長き夜に安寝もせられずつまびかる
錆びたる音色の六弦は
さざれ石集いて澄ませる心をぞ
浅き縁と忘れなば
君がため捧げし歌も朽ちぬべし
祈れる者に返りごとせざれば

明かき夜に惹きあふ星のあえかなる
影のうつろひことわりなれど
かへれぬは水漬き草むすかばねどち
南の風に迷える御霊
たぎつ瀬に凍える月こそさやかなれ
浮き世に流れし名をや惜しむる

吾妹子を慕いて今も恋しかれ
からくれないにうちしぐれたる暇の星月夜
はかなしと知る我が身なりせど
魂は三千世界の果てまで往かん
はらからと交わる枝こそ高くあれ
常葉にやどれる白露の光

――白梅を手折りて御髪に添へませば、形見に贈らむと御手をとらせたまひき。

うらうらと照れる春日に匂ひ立つ
燃えさしのごときかげろうの夢
かい抱く憂き世の欠片を数へては
青雲たなびく空へと流さむ
一葉の手紙をつづるなぐさみの
星遠ざかり月遠ざかる時雨の眠りに

――げにいみじきものよとぞ思ふ。
望むべくもなきことを胸の奥にうずめたるまま、深雪のようにはうつくしからず、枯れ落ちたる枝を朗たる月のみ照らすがごとし、世はすまじきものなるかな。