きる男と称されたその画家も退廃芸術家の烙印を押された一人だった。
彼の作品はナチスによって尽く焼かれ、彼の名も忘れ去られ、存在自体が歴史の闇に葬り去られた。
しかし、男は他の画家たちと違っていた、彼なりの方法でナチスに対する復讐を試みたのだ。
彼は贋作を作ってナチスに売りつけ、利益を得ると同時にメンツを潰す計画を立てた。
ドイツ国内での活動が難しくなった画家は、ドイツ語を話すものも多い隣国オランダへと逃れた。
計画に基づき、まず写実的な絵画を極めた。
同時にメーヘレンの知己となり、贋作のノウハウを学んだ。
しかし、同時に妻や友人にも秘密ができ、アトリエには誰も入れることができなくなった。
妻と別居したのはそんな時だった。
作品が完成する間近の1940年、ドイツがオランダに侵攻してくる。
別居してもなお画家を心配し続ける妻に亡命を促した。
妻が亡命して間もなく一枚の贋作を完成させると、
メーヘレンの仲間の画商に手渡し、画家はイギリスへと旅立った。
画家は、イギリスで、画商から売買成立の手紙と共に小切を受け取った。
画家の復讐はここに成ったのだった。
1945年ドイツは降伏した。
同年、メーヘレンは、ナチス・ドイツにフェルメール作品を売った罪で逮捕され、
贋作であることを告白した。
1947年メーヘレン死亡。
195X年画家の贋作は、本物としてオークションに出品された。
しかし、元画家本人の内密の指摘により、複製とされ、はした金で彼の元に戻ることになった。
199X年、元画家、死去。贋作の代金は彼に幸福な余生をもたらした。
彼の名を知ることはできない。