このことばきらいだ
「さよなら」
さよならせみ
あまく香るもも
汗だくのあとのカルピスウォーター
さよならあれから二回目の夏
稲はこうべをたれて
また収穫の秋がくる
さよならかなしみ
さよならかなしまないで
とりもどせないならさよなら ここから糞詩スレにさせていただきますが
ほっといてねお願いします 「あき」
いつも通り抜ける公園で連れが言った
声がしないな
口に出してくれるなやつらはもういない
疲れたからだを横たえて
再び眠りについておる
力のかぎりやったから 「ねこ」
近所のねこがせみをくわえて得意気
この、死なないぐらいの加減が肝心
ビリビリ暴れる快感がたまんないよ
貸すからあんたもちょっとくわえてみない?
やらねーよバカやろう 「あき2」
力のかぎり何したろう
連れがまた問う
口にしてくれるないろいろ含む
胸裂けるほど歌ったり
夜中に寝言を重ねたり
もちろんアレもやったろう
せみは還ってつちのなか 奇跡って、起きるもんだね。大切に守りたい、かけがえないものが、できました。 「あした」
傘くるくる回しながら歩こう
毎日楽しい幼稚園から暖かな家庭へ帰る
幸せな子どもみたいに
肩にかかる傘の柄はわりと重い
わりとどころか泣きたいほど重い
でもきょうはもうしかたないや
あしたもあるし
あしただってあるし 「毎朝」
いってきます、といわれたら
ウェルターズオリジナルをすかさず
あなたの口に入れましょう
生涯連れ添う特別なひとだから
きょうも無事に帰って来い
どんな災害に襲われても
必ず生きて帰って来い 「つたえられないこと」
生きてますか
元気でもどん底でもとりあえず息してますか
食べるのが億劫になったらコンビニでいいです
たまごかシーチキンかチキンサンドなんておすすめ
日高屋でもいいです
野菜いっぱいの定食にプラス餃子なんかもおすすめ
あなたにはもう会えませんから
生きてても死んでてもわかりません
でもしっかり食ったら無意味に体温とか上がっちゃって
勢いで腹筋100回とかやっちゃったりしちゃってください
はるか遠くで祈っています
楽しいことがいくつもおこりますように
生まれてきてよかったと思えるようなできごとに
いくつも出会えますように
あなたはずっとわたしのなつかしい大切なひとです
それつながりで
ヤンバルクイナ
ヤンバルクイナ本体はすごく好きだ 「うそ」
ちいさいころおかあさんにうそついた
ちゃんと手をひとりであらえたって
おかあさんはうれしそうにほめてくれた
入院がひとつ季節を越えたころ
おとうさんにうそついた
学校にはいないいろんなひとがいて毎日楽しいって
おとうさんはわらって頭をなでてくれた
あのひとにわたしは千回殺しても死ななくて
おなかがすいたのだけがフキゲンのもとで
その他はおおむね能天気な人間として認識されている
一回だけうそついてみたい
ほんとは夜携帯の地震速報がこわいこと
夕焼けがあんまりきれいだと地球の終わりの景色みたいで不安になること
80歳になったころの自分のくらしがなにも見えないこと
好きな動物園が楽しいところなのか動物虐待施設なのかほんとはわからないこと
おかあさんはどんなふうに老いて弱って、送るわたしにはなにができるのだろうということ
でもわたしは
いつも必要性もないのに走り回ってはキャーキャー笑っている元気なやつなので
「秋」
今朝起きたら蝉の声が絶えていた
だからきょうから秋
少なくともわたしの周りではきっぱり秋
あ
今かなかながないたから
やっぱりまだ夏
ガリガリ君買ってこよう
夏 まだ終わらないで夏
「ひみつ」
わたしね
あなたにね
言わないけど
ほんとはすごくすごく願っていることがあるの
あなたとこれからいっしょに生きていくのなら
あなたの老いるすがたを一番近くで見たいです
髪がうすくなったり
コレステロールがじわじわあがったり
関節痛があちこちにおこったり
そのうち内臓のどこぞに悪性の腫瘍などつくっちゃったり
ああそうねあらこまったわねこんなんしてみましょうか
でも乗りこえていきましょうよね
にんげんだもの(わらうとこ?
いたいつらいくるしいせつないやるせないみんないっしょに
ひとはひとの気持ちなんて所詮わからないけど
あなたが何気にとなりにいてくれるなら
がんばろうね
「できごと」
うちのちかくの家が全部敷地をさらにして
ミサワホームの二世代住宅を建てたの
すきとおるような肌の華奢なお嫁さんがきて
長男夫婦とめでたく同居になりました
お嫁さんはお姑さんの勧めで午前中だけパートに出て
あとは実家からつれてきたぬこ(にゃん)をかわいがってくらしていました
スーパーでもたもた買い物してたりぼーっと歩いてるわたしをいつも見つけてくれて
暑いわねえ、とか元気?とか声をかけてくれました
お嫁にきたとき25歳でした
わたしはあいさつだけで精一杯のヘタレだったので
すごくすごくありがたかった
にゃんがよそのぬこを嫌ってこまるのよ
同じぬこ缶を二回に分けると二回目はぜったい食べないのよ
子宮がんがみつかったとき手遅れでした
余命1年と言われてから五年生きて奇跡だと言われたそうです
クリーム色の絹のスリップドレスの
黒いレースの日傘の
夏のお嫁さんはもういません
年末の土曜日にぬこを抱いて
足がしもやけぽいけどだいじょうぶかしら、と
不安な顔をしていたふわふわマフラーのお嫁さんはもういません
でも今でもわたしの心の中には
ミュールの音をひびかせながら歩くお嫁さんがいます
ぶどうたくさんもらったから食べない?なんて
まるでまだいるみたいにわらいます
ヒールなんて見た目を気にしないで、いざというとき走れたほうがいいのよう、
なんて言ってます 「ダチ」
おじいさんは倒れた自転車にまたがったまま眠っていました
わたしたちがラーメンを食べた帰りです
ちょっと起こすから、もう遅いしとダチは言いました
もにゃもにゃぎにゅぐにゅなんか話をしたあとで
わりと近そうだし送っていくからオマエは帰れといわれました
ダチは自転車を起こして、落ちていた羊羮の箱をバスケットにいれて
奥さんが2年前になくなってから団地で一人暮しなこと
久しぶりに同窓会の知らせをもらって新宿まで出たらはしゃいで飲みすぎたこと
帰らなくても心配する家族はいないから平気なこと
でも楽しかった
懐かしかった
ダチはうんうんうなずきながらずうっとおじいさんの自転車をひいて
いやわたしはうしろからずっとついてっただけなんだけど
わたしのダチってえらいやつだわな
「おつきさま」
こんばんは
今夜のあなたはくっきりレモンのかたち
ぼやけたきのうが嘘みたい
今日は先生の一周忌で
長いことみんなで高尾の山を歩きました
久しぶりにみんなと話せて
先生が会わせてくれているようで
なんだかうれしいのがふしぎだったです
鰆の西京漬けがおいしかったです
はじかみの味はやっぱりよくわからなかったです
おつきさま
ひとは一生の間にいったい何人のひとと出会い
何人のひとをみおくるのでしょう
そのひとたちをたいせつにたいせつに
わたしはできているしょうか
法事のあと仕事にもどったので
結構しんどいことになりました
駅からうちまでくたくたに疲れた夜道
いっしょに歩いてくれてありがとう
おつきさま
今夜のあなたはほんとに
くっきりレモンのかたち
「希望」
海辺で暮らせば津波が怖い山で暮らせば熊が怖い
でもわたしがもし海か山なら
もし風がなかったら
わたしは道を足早に
通りすぎるだけだろう
ともにこの世に生きている
欅の古木も見上げずに
ざわざわ揺れて秋の朝 「できごと」
ぼーう
鳩の声
台風が去った今朝
無惨にくずれた鳩の巣
誰も悪くない
やっぱり、こどもは、きっとおちてしまったのね
大屋さんが言った
きっと巣ごと落ちたでしょう
誰も悪くない
ぼーう
また鳩が鳴く
すんなり野生の細い首
誰かに気づかれたいはずもないのに
胸ふるわせて
鳩だから、せいいっぱい今生が鳩だから
鳴くのね
「できごと2」
充血した目があったら妙にうらみがましい
おれのせいじゃねーよコンニャロこっち見んな
ぼーう
ぼーうつらいからやめて
どっか食事にでも出かけてきて
「いま」
眠れないからって
何考えてる?
いま
日本が夏を送って秋むかえてるいま
未来思ったらとりとめなく不安
過去思い出したら限りなく後悔
しかたないじゃんw
窓あけたら何見える?
ぼやけた月、寝静まった住宅、それとも
とりあえず歯磨いたんだから寝なさいよ
眠れなくても目つぶって横になってれば
あしたまでからだはじゅうぶん休まるんだわよ
それだけでもめでたいじゃん
いま
あなたはそこで確かに息してる
わたしもここで息してる
会えなくてもさ
いっしょに生きてるじゃんかw
おやすみ
うそのうそはほんと
マイナスかけるマイナスはブラス
だからね
ひっくりかえることもあんのよ
うそのうそはほんと
信じていたらそうかも
あ、うそかもだけど 「友を送る」
わたしはきょうあなたを送ります
共に過ごせた時代に感謝します
あなたといっしょに初めて作ったおでんが鍋からあふれて
お鍋増やしてもどえらいことになったのを忘れません
教室の窓の外にできた蜂の巣をつついて
どえらいことになったのを忘れません
わたしを忘れないでください
ふつうは生き残った人間がそうなのかも知れないけど
あなたに忘れられたくないのです
どこか雲あたりから暇潰しにでも見ていてください
うわ、信じられねー何なのその流れとか笑いながら
ずっといてください