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■マッキンゼーの担当は南場氏

 夏野は住銀のインターネット・バンキングをドコモのケータイでやらないかと持ちかけた。国重の仲介でとんとん拍子に話は進み、住銀が「iモード」のコンテンツの第1号となる。

 夏野が住銀を最初のターゲットに定めた理由は、国重との人脈だけではない。iモードはまだ形すらない。都銀が乗ったと言えば信頼感を呼び、他のコンテンツ作成者も口説きやすいと考えたのだ。

 ただ、この話が進む前にドコモの社内でひと騒動があった。iモードの構想をドコモに提案していたマッキンゼーとの対立だ。

 「コンテンツは当たりハズレのリスクが大きい。パートナーを1社に絞るべきではない」というのがマッキンゼー側の主張。夏野は「それではどこも乗ってこないし、本気でやってもらえないでしょ」と反論する。

 ケータイでインターネットを見る習慣などないこの時代。まずは成功事例を築き、iモードが軌道に乗ってからオープン型に移行すべきだ、というのが夏野の考えだった。

 コンテンツのまとめ役を任された松永もマッキンゼーと対立する。リスクを減らすためにマッキンゼーがiモードの「編集長」を複数置こうと主張したからだ。

 空中分解に陥りかけたiモード部隊――。危機を回避したのが、栃木支店長から2人の上司となった榎だった。榎はマッキンゼー側に告げた。

 「僕はあなたたちより、なっちゃんと真理さんを取ります」

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マッキンゼー時代の南場智子氏(中央)はiモードの担当だった

 この時のマッキンゼー側の総責任者が南場智子だった。南場はドコモに常駐する部下から報告を受ける立場だったが、iモード・トリオとの対立は耳にしている。「コンサルと実務は違うんですよ」。そう息巻いていた夏野に、後にDeNAを創業する際にアドバイスを求めた。南場は夏野のことを「私の秘密の師匠」と呼んでいるという。