憑かれた僕が従妹と田舎に愛の逃避行した話をする。
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
僕 :浪人一年目
フツメン以下
従妹:16歳(高二)
かわいい(主観)
B:76(目測) W:56(目測) H:79(目測)
ふと自分のこれまでの人生について語りたくなったから語ろうと思う。
自分で言うのもなんだが、だいぶ数奇な人生だ。
ヒステリックでシビアな、おまけにスピリチュアル。
よかったら聴いていってくれ。
注:書きためはありません。
ブラインドタッチはできないのでスマホです、遅レスです。
スレ主はまとめスレを覗く程度でスレ立て初めての2ちゃん処〇ですので、なにか間違っていたりしたら指摘してください。
また、ネット小説を趣味で書いているため文章が痛々しかったりくどいかもしれませんが御了承下さい。
ホラーでもオカルトでもなく純愛?です。
霊的な何かも出てきますが、人生を語る上で必要であることと、またそっちがメインではないので御理解ください。 >>0002
ありがとう、話させてもらうよ
僕には従妹がいる。
名前はゆり(仮名)だ。
二歳年下の内気な子で、昔から人見知りが激しくて、基本的には僕にしか懐かなかった。
でも僕は頼られたりなつかれたりするのが嬉しくて、彼女が小1くらいの時からめちゃくちゃ可愛がっていた。
姉兄はいるが妹はいなかったから、実の妹みたいに。
僕が高1の時までは一緒にお風呂にも入るくらいには仲良しだった。
当然お風呂に一緒に入るということは、エロい妄想だってした。
「あんまり、見ないで……」
だなんて、まるでエロゲテキストを読み上げてるみたいな発言を彼女がするようになってからは、流石に一緒に入ることはなくなったが。
僕のY染色体と性欲が超新星爆発しかけていたこともあったから、精神衛生的にも入らなくなったことは良かったんだろう。
でもそれ以前に、彼女の素肌も見るということで、僕はもちろん華奢な肩やふくらはぎに、うっすらと小さな、でもいくつもの傷あとがあることにも気づいていた。
でも、僕はずっと、見ないふりをしていた。
少し話がそれるけど、この話に関係してくる霊的なことについて話しておこうと思う。
前提としていっておくと、僕はもともと霊感なんて皆無な人間だ。
全くそう言うオカルティックな話のない家系だし、そもそもガキの頃から見えていたのなら、幽霊とか多分怖くない。
けど貞子とか名前を聞くだけでも失神しかねない絹ごし豆腐メンタルだし、人並み以上にホラー耐性がない。
そんな僕だった筈なんだが、どうやら全くの霊感ゼロ、ってわけでもなかったみたいなんだ。
ソイツは、僕が高校2年生だった時に現れた。
それは暑い日だった。
今から三年前、つまり僕が高校1年生の時のことだ。
昔から妙に金縛りに合う体質で、暑い日は決まって体が硬直する。
それはいつものことだったから、一ヶ月もすればもう慣れっこになっていた。
だけど、その日はなんとなく空気がいつもと違っていた。
目を閉じていても、なかなか寝付けない夏の夜。
でもいつの間にか寝ていて、そしていつもどおり、金縛りにあった。
あそれからにちゃん詳しくないんで良く分からないんですが、バイ猿ってのが怖いんで、会費の仕方わかる人いたら教えてください(泣) すぐに異変に気がついた。
金縛りなんだけど、普段と違って夢の中での見てる金縛りだったんだよね。
思考が嫌にクリアだった。
夏場なのに変に肌寒い。
僕は無意識的に瞼を見開くことを拒んで、無理やり動かない体の向きを変えて寝ようとした。
でもその時、突然枕元から音がした。
コシューコシューという、息を吐きだし、吸い、吐き出しを繰り返すような幽かな音。
僕は必死に目をつぶり、般若心経を唱えていた。
(もちろん般若心経の文はわからないから、ずっと南無阿弥陀仏って言っていたけど)
音がやんだからゆっくりと目を見開いたんだが、その選択が結果的に自分の首を絞めることになる(物理的に)。
枕元の、頭の方から顔をのぞき込んでいる真っ白い顔の少女がいた。
かなり前のめりになっているのか、その顔はすぐ目の前にあって、瞬きひとつしない眼球が僕の目を射抜く。
よく顔は覚えてないんだけど、多分18か19歳くらいの見た目だったと思う。
端整っちゃ端整な顔立ちだけど、明らかに顔色悪かったし、人間じゃないことは確かだった。
目が合ったことに気がついたのか、ソイツは不気味に、妖艶に嘲笑を浮かべた。 思わず目をきつく瞑って、がたがたと震えていた。
だがそれからすぐに、自分の首筋に何かが触れるのを感じた。
一本、また一本と、氷のような冷たい、無機質な感触が首筋に絡みついてきた。
呼吸が出来なくなるほどの握力。
僕は抵抗しようとして、自分の体が依然として動かないことに気がついた。
でも首を締め付ける力は徐々に増して、ついには爪が喉に突き刺さり、冷たい刃物で突き刺されるような痛みが首全体に広る。
その時の痛みは、現実的なまでに酷いもので。
夢の癖に痛みも無駄に鮮明だった。
そして僕は多分、その夢の中で死んだ。
一瞬にして目を覚ましたけどもすぐには目を開かないで、何もいないことを数十分程肌で感じてから、急いで布団から起き上がって顔を洗いに行った。
全身汗だくで、感覚的ではあるけど、その時でもなお首には何かで締め付けられたような……そんな痛みが残ってた。
注:このスレはホラーでもオカルトでもありません。
これ以降はこういう展開はないのでゆるちて。 その日から、毎晩そいつは現れるようになった。
だから俺は、次の日から部屋のいたるところに塩をまくことにした。
もちろん除霊用の塩などは調達できなかったために、台所にあった伯方の塩であるが。
とはいってもそれもほとんど効果はなく、僕は日に日に精神が衰弱していくのを感じていた。
そんな僕に見かねたのか、夏休みで僕の家に泊まりに来ていた14歳の従妹が心配してくれた。
「本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、ゆりりんがなでなでしてくれるならー」
「うん、なでなでー」
「げへへへへへへ」
「ゆう君(仮名)どうしたの? それより、ね、私のことも撫でて」(←この辺から妄想)
「愛いやつめ〜うりうり〜」
「んっ、えへへ」
「……ぐふふふふふふふふふ」
我ながらキモかった。
「ところでお前、せっかくの夏休みなのに、なんたってうちんちに泊まってんの?」
「……遊びたかったから」
「友達と遊べばいいだろ?」
「ゆう君と、あそびたかったの……だめなの?」
恥ずかしそうな表情の中に漂う哀愁を垣間見て、なんとなくいじらしい奴だと思った。
この時の僕は、彼女の事情なんて全く分かっていなかったのだ。
分かっていたとしても、きっとわからないふりをしていただろうけども。
例の幽霊に関してだが、それから三ヶ月ほどしてから、めっきり僕の前に姿を現さなくなった。
それに伴い僕の金縛りも極端に減り始める。
だが、その幽霊が見えなくなったのもつかの間、別の幽霊が俺に憑いた。
それも、ソイツがいなくなってから、ほんの数日のうちに。
初めて彼女にであったのは、八月のとある日の昼下がりだった。
従妹のゆりはまだうちに泊まっていたので、彼女と何をするでもなく暇を持て余していた時のことである。
目的は忘れたが、自分の部屋に戻った時に彼女を見つけた。
部屋の隅に佇む、極端に影の薄い少女。
白い服を着ていて、そこから伸びる手足は異常な、病的なまでに真っ白だった。
だが以前現れていたあの幽霊とは違って髪型も整えられていて、そこまで不気味さはない。
ただぼんやりと、無感情な、無機質な表情で僕のことを見つめていた。
(あーまたか)
その少女を見て、反射的に俺は自分の運命を呪ったのを覚えている。
なんたってこう一難去ってまた一難、プリ〇ュアみたいに困難が迫ってくるのか……
三ヶ月に及ぶ心霊体験のせいか、不思議と恐怖はなかったが、とりあえず困惑だけが募っていた。
見たところの年齢は14か15と言ったところだろうか。
まだ幼い風貌ではあったが、その端整な造形の中に浮かぶ無機質な表情は、その幼さを覆い隠している。
だが、少女はあの幽霊のように首を絞めようとはしてこなかった。
依然として部屋の隅から動かず、色のない瞳で俺の顔をみている。
ちょっと可愛いとさえ思った。
この時の僕は、完全にアホだった。 それからひと月くらい過ぎた。
その幽霊は、前のあの金縛りの時のやつとは違って、日中夜間関係なく俺に憑きまとってる。
することもなく、ゆりと戯れている時も、飯を食っている時も、風呂に入っている時ですら視界に収まるところにいた。
僕は極力彼女の事を見ないようにはしていたが、それでもどうしたって視界には入る。
そんな生活を続けているうちに、いつしか彼女のことさえも生活の中での一つの要素であるように思えてきた。
別に害はないのだから、憑かれていてもいいんじゃねえかと、そう思ってすらいたのである。
ある時ゆりに話したことがある。
「僕に取り憑いてる幽霊だけど、どう思う?」
「ゆう君の見えているものがどういう物だかわからないけど……でも多分、あんまり良くない霊なんじゃないかな」
「でもなんもしてこないぞ?」
「そうかもだけど……前のあの幽霊のこともあるし、ゆう君に何かあったら、私心配だよ」
気恥ずかしくなってとりあえず撫でた。
血縁だってのにめちゃくちゃ可愛くて死にかけた。
その夜は思い出しては悶えてまともに寝れなかったのを覚えている。
やっぱアホだった。
ここで少し、話しておこうと思う。
僕と、それから従妹の家についてだ。
これに関してはあまり詳しく説明するとリアル割れの危険があるので深くまでは言えないが、簡単に言えば、僕たちの、特に従妹の家は普通ではない。
跡取りとか、そういうことを重視する、古来的な考え方を持つ家系である。
それがただイカれた新興宗教的な意味であったのならば問題はなかったのだが、だが従妹の家はその仕事柄かいろんな意味で有名だった。
それについてはあまり言及しないでくれると助かる。
僕の家はそこまでぶっ飛んだ設定的なモノはないのだが、従妹の家はいろんな意味でイカれていた。
それは、唯一の娘であるゆりを跡取りにしようという目論見からくるキチガイ性でもあり、別の意味でもある。
実の娘に危害を加えて性的興奮を覚える変態(ではないが)両親だった。
ゆりの肩やふくらはぎに刻まれた傷あとも、その一環でついたものなのだろう。 幼き日に、一度だけ聞いたことがある。
「なあゆり、それ、そのなんだ、どうしたんだ?」
「それって、なんのこと?ゆう君」
彼女は一瞬間を置いて、特になんでもないようにそう問いかけ直してくる。
僕はこの時点で、これ以上追求してはいけないと気づいていた。
だのに、僕はさらに問うた。
「その、なんていうんだろう。肩とか足の、傷跡……それ……」
「あ、こ、これはその、ちょっと喧嘩しちゃって……」
「怪我、よく見せてよ」
「……ゆう君、やっぱり傷があるの、気持ち悪い? ごめんね、ごめんね……」
幼いゆりは、そう言って泣き出してしまった。
もちろん僕は、気づいていた。
気づいていたが、でも、気づかないふりをしていた。
従妹の両親のその異常性に口を突っ込むということは、つまりはいとこの家に連なるいろんなものに口を突っ込むということであるのだ。
もちろんヤクザ絡みの家柄ではない。
だが、僕は怖かった。
大好きな従妹を、ゆりが苦しんでいるのに同情をしつつも、厄介事に巻き込まれるのが嫌だったのだ。
やっぱり僕は、アホだった。 >>0016
引くのはわかるが、最終的には欝エンドとかは無いからつきあってくれw
あっちの親は、彼女に対してひどい仕打ちを重ねていた。
何をしていたのかは、正確にはわからない。
それに関しては、今でもゆりは僕に話してはくれない。
それほどまでに、辛いことだったんだろう。
それを根掘り葉掘り聞いた僕は、なんてクソ野郎だったんだろうか。
とある日、いとこの家とウチの家とで旅行に出かけることとなった。
蔵王の温泉街が目的地だ。
僕は無駄にウキウキしていたのを覚えている。
秘湯だとかなんとか言われてるが、まあそれが目的だったのではない。
その旅館なのだが、混浴なのである。
男と女が入浴をともにするという最高のシステムだ。
去年以来一緒にいとこと入っていなかったから、心も体も(主に下腹部)も跳ね上がらんばかりに僕は浴場へと行った、欲情す
結果は言うまでもないだろう。
なんというか、現実の混浴場は、一言で言うのならば、シワだった。
シワシワだった。
しかも湯にふやかされたシワシワ七十代お肌は、さらにシワシワ度を増していた。
しかも親の計らいか、ゆりの入浴時間はずらされた……
僕の阪神は、サヨナラホームランを打ちあげることもなく三振に終わった。 そしてその夜、様々なことが起きた。
まず最初に話そうと思うのは、就寝前に垣間見た従妹の家の実情である。
一緒に同じ旅館に泊まってるとは言っても、当然双方の両親の計らいで泊まる部屋は別々だった。
だから寂しくもかび臭い枕に顔をうずめていた時のことだ。
両親が温泉に入っているとき、突然ドタドタとした喧騒が響き、扉が開かれた。
「ゆう君! ゆりのやつはここには来ていないか!?」
そこに仁王立ちしていたのは、息を荒くしたゆりの父親であった。
普段の厳格な様子とはかけ離れた、かなり取り乱した様子。
浴衣は胸の部分がはだけ、帯は急いで巻き付けたかのように乱雑に結ばれている。
胸元からは胸毛がのぞき、キモかった。
いやそんなことはどうでもいいのだ、それを見た途端、脳裏を嫌な予感がかすめた。
おっさんはこの部屋にゆりが来ていないことを確かめるやいなや向きを変えて廊下を駆けていく。
俺はなんとも言えないモヤモヤ感を胸中に抱きながらも、やはりあの家に首を突っ込むことが怖くて、かわりに枕に頭を突っ込んでいた。
そんなことはない。
おっさんはひどいおっさんだけど、それでも実の娘にそんなことをするやつではない。
僕はそう自分に言い聞かせて、現実から逃避した。 だけど、さすがのクソ人間の僕も、そのまま何も行動せずに立ち止まっていることはできなかった。
その時はきっと衝動的に動いていたのだろう。
だがそれでも、あのおっさんに無理やり抱かれているゆりを想像すると、恐怖よりもまず怒りが募った。
だから、僕はおどおどしながらも部屋から出て、見えなくなったあのオヤジの背中を追いかけた。
実際に自分の器具が事実だったとして、自分がどういう反応をするかなんて考えていなかったけど。
廊下の隅から、幽霊の少女がじっと僕のことを見つめていた。
結局彼女の事は、見つけることができなかった。
一時間ほど旅館の中を探し回り、結果彼女は自室へと戻っていたのだ。
だが後からゆりに聞いた話によるとどうやらオヤジに連れ戻されたらしい。
僕は結局その時、この時何があったのかと聞くことはできなかった。
その日の夜のことである。
思春期の僕のことを慮ったのかどうかは知らないが、両親は敷居をまたいだ畳の方に布団を敷いて早々に寝てしまった。
僕はふかふかのベッドに横になりながら、うつらうつらとしていた。
眠気はあるのだが、なんとなく眠れない。
それはゆりのこともあるのだが、一番の理由は部屋の隅に無言で佇んでいる、少女が原因だった。
消灯し、暗がりの中に浮かぶ白い影。
恐怖はない、だが、すこし不安を駆り立てられる、そんな何かがあった。 だがそのうち僕は、眠りの深奥に引き込まれていた。
先程のゆりの件もあったからだろう、精神的にも肉体的にも衰弱していた俺は、幽霊の少女の存在を忘れて、夢の中へと旅立っていた。
奇妙な夢。
世界が全て白黒で、イラスト用語でいうグレースケールだったかなんかのような、そんな空間。
僕は普段から死ぬ夢しか見ないのだが、この夢は異常なまでに現実的であった。
空気は澄み、頬を撫でる風は心地よい中に生温さを含んでいる。
澄み渡った草原。
青い絵の具に一滴の緑を垂らしたような、そんな新緑に包まれた空間。
その中央に、僕は立っている。
僕は、何かを見ていた。
少しはたれた場所にある、公園のブランコに腰掛けている少女である。
彼女はそれで遊ぶわけでもなく、ただ無言で座っているだけだ。
そんな彼女が、ふと、視線を上げる。
大きな双眸が、僕のことをじっと見つめた。
僕は何を思ったのか、彼女に歩を進めていく。 >>0020
ま、まあ確かにそんな臭はしてるけど、あんまり心配はしなくていいぞw
少女は、ブランコの鎖にてをついたまま、目の前まで歩み寄った僕の目をじっと見上げていた。
無機質な、それでいて幼さを包括した悲しい瞳。
僕はそれに引き込まれるように、じっと彼女の事を見つめ続ける。
不思議な時間だった。
お互いのことを何一つわかっていないのに、少なくとも僕は、彼女のことがどうしても気になった。
好意を抱いたとかそういう訳ではない。
この齢12にもみたないような少女の纏う儚げななにかに、形容できない感慨を受けてしまったのだ。
その瞬間、意識は明瞭になった。
朦朧とはしておらず、ちょうどいい空調の部屋の中でゆっくりと意識が活性化していく。
何かが鼻先をかすめた。
柔らかい、幽かな柑橘系の香りだった。
僕は自分のそばに何かがいるのだと直感的に気づいて、目を開くことなく無言でいた。
不思議と、あの時の幽霊に対する恐怖はなかった。
彼女が近くにいることが、なんとなく心地よかった。
>>0022
ルーターリブート?
ルーターの再起動?
冷たい感触が、頬に触れる。
それが僕の頬からこめかみを伝い、頭に到達する。
優しい指使いなのか、全く別の、猟奇的な手つきだったのかはわからない。
だか、やはり、その感触がどことなく心地いい。
すぐに、その感触が消え去った。冷たい指も、気配も。
だけど、かすかに柑橘系の匂いだけは、そこに留まっていた。
そして、再び眠りについた僕は、気味の悪い夢を見た。
どんな内容であったかは覚えていないが、とりあえず気味が悪かった。
人の形を持たない、人影。暗がりから伸びる無数の黒い腕。
それが僕の首に回り、闇の中に僕を引きずり込もうとする。冷たくて、痛くて、辛かった。
これまで見てきたどんな怖い、辛い夢よりも、悲しかった。
なぜだろう、それはわからない。
でも、閉じたまぶたの裏側には、いつまでも、あの少女の意味深な表情がこびりついたままだった。
目を覚ました僕は、何を思ったのか、カバンからルーズリーフとペンを取り出していた。
あの奇妙な悲しい夢が、小説に役立つと思ったのである。
自分の記憶していることを、ただ書き連ねていく。
白い奇妙な腕に、冷たい感触。
思い出せるものをすべて文字に書き起こした。
ただ無心になって。
思えばこれが、悪夢の始まりだったんだろう。 ゆりは、旅館からの帰り道、僕の父親が運転する車の中で、ずっと浮かない顔をしていた。
ぼんやりと車窓から流れる世界を見て、まるでマネキンのようだった。
彼女は一体、何を考えているんだろう。
一体昨晩、どんなことがあったのだろう。
わからない、わからないが、それでも、なんとなくやりきれない、胸を締め付けられるような感覚を覚えた。
尻目に、彼女の父親の様子を伺う。
彼は、むすっとした表情を浮かべていた。
自宅についた後、いとこの両親はこのまま帰ると言って車から降りると、タクシーを呼んだ。
やってきたタクシーに、ゆりも乗るようにとオヤジが声をかけるが、彼女はそれに答えずに渋っていた。
まるで、自宅に帰りたくないと暗示しているようなそんな思わせ振りな態度に、オヤジは無理やり手を掴む。
俺はそんな彼女に手を伸ばし……だがそっと、その腕をおろした。
この時さえ僕は、彼女の家に目くじらを立てられることが怖かったのだ。
悲しそうな感情を瞳に載せて、彼女はタクシーの中に連れ込まれた。
僕はやりきれない思いを胸に抱きつつも、彼女にもう一度腕を伸ばすことはなかった。 それから、約半月が過ぎた。
僕は時折思い出したように、悪夢を文字に起こすようになっていた。
きまって、あの不思議な十二歳ほどの少女の出てくる夢を。
一週間に一度くらいの頻度で、何かに憑かれた様に文字列を並べる。
目が覚めたら、ペンを握っていた、ということすらあった。
幽霊の少女はそんな時、決まって僕のベッドの脇にたっている。
僕を見下ろしているわけでもなく、無言でそこにたっているのだ。
ゆりとも、これまで通り、何か特別なことがあるわけでもなく生活を繰り返していた。
オヤジのことを聞くにも聞けず、されども気になって仕方が無い。
そんなどうしようもなさがあったものの、夏休みの間彼女はずっとうちにいたというのにどうしても聞くことができない。
どうして聞くことができるだろうか。
「お前は、父親に手を下されているのか?」だなんて。
それを聞いたらきっと彼女は、取り繕ったような笑顔を浮かべてこういうのだろう。
「なんでもないよ、気にしないで」と。
自分の不甲斐なさが、情けなかった。
夢で見たものを文章に書き起こすという作業を、週一ではなく毎朝するようになってしまっていた。
気がつけば机に向かい、ペンを持ち、ノートに書きなぐる。
ノートに書かれていたことは支離滅裂だった。
意味をなさない、小学生の書いたような文。
その時の俺は、まるで何かに憑かれているかのようだった。
狂っていた。
何をするにも、まず夢を書き起こすことを優先した。
ゆりと一緒にいる時でさえ、そのことばかり考えていた。
日常生活にまで影響が及んだ。
何をするにも精神が昂り、異常なまでに発狂する。
そんな狂った状態に陥っていた。
「ゆう君、大丈夫? どうしたの?」
「……なんでもねぇ」
大好きなゆりにまで、ガサツな反応をするようになっていた。
数週間もすれば高校だって始まる。
だのに、俺は夢を書き起こすことがやめられなかった。
後々から知ったのだが、これは夢日記と呼ばれる現象であるという。
夢日記とは、簡単に言えば夢で見たことを文字にすることを繰り返すことで、狂ってしまう現象だ。
説明をすると長くなるので、各自ググッてくれb 精神的に追い詰められていたのだろう。
あのオヤジが手を出したのではないか、という危惧と、幽霊に取り憑かれていることに対する恐怖を孕んだ焦燥。
そういうものに急かされて、僕はいつしか狂ってしまっていたのだ。
そんな僕を救ってくれたのは、ほかでもない、ゆりだった。
「ねえゆう君、最近、おかしい」
「おかしいって、なんだよ」
おどおどしながらも詰め寄る彼女に、俺はやはり不機嫌を装ってそう応じる。
実際のところは不機嫌なわけではなく、ただ単純に夢日記につき動かされていただけなのだが。
だがどちらにせよ、最近の僕が平常の僕でなかったのは間違いなかった。
「ねえ、ゆう君、私に話して……何を、隠してるの?」
「何も隠してない」
「わかるの、ゆう君、なにか隠してる」
彼女はそう言って、あっけなく僕の夢日記を見つけ出した。
それを見て、最初はこれがなんであるのかよくわからなかったようだが、知識自体はあったのかすぐに理解する。
「どうしてこんなものを書いているの?」
お前と、お前の親父のことが気になって仕方ないからだ、だなんていうことはできない。
ただ口を噤む俺を見て、彼女はどこか悲しそうな表情を浮かべていた。
「私は、ゆう君のことを知りたい」
何を言っていたのか、明確には覚えていない。
だかそのようなことを言っていたのは確かだ。
「私に言えない、なにか辛いことがあったの?」
「……」
「ごめんね、それって、多分私のことだよね……私と、私の家の、こと……」
ベッドに腰掛ける俺の隣に、彼女は音もなく座った。
その瞳からは雫がいくつも流れ出していたが、俺はそれを拭ってやることすらできず、ぼんやりと彼女の事を見つめる。
その向こう側には、幽霊の少女が無言で佇んでいる。
全ての元凶は、あの少女なのだろうか。
結局その後、特にお互いの間に言葉はなくなった。
だがそれでも、俺はなんとなく、自分を縛っていた夢日記から開放されたような、そんな気分を抱いた。
それから、俺は夢日記を書かなくなった。
いらだちも収まり、目覚めたら日記を書いていた、だなんてこともなかった。
だがそれよりも僕にとっては彼女の流した涙の方が、強く胸に突き刺さっていた。
彼女はどうして泣いたのか。
そんなことは考えるまでもなく明確だ。
僕が彼女の家のことを知っていて、かつそんな彼女にどう接すればいいのかわからず、悩んでいることに気がついていたからだ。 僕は、自分のこれまでの行動を見直し、深く反省するべきであるとようやく痛感した。
彼女はきっと、自分の受けている家庭内での暴力や、もしかしたらあるかもしれない性的な暴力について、僕に知られたくなどなかったのだろう。
というよりは、それを原因に僕に嫌われたくなかったのだ。
彼女はいじらしく、それでいてなんとも辛い現実だった。
彼女のような少女には、荷が重すぎる。
それでも僕は、やはりその重荷を一緒に背負ってやる、という決心がつかずにいた。
僕は、正真正銘の最低野郎だった。
幽霊は、依然として俺のそばから消えなかった。
夢日記を俺に書かせていたのが彼女なのか、もしくは全く別なのかはわからないが、彼女はこれまでどおり何も変わらない様子で俺に取り憑いている。
なぜ俺なのかはわからない。
だけど、なんとなく、彼女の姿がゆりに重なっていた。
いや、ゆりの姿が、あの幽霊に重なっているのである。
痛ましい、何かに取り憑かれたような、そんなゆり。
それは、夢の中でであっていたあの少女に、重なっていた。 夏休みも後数日で終わろうとしている時のこと。
いつもどおり僕の家で、客室で勉強をしていたゆりが、突然リビングに降りてきた。
三時のおやつの時間はゆうに回っているし、そもそも彼女は間食などをするような子でもない。
ゆりはダイニングにて何をするでもなくソファに横になっていた僕のそばに歩み寄ってくると、何か言いずらそうに目を逸らした。
訝しげな目で見つめていると、彼女はどこか控えめに唇を開く。
「ゆう君、今日空いてる?」
「ん? まあ、特に用事はないけど」
なにか要件でもあるのだろうか。
彼女は何秒か言葉を選ぶように手持ちぶたそうに手をぶらつかせながら、やはり控えめに提案をしてくる。
「今日、ゆう君とどこかに出かけたい」
「別にいいけど、どこに?」
「……場所はどこでもいいの、ゆうくんと一緒に行けるなら」
彼女は曖昧にそう言葉を切った。
なんとなく、これがデートの誘いなんだろうな、ってことには気がついていた。
もちろん恋愛的な意味ではなく、おそらくは最も親しい相手と考えてくれているだろう僕と、もっと親しくなるために外出をするのだと。
……いや、もしかしたら違うのかもしれない。
僕たちは昔から仲が良かったが、基本的にそれは家の中での話であった。
外出の際は常に親が同伴し、二人きりになることはない。 その理由は、ゆりの家庭と僕の家庭に問題がある。
前に述べたとおり、ゆりは家の跡取りとして必要とされている存在であった。
跡取りになぜ虐待的なことをしているのか解らなかったが、少なくとも、彼女の両親からしてみれば、彼女は家の存続と繁栄をするための道具に過ぎないのだ。
それ故に、どんなことがあっても、浮ついた噂が立つようなことがあってはならない。
それは、例えば従兄である僕との、恋愛関係になる、などと言った噂だ。
血縁関係にある者同士が好き合う、ということなどう言うことであるのか。
それが、世間から見てどれだけ異端なものであるのか。
そういうことを理解しているからこそ、僕たちは暗黙の了解となっていた二人での外出の禁止を、内心では反感を抱きながらも素直に従ってきた。
だがその暗黙の了解は、ゆりの発言によって壊された。
彼女は、もしかしたら、その垣根を越えて、僕にこの外出の提案をしてきたのかもしれない。
そんな淡い期待と、一抹の不安を抱きながらも、結局僕は彼女と外出をすることに決めた。
両親は今日は夜まで帰っては来ないし、きっとうちの両親の方は、僕たちが仲良くしているところを見ても、何も言うことはないだろう。
ゆりと玄関から出ようとした時、ダイニングから頭をのぞかせていた姉貴が、なんか親指を突き立ててきた。
うざかった。 見てる人いる?
童貞かつ彼女いない歴=人生の僕にとっては、いつも一緒にいるゆりが相手であっても、一般的にデートと呼ばれるものは気恥ずかしかった。
どこに行けばいいかわからなかったので、とりあえず近隣のイチ〇キューに彼女を連れていく。
お互いが好きなハリウッド俳優の出ている映画のチケットを購入し、ついでに放映中のアニメグッズをゲット。
買いたいものが買えたことによるいい気分のまま放映ルームに入ったはいいものの、客はやけに少なかった。
不思議に思ってみてみると、どうやらこの映画はB級ホラーであるらしい。
自分たちの席の周り数席分には誰も座っておらず、形容しがたい寂寥感が生まれる。
通常なら、うっは最高のシチュエーションじゃんとでもいいたいところであるが、しつこいようだが言おう、僕はホラーが大の苦手だ。
貞子とか名前を聞くだけでも失神しかねない絹ごし豆腐メンタルだし、人並み以上にホラー耐性がな(ry ほう・・・>>1はそのこのことどう思ってるの?
書いてあったらすまん >>0034
>>0035
コメントありがとうございます
後からわかるけど、好きです 「ふぇぇぇぇ、怖いぃよぉぉぉおお」
「ゆう君……ここ別に怖くないよ……」
ゆりの身体に抱きついて必死にスクリーンから目をそらそうとする僕を、少し引き気味になりながらなだめてくる。
僕はホッとひと安心して液晶を見やる。
スクリーンでは少女がゾンビにむしゃむしゃ四肢を齧られていた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!」
「あ、ご、ごめんゆう君、画面が急に……」
結局、お互い映画はまともに鑑賞することもできなかった。
だが僕は、こうして他愛のない関わりをしているだけでも、自分たちの置かれている境遇を、少しでも忘れることができていた。
適当にふたりで街中をぶらつきショッピングをする。
時折ショーウィンドウに映る少女の影は、極力は視界に収めないようにしながら。
だが常に、彼女は僕につきまとっていた。
視線を逸らしても視界の中に収まり、まぶたを閉じても闇の中にほんのりと浮かび上がる。
それは多分、僕の錯視に過ぎないのだろう。
だがそれでも、確かに彼女は僕の近くにいた。
僕は後ろ髪を引かれるような気分になりつつも、ゆりと一緒に適当に選んだカフェに入る。 >>39そうなのか・・・従姉妹となら結婚できるらしいからな、
もしその気があるなら俺は応援する。
C >>41
ありがとう、でもちょっとうちの家庭は複雑だからw
後述で余談ではあるが、僕は高校一年の時からバイトばかりしていたバイト戦士であったので、それなりの金を持っている。
それ故に、ちょっとくらい高い服を買うくらいなら痛い出費にもならないのだが、ゆりはそれさえも拒んだ。
奢られるのが嫌なのか、もしくはそれを親に見られた際に僕とのこのデートのことが気づかれるのを危惧しているのか。
どちらにせよ、彼女は僕とは違ってこの時であっても、家の事や僕たちのいびつな関係性のことを考えずにはいられないのだ。
一人ではしゃいでいた自分が情けなかった。
だがとはいえ、せっかくの初デートなのである。
カフェの席にて、僕は思い出の品というつもりで、目立ちにくいメタリックの綺麗なネックレスをプレゼントした。
「くれるの?」
「うん、それなら目立ちにくいだろ? おっさん達にも気づかれないんじゃないか?」
「……ありがと」
ゆりは嬉しそうにはにかむ。
だが僕は、その表情の中に微かな哀愁を垣間見た。
何かまだ懸念事項があることの証明だろう。
されども僕は、何を考えているの? と問いかける言葉を持たない。
なんとなく答えはわかっているから。 どうして今日デートに誘ってくれたのか、その問いかけも、やはり僕はできなかった。
お互いがコーヒーの注がれたカップに無言で口をつけ、なんとなくムズ痒い空気が流れる。
普段は全くない雰囲気だった。
もちろん、嫌な空気ではない。
気まずさだとか、焦りだとか、そういう空気ではないのだ。
ただなんとなく、彼女が考えていることがわかって、気恥ずかしさと、それと同時に自分の境遇を呪う、そんな気分ばかりがのしかかる。
本当なら、僕は────。
されども、それ以上の思考を僕は断ち切る。
考えることすら、拒んでいた。
僕はやっぱり、臆病者だった。
「ねえゆう君、今夜、ちょっと話があるの」
冷や汗を垂らす僕のことを、優しげに、でもどこか悲しげに見つめる彼女。
幼い風貌の中には、変わり得ない決死たる覚悟があった。
僕はそんな彼女の瞳を見ていられず、思わず目をそらす。
「だめ、かな」
「……いや、ダメじゃないよ」
無言で応じる僕に心配そうな顔をした彼女を前に、僕はそう答えるしかなかった。
空気は少しずつ重くなる。
どうすればいいのか、それを分からなくなり始めていたからだ。 ストックなくなってきたので、少し遅レスになります。
すぐ目前に試練が迫ってきているというのに、やはり僕は優柔不断だった。
真摯に僕のことを見据える彼女のことを、どうすればいいのか、それが、分からなくなってしまっていたのだ。
今夜言われること、そんなこと、明確だろう。
いや可能性としてはふた通りがあるが、どちらにせよ僕にとっては荷が重いことは考えなくてもわかる。
これまで僕はずっと目を背け、逃げ続けてきたのだ。
そんな僕が、今更重荷を背負うことなんて、できる訳が無いじゃないか────。
窓ガラスにうつる僕の顔。
その向こう側に、白い服の少女が見えた。
帰宅して、僕はすぐに部屋にこもった。
頭から深く薄い毛布をかぶる。
先程までは親がいないことが好都合と思っていたのに、今ではさっさと帰ってこいと、正反対なことまで考えている。
ゆりが今夜その話をしてしまう前に、帰ってきてくれと。
僕はいつまでも逃げ続けている。
もうこれは、他人の問題ではないというのに。
もう既に、大きく足を踏み入れてしまっているというのに。
だって僕は、ずっと前から────。
そのうち僕は、眠りに落ちていた。 「ひーとつふたつ、みっつによっつ」
古風な和式の家。
その壁に背中をつけた少女が、足元に転がっている石を指ではじいていた。
僕はそっとそんな少女に歩み寄る。
風貌はあまり覚えていないが、12歳くらい顔立ちで、の背中の中ほどまでの黒髪。
華奢な体を包むのは白いワンピース。
彼女はつまらなそうな表情を浮かべて、石を弾き続ける。
僕はそんな少女のことを、じっと見つめていた。
同時にこれが夢であることにも気がつく。
この少女は、紛れもなく夢日記の時に現れていた少女だ。
やけに思考がクリアで、また夢日記を僕にさせるつもりなのか、だなんてことすら考えていたようにも思う。
少女はそばにたっている僕に気がつき、ゆっくりと顔をあげた。
幼い顔立ち。
少女の顔は、あの幽霊にとても良く似ている。
見た目の年齢は3、4歳くらいは離れているだろうが、直感的に僕は同一人物であると認識した。
少女はきょとんとした無垢な表情で、僕のことを見つめ返す。
何度か瞬きをして、僕が声をかけるのを待っているようにも思えた。
僕は何か声をかけたものかと迷い、戸惑う。
この少女があの幽霊と同一なのならば、何かわかるかもしれないけれども、でも、言葉が出てこない。
「○○! アンタそんなとこにいたの?」
ふと、後ろから声をかけられる。
聞いたことない声だ。
呼びかけられた名前も、僕の名前ではない。
おそらくはこの少女の名前なのだろう。
なんとなく、『まな』と聞こえた。
「あ、あぅ……」
その声を書いて、まなと呼ばれた少女は、明らかにおののいていた。
石を弾く手を止めて、俺に注いでいた視線をさ迷わせる。
まるで近寄ってくるもう一人の女性から姿を隠そうとしているかのように。
振り返ると、肩ほどまでの髪の女性が近づいてきていた。
未たところの年齢は18か19か。
少なくとも僕よりは年上だろう。
彼女の顔を見たのと同時に、視界はブラックアウトする。
そして僕ははっと目を覚ました。
視界に入るのは、見慣れた自分の部屋の天井だ。
全身から嫌な汗が吹き出し、服が濡れてしまっている。
だが、そんなことを気にする余裕も僕にはなかった。
ベッドのそばに、少女がたっている。
夢の中のまなと呼ばれる少女と瓜二つな、されども少しばかり年上な、少女。
視線が交差していた。
色のない、されども冷たくはない瞳が僕の目を射抜く。
僕は目を逸らせず、ただじっと見つめ返す。
少女はすぐに、闇に溶けて消えてしまった。 時刻は既に六の字を回っていた。
僕は汗の滲んだ服を洗濯機に突っ込んで手早くシャワーを浴びると、ゆりに顔を合わせるのがなんとなく気まずく、そのまま部屋へと戻った。
何をするでもなく適当にネットをさまよい、自分の使っている小説投稿サイトを閲覧しながら時間を潰す。
そのサイトのメンバーで構成されるLINEグループの雑談に適当に混ざっていると、そのグループの管理人である人物がどこぞのラーメン屋のチャーシュー麺の画像を貼っていた。
(今後この人物のことは麺くんと呼びます)
それを見ているうちに空腹を感じて、致し方なく僕はダイニングへと降りる。
両親が今夜は遅いために、どうやらゆりとアネキが晩飯を作っていたようだ。 「ゆう君、このチンジャオロースは私が作ったの」
そう言ってゆりによって差し出された皿には、なんか工業廃棄物っぽいものが転がっていた。
これは後から3角コーナーにスリーポイントシュートでもしておこう。
きまずく、料理を配膳するゆりの皿を、できるだけ言葉すくなに受け取りながら、僕は自分の席についた。
やがて三人がそれぞれの椅子に腰掛けると、不意にアネキがニヤニヤしながら声をかけてくる。
「で? デートどうだったん? どこまでヤった?」
思わず味噌汁を吹いた。
このクソアネキ、留学中に七人の外人とヤったとか聞いていたからクソ〇ッチであるのはわかっていたが、かと言ってもその質問はやばいだろう。
そんな質問するなと非難の目で睨みつけると、姉は何故か、難しい表情を浮かべている。
さっきの発言からは考えられないような、真剣な表情。 僕はそれを見て、すぐに嫌な予感に蝕まれる。
コイツ、僕から何を聞き出そうとしている……?
「なんもやってねーよ、つかなんだよどこまでって。僕たちがそんなことするわけねぇだろ? 仮にもいとこ同士だっての」
僕は、あからさますぎるほどに、いとこ同士という部分を強調してそう言った。
姉貴に対してだけでなく、ゆりに対する牽制のためにも。
彼女は、無言で淡々と料理を口に運んでいた。
泣いてしまいそうなほどに、悲しげな雰囲気をまとって。
僕はまたひとつ、自己嫌悪に陥った。 時計の針はさらに進み、短針が九の字に重なる。
僕は勉強する気にも、執筆する気にもなれず、ぼんやりとしたとりとめもない気分を抱きながら、自室のベッドに横たわっていた。
ゆりが何を思い、何を目的として僕に今日話があると言ったのか。
その話とは一体なんなのか、それはもう大体の検討はつく。
僕にとっても、彼女にとっても何よりも大事な案件だ。
大事であるが、それと同時に、僕の心の中に形容し難い焦燥を抱かせる。
「ゆう君、入ってもいい?」
ドアがノックされ、ゆりの声が木の板越しに響いた。
僕はそれにすぐに反応をすることもせずに、じっとドアの木目を見つめる。
その向こう側にいるであろう彼女のことを、そしてこれから始まるであろう彼女の話というものを想像し、ついに来てしまったか、と、そう観念をしていたのである。
僕はそっとベッドから足を下ろすと、絨毯のしかれたフローリングを歩み、ドアを開いた。 ラフな格好をした彼女がそこに立っていた。
既にシャワーは済ませているのか、身にまとっているものはチェック柄の寝間着だ。
その手にはコーヒーカップが二つ握られ、僕はそんな彼女からカップを受け取ると部屋に招き入れる。
同時にシャンプーの芳香が鼻腔をかすめ、僕はなんとなくむず痒い気分になりつつも彼女をベッドに座らせた。
僕はというと手持ち無沙汰な気分で、絨毯の上に直にあぐらを書いて座り込む。
比較的起伏の乏しい彼女の華奢な肢体だが、それでいてもこうして無防備な格好をされていると目のやり場に困る物があった。
熱気づいてかすかに赤くなっている、細く長い太ももから無理やり意識をそらし、僕は平常を保つためにもカフェインを摂取する。
ゆりは僕のことを一瞥することすらせず、黙ってうつむいていた。 かける言葉は持ち合わせていない。
今日はどうしたのか、そんな質問は愚問だ。
結果的に彼女の発言を急かすことにしかなりえない。
彼女は今日全てを決めるためにここに来たのだ。
その決意を踏みにじるようなことはしたくないし、そもそも僕はそれを自分から急かして聞けるほど決意は固まっていなかった。
「私、ね、本当は、今日のお出かけの時に、ゆうくんに話しておきたいことがあったの」
出だしは、途切れ途切れだった。
とてもいいづらそうに言葉を区切りながら、言葉を選ぶようにして少しずつ紡ぎ出す。
「ゆうくん、私のこと、気持ち悪いって思ってるかもしれない……うちの家は、その、ずっと前から、私に、ひどいこと、して……それで、肩とかに、傷とかついてるから……」
彼女は既に泣き出しそうなほどに声を震わせていた。 内気で、臆病で、そして人に極端に警戒心を抱きがちな彼女の事だ。
その言葉を言うだけでも、とても勇気が必要だったんだろう。
そして彼女はきっと、それ以上に勇気の必要なことを僕にいおうとしている。
だから僕は、そんな決意を後押しするように、彼女の華奢な肩に手を置く。
「気持ち悪いなんて、思わない。むしろ超好きだ、昔からずっと可愛がってるわけだし、傷跡がなんだってんだよ。お前は僕の自慢のゆりだろ?」
そんなことを言ったような気がする。
今思い返せばこの時の自分の首を絞めたくなるような痛々しい発言ではあったが。
だが、この時の彼女にとってはそれなりの効果があったようであった。
俯かせていた顔を少しだけもたげて、僕のことを見やる。 そうして、数秒ほど逡巡した後、そっと口を開いた。
「私、ね、ゆう君のことが好きです」
その告白は、僕にとって強烈な意味を持っていたが、されども衝撃や驚愕はほとんどなかった。
ただ、(きてしまったか)と、そう思い込んですらいた。
彼女が今夜話があると聞かされた時点で、僕はこの告白がされるとわかっていたのだ。
もちろん、嬉しくないといえば嘘になる。
ずっと僕たちは一緒に過ごしてきて、そして沢山お互いのことを知ってきた。
ああ、言うまでもないだろう。
僕は、この子がゆりのことが、好きだ。
それも、狂おしいほどに、愛している。
だけど────僕の感情だけでは、全ては解決しえないのだ。 >>55
パンツ頭にかぶっといてください。
風邪ひきますよ?
世間体。
それが、ボクとゆりとの関係性を蝕む。
残酷に無情に、全くの同情すら与えず。
普通の家に生まれていれば、そんなものは気にしなくてよかった。
近親者とはいっても、法律上いとこは結婚できる。
多少周りの人間の目は痛いだろうが、それでも結婚自体はなんの問題もないし、そこはお互いの思いしだいでなんともできる。
だが、僕たちの場合はそうもいかない。
お互いの家柄と、そしてゆりの両親。
彼らは絶対に許さないだろう。
僕たちのことを、無情にも引きはがそうとしてくるだろう。
それが現実なのだ。
それならば、僕は────。 「ありがとう、ゆり」
「……ゆうくん」
僕の反応をおどおどしながら、されども真剣な眼差しで待っていた彼女に、僕はそっと声をかけた。
彼女は肩を震わせ、手に持っていたコーヒーカップを取り落としそうになる。
僕はそんな彼女の手に触れると、カップを受け取って卓上においた。
「ありがとうな、ほんと、すごい嬉しい」
「……」
「僕も、僕もな、好きだよ、ゆりのこと」
「……じゃあ」
「でも」
僕の発言にはっと視線をあげた彼女の言葉を遮るように、僕は話を継いだ。
こんなことは言いたくない。
いいたくはないが、けれども……言わねばならない。
「付き合うのは、無理だ」 「…………」
「僕たちが付き合うってのは、僕たちだけの問題じゃないんだ。僕たちの両親にも問題がかかるし、それにいろんな世間体とかの問題もある。
僕は、僕はさ……怖いんだよ、ゆり。おっさん達のことが怖い。これからどうなるのかわからないのが怖い。どうすればいいのかわからないのが怖い」
「それ、は……」
「……結局僕は、簡単に諦められるくらいにしか、ゆりのことを好きでなかったってことなんだよ」
最後まで、言い切った。
凄まじい罪悪感が胸中にうずを巻く。
言ってしまったと、後悔も湧いた。
こんなの、嘘っぱちだ。
僕は簡単に諦められないくらいには、ゆりのことが大好きだ。
今だって全く諦め切れてなんてない。
でも、僕はこうやって振ることしかできない。
彼女のためにも、できるだけ嫌われるような形で、振るしかなかったのだ。 ゆりは、静かに微笑っていた。
僕にすがりつくわけでもなく、怒るわけでもなく、ただ静かに、目を閉じる。
その顔に浮かんでいるのは、悲しい笑顔。
そう返されると分かっていたかのような、そんな哀愁の漂う微笑みだった。
「うん、そうだよね、うん……」
「……ゆり」
「うん、ありがと、真摯に向き合ってくれて……そんなゆうくんも大好き」
ベッドから立ち上がり、僕に背を向ける。
涙を見せたくないのか、もしくは愛想をつかしてしまったのか。
どっちなのかはわからなかったが、彼女はただ一言、「ごめんね」と残して部屋から出ていってしまった。 彼女の居なくなった自室は、ただただ虚無の匂いがしていた。
彼女の座っていたベッドに腰を沈め、そのまま背中から倒れ込む。
涙は見せなかったが、それでも相当に辛かっただろう。
僕の返事を聞いて、彼女はきっと絶望的なまでに打ちひしがれたことだろう。
僕は彼女の考えていることを予測し、胸が痛くなる感覚を覚えていた。
した唇を噛み締めて、顔面を毛布に埋める。
凄まじい後悔が胸を突く。
死にたいとさえ思った。
たとえ彼女を慮っていたのだとしても、嘘をついて、彼女を傷つけた。
ふと気配を感じて上半身を持ち上げると、部屋の隅に佇む少女が僕のことをじっと見つめている。
おそらくは、まなと言う名前の幽霊。
彼女は、僕のことを非難するわけでもなく、されども同情するわけでもないような、無感情な目で見つめていた。 スマートフォンを取り出して、ライングループを開く。
「やべえ従妹に告白されたどうしよう!?」
ととりあえず書き込むと、麺くんが何やら世間体云々について書き込んでくる。
「周りなんか気にするな。世間体なんてきにするな。大事なのはお互いの思いじゃないか」
正論なのだが、やはりそれは僕にとっては理想論に過ぎなかった。
僕にとっては、ゆりに対する愛情と同時に、同じくらいの重圧が世間体となって押しつぶそうとしてくるのだ。
お互いの想いだけでは解決しえないと、そう思い込んで全て投げやりにさえなりそうになっていた。
「とりあえずさ、そんなひどい振り肩するのはどうかと思う、人間として最低だろ、謝って来い」
そのコメントを見て、僕は渋々ベッドから立ち上がった。
確かにこのままでは、僕としてもやりきれなかったから。 だけど、部屋から出る前に、突然廊下が騒がしくなった。
誰かが階段を荒々しくかけ登ってきている。
その人物はスピードを減衰させることもないままに僕の部屋の前まで駆け寄ってくると、ノックもせずに扉を押し開いた。
「姉貴……?」
そこにたっていたのは、姉貴。
難しい、だがどこかはちきれんばかりの感情を抑えんだようなそんな表情を浮かべて、部屋の中にずかずかと足を踏み入れてくる。
「え、おま、なん……」
「死ねッッ!」
直後、突き刺すような痛みがほほに走り抜ける。
遠慮も加減もない、渾身の一撃がほほに喰らわせられていた。
しかも、パーではなく、グーで。
防御姿勢をとっていなかった僕は、そのまま勢い任せにベッドにぶっ飛ばされる。
「こ、このクソアマ……ッ、なにしやが」
「クソガキっ!あんた何してんの? あ? 言ってみなさいよ! あぁ!?」
思わず鼻血を垂らしながら講義しようとする僕の胸ぐらを浮かんで、姉貴は凄まじい形相で僕を睨みつけていた。
ああアカン、これは確実に怒っている。
アネキは今一度僕の頬に拳をめり込ませると、ボロ雑巾のようにベッドに投げ捨てて足首を蹴りつけてくる。
「アンタなにゆりを泣かせてんの?」
「なんで、って、それは……」
「告白されたんでしょ? アンタ断ったの? なんで? 言って見なさいよ、早く」
先までの荒ぶりはないものの、怒りが抑えきれないのか、アネキは凄まじい眼光で睨めつけてくる。
ぶっちゃけ怖かった。
「だって、僕じゃダメなんだよ……あっちの両親は許してくれない。それに、うちの世間体だってある。僕が好きだからって、そんな僕だけの感情だけで、どうこうなる問題じゃねぇ。
僕とゆりだけの問題じゃねぇんだよ」
「そう考えてんのはアンタだけだっつの。何わかったようなこと言ってんの、一番わかってないのはアンタよアンタ」
「な、そんな……」
「そんなことないとか言うなよ? 私はね、ずっと前からゆりの思いについて知ってたし、アンタがゆりのことを好きなことだって知ってた。
でも、アンタは世間体がどうのって深く考えて、一歩踏み出せない様子なのも知ってた。……でもそんなの、関係ないじゃん」
そう言って、姉貴は背を向けた。
去るのかとおもったが、姉貴はゆりのおいていったコーヒーカップを持って、ドアに手をつけて話を継いだ。
「周りの目なんて気にすんな。周りに迷惑かけてしまうなんて気にすんな。私に迷惑かけたくないとかも考えんな。むしろかけろ」
「かけろ、って、そんな簡単な」
「簡単な話だってのがわかんないの? 頼れっていってんだよ。家族もみんな巻き込んで、頼れっていってんの。アンタ言ったでしょ、これはもう自分とゆりだけの問題じゃないって。
なら、巻き込め。全部巻き込め。私も、お父さんもお母さんも、ついでに絶対怒るだろうけどゆりのおじさんおばさんも。
アンタなんてただの青臭いガキなんだから、そんなもん考えてなくていいんだよ、今はまず、自分の気持ちに正直になってればいいんだよ。
だってアンタ……ゆりのこと、好きなんでしょ?」
それだけ言い残し、姉貴は扉の向こう側へと消えた。 僕はあっけに取られ、彼女の言葉を反芻させる。
そんな簡単な話ではないとわかってはいても、それでも、揺れ動かされている心があった。
ライングループの方は、だいぶログが溜まっているようだ。
僕はぼんやりとそれらを眺め、そして先ほどの麺くんのコメントを今一度読み返す。
「周りなんか気にするな。世間体なんてきにするな。大事なのはお互いの思いじゃないか」
世間体、という言葉の意味を、僕はもう一度考え直す。
実際問題、僕たちが付き合えばいくつもの問題が浮上してくることだろう。
両親にも、ほかの人達にも、たくさん迷惑をかけることになるだろう。
だけど……だからといって、僕が、ゆりが、辛い思いをしていたら結局本末転倒ではないか。
僕は別に自己犠牲だとか、そんなことを考えていたわけではない。
ただ、親に迷惑をかけるのが嫌だった。
でも、こうやって考えること自体が、親にとっては迷惑なのかもしれない。
アネキのいうように、巻き込んで欲しいのかもしれない。
僕は、今度こそゆりの部屋へと向かっていた。
二回ドアを叩き、彼女の反応を待つ。
返事は聞こえなかったが、絹連れのような音がしたから、多分毛布にくるまっているのだろう。
僕は少し時間をおいてから声をかけると、ノブに手をかけて部屋の中へと入った。
ゆりは、ベッドに腰掛けていた。
近寄る僕のことを見つめ、なんでもないような取り繕ったほほ笑みを浮かべる。
されども、その瞳は赤く充血し、頬も赤くなっていた。
僕はそんな彼女の様子を見てやりきれない思いになり、彼女に辛い思いをさせた自分を戒めるように強く唇を噛んだ。
「隣、いいかな……?」
「……うん」
ゆりは、目をそらしながら、小さく頷いた。
僕はゆっくりと彼女の隣に腰を下ろす。 >>65
この時は確かにかっこいいかもしれないけど、
リアルはクソ〇ッチですよw しばらくは、お互いの間に言葉はなかった。
「ゆり、話、いい?」
「うん、いいよ」
極力平常を保ったような、微笑み。
僕はそれを見て、すぐに気丈に振舞っているのだとわかる。
「えっとな……さっきはゴメンな、ひどい言い方して」
「……」
「ホントは僕、ゆりのこと大好きだ。簡単に諦められたりできないくらい、大好きなんだよ。誰にも渡したくないし、ずっと一緒にいたい」
「……うん」
「でも、さっき言った通り、やっぱり世間の目が怖かった。いや、違うな、僕は多分、それを理由にして、全て自分で決めなくていい状況を作ってたんだと思う……でも、僕が間違ってた」
そっと手を伸ばし、彼女の冷たい手の甲に手を触れさせる。
びくんと指先が震え、ゆりは目をきつく閉じた。 「やっぱり、僕、諦めることなんてできそうにないんだよ。ゆりと一緒にいたい、ずっと、一緒にいたいんだ。家のこととかそんなの全部忘れて、ゆりと、ずっと……」
「……っ、ぅ、うん……」
ゆりは、うつむいたまま滲んだ声を出した。
重ねた僕の手のひらをきつく握り返し、もう片方の手で僕の胸ぐらを掴んだ。
額を胸元に押し付け、小さく嗚咽を奏でる。
僕はそんな彼女のことを見て、たまらずにその華奢な肩を抱きしめた。
「ごめん、ごめんな……ずっと一緒にいてくれ、僕と、ずっと……ッ」
「うん、うん……っ」
胸の中で、ゆりが涙混じりにしきりに頭を動かした。
胸を掴んでいた手は背中に回され、僕の体をきつく引き寄せる。
そんな彼女のことを、痛いくらいに強く抱きしめた。
ここで離してしまったら、また同じことの繰り返しになるように思えていたから。
彼女の体を抱きしめる力を少しだけ緩め、僕はゆりの目を僕に向けさせる。
見つめあっているのがなんとなく恥ずかしくて、僕は予備動作も何もなしにキスをした。
ああ、僕はこれまで何を悩んできたんだろう。
本当に僕は……大馬鹿野郎だった。 さて、そろそろ指が痛くなってきました。
ここで一段落のシーンでもありますので、一旦休憩にしようと思います。
何か質問とかあったらなんでもどうぞb >>73
パンツは頭にかぶっておいたほうがいいですね
風邪ひかないようにb 今日はもう寝ますねー
明日も同じくらいの時間に現れるので、保守してくださると助かりますー >>80
ありがとう、じゃあ始めさせてもらうよ
ちょっと多忙なので、だいたい8〜10分一回投稿くらいになるかもです
僕たちは付き合うことになった。
とは言ってもまだ公には晒さず、僕とゆり、ついでにいつの間に情報を仕入れたのかわからないが姉貴。
ほかには誰にも教えてはいない。
いや、正確には、小説ライングループの人間たちにはだいぶ詳細まで話したのだが。
経緯だとか色々。
ここでは省いたが、本当は彼らにはいろいろな後押しをしてもらっていた。
主に麺君は紳士になって僕たちのことを考えてくれていたように思う。 僕はそれから、ちょくちょくそのグループでいろいろと相談をするようになった。
世間体云々の話は取りやめ、親等的な問題で本当にいとこ同士で結婚をすることはできるのか。
また、もしそれを原因に最悪な状況に陥った際、どのようなことをいえば正論となり得るのか。
気が早い、といえばそうなのだろう。
だがそれにしても、この時の僕はおかしなまでに慎重だった。
ゆりと付き合うということがどういうことであるのか、それは重々理解しているから。 いとこの両親や、うちの親にはいずれバレるだろう。
それも多分、だいぶ早期のうちに。
そもそもとして、今こうして隠しているのに意味なんてあるのか。
バレてしまうならば、隠し続ける意味なんてない。
ああ、そうだ、僕は怯えているのだ。
うちの両親はそこまで過剰な反応を店はしないだろうが、跡取りを気にするゆりの両親の場合はそうも行かないはずだ。
僕たちの気持ちなど二の次に、問答無用に引き離そうとしてくるはずだ。
もしそうなれば、おそらく僕は……抵抗も出来ぬまに彼女に会えなくなってしまう。
当然、この家にゆりが来ることもなくなる。 「ねぇ、ゆう君……お父さんとお母さんには」
「まだ、まだまとう、もう少し、僕たちの決意が伝わる何かが整ってから……」
僕はずっと、そうやって誤魔化し続けた。
余談だが、ゆりは父親に暴力は受けていても、性的な干渉はされてはいなかった。
基本的にはぶたれるかけられるか。
こんなにか弱い少女が、そんなことを良くもこれまで耐えられてきたものだ。
見て見ぬ振りをひてきた自分をぶん殴りたい。
……でもやはり、一歩足を踏み出せはしない。 それからの僕たちの関係は、本当に恋人同士であるのか疑問を抱きたくなるほどに、何も変わらなかった。
いつもどおり、何するでもなくグダグダと暇を持て余す。
だが、あの夜から二日たったある日のことであった。
「ゆう君、その、ね」
「ん?」
「今日、一緒に出かけて、くれないかな?」
それを聞いて直ぐにピンと来る。
デートの誘いだろう。
一昨日もデートをしたわけではあるが、あれに関してはお互いピリピリとした緊迫した空気の中であったし、付き合い始めてから事実初めてのデートとなる。
ようやっと、恋人のようなことをすることになりそうだった。 デートに選んだ場所は、近隣の遊園地である。
某有名ネズミーランドとは別の、無名の小さな施設だ。
デートで遊園地とは芸がないと言われそうではあるが、経験のない僕からしてみればテンプレこそが無難なのである。
お互い絶叫マシーンが苦手というわけでもないし、まあ悪い選択ではなかっただろう。
「遊園地なんて久しぶり……危険だからって、お父さんが連れていってくれなかったから……」
「そう言えばそうだな、僕もほとんど来てなかったかも」
まあ僕の場合は両親がどうのではなく、単純に高所恐怖症でジェットコースターなどが乗れないだけなのだが。
ここまで来てようやく、自分の迂闊さに気がついた。 とはいえレジャー施設の雰囲気というものは大したもので、僕は最初のうちはごねていたものの、いつの間にかゆりと一緒にジェットコースターなどに乗り込んでいた。
あっという間に楽しい時間は過ぎ行き、すぐに空は茜色に染まった。
ちなみに、ついぞお化け屋敷には入らなかった。
あんなものに入ったら、ガチで死人が出る。
僕たちは名残惜しい気分で絶叫系のアトラクションを後にすると、ゆりの要望で大観覧車に乗り込む。 僕たちを乗せた金属の箱は、少しずつ高度をあげていった。
僕は不思議と高所に対する恐怖をそこまで抱かず、ぼんやりと窓の外を見やる。
小さくなっていく人やアトラクションは、少しずつ僕たちが外界から隔離されていっているような、そんな錯覚を抱かせた。
だがそれは、不思議と不快ではない。
なんとなく心地よく、世間体とか家柄とか、そういうしがらみから開放されているような、そんな気分であった。
「ゆう君、私、なんだかやっと、二人っきりになれた気分」
そう考えていたのは僕だけではないのだろう。
同様に窓の外を見ていたゆりが、呟いた。 >>87
ありがとう、かいてくぜ
「そうだな、なんか、いろんなものから開放された感じがするな」
「うん、今はあんまり、嫌なこと考えなくて、いい……そんな感じがする」
そう言ってゆりは座席から立ち上がると、僕の目の前まで歩んでくる。
「隣に座ってもいい?」
控えめな様子な彼女のために少し横に移動してやる。
ゆりはしばらく黙っていたが、そっと僕の肩にもたれかかるような体勢をとった。
僕は彼女の華奢な肩に軽くてを添えると、少しだけ自分の方に引き寄せる。
少し前までは、なんの気なしにおふざけ程度に抱きしめていたものだが、いざ付き合ってみると、こういう一挙動がいちいち照れくさかった。 ゆりのから高胸に収まり、頬が肩につけられる。
今日一日意識していなかったが、やっぱりゆりは僕の彼女なんだなと、再確認した。
「ゆうくん、ありがと、いろいろ」
「……なんだよ、改まって」
「んーん、なんでもない、大好き」
僕の手を握り締め、胸元を握り締める力が少しだけます。
甘えるように僕に全身を預けた彼女に、僕はやはり恥ずかしくなって、鼓動がはやまるのを抑えることで精一杯であった。
まあ突然無言になったのだから、きっと緊張しているのはバレているのだろうけど。 いじらしくも愛らしい彼女を無茶苦茶にしたくなる衝動にかられ、だが同時に大切に扱わなければいけないという理性がこみ上げる。
僕はゆっくりと深呼吸をして平生を取り戻すと、彼女の頭にてをぽいてポンポンとなでた。
その拍子に、彼女の襟元から首筋にある小さな傷跡を見つける。
注意してみないと気づけないほどのかすかな傷跡ではあるが、僕はそれを見た途端、高揚が一気に静まりゆくのを感じた。
ひしひしと蟠る憤慨。
これまで彼女にこんなひどい仕打ちをしてきた彼女の両親に対するものと、それを見て見ぬ振りをしてきた自分に対するもの。
そんな僕を気遣ったのか、ゆりは一瞬顔を歪めるものの、すぐに優しげに微笑んで胸元から何かを抜き出す。
細い鎖につながれたメタリックのネックレス。
以前僕が与えたものだった。
「ね、ゆう君、どうかな? 似合うかな?」
「ああすげー似合ってる。可愛いよ」
「えへへ、ありがと」
無垢な表情を浮かべて、はにかむ。
そうしてじっと僕のことを見つめると、何かをして欲しそうに目をそらした。
僕は雰囲気的にゆりの考えていることを悟って、唇を軽く触れさせるだけのキスをする。
茜色の夕日が差し込み、シースルーゴンドラ内に二つの長い影が引いていた。
そして呆気なく、僕たちの関係が両親にバレた。 自宅の扉をあけてすぐに、僕はその不穏な空気を感じ取る。
いつもなら家の扉をあけたら直ぐにお帰りと母親に声をかけられるのだが、今日に関してはそれがない。
まだ帰宅していないのかと思ったが、下駄箱にはいい歳して若づくりでもしてんのかと疑いたくなるような、母親のハイヒールが置いてあった。
おどおどしつつもダイニングへと足を踏み入れると、ダイニングテーブルには母親と親父が座っている。
母親は困ったように姿勢をただし、オヤジは厳格な、されどもやはり困惑をはらんだようなしかめつらで腕を組んでいた。
「弁解の余地をやる。勘当されたくなかったら、俺を納得させられるだけの事実を説明してみろ」
第一声、僕はビビった。
普段はほとんど怒らない、つまらないダジャレを連発するようなオヤジが、目で見て分かるように、怒っていた。
肩を震わせているだとか、唇を噛み締めているだとか、顔面を真っ赤に染めているだとか。
そういう明確な怒りの表現を示しているわけではないが、されどもひと目で怒りを感じ取れる、そんなヤバげなオーラを肌で感じる。
「べ、弁解? なんのことだよ」
「とぼけるな」
なんとかごまかそうとする僕を、親父はただ人睨みするだけで黙らせた。
あーもうこれは完全に黒扱いだ。
いや実際問題黒なのだが。
「……」
「なんだ、弁解すらできないのか、そうか」
何も言えずに押し黙っている俺を見て、オヤジはやはり難しい表情を浮かべたまま吐き捨てる。
僕はとにかく頭をフル回転させて言葉を探す。
とにかく今この状況を回避し得るだけの説得力のあるのと場を、探していた。
されども、すぐに見つかるはずもない。
だから僕は、すっとぼけることにする。 「なんのことだか、わかんないんだが」
そうつぶやくのと同時、顔面を凄まじい衝撃が殴打する。
力任せに地面に叩き伏せられ、漫画みたいに鼻血が噴出する。
弧を描いた赤い軌跡を見て、ようやく僕は殴られたのだと理解した。
姉貴の3倍は痛かった。
「このクソ息子が。俺はお前をそんなやつに育てた記憶はない、しばらく頭を冷やせ」
親父はそう言って、椅子に座りなおす。
タバコを取り出して蒸し始めると、まるで僕に興味がなくなったようにテレビをつけた。
僕は、情けなくも、親父に背中を向けて部屋へと逃げた。 ふぇぇぇぇ、猿さん来ないでよぉ
誰か回避の仕方教えてよぉ
「あー情けないな、ごめんゆり」
「あ、ゆうくん喋らないで、血が漏れちゃう」
部屋でゆりに鼻を拭いてもらいながら、僕はやっぱり情けなく謝罪した。
そばには真っ赤に染まったティッシュがいくつも転がっている。
少しくらい手加減しろ親父、といいたい所ではあったが、だがオヤジがそれだけ起こっていた理由もわかるので、そんな弱音を吐くこともできない。
認められないのは、覚悟のうえであった。
覚悟の上で、ゆりと付き合うと決めたのだ。
世間体という呪縛は、僕やゆりの家にとっては金銭を絡む意味でも付きまとうものなのである。
僕たちの事情で家が没落、なんてことになるわけにはいかない。
親父が憤怒するのも当然のことであった。 「はい、終了、本当に大丈夫?」
「うん、ありがと、そんなに痛くはないよ」
困ったような顔をして、ゆりが申し訳なさそうに問うてきた。
「ごめんね、私のせいで、こんなことに……」
「まてまて、ゆりじゃなくて、ゆりと僕の問題だろ? ゆりが僕と付き合ってるんじゃないだろ、ゆりと僕が付き合ってるんだ」
泣きそうになる彼女の頭をポンポンと撫でつつ、僕はさてはてどうしたものかと頭を悩ませる。
まさかこんなにも早く最悪の困難に直面してしまうとは。
こうなることがわかっていたからこそ、僕は親に話すことができずにいたのである。
だけど、それにしたってさっきの僕の返答は、最悪だった。
想定していたのに、最後までしらを切ろうとした自分に嫌気がさした。
「ゆう君、どうしよう、わたし達、やっぱり付き合っていちゃ、ダメなのかな……」
「ダメじゃないって、言ったろ、僕はずっと一緒にいたいって、絶対離さないからさ」
涙をポロポロと流す彼女。
これまでは両親にいくら暴力を振るわれようと我慢し続けてきていたゆりは、僕と付き合ってから突然弱々しい少女に成り代わってしまっていた。
いやきっと、僕との関係が壊れてしまうことを危惧したが故だろう。
自分がいくら痛めつけられても我慢はできるが、それでも僕から引きはがされてしまう、それがこらえきれないほどに悲しいと考えてくれているのだ。 そんな一途な彼女を見て、泣きたくなった。
狂おしいほどに、愛しかった。
もう情けない姿は見せられない。
もうしのごの言ってられない、今こそ男を見せる時だろう。
「あー超怖いけど、やるしかないかなぁ」
「やるって、何を?」
「親父の説得、やるしかねぇ」
僕はそう言って、立ち上がる。
心配そうな顔をしながらついてこようとするゆりを部屋にまたせて廊下へとでた。
正直めちゃくちゃ親父が怖いが、カッコつけた手前もう引き下がれないだろう。
とはいえ親父を説得するための助言はやはり欲しくわライングループにそう書き込む。
「逝ってこい」
それだけしか書き込まれなかったと記憶している。
部屋からアネキが頭をのぞかせニヤニヤしてた。
殴りたくなった。 親父は僕が部屋に退却した時と同じ体勢のまま、タバコをふかして椅子に座っていた。
僕が歩み寄って行っても反応することもなく、無言でテレビの液晶画面を睨みつけている。
「親父、話がある」
僕がそう言うと、親父は目線だけをこちらに向けて、品定めするように僕を睨み据える。
怖気つきそうになる心をぐっとこらえて親父の目をにらみ返すと、彼はリモコンでテレビを消し、灰皿にタバコを擦りつけた。
「とりあえず、突っ立ってないで座ったらどうだ?」
先のように怒っている様子ではないが、やはり渋い顔をしながら彼はそう勧めてくる。
僕は少し間を置いてから頷き、親父に一番近い席に座る。
殴られるのが怖くないと、そんなどうでもいいみえの証明であった。
「それで、話とはなんだ」
「僕とゆりのことだ。もう気づいていると思うけど、僕たちは付き合ってる」
親父はそれには答えない。
無言でじっと俺の眉間あたりを見据え、僕の次の発言を待っていた。
「付き合い始めたのは一昨日だ。一緒に出かけて、それでその後付き合うことにした。僕たちが付き合うってのが、どういうことなのかは分かってる。それが噂になれば、うちも、いとこの家も巻き込んでしまうこともわかってる」
やはり、親父は何も言わない。
僕はそんな様子に怖じけつきそうになりながらも、少し震える口調で話を進めた。
「でも、それでも僕はゆりのことが好きなんだ。自分たちの事情に全部、周りのもの全部巻き込んで、めちゃくちゃになっても、それでも好きで痛いと思ってしまった。迷惑かけるってわかってて、それでも好きなもんは変えられないんだ。
浅はかな考えじゃない、本気で、僕は全部背負うつもりで、ゆりと付き合うことを決めたんだ」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています