日本郵政グループが、かんぽ生命の個人向け保険の営業目標を今春から3年ぶりに復活させる方針を固めたことがわかった。高齢客らに保険を乗り換えさせて不利益を与えるなどの不正問題が発覚した後、営業体制は大きく見直しているが、不正の温床だった「数字ありき」の風土が復活しないかと警戒する声も出ている。

 朝日新聞が入手した内部資料によると、2022年度に新たな目標を設け、新契約から消滅契約(満期・死亡を除く解約や失効など)を引いた数字で、計43億円の月額保険料の純増を目指す。うち28億円が郵便局窓口で、日本郵便から出向する営業社員を取り込むかんぽサービス部は15億円だ。新契約額の目安は計131億円で、ピークだった16年度の3分の1以下の水準となる。

 不正の反省から、新契約に偏っていた営業成績の評価を見直し、22年度以降の新契約では「契約維持率」を評価の対象に加え、当面は「7カ月間99%」をめざす方針だ。ほかに満期を迎えた顧客を加入させる「満期後継率」は2割程度、契約のない未加入者と18〜49歳の青壮年で計14・7万件の獲得を目標とする。

 かんぽ生命では19年6月の新聞報道による疑惑の発覚後、昨春までに本支社幹部を含む3千人以上を処分し、自粛していた営業は21年4月から本格的に再開させている。足元の契約の獲得は21年4〜12月期で344億円(年換算保険料)と、問題発覚前の1割強にとどまっている。

 再発防止に向けて現場の管理を強化するため、全国約2千カ所の郵便局で働く営業社員約1万1千人を約600局に集約し、今年4月からかんぽへ出向させる。出向社員がカバーできないエリアは、郵便局の窓口社員が営業を担う形にする。

 ただ、不正問題で現場の郵便局員は解雇を含む厳罰を科された一方、不正を黙認したとみられる上司の多くは「実態を知らなかった」と主張し、軽めの処分で済まされた経緯があり、現場では管理職や上層部への不満も残る。日本郵政社長あての投書箱には、契約獲得をめぐる上司の圧力が復活し、「かんぽ問題がまた発生すると確信する」「元どおりにならないか危惧する」といった声も寄せられている。

 かんぽ生命は22日、「22年度は新契約と契約継続の両面を評価するなど目標項目をバランスよく設定することを検討している。数字だけを追い求める営業には決して戻らず、不断の見直しを行っていく」と取材に回答した。(藤田知也)