かって君が「西行の顔も見えけり富士の山」と言う句を
自慢したが、僕が先ごろ富士を見てふと口をついて出た名吟には
とても及ばず。かような手紙の後りに書くのはもったいないけれど
別懇の間柄だから拝読さすべし。その名吟に曰く

西行も笠ぬいで見る富士の山
 
 我ながら感々服々だ。しかしかようの名吟をみだりに人に示すは
天機を漏らすの恐れあり。決して他言すべからず。また
くだらぬ随筆中にたたき込むべからず。

穴賢