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習氏が唱える「中国式統治モデル」輸出の危うさ 中沢克二 日経 (1/2ページ)2018/7/3

 中国国家主席、習近平(シー・ジンピン)が声高に唱え始めた中国外交の基本理念が今、世界各地に根を張る中国系の華僑・華人の間で「トランプ米政権との貿易戦争ばかりではなく、新たな摩擦を生み出しかねない」としてひそかに論争の種になっている。

 それは先に4年ぶりに開いた共産党の中央外事工作会議で繰り返された中国が主導する「人類運命共同体」という概念である。習近平は「中国的特色のある大国外交」について「人類運命共同体」の旗を掲げるとした。中心に据えた考え方は「グローバル時代の多元性と多様性」だとしている。

 ■「人類運命共同体」の多元性とは…

 「昨秋の共産党大会で習近平の外交思想として出てきた『人類運命共同体』の当初の発想は良い。だが、(中国政府の資金を使う経済圏構想である)『一帯一路』とセットの中国経済圏入りを意味するなら、多元性や多様性にはほど遠い。中国を核とする新たな『冊封(朝貢)体制』づくりの理念であるという不必要な批判を受けてしまう」

 これは東南アジアなどで手広く商売を手掛けるある華人の言である。世界に広がる6000万にも上る華人・華僑の人脈と経済力。習近平政権は昨秋の共産党大会以降、中国の国際的な影響力を広げようと彼らに積極的に働きかけている。各国で生活する華人・華僑らは現地の世論にも敏感だけに、一家言あるのだ。

 確かに最近、米国防長官のマティスが、明王朝時代のような北京に叩頭(こうとう)する「朝貢体制」になぞらえて中国を激しく批判している。それは6月末に習近平と北京で会談する直前という微妙なタイミングだった。

 もう一つ大きな問題は「人類運命共同体が『中国式統治モデル』の輸出を支える理論になりかねない」と警戒され始めた点だ。

 一党独裁の下、批判を許さぬ厳格なインターネット、交流サイト(SNS)上の言論統制、人工知能(AI)連動のカメラによる顔認証といった国民皆監視システム……。