このことばきらいだ
「できごと」
うちのちかくの家が全部敷地をさらにして
ミサワホームの二世代住宅を建てたの
すきとおるような肌の華奢なお嫁さんがきて
長男夫婦とめでたく同居になりました
お嫁さんはお姑さんの勧めで午前中だけパートに出て
あとは実家からつれてきたぬこ(にゃん)をかわいがってくらしていました
スーパーでもたもた買い物してたりぼーっと歩いてるわたしをいつも見つけてくれて
暑いわねえ、とか元気?とか声をかけてくれました
お嫁にきたとき25歳でした
わたしはあいさつだけで精一杯のヘタレだったので
すごくすごくありがたかった
にゃんがよそのぬこを嫌ってこまるのよ
同じぬこ缶を二回に分けると二回目はぜったい食べないのよ
子宮がんがみつかったとき手遅れでした
余命1年と言われてから五年生きて奇跡だと言われたそうです
クリーム色の絹のスリップドレスの
黒いレースの日傘の
夏のお嫁さんはもういません
年末の土曜日にぬこを抱いて
足がしもやけぽいけどだいじょうぶかしら、と
不安な顔をしていたふわふわマフラーのお嫁さんはもういません
でも今でもわたしの心の中には
ミュールの音をひびかせながら歩くお嫁さんがいます
ぶどうたくさんもらったから食べない?なんて
まるでまだいるみたいにわらいます
ヒールなんて見た目を気にしないで、いざというとき走れたほうがいいのよう、
なんて言ってます 「ダチ」
おじいさんは倒れた自転車にまたがったまま眠っていました
わたしたちがラーメンを食べた帰りです
ちょっと起こすから、もう遅いしとダチは言いました
もにゃもにゃぎにゅぐにゅなんか話をしたあとで
わりと近そうだし送っていくからオマエは帰れといわれました
ダチは自転車を起こして、落ちていた羊羮の箱をバスケットにいれて
奥さんが2年前になくなってから団地で一人暮しなこと
久しぶりに同窓会の知らせをもらって新宿まで出たらはしゃいで飲みすぎたこと
帰らなくても心配する家族はいないから平気なこと
でも楽しかった
懐かしかった
ダチはうんうんうなずきながらずうっとおじいさんの自転車をひいて
いやわたしはうしろからずっとついてっただけなんだけど
わたしのダチってえらいやつだわな
「おつきさま」
こんばんは
今夜のあなたはくっきりレモンのかたち
ぼやけたきのうが嘘みたい
今日は先生の一周忌で
長いことみんなで高尾の山を歩きました
久しぶりにみんなと話せて
先生が会わせてくれているようで
なんだかうれしいのがふしぎだったです
鰆の西京漬けがおいしかったです
はじかみの味はやっぱりよくわからなかったです
おつきさま
ひとは一生の間にいったい何人のひとと出会い
何人のひとをみおくるのでしょう
そのひとたちをたいせつにたいせつに
わたしはできているしょうか
法事のあと仕事にもどったので
結構しんどいことになりました
駅からうちまでくたくたに疲れた夜道
いっしょに歩いてくれてありがとう
おつきさま
今夜のあなたはほんとに
くっきりレモンのかたち
「希望」
海辺で暮らせば津波が怖い山で暮らせば熊が怖い
でもわたしがもし海か山なら
もし風がなかったら
わたしは道を足早に
通りすぎるだけだろう
ともにこの世に生きている
欅の古木も見上げずに
ざわざわ揺れて秋の朝 「できごと」
ぼーう
鳩の声
台風が去った今朝
無惨にくずれた鳩の巣
誰も悪くない
やっぱり、こどもは、きっとおちてしまったのね
大屋さんが言った
きっと巣ごと落ちたでしょう
誰も悪くない
ぼーう
また鳩が鳴く
すんなり野生の細い首
誰かに気づかれたいはずもないのに
胸ふるわせて
鳩だから、せいいっぱい今生が鳩だから
鳴くのね
「できごと2」
充血した目があったら妙にうらみがましい
おれのせいじゃねーよコンニャロこっち見んな
ぼーう
ぼーうつらいからやめて
どっか食事にでも出かけてきて
「いま」
眠れないからって
何考えてる?
いま
日本が夏を送って秋むかえてるいま
未来思ったらとりとめなく不安
過去思い出したら限りなく後悔
しかたないじゃんw
窓あけたら何見える?
ぼやけた月、寝静まった住宅、それとも
とりあえず歯磨いたんだから寝なさいよ
眠れなくても目つぶって横になってれば
あしたまでからだはじゅうぶん休まるんだわよ
それだけでもめでたいじゃん
いま
あなたはそこで確かに息してる
わたしもここで息してる
会えなくてもさ
いっしょに生きてるじゃんかw
おやすみ
うそのうそはほんと
マイナスかけるマイナスはブラス
だからね
ひっくりかえることもあんのよ
うそのうそはほんと
信じていたらそうかも
あ、うそかもだけど 「友を送る」
わたしはきょうあなたを送ります
共に過ごせた時代に感謝します
あなたといっしょに初めて作ったおでんが鍋からあふれて
お鍋増やしてもどえらいことになったのを忘れません
教室の窓の外にできた蜂の巣をつついて
どえらいことになったのを忘れません
わたしを忘れないでください
ふつうは生き残った人間がそうなのかも知れないけど
あなたに忘れられたくないのです
どこか雲あたりから暇潰しにでも見ていてください
うわ、信じられねー何なのその流れとか笑いながら
ずっといてください こんなに大きい自然に比べれば悩んでいることなんてちっぽけ
自然と私の悩みにどんな関係が
今の私にとってはそれが全てであるのに 「恋」
波打ち際までいこうか
打ち寄せるやさしさにゆだねながら
腰まで浸かってみようか
つよい水のながれに
すこしゆらぎそう
乳房までまかせてみようか
つぎの波に
さらわれていきそう
「おばあちゃん」
ハムのパックわたしがあけるから、おばあちゃん
だいじょうぶこんなことくらいまだまだできるから
爪が割れました
(-盆-)
納豆のタレあけるからかして、おばあちゃん
だいじょうぶマジックカット知ってるし
あけた瞬間飛んで目にはいりました
(-盆-)
おばあちゃん植木鉢動かしたいならわたしがやるから!やるから!
だいじょうぶこのくらい動かないとどんどん体力が弱るし
左膝がかくんとなって転んで鉢を落としました
(-盆-)
おばあちゃんだいすき
だいすき 「イーヨちゃん」
イーヨちゃんは毎朝早くから喧嘩をしています
イーヨ、イーヨ、イーヨ、イー!イー!
強気なくせにたいてい負けて
弾丸のとびかたで逃げています
バカ
イーヨちゃんはヒヨドリ
わたしを起こしてくれる朝の声
二度と目覚めたくないような気分の日にも
少しわらわせてくれる朝の声
起きよう 「秋」
また年末がきます
おかあさんは年賀はがきの印刷をを注文しました
夢のあなたはいつも元気で
リュックに子どもたちのぶんまで全部ひきうけて
飄々と山道を登っていきます
休憩には森永ハイソフトを子どもたちにくばります
てっぺんの岩に腰かけてわらいます
なんか全部、生きてるすべて解決するみたいに清々しく
おとうさん、会いたいです
そんなこと言ったらどうせ笑われるとおもうけど
親を失ってはじめて人間は一人前になる、悲しむことじゃないと
苦しい枕で教えてくれたおとうさん
鈴虫がね、ずっと鳴いてる
あなたが最後にかすめた秋みたいに 「ともだち」
もうすぐ死ぬともだちを撮影しますた
塀の上でじっとすわっています
でもカメラを向けると首をのばしてにおいを嗅ぎます
なに?なに?って
大好きなカニカマをほぐしてももう食べられません
歯茎が全部やられてるから
でも誇り高い野良だからね
動物病院なんかじゃ死なないの
お向かいのアパートのひとは「しまちゃん
駅のお蕎麦屋さんは「サバとらくん」
わたしは「抜け毛先生」
いろんな名前でいろんなひとたちに愛されながら
いなくなったらもう会えないでしょう
誰にも見つからない死に場所を探して
ゆっくり土に還るのでしょう
ともだちだお
鰹節一本まるまるゲットした夢見てね
大好きだお shirokujijyuu mo suki toitte
yume no nakahe tsurete itte 「りす」
脈拍めちゃくちゃ速いです
好きなのはヒマワリの種より素煎り無塩のナッツいろいろでおま
長生きできないのは知ってるます
頻脈の小動物寿命短い
体温も妙に高過ぎるます
あなたのてのひらで緊張のあまりバクバクが激しくなって
小心者ます
でもあたたかいので
あなたの指のにおいを嗅ぎながらあたたかいので
眠るますね
おやすみなさい
あしたも生きていますように 「秋」
柿の葉が落ちてまた冬が来る
誰も取らない柿の実が家々の庭にたわわに熟れて
ひよどりたちがついばむ
その実は汚染されてます
見えないけれどにおわないけど
ひよどりたちにはつたわりません
二年目の秋です
誰もさわれない実りの秋です おぶつだんにきっといない
でもおはかにいってもいない
どこにもいない
ことしも年賀状をちゅうもんしました
へびどしおめでとうございます
去年もちゅうもんしました
たつどしおめでとうございます
おととしも
いきものはいきものをおくり
いたみしのびながらいきていくあたりまえ
でもなつかしくて
ひとつひとつことばおもいでがいとしくて
あいたい