文中の「故郷に帰る」という下りが時系列順なら、海栗太郎と「一見の客」には接点が乏しい。
また、一見さんは基本的に店に名を残さないですから、海栗太郎から犯人の名を聞かされても
舎利次郎にはそれが、自分の退店のきっかけとなった「あの人」と分からない。依って「一見の客」の線は弱い。

しかし、犯人が「馴染みの客」なら違う。
海栗太郎とも在店時に接点があったと思われ、名前を言われた舎利次郎も、すぐに「あの人」と分かるわけです。
故に犯人はこの「馴染みの客」というのが最も合理性の高い推理となります。

恐らく「馴染みの客」は、亡き女将さんに対して思うところがあったのでしょう。それ故、彼女の死について親方に償いをさせたかった。
そこら辺の思いや決意を、一番弟子である小樽海栗太郎は聞いていたからこそ、「犯人を知っている」という告白になったわけです。

勿論このような正解(客犯人説)はアンフェアかもしれません。
しかし作者は、そうならないように、ちゃんとヒントを出しているのですよ。

>ウニ 「実イワナ、サワラぬ神にって言うからナマコってたが犯人を知ってるんだ」

サワラぬ神…そう、お客様は神様。

そここそが、本件のカニミソだったわけです。《おしまい》