「洞窟でついた嘘」

ケン坊はやんちゃなガキ大将で
ミヨちゃんは快活で絵を描くのがとっても上手だった
ケン坊は教室では“女と遊ぶのなんてかったりい”って言ってたけど
私もミヨちゃんも、嘘ばっかりって笑ってた

ざざぁん……ざざぁん……
ぼおう……ぼおう……

波の音と漁船の汽笛が
交互に鳴り響く海際洞窟

毎日5時には集まった
橙に染まる秘密基地

内緒ごとは沢山、共有する程嬉しかった
未だ言葉の意味は知らなかったけど
“絆”が深くなるみたいで

ざざぁん……ざざぁん……
ぼおう……ぼおう……

真っ暗闇でも洞窟は
キラキラ湿って怖くない
指で肌を撫ぜてみたら
思ったよりずっとすべすべしてた

ケン坊も、ミヨちゃんとも
喧嘩してもすぐに仲直りしたっけ
覚えたての外国語がバイバイの合図
“アディオス、ア……”

私この洞窟で嘘をついた
夢なんかないって嘘をついた

本当はお嫁さんに、
それからそれでも、ずっと三人で、って
あんまり都合がよすぎるから掻き消した

毎日5時には集まった
橙に染まる秘密基地

反対の時間に訪れて
朝焼け見ながら
ひとりで独白

二人とも何をしているかな

小さな小さな、嘘つき
海際洞窟にひとり

体裁を調えるみたいに踵を返して
瞳の中の夕焼けを 閉じた
一枚絵は胸に しまったままで